遊星の前に現れた武藤遊戯。
本来ならば有り得ない光景だけに、其れが『闇の欠片』である事は容易に想像がつく。
だが、如何に闇の欠片と言えど其れは『伝説のデュエリスト』として語り継がれる存在。
その身から発せられる『デュエリストのオーラ』は本物の其れには劣って尚、超一流のデュエリストの物だ。
対峙する遊星の顔も自然と真剣なものになる。
『闇の欠片』である以上、矢張り放っておく事は出来ない。
戦いは必須だった。
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス32
『伝説との邂逅』
「遊星、此処は一体何処なんだ?気がついたらこんな場所に居たんだが、童実野町じゃないのか?」
「此処は海鳴と言う場所です。遊戯さん、貴方は…」
「あぁ、分ってる。俺は本物じゃないんだろ?」
「…!分ってたんですか?」
驚く事に、目の前の遊戯は、自分が『本物の遊戯でない』事を自覚していた。
場所を確認したのは、自分に何が起こっているかを把握する為と言うところだろう。
「あぁ、気がついたらこの場所に居たが、その前に一体何をしていたのか全く覚えていないんだ。
何よりも、あいつが…『相棒』が居ないんだ。俺と相棒は2人で1人だからな、俺だけって言うのはおかしな話だぜ。
今の俺は、本質は全く別の物が、何らかの力に反応して俺の姿をとっているってところかな?」
そして事態を実に正確に捉えていた。
遊星が教えた場所の情報が最後の1ピースであったようだが。
「そう、なります。今の貴方は、俺の記憶が『闇の書』と呼ばれて居た物の残滓によって再生されているんです。」
「闇の書の残滓…あまり良い響じゃないが、そうなると俺が存在し続けるのは余り良い事じゃないんだな?」
「はい。俺の仲間が言うには、闇の残滓を放置しておくと、力を蓄えて集まりやがて闇の書として再生するとの事です。」
「成程な。」
意外にも自分の状態を把握していた為、遊星も一切ごまかさずに何が起きているのかを伝える。
其れを聞いた遊戯はしばし考え、
「よし、デュエルをしよう遊星。」
「遊戯さん!?」
デュエルの申し込み。
戦う心算でいた遊星も少しばかり驚く。
遊戯の方から申し込まれるとは思わなかったのだろう。
「俺を消さなきゃならないんだろ?だったらその為の戦いは俺達の場合デュエルが一番だろ?」
「それは、確かにそうですが…良いんですか?」
「構わないさ。俺は自分で消える事は出来ないんだろ?なら君が俺を相棒の下に戻してくれないか?」
「…分りました。全力で行きますよ遊戯さん!」
確かに闇の欠片を消すには戦わねばならない。
更に、欠片は自ら消える事ができないが故に、他の誰かが消してやらねばならないのだ。
遊星も心を決め、デュエルディスクをステラから外し、スタンディングモードをスタンバイ。
遊戯も自身のデュエルディスクを展開する。
準備は整った。
「行きますよ、遊戯さん!」
「来い遊星!」
「「デュエル!!」」
遊星:LP4000
闇の欠片 遊戯:LP4000
「先攻は貰うぜ遊星!俺のターン、マジックカード『融合』発動!
手札のバフォメットと幻獣王ガゼルを融合!来い、『有翼幻獣キマイラ』!」
「グオォォォ!!」
有翼幻獣キマイラ:ATK2100
先攻は遊戯から。
行き成り融合を使っての上級モンスター召喚。
翼の生えた双頭の獣が現れ、威嚇するような唸り声を上げる。
遊戯のデッキに於ける突撃隊長的なモンスターだ。
『消して欲しい』とは言ったものの、デュエルでの手加減手抜きは無礼千万ということなのだろう。
本気であるのは間違いない。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ。」
「俺のターン!」
行き成りの速攻だが、遊星とて恐れはない。
それどころか、デュエルが始まった瞬間、闇の欠片とは言え遊戯とのデュエルと言う事に気分が高揚していた。
「手札のボルト・ヘッジホッグを捨て『トリック・ウォリアー』を特殊召喚。」
トリック・ウォリアー:ATK2000
「更に、チューナーモンスター『ターボ・シンクロン』を召喚!」
ターボ・シンクロン:ATK100
速攻ならば遊星も負けていない。
あっという間にお得意のシンクロの準備が完了だ。
「シンクロ召喚か。来い、遊星!遠慮は要らないぜ!」
「貴方相手に、遠慮も手加減もしようなんて思いませんよ遊戯さん!
レベル5のトリック・ウォリアーに、レベル1のターボ・シンクロンをチューニング!
