遊星がミッドチルダへと戻ってきて数日。
現在、遊星とはやてとレーシャは市街の一角に家を買って一緒に住んでいる。

遊星とはやてはまだ籍は入れていないが、この3人はすっかり家族となって居る。


「行くよお父さん!ギガンテック・ファイター(攻撃力3000)で、スターダスト・ドラゴンに攻撃!『ギガンテック・ラリアット』!!」

「甘いぞレーシャ!トラップ発動『シンクロ・ストライク』!そして『シンクロン・デストラクター』
 シンクロ・ストライクの効果で、スターダストの攻撃力はスターダストのシンクロ素材となったモンスターの数×500ポイントアップする。
 スターダストの素材となったモンスターは合計で3体、よって攻撃力は1500ポイントアップする!」
スターダスト・ドラゴン:ATK2500→4000


「しまった!!」
レーシャ:LP3000→2000


「更に、シンクロン・デストラクターの効果!
 俺のシンクロモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」

「そんなぁ〜〜!…きゃぁぁぁぁ!!!」
レーシャ:LP2000→0


で、遊星はレーシャとデュエル。
J.S事件後、レーシャは自分でデッキを造るようになり、新しいデッキを作っては遊星に挑んでいた――流石に勝つ事は出来ないが。

遊星も遊星で何度も挑んで来るレーシャを相手にしながら、レーシャとのデュエルを楽しんでいた。
自分に何度負けても、直ぐに新しいデッキを組んで挑んで来るレーシャ……その果てに、レーシャが自分だけのデッキを組み上げる事を楽しみにしていた。













遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 外伝1
『大切な人に、大切な人を…』











「は〜〜〜〜、また負けた〜〜〜……お父さんは強過ぎるよ〜〜〜!」

「はは、そう簡単には負けないさ。
 だが、レーシャも今回のデッキは良く出来ていたし、レーシャ自身も腕を上げたな?
 効果を駆使して切り札のギガンテック・ファイターを攻撃力3000の状態でシンクロ召喚したのは見事だった。
 もしも、あと1ターン出て来るのが早かったら、今回は俺も負けていたかもしれない。」

「ん〜〜〜〜〜〜……だとしても、お父さんなら何度も蘇えるギガンテックの効果を逆手にとって、一気に押し返してくるような気がするよ。」


デュエルを終えた遊星とレーシャは互いに笑顔。
レーシャも負けた悔しさはあるが、全力でデュエルが出来た事には満足して居るようだ――彼女も確実にデュエルの面白さに惹かれているらしい。


「まぁ、レーシャの意見には賛成やな。
 遊星を相手にしたら、攻撃力3000のモンスターを3体揃えても安心できへん……寧ろ其れを撃ち破ってナンボやからね遊星は。」

キッチンの奥から会話に入って来たのは、はやて。
昼食の準備をしながら、遊星とレーシャのデュエルを耳で聞いていたらしい。そして遊星への評価は的確かつ正確――流石は遊星の嫁である。

「ぶっちゃけて言うと、今の時代で遊星に勝てるデュエリストなんて存在するんやろか?
 クロウ君も接戦にはなるけど、最後は遊星が押し切るし、T&Hの常連デュエリスト相手にしても未だに無敗伝説は健在やし――絶対無敵やろ?」

「如何かな?
 俺が住んでいる世界での伝説のデュエリスト、武藤遊戯さんとデュエルしたら流石に勝てないかもしれないぞ?」

「せやから、今の時代言うたやん?」


話しながら食事の準備を進めて行く……何ともほのぼのとした日常風景だ。

現在はやては長期休暇中。
事件終了から数えきれない程の激務をこなしてきたはやてには、遊星の帰還を機にゴドウィンから(半ば強制的に)長期休暇を言い渡されていたのだ。

はやて自身はもう少し頑張る心算で居たのだが、休暇を言い渡された翌日は昼近くまで寝てしまい疲れていた事を実感、ゆっくり休む事にしたらしい。
尤もそのおかげで、こうして遊星とレーシャと一緒に居る事が出来るのだから矢張り休暇を貰ってよかったと思っているようだ。


「「「いただきます。」」」

仕度も終わり、全員で席に着いて食事の挨拶。今日の昼食ははやて特製の『海鮮あんかけ焼きそば』である。
因みに、レーシャもフォークではなく箸を使っている。はやてに箸の使い方を確りと教えられたようだ。

