――何故こうなった?


時空管理局の訓練施設に集まった者は、遊星と一部を除いてそう思わずには居られなかった。
目の前で繰り広げられる超次元的人外バトルを目にしたら、誰しもがそう思ってしまうのは仕方のない事なのだろう…其れで済まして良いか疑問だが。


兎に角元六課メンバーと、元チーム5D'sの面々の前では想像したくない程の世紀末大戦争的バトルが展開されているのだ。



「強い……せやけど此処は譲れへん!!クラウソラス!!!

「迎え撃てブラック・ローズ・ドラゴン!『ブラック・ローズ・フレア』!!」


――バガァァァン!!



そしてそのバトルの当事者は次元を超えて存在する『遊星愛』を自負する八神はやてと十六夜アキ。
限界突破でぶっちゃけると、遊星が選んだのははやてであり、そうなった以上はこの戦いで何方が勝とうとも遊星の生涯のパートナーは覆らない。

無論そんな事ははやてとアキとて分かっている。


ならば何故戦うのか?
話しは、遊星がシティとミッドチルダを繋いでから10日程経った時にまで遡る事になる。













遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 外伝2
『肉体言語は寧ろ常識です!』











はやてと再会した遊星は、その後の色々な事を考慮して、色んな事案に精力的に取り組んでいた。
その一つが自分とはやての結婚式に有った。


本音を言うならば、遊星は結婚式を行う必要性はあまり感じて居ない。
そんな事をせずとも、互いの心が通じ合い、絆が繋がっているならばその絆が切れる事は無く、籍を入れればその絆はより深くなると思っていたのだ。


だがしかし、はやてからしてみればそうではない。
確かに通過儀礼の一種である事は否めない結婚式だが、女の子にとって花嫁衣裳――ウェディングドレスは人生最高の憧れと言っても過言ではない。

はやてもまた御多分に漏れず、一生に一度のウェディングドレスを身に纏ってみたいと思っていたのだ。


そしてそれを遊星にそれとなく伝えたところ、遊星は拒否の態度を一片も見せずに其れを承諾。
此れで遊星とはやての結婚式は執り行われることと相成ったのだが……其処で遊星とはやてがとった行動が問題だった。


はやての場合は、すずかやアリサと言った友人に『結婚する旨』を伝えただけなので問題はない。
寧ろその2人は幼い頃よりはやてが遊星に向けていた慕情を知っている故に心の底からはやてが遊星と結ばれた事を祝福してくれた。





むしろ問題は遊星の方だ。
シティとミッドチルダを繋いだとはいえ、其れはあくまで人や物体の移動を可能にしただけで、次元間の郵便物のやり取りは出来ていないのが現状なのだ。

それ故に、遊星は一度シティに戻ったうえで仲間達に自分が結婚する旨を伝えたのだが……此れがいけなかった。


いや、ジャックや双子は驚きはしたが祝福してくれた――ただし結婚相手を盛大に勘違いし、其れが正された時には更に驚いた。
序に言うとジャックは遊星の相手が自分の考えて居た相手ではないと知るや『若しかしたらシティが吹っ飛ぶかもしれん』と一抹の恐怖を覚えたらしい。



そして其れは別の形で現実の事となる。


そう、遊星が『はやてと結婚をする』と言う事を十六夜アキに伝えた事によって。


アキがこの連絡を受けたのは、丁度医学学校での昼休みだったのだが、此れを聞いた瞬間にアキの目からハイライトが消えた。
そして、電話越しに遊星に『そう……分かったわ、おめでとう。』と余り多くを語らずに祝福の言葉を言って電話を終えたのだが――――



この時のアキの様子を見ていたクラスメイトの1人はこう語る。

『で、電話の内容は知らないけど、何かを聞いた瞬間アキの目から光が消えて、そしてアキを中心に冷たい炎が世界の全てを包み込んだわ。
 な、何を言ってるのか分からないと思うけど、アレは黒薔薇の魔女なんてちゃちなモンじゃない……もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったわ……』

と。


因みにアキを中心に発生した、この冷たい炎の余波で実技室の機材が一部吹っ飛んだらしい――サイコパワー怖い。



とは言え、アキとて子供ではない遊星が自分以外の誰かを選ぶことは充分想像出来ていた事だ……そもそも自分は思いを伝えはしなかったのだから。
だからこの時は何とか気持ちを落ち着けて『遊星が選んだのなら…』と思おうとおもった――相手が『八神はやて』であると言う事に気付くまでは。

