時は12月。
遊星が赤き竜の力でシティから海鳴へと飛ばされてから半年が経った。
はやてとの出会いに始まり、騎士達との邂逅。
ダークシンクロとの戦い、母やゴドウィンとの再会、魔力蒐集…他にも『色々』あった。
『もう』半年なのか、『まだ』半年なのかは分からない。
だが、遊星にとって……否はやてやなのは達にとってもこの半年は間違いなく今までで一番濃密な半年だった事だろう。
日に日に寒さが厳しくなっていくこの季節、遊星はと言うと…
「ジャンク・アーチャーの効果発動!『ディメンジョン・シュート』!」
「えぇ!?お砂糖が消えた~~!?」
アースラ内部でリンディの糖分摂取を阻止しているのだった…
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス21
『運命の日、宿命の時』
「エンドフェイズに除外されたモンスターはフィールドに戻る。」
何故か(超特大の)シュガーポットは遊星の手に。
「如何して!?ジャンク・アーチャーの効果なら砂糖は私のところに戻ってくるはずじゃないの~!?」
「ジャンク・アーチャーの効果でシュガーポットが戻ってきた時、俺は伏せカードを発動していた。
トラップカード『ハルモニアの鏡』。シンクロモンスターがシンクロ召喚以外で特殊召喚された時、其のモンスターのコントロールを得る。」
「シュガーポットはシンクロモンスター扱いなの!?」
リンディの突っ込みはご尤もだ。
幾らデバイス化で現実干渉力を有したカードと言えども根幹のルールは捻じ曲げられないはずなのだが…
「はやてがシュガーポットをイメージしたシンクロモンスターを考えて、見せてくれた。
後は俺が此れをシンクロモンスターと認識できれば充分だ。」
はやてが一枚かんでいた様子。
確かにこの半年の間に、遊星のデュエルに興味を持ったはやては、普段は特に何もする事が無い事も手伝って、
カードの絵柄や効果を考えるのが日々の楽しみになっていた。
そんな中で、リンディの行き過ぎた糖分摂取を是正する為に考えたのがシンクロモンスター『糖分魔神シュガー・ポット』。
駄洒落たっぷりに考えたカードではあるが、此れのおかげで遊星は今回のコンボが出来たと言える。
ついでに言うとこのモンスター、シンクロの癖にフレーバーテキスト付であった。
「は、はやてさんまで~~!?う~…お砂糖…」
「諦めろリンディ。クロノと母さん、そして桃子とプレシアからお前が砂糖を大量摂取しようとしたら力ずくでも止めてくれと頼まれている。
肉親と仲間からの頼みを断ることなんて俺には出来ない!!」
「だったら私の頼みも聞いて~~!」
「仲間の健康を守るのも大事な事なんだ!」
「そんなぁ…お砂糖プリーズ!」