「おいしー♪」

「あぁ、はやての料理は本当に美味しいな。また腕を上げたんじゃないのか?」

「そらそうや、家事のスキルアップに限界はあらへんのやで?」

和やかな雰囲気の中で食事は進む――果たしてこの光景を見て、遊星とはやてはまだ結婚して居ない等、誰が信じるだろうか?謎である。


「あぁ、そや、遊星、レーシャ……明日地球に行く予定なんやけど、2人も一緒に来てくれへんやろうか?」

「お母さん?」

「はやて?俺もレーシャも別に用事はないから構わないが……何かあるのか?」

その最中、はやては『明日一緒に地球に来て欲しい』とお願いして来た。
勿論、遊星もレーシャも断る理由は無いが、態々お願いして来たと言う事は何かあるのだろう。

「何かっちゅうか……2人に会って欲しい人が居るんや――今は其れだけしか言えへんな。」

「え〜〜〜?誰〜〜、教えてお母さん!」

「何処の誰かは明日のお楽しみって事にしといてや?……遊星も、な?」

「あぁ、分かった…」

付き合いの長さから、はやてが『ぼかした』言い方をした事には何か意味があると考え、遊星は何も言わずに『了解』の意を示す。
レーシャは、子供故にどうしても聞きたかったようだが『今聞いたら明日の楽しみがなくなるぞ?』と遊星に言われ、其れはヤダと聞くのを断念した。








――――――








――翌日


遊星、はやて、レーシャの3人は転送ポートを使って、海鳴へとやって来ていた。

「此処がお母さんの故郷…」

「そうや、中々良い場所やろ?」

「うん♪」

ミッドチルダとはまた違う街の雰囲気は早速レーシャのお気に入りとなったようだ。

遊星もまた、久しぶりの海鳴の雰囲気が少しばかり懐かしく、そして楽しいモノであるらしい。
自身の感覚からすれば1〜2年なのだが、海鳴の時間で言えば10年が経過している……だが、あまり変わっていないなと、そう感じていた。

「会う場所は決まってるから、先ずはお土産を買って行こうか?
 やっぱ海鳴に来たら、翠屋のシュークリームは買わなアカンし、何より此れから会う人にも味わってほしいからなぁ♪」

「それは…確かにそうかもな。」

一行は先ず、手土産調達に翠屋へ。



突然のはやて達の来店に驚いた翠屋の店主とマスターである桃子と士郎だが、はやてと遊星を見て2人に何があったのかを即座に理解。
一緒に居たレーシャの存在も有り、2人の関係が10年前から大きく進展した事を感じて居た。

会計を終えた後で、桃子ははやてに『お幸せにね?』と言い、士郎は遊星に『はやてちゃんを大切にな?』と良い2人も黙って頷き翠屋を後に。




次に向かったのは花屋。
此処ではやては花束を購入。
レーシャはこの花束も此れから会う人へのプレゼントだと思ったが、遊星は其の花束に僅かな違和感を覚えた。

何故ならはやてが注文したのは菊の花を入れた白い花を集めた物だったから。


菊の花は死者へ手向けるモノで、白い花もまた死者を尊ぶ気持ちの表れであった筈だ……其れが何か引っかかっていた。




そして一行がやって来たのは――


「はやて、此処は……」

「……此処に2人に会って欲しい人が居るんや。」

小高い丘の上にある墓地。
そして――


「私のお父さんとお母さんや…」

案内されたのは1つの墓の前……墓石には『八神家之墓』と刻まれている――つまり、はやての両親が眠って居る場所だったのだ。

「お母さんの、お父さんとお母さん…」

「俺達に会って欲しいって言うのは、はやての両親だったのか…」

「うん……やっぱり、ちゃんと紹介せなアカンと思ってね。
 沙羅さんは、10年前に遊星がシティに戻った後で一緒に来てもろたんやけど、遊星とレーシャはまだやったからね。」