少なくともミッドに飛ばされなかった者達からすれば八神はやては9歳の少女だった筈である。
遊星が其の9歳の少女と結婚?アレ、無理じゃね?寧ろそんな事したら遊星犯罪者だろ?まさか大穴の遊星ロリコン?等々トンでもない考えが浮かび…



「「「「遊星ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」


翌日に申し合せたかのように同じ時間に遊星のコンドミニアム――ではなく、次元転送装置が置かれているネオドミノ市役所に突貫!!
更に都合よく、遊星がミッドから一時帰還して居た事で実にタイミングよく鉢合わせ。ビバ素晴らしきご都合主義。


「皆!如何したんだ血相を変えて?」

「如何したではなぁぁい!!!
 貴様、八神はやてとやらと結婚すると言ったな?そいつは俺の記憶が正しければ9歳の少女だったのではないか!?」

「幾ら好き合ってても、法律上の問題があるよ遊星!」

「ゆ、遊星はロリコンじゃないよね?俺は信じてるからね!?」

説明……してくれるわよね?

若干アキがダグナー化しているような気がしなくもないが、皆一様に遊星に『如何言う事だ?』と詰め寄って来る。
だが、詰め寄られた遊星は至って冷静そのもの。


「9歳?……あぁ、そう言えば説明していなかったな。
 俺が再び赤き竜の力であの世界の飛ばされた時、向こうでは10年の時が経ち、はやて達も大人になっていた――今は19歳だな。」

「なにぃぃぃ?大人になっていただとぉぉぉぉ!?」

元キンのリアクションがオーバーな上、極めて煩いが兎に角『はやては9歳の子供ではない』と言う事だけは理解したらしい。
ならば確かに問題はないだろうが……


「なんなら一度会ってみるか?」


遊星のこの提案で事態は動いてしまったのだ。









で、次元転送機を使って一行はミッドへと移動。
先ずは管理局のエントランスでジャック達の見学許可手続きをした後に、局内を移動……目指すははやてが居る『特務長室』だ。

六課解散後、はやてはゴドウィンから『特務隊長三佐』の辞令を受け、有事の際には独自の独立機動部隊の編成を認められる権限が与えられていた。

「はやて、俺だが……入っても良いか?」

「遊星?えぇよ〜〜〜、どうせ今は暇で特務隊長も開店休業やからな〜〜〜♪」


そして遊星が扉を開けて中に入った瞬間……


「「!!!!」」

はやてとアキが固まった。
互いに遊星を愛する者同士、何か通じるモノがあったのだろう――理屈ではない、心が、魂が感じ取ったのだ。


はやては遊星からアキの事を聞いているし、アキもはやての事は遊星から聞いている。
故に、この2人は互いに相手が遊星にベタ惚れだと言うのを瞬時に見抜いていた……尤もアキは『此れが遊星が選んだ女性…』と思っていたようだが…


だが、後にこの初邂逅の時の事を、2人は異口同音にこう語る……


『一度はガチで戦う事になるだろうが、其れの後は心からの友になれると思った』


と………どうやらアキは矢張り黒薔薇の魔女であり、はやては確りと親友の『天下無敵のリリ狩るマジ狩る』の影響を受けているようである。



それはさておき、はやてはデスクから立ち上がり、アキも前に出て2人は向き合う形となる。
そして何を思ったのか、



――パン!!



突然手を合わせてお辞儀!

「ドーモ、イザヨイアキ=サン、ヤガミハヤテデス!」

「ドーモ、ヤガミハヤテ=サン、イザヨイアキデス!」

そしてどっかの胡散臭いニンジャのような挨拶!マッタク持って意味不明である。

「「宜しい、其れでは戦おうか!!」」

そして意味不明な上に全力全壊である……魂レベルで通じ合った彼女達は如何やら『無駄な言葉は不要、語るなら拳で語れ』と思い至ったらしい。
………通じすぎるのも時には問題があるようだ。


勿論ジャック達は止めたのだが、本来ならストッパーである筈の遊星が『偶にははやても身体を動かした方が良いかもな』などと言って止める気皆無!
そしてあれよあれよと言う間にはやてが訓練上の使用許可を(可成り強引に)取り付け――そして冒頭に至る訳である。




