「ねぇフェイトちゃん、アレって…」
「うん、多分そうだと思う。」
「魔導師、だよね…」
夕方、下校途中のなのは達が目にしたもの。
其れは、手にした広告を掲示板や電柱に貼り、或いは道行く人に配っているシグナムだった。
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス6
『就職も楽じゃない!』
――こんな所か?いや、しかし広告は未だ余っているからな…出来れば全て配布なり掲示なりしたいものだ…
シグナムの手元には未だ20枚近い広告がある。
掲示や配布で数が減ったとは言え、根が真面目なシグナム故、1枚たりとも残して終わりにするという選択肢は無いご様子。
「あ、あの…」
そんなシグナムに声を掛けたのはなのは。
やはりと言うか、見過ごす事ができなかったらしい。
「何だ…。……!?」
――魔導師!?…まさか…
「…管理局か?」
なのは達の魔力を感じ取り、シグナムは警戒を強めるが…
「違うの!」
「あんなのと一緒にしないで!」
なのはとフェイトが猛反発。
如何やら『ジュエルシード事件』のときのせいでリンディと其の配下以外に対するなのはとフェイトの管理局に対する印象は最低最悪のようだ。
「ち、違ったのか。其れはすまなかった。」
その物凄い反応の仕方に、シグナムは己の失言を知り謝罪する。
「分ってくれれば良いの。」
「其れであなたは何をしてるんですか?」
「貴女も魔導師ですよね?」
「魔導師か…どちらかと言うと私は『騎士』なのだが。何をしているのかと聞かれれば、見ての通り、
この広告を掲示、配布しているのだ。友人が修理屋を始めるのでな、其の手伝いだ。」
そう言って広告の1枚をなのはに差し出す。
「『八神修理工房』…なんでも直してくれるの?」
「らしい。ふど…八神本人の話だと車から家電まで何でも引き受けるそうだ、格安でな。」
格安……この言葉に反応したのはなのはだ。
「格安なの?」
「事前に一般的な相場を調べていたらしくてな。一般的な修理屋の半額から7割の値段で引き受けるそうだ。」
「其の広告3枚下さい!」
思い切った。
「3枚も貰ってくれるのか?」
「お母さんと、あとアリサちゃんとすずかちゃんにも教えてあげるの。」
自分だけでなく友達にも教えてやるらしい。
となれば、当然…
「じゃあ私にも2枚くれるかな。」
フェイトは2枚要求。
「2枚?」
「1枚はお母さんと沙羅さんに。其れと今日はリンディさん来てる筈だから。」
「あ、そっか。」
アリシアも納得。
「助かる。八神は気にしないだろうが、余らせてしまうのは余り良い気分ではないのだ。5枚も消費できたのは、正直にありがたい。」
残るは15枚だが、如何した物か…
「残りは…駅の方で配布してみたら良いと思うの。」
「そうだね。此処よりも人は多いだろうし。」
「駅か…成程。そちらへ行ってみよう。感謝する。」
其のアドバイス通りにシグナムは駅の方へ。
まぁ、なのはの言う様に駅周辺は人が多いので広告の配布には困らないだろう。
「あのさ、過ぎてから言うのもおかしいんだけど…」
「「?」」
「残ったチラシ、なのはのお店で無料配布すればよかったんじゃないかな?」
「「!!」」
アリシアの尤もな意見になのはとフェイトは一瞬マジで固まった。
で、
「そう言う事でこのチラシ。」
「…色々端折ったわね…」
「「?」」
「…只の妄言よ、気にしないで…」
時の箱庭に帰宅し、先程のチラシをプレシアに渡すフェイト。
微妙にメタ的発言があった気がするが聞かなかったことにしよう。
「それにしてもこの広告を配っていたという魔導師……僅かに残っている魔力の感じ…闇の書の守護騎士と見て間違い無さそうね。」