花と、翠屋で買ったシュークリームを供え、そして線香をあげる。
線香の独特の香りが漂い、それが『此処が墓地である』事をより意識させてくれるようだ。

「はやての両親はどんな人だったんだ?」

「ん?そやなぁ……優しい人やったよ。
 足が不自由な私をいっつも気に掛けてくれて、せやけど私が自分でやりたい言う事は可能な限りさせてくれる人達やった。
 せやけど………私が知ってる両親の事って、顔と優しかった以外の事は殆どないんや。
 お父さんとお母さんの優しさと笑顔は思い出せるのに、何が好きやったとか、どんな食べ物や花が好きだったとか一切分からへんねん。
 ……今日買ってきた物も『多分こんなのが好きだったんやないかなぁ?』思って買っただけで、ホンマは如何なのか分からんへん。
 若しかしたら、記憶の中にあるお父さんとお母さんは、私の都合が良い様に作り替えられてるのかも知れへんね……」

ぽろっと零した此れは、はやての中にあった誰にも言った事がない事なのだろう。
幼くして両親と死別する事になったはやてにとって、両親との思い出は余りにも少なく、そして遠く朧気である。

似たような境遇でも、モーメントエネルギーの中で父と再会した事のある遊星とは此処が決定的に違うところなのだ。


「そんな事ないと思うよ?」

だが、其れはレーシャの一言で撃ち破られた。

「え〜と、何て言うか……お母さんが優しいのはきっとお母さんのお父さんとお母さんが優しかったから、お母さんも其れを受け継いでる?
 あの、だからお母さんが都合良い様に作り替えてるとかじゃなくて、きっとそれは……え〜〜と〜〜〜〜…」

レーシャの言わんとする事は何となく分かるのだが、如何せん子供故に巧く説明できないらしい。

「つまり、はやての思い出の中の両親の姿は、只のはやての理想じゃなくて、本当の姿だったんじゃないかって事だ。
 断定は出来ないが、俺もレーシャが言う通りだと思うぞはやて?
 多少はお前の理想が入って居る事は有るのかもしれないが全てがそうじゃないだろう?……お前の両親はお前が思っている通りだったさ。」

その説明を遊星が引き継ぎ、レーシャの言わんとしていたことをはやてに伝える。
其れを聞いたはやても『そうやと良いね……きっとそうなんやろうな…』と、何処か心の中でつっかえていたモノが取れたようだった。


「お父さん、お母さん……この2人が私の大切な人――遊星とレーシャや。
 本当は、もっと早く紹介したかったんやけど色々あって遅くなってもうた……私は遊星と結婚する…レーシャは私達の娘や。
 イキナリの事で驚いとるかもしれへんけど、私はこの2人と…まぁ、もっと増えるかも知れへんけど、此れからの人生を歩んでいく。
 せやから、お父さんとお母さんも天国で私等の事を見守っていて欲しいんや……2人の分まで、ちゃんと幸せになるって約束するから。」

「……初めましてって言うべきなんだろうな……不動遊星だ。
 はやての事は、俺が一生支え、護っていく事を約束するから安心してほしい……」

「レーシャです、え〜〜〜と……と、取り敢えず頑張ります!」

はやてや遊星と違い、何を言っていいか分からなかったレーシャだが、子供は此れ位の方が良いだろう。
墓前への挨拶を済ませた3人は、一度姿勢を正し――二礼二拍手をして、祈りを捧げる……


「……ほな、また長い休みが取れたら会いに来るわ……」


其れだけ言って墓地を後にする。


だが、この墓地の訪問は遊星にも何か思うところがあったのだろう。

「はやて、行き成りで悪いんだが、明日は一緒にドミノシティに来てくれないか?
 はやてとレーシャを紹介したい人が居るんだ………あと、母さんにも…」

「ほへ?」

「お父さん?」

今度は遊星が、はやてとレーシャを誰かに紹介する番となったらしい。








――――――








そして翌日。




――ネオ・ドミノシティ



遊星は先ず、はやてとレーシャだけを連れて、自分が育ったマーサハウスを訪れていた。

家主のマーサは遊星と、そして一緒に居る2人を見ると笑顔で中に招き入れてくれた。


「成程…この子が前に遊星が話していたはやてちゃんかい――想像以上に良い子みたいじゃないか?」

「あぁ……そして、俺の一番大切な人だからな……シティの誰よりも、先ずはマーサに紹介したかったんだ。」

「えっと…八神はやて言います…よろしゅう…」

「そんなに緊張しなくてもいいんだよ♪
 私はマーサ、遊星の育ての親みたいなモンさ……其れにしても、遊星が一番乗りで私に御嫁さんを紹介してくれるとは思わなかったよ。
 ……正直な事を言うと、アンタはてっきりアキちゃんとくっつくものだと思ってたんだけどねぇ……ちょいと予想が外れたよ。」