こうして始まった戦いは無茶苦茶極まりないモノだった。
はやては行き成りミストルティンを発射するわ、アキは行き成りブラック・ローズ呼び出すわ『手加減』なんて物は宇宙の彼方に蹴り飛ばされているらしい。


普通だったら訓練場が吹っ飛んで更地になってもおかしくはないが、遊星が呼び出した星龍達が頑張ってくれているおかげで訓練場は一応無事だ。

「2人とも楽しそうだな。」

だが遊星は至って冷静である……ジャック達は唖然としているが。
もしもこの戦闘風景を、管理局の訓練校の生徒が目にしたら、間違いなくトラウマの一つや二つ植え付けられてしまうかもしれない。


「はやて……遊星が貴女を選んだのならば私にとやかく言う筋合いはない……だけどその上で、敢えて貴女に問うわ!」

「ほう?なんやアキさん?」

「貴女の遊星への愛は……海より深く、そして太陽より熱いのかしら!?」

「ふ……愚問やなアキさん……私の遊星への愛はなぁ……言葉で表現できるレベルなんぞとっくに天元突破しとるわぁぁぁ!!!!」

「良く言ったわ!では最大の一撃で決着を付けましょう!!!

だが、その戦闘を行っている当事者2人は矢張りノリノリである!突っ込むのが面倒になる位にノリノリである。
取り敢えず、ジャック達は覚悟するべきだろう――此れから眼前で起きる『リアル最終戦争』に。…遊星やクロウならば耐性はあるのだが……


「遠き地にて深き闇に沈め……デアボリックエミッション!!!

「冷たい炎が世界の全てを包み込む……吹き飛ばせ『ブラック・ローズ・ガイル』!!!」


心の準備が出来る前に、放たれた最強の空間全体攻撃!!
吹き荒れる魔力の奔流と、黒薔薇の嵐は何方も一歩も譲らず周囲を巻き込み破壊していく……遊星が居なかったら管理局ごと吹っ飛んでいるだろう。


完全に拮抗しているのだが――戦いの巧さでは9歳の時より魔法戦に携わっていたはやての方に分があったようだ。



なんと、あろう事か右手でデアボリックエミッションを放ちつつ、左手に持ったシュベルトクロイツに魔力を集中しているのだ。

「響け終焉の笛…ラグナロク!!!

拮抗していれば更なる一撃を其処に叩き込めばいい――考え付いても実践できる者はそうそう居ないだろう其れをあっさりと敢行してみせた。
完全拮抗していたデアボリックエミッションとブラック・ローズ・ガイルに新たにラグナロクが撃ち込まれたらどうなるか?

考えるまでもなく、拮抗は崩れてブラック・ローズ・ドラゴンが押し負ける以外には有り得ないのだ。


そして、白銀の砲撃が黒薔薇龍を貫き――


アキ:LP0



アキのライフがゼロになってバトル終了――予想通り、この最後のぶつかり合いを見たジャック達は固まっていた。遊星とクロウならば…(以下略)



で、その超絶最終戦争を行った2人はと言うと…


――ガシィ!!


がっちりと固い握手を交わしていた。
どうやら高町式肉体言語術を用いた友情の構築と言うのは、類を見ないくらいに効果が絶大であるらしい――出来れば使用したくない事だが。


「貴女の思いは分かったわはやて……絶対に離しちゃダメよ?遊星ほどの良い男なんて滅多に居ないんだから。」

「分こてるよアキさん……絶対に離さへんて。」

伝えたい事も伝わったようだ……主にバトルで。
まぁ、少なくともはやてとアキがギスギスした関係にならなかったと言うのは良い事だろう――きっと此れから良い友人関係となっていくはずだ。





其れとは別に……


「お、おい遊星……今の戦いは凄まじかったが……何でお前はそんなに冷静でいられるんだ!?」

「見慣れているからな……なのはとクロウとヴィータが組んで模擬戦に出て来た時の激しさはこの比じゃないぞ?
 クロウのBF軍団と、ヴィータのビルをも一撃で粉砕するハンマーの一撃と、なのはの都市一つを消し去る砲撃が纏めて襲い掛かってくるからな。」

「「管理局ってバイオレンス!?」」


ジャック、龍亞、龍可には管理局に対する可成り大きな『バイオレンス勘違い』な認識が生まれてしまったようだ。




因みにこの後、レーシャが管理局に遊びに来て、遊星を『お父さん』、はやてを『お母さん』と呼んだ事で、ジャック達が更に混乱した事を追記しておく。












外伝2END