「「闇の書の守護騎士!?」」
至極自然に発せられたプレシアの一言にフェイトとアリシアが反応する。
闇の書と同時に守護騎士の存在も聞かされていたのだから、まぁ当然とはいえるが。
「闇の書が起動した時に感じた魔力と殆ど同じ魔力の名残……先ず間違いないわ。」
「其れを踏まえるとこの修理屋の『八神』と言う人が今回の持ち主ね?」
「そうなるわ。それで、フェイト、アリシア、貴女達からみてこの広告を配っていた人に如何いう印象を持ったかしら?」
其の問いに、素直に己の感じた事を2人は上げていく。
「真面目で責任感か強い人かな…?」
「真面目すぎる堅物って感じかな…?」
あまり、役にたたなそうだが…
「「でも、誰かの害になる事はしないと思う。」」
結構重要でした。
「でしょうね。守護騎士は持ち主には絶対服従とされているわ。
其の持ち主が『他者に害を与えるリンカーコアの蒐集』を禁じているのなら、守護騎士が危険分子となる事はありえない。
そうなると、闇の書の方は私達が特別警戒する事は無いわ。問題は管理局。リンディが言っていた通りなら…」
「騎士達が蒐集に乗り出すように焚き付けてくる可能性が有ると言う訳ね…」
沙羅の言った事に肯定の意を示す。
「ともあれ、警戒だけは怠らないで居て。……貴女には負担を掛けてしまう事になるけど頼むわね、フェイト。」
それにフェイトは無言で頷く。
確かに負担になるだろうが、フェイトの顔には笑顔……母親に必要とされるのは矢張り嬉しいのだ。
そしてそんな光景を見ながら、
――沙羅のおかげで、アノ鬼婆も随分丸く…てか別人みたいになったな〜
アルフは結構失礼な事を考えていた。
――――――
「それで直るかしら?」
「断線と、それに伴う電熱機の故障だが此れくらいなら問題なく直せる。」
修理屋を始めて数日経った本日、遊星は翠屋へと赴いていた。
理由は勿論修理の依頼があったからに他ならない。
因みに依頼主は高町桃子、翠屋のパティシエにして只今遊星と話している女性。
「それで、何時までに直せば良い?」
「午後が3時からだから……2時くらいまでにはお願いできる?」
現在1時を少し回った所で、つまりは1時間足らずで直せとの事だが…
「大丈夫だ、40分も掛からないで修理できる。」
全く問題ではなかった。
「助かるわ♪それじゃあお願いね。」
「あぁ、任せておいてくれ。」
そう言いながら、工具箱と上着の内側から大量の工具を取り出し作業に取り掛かった。
……工具箱は兎も角、上着にどうやって50本を越えるドライバーやスパナが入っていたのか些か謎だが…
〜30分後
「終わったぞ。」
見事宣言通りの40分以内で仕事完了。
「あら、ほんとに40分も掛からなかったわ。」
桃子が驚くのも無理は無い。
専門の業者に頼んでも1時間は掛かる仕事を遊星は半分で終わらせてしまったのだから。
尤も、ジャンクパーツからD・ホイール1台を組み上げる遊星にとって既製品の修理など造作も無い事なのだろうけど。
「故障箇所だけじゃなく、全体的な補強をしておいたから早々簡単に壊れる事は無い筈だ。
それから、出力はそのままに消費電力を30%ほどカットするように配線を変えておいた。」
「あら、其れは大助かり♪あ、それで御代は?」
「今回の修理だと7000円ジャストだ。」
「安いわね〜。専門業者に頼むと倍位するのに。」
代金を支払いながら桃子は感心してしまう。
此れだけ仕事が早くて値段も安い、今しがた動作確認を目の前で行ってもらったが性能が修理前よりも向上している。
更には修理に来た遊星はイケメンの上にクールで、しかも嫌味が全く無い好青年。
実にポイントが高い。
「欲を出したら絶対に失敗するからな。……ところで、此れは貰っていって構わないか?」
遊星が目に留めたのは、翠屋のアルバイト募集のチラシ。
「えぇ、構わないけれど、八神君には…」
「いや、俺じゃない。中々働き口が無くて困ってる奴が居るから、教えてやろうかと思って。」
「お友達に?勿論、持って行って頂戴♪やる気がある人なら大歓迎よ。」
――やる気は確かにあるんだが…
「取り合えず渡してみる。それじゃあ、又何か修理するものが有ったら利用してくれ。」
「はい、ご苦労様♪」
この日、桃子経由で色々な人に『八神修理工房』の噂が一気に拡大し、遊星が忙しくなるのは又別の話。
で、場所は移って八神宅。
「ただいま。……シグナム如何した?」
翠屋から帰ってきた遊星がリビングで見たのは机に突っ伏しているシグナム。
なんと言うか纏った空気が重い上に、吐き出される息は鉛色。
下手すりゃ魂が半分抜けかけてるような幻覚さえ見える。
「不動か……ふふふ、又ダメだった。今日も面接で落とされた…ははははは…」
乾いた笑いが何とも哀愁を誘う。
其れも無理は無い、働く事を決めた翌日より皆が働き口を探していて、
大体3日目にはシャマルとザフィーラは仕事に就く事ができた。(ザフィーラは工事現場、シャマルはケアハウスのヘルパー)
が、シグナムは未だに働き口が決まっていない。
其の最大の原因は、元来の性格ゆえ……面接で失敗してしまうのだ。
結果今日で目出度く10連敗……此れは沈む。
勿論そんなシグナムを見捨てる遊星ではない。
早速翠屋から貰っていきたバイト募集のチラシを差し出す。
「今日修理に行った喫茶店で貰ってきた。電話で面接をお願いしてみたら如何だ?」
無論此れを断るシグナムではない。
ニートに成らない為にも、今は何が何でも手に職をつけなければならないのだ。
将としての面目を保つためにも!!
「感謝するぞ不動!今度こそ、今度こそぉ!」
燃えていた、『烈火の将』だけに。
そして早速電話をかけ、翌日の面接に取り付け…
――翌日
「受かったぞ不動〜〜!!」
面接から満面の笑みでシグナムが戻ってきた。
如何やら、その場で採用が決まったらしい。
「やったな〜シグナム。おめでとさんや♪」
「ありがとうございます、主!そして不動、お前が此れをもってきてくれたおかげだ、感謝する。」
「大した事じゃない。役に立ったのならば良かった。」
目出度く働き口が見つかったシグナム。
後日、翠屋には飛びきり美人のウェイトレスが現れ、売り上げは大幅に伸び、なのはは驚く事になるのだった…
――――――
「く…貴様は一体…」
「くくく…神の使いだ。尤も邪神だが。フム、貴様が時空管理局の魔導師とやらか。」
海鳴市の一画で行われている黒いローブを纏った男と、杖のようなものを持った男の戦闘。
杖を持った男の方はそれなりに派手な攻撃をしているにも拘らず、周囲が気付いていないあたり結界の様な物が張られているのだろう。
「さて、そろそろ終わりにしよう。光栄に思うが良い貴様の魂は邪神復活の生贄となるのだからな。」
「ふ、ふざけるなぁ!!」
「ふん愚か者が。」
ローブの男が腕にはめた装置にカードを1枚セットすると、同時に現れた『何か』が杖の男を文字通り『喰らった』。
「え、ア……うわぁぁぁぁあぁ!!」
次の瞬間男の身体は完全に飲み込まれ、直後紫色の霧となってローブの男に吸収された。
「うむ…この程度か…。中々の魔力だが7体の邪神を復活させるには全く足りぬ…
もっと強い力を持った魔導師の魂を喰らわねば…」
不気味な雰囲気を残し男はその場から消える。
数分後、異常を感知して駆けつけたなのはとフェイトが見つけたのは、戦闘の痕跡と1本の杖の形をしたデバイスのみだった…
To Be Continued… 