「?アキの事は大事な仲間だと思ってるが?」

この男、矢張りアキから向けられていた好意には微塵も気付いていなかったらしい。
それどころか、今マーサにこう言われても尚、アキが自分に対して恋愛感情を持っていたなどと言う事は露ほども分かって居ないようだ…恐るべし。

「アンタは本当にマッタク……いや、其れが遊星らしさなのかねぇ?
 まぁ、良いさ――アンタが心から大切に思っているなら、何があってもはやてちゃんとレーシャちゃんの事を護るんだよ?それが男の務めさ。」

「あぁ、分かっているさ。」

マーサの言葉は厳しい部分もあるが温かい。
最後にはやてとレーシャに対して『ちゃんと幸せにして貰うんだよ♪』と言うのも忘れてはいなかったが…



マーサハウスを後にした一行は、コンドミニアムで待って居て貰った沙羅と合流し、別の場所へ。





そしてやって来たのは…

「遊ちゃん、此処は……」

「旧モーメントの跡地……ゼロリバースの中心地点――母さんには余り良い思い出がある場所じゃないと思うが、来て欲しかったんだ。」

旧モーメントの跡地。
サテライト時代と、イリアステルの事件が終わるまでは当時のまま放置されていたが、新型モーメントの完成を機に此処は整備され広場となっていた。

そしてその広場の中心には大きな石碑が建てられている。


「おっき〜〜〜…」

「遊星、この石碑は…?」

「ゼロリバースの犠牲になった人達を供養する為に建てれらた物だ。
 余りにも不特定多数が犠牲になった事故だから、故人の名前が刻まれて居る訳じゃないが――その多くの人の中には父さんも含まれて居るからな。」

「そうか……此処に遊星のお父さんがな…」

「……だから、遊ちゃんは私を此処に連れて来てくれたのね…」

殊更、沙羅には思い出深いだろう……彼女はこの場所から時の庭園へと次元転移をしたのだから。
そっと石碑に触れ、そして語り掛ける。

「何の因果か、私は生き残り、遊星と再会する事が出来たけど……アナタはあのまま逝ってしまったのね…。
 アナタの魂はモーメントの中に有ったと聞いたけれど、もう居ないのよね……出来ればもう一度会いたかった。
 だけど、此れだけは忘れないで……私は今でもアナタの事を愛している――此れから先、何十年経とうと其れだけは決して変わらないわ…」

そう語りかける沙羅を見ながら、遊星は右手を胸にあて亡き父に対して母を支え、そしてはやてとレーシャと共に歩んでいく事を誓う。
はやても同様に右手を胸にあて、遊星の父をはじめ此処で命を落とした多くの人達に祈りを捧げる。


「お婆ちゃん、悲しいの?」

「……違うわ…いえ、如何なんだろう…悲しいけど悲しいだけじゃない…もう一度会えた嬉しさみたいなものも…色々ごっちゃになってるみたいね…」

レーシャはレーシャで、感極まって涙を流す沙羅の事が心配になったらしい――此れもまた一つの家族の光景なのかもしれない。




「……そろそろ行こうか?」

「そうね……また近い内に会いに来るわ、アナタ…」

「また来るね♪」

「そやね…また…」

余り長居する場所でもないので、遊星達はその場を後にしようとするが……


――キィィィン……


「!?」

「?ドナイした遊星?」

「いや……」
――いま、地下に封印された旧モーメントが起動したような……気のせいか?


遊星が旧モーメントの起動音らしきものを感知。だがはやて達は気付いて居ないようだが…?


遊星……此れからはもう、お前の時代だ……迷わず、己の信じた道を突き進んでいけ……彼女と幸せにな。

「!!」
――父さん!……あぁ、分かってる……俺は俺の信じた道を歩んで行くさ、はやて達と共にな。


だが其れは気のせいではなく、遊星の耳にはハッキリと父からの言葉が聞こえていた。
はやて達には聞こえていないらしいので、口には出さず心の中で父にそう返し――そして、石碑に向き直って一礼。




遊星とはやて達の此れからの未来を祝福するかのように、空では太陽が明るく輝いていた。












外伝1END