集いし絆が、更なる力を紡ぎだす。光射す道となれ!シンクロ召喚、轟け『ターボ・ウォリアー』!」
「フアァァァァ!」
ターボ・ウォリアー:ATK2500
赤い体躯の超速戦士が現れ、雄叫びを上げる。
しかも攻撃力はキマイラよりも上だ。
「バトル!ターボ・ウォリアーで有翼幻獣キマイラに攻撃!『アクセル・スラッシュ』!」
そして即時攻撃。
ターボ・ウォリアーの槍の様に鋭い一撃がキマイラを切り裂き遊戯のライフを削る。
先手は遊星が取った形だ。
闇の欠片 遊戯:LP4000→3600
「やるな遊星。だが、トラップ発動『魂の綱』!俺のモンスターが破壊された時、
ライフを1000ポイント払って、デッキからレベル4以下のモンスターを特殊召喚するぜ!来い『磁石の戦士α』!」
闇の欠片 遊戯:LP3600→2600
磁石の戦士α:DEF1700
「更にキマイラの効果!キマイラが破壊された時、幻獣王ガゼルかバフォメットのどちらか1体を墓地から特殊召喚できる。
俺は墓地から『バフォメット』を守備表示で召喚!」
バフォメット:DEF1800
だが、闇の欠片であっても其処は遊戯。
すぐさま2体のモンスターを揃えボードアドバンテージは失わせない。
――合計で1400のライフを失いながらも2体のモンスター…。既に『アノ』モンスターが手札にあるのか?
「俺は、カードを1枚伏せてターンエンド。」
遊戯が揃えた2体のモンスターの意味を、遊星は正確に理解していた。
其れは初代デュエルキングのエースを呼び出すのに必要なモンスターの数だ。
「俺のターン!行くぜ遊星!俺は磁石の戦士αとバフォメットを生贄に捧げ…出でよ、我が最強の僕『ブラック・マジシャン』!」
『ふっ、ハァァァァァァ…トゥア!』
ブラック・マジシャン:ATK2500
現れた最上級黒魔術師『ブラック・マジシャン』。
黒衣を纏い、杖を携えて堂々と立つ姿は正に『王の僕』と言うに相応しい。
「ブラック・マジシャン…!矢張り手札に持っていたんですね?」
「あぁ。君の相手には相応しいだろ。」
その堂々たる姿に、遊星も驚く。
実際に見るのは2度目であっても、矢張り歴戦のデュエリストのエースはそれだけで迫力が違う。
「さて…遊星、デュエルは未だ始まったばかりだと言うのに、俺達は随分と手札を使ってしまった。
俺の手札は3枚、君は2枚。この手札では満足なデュエルは望めないと思わないか?」
「それは、確かにそうですが…」
未だ合計3ターン目だと言うのに、2人とも手札は可也少ない。
手札が少なければ戦術の幅も狭くなるは当然であり、遊戯の言う事も尤もだ。
「其処でだ、魔法カード『天よりの宝札』!
この効果で互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにデッキからカードをドローする。」
「此処でそのカードを…!」
発動したのは最強のドロー強化。
此れで互いに手札は6枚、戦術の幅は一気に広がった。
「ふっ、如何やら俺のデッキは全力で君と戦いたいらしいぜ遊星。
マジックカード『師弟の絆』!俺の場にブラック・マジシャンが存在する時、その弟子を守備表示で特殊召喚する!
現れろ、最上級魔術師の愛弟子『ブラック・マジシャン・ガール』!」
『ん…よっと。えへ♪』
ブラック・マジシャン・ガール:DEF1700
一気に並んだ2体の上級黒魔術師。
其れは圧巻の一言に尽きる。
尽きるのだが…
『あ、君はあの時の!久しぶりだね、元気してた?』
「え?あ、あぁ、それなりに…」
ブラック・マジシャン・ガールが物凄くフレンドリーに話しかけてきた。
此れには遊星も意表を突かれた形になり、本日一番驚いたと言っても過言ではない。
『そっか、なら良かった!でも、デュエルでは手加減しないよ?』
「ふっ、其れは俺も同じ事。お前達が揃ったと言う事は…遊戯さん!」
だが、驚くのも一瞬の事。
手加減しないと言われ、遊星のデュエリスト魂が一気に燃え上がったようだ。
勿論遊戯も其れに応える。
「良い読みだぜ遊星!マジックカード『黒・魔・導・連・弾』!
このターン、ブラック・マジシャンの攻撃力はブラック・マジシャン・ガールの攻撃力分アップする!
2人の攻撃力の合計は4500。君のターボ・ウォリアーを上回ったぜ!」
ブラック・マジシャン:ATK2500→4500
一気に大幅パワーアップ。
ターボ・ウォリアーの攻撃力を2000ポイントも上回ってきた。
「バトル!行け、ブラック・マジシャン!ブラック・マジシャン・ガール!」
『行くぞ!』
『はい!』
2体の黒魔術師が、各々の杖を交差させ、其処に闇属性の力が集結。
4500と言う攻撃力を示すかの様に巨大な力になる。
『行っけ〜〜!ブラック…』
『ツイン!』
『『バーーーーストッ!!』』
――ドォォン!!
強烈な一撃が、ターボ・ウォリアーを粉滅し、今度は遊星のライフが大きく削られる。
遊星:LP4000→2000
「く…流石は遊戯さん。けど、俺だって負けません!トラップ発動『奇跡の残照』。
このターン戦闘で破壊されたモンスター1体を、墓地から特殊召喚する!舞い戻れ『ターボ・ウォリアー』!」
「フアァァ!!」
ターボ・ウォリアー:ATK2500
だが、遊星もトラップでターボ・ウォリアーを蘇生させ、場をがら空きにはしない。
僅か3ターンではあるが、ハイレベルな攻防が展開されている。
この場にデュエルファンが居たら大興奮間違い無しの、ハイレベルデュエルだ。
「やるな遊星。本当に楽しいデュエルだ。俺が本物じゃないのが残念だぜ。」
「遊戯さん…。確かに貴方は『闇の欠片』ですが、例えそうであっても、俺は貴方とデュエル出来ている事を光栄に思います。」
「其れは嬉しいな。俺は此れでターンエンドだ。」
ブラック・マジシャン:ATK4500→2500
デュエリストの魂があれば、闇の欠片であろうとも関係ない。
事実、遊星は目の前の遊戯は本物にしか思えなかった。
其れほどまでにデュエルタクティクスも、デュエリストのオーラも格別だったのだ。
「俺のターン!」
――遊戯さんのフィールドの2体のブラック・マジシャン…此れを相手に出来るのはお前しかいない!
「手札のチューニング・サポーターを墓地に捨て、『ビッグ・ワン・ウォリアー』を特殊召喚!」
ビッグ・ワン・ウォリアー:DEF600
「そして、チューナーモンスター『デブリ・ドラゴン』を召喚!」
デブリ・ドラゴン:ATK1000
「デブリ・ドラゴンの召喚に成功した時、自分の墓地から攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚できる!
俺は、この効果で『チューニング・サポーター』を特殊召喚!」
チューニング・サポーター:ATK100
「更に俺のフィールドにチューナーが存在する時、墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を特殊召喚できる!」
ボルト・ヘッジホッグ:DEF800
一気に大量展開。
この1ターンで遊星のフィールドはモンスターで埋め尽くされる。
更に、展開したモンスター郡はチューナーを含むレベル合計8。
遊戯も此れが何を意味するのかは即座に分ったようだ。
「レベル合計8…今度は君の番だな。」
「貴方がエースモンスターを召喚したなら、俺もエースを召喚するのが礼儀。遊戯さん、行きますよ!
ビッグ・ワン・ウォリアー、チューニング・サポーター、ボルト・ヘッジホッグの3体にデブリ・ドラゴンをチューニング!
集いし願いが、新たに輝く星となる。光射す道となれ!シンクロ召喚!」
――バサァ…
光が弾け、風を裂く銀の翼が舞う…
「飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!」
「ショォォォォォォォォ!!」
スターダスト・ドラゴン:ATK2500
星屑の光を撒き散らしながら降臨した遊星のエースモンスター、『スターダスト・ドラゴン』。
ブラック・マジシャン師弟を前にしながら、しかしその堂々たる姿は一切引けを取らない。
『スターダスト・ドラゴン…!』
『真の主の力で召喚された、正真正銘の本物…矢張り違うな。』
ブラック・マジシャン・ガールは少しばかり驚き、ブラック・マジシャンは不敵な笑みを浮かべている。
遊戯もまた、スターダストの登場を『待っていた』と言わんばかりだ。
「スターダスト・ドラゴン…その登場を待っていたぜ!さぁ来い遊星、此処からが本番だぜ!」
『相手にとって不足は無い!来い、星屑の龍よ!』
「勿論!遊戯さん、俺とカード達の絆で貴方を倒します!」
「ショアァァァァァ!!」
互いにデッキを象徴するエースモンスターを召喚した遊星と遊戯。
時代を超えた、『最強のデュエリスト』の勝負は、一気に熱が急上昇しているようだった。
To Be Continued… 
*登場カード補足
天よりの宝札(制限カード)
通常魔法
互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにデッキからカードをドローする。
師弟の絆
通常魔法
自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が 表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
自分のデッキ・手札・墓地から「ブラック・マジシャン・ガール」1体を 表側守備表示で特殊召喚する。
黒・魔・導・連・弾
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「ブラック・マジシャン」1体と「ブラック・マジシャン・ガール」1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズまで、選択した「ブラック・マジシャン」の攻撃力は選択した「ブラック・マジシャン・ガール」の攻撃力の数値分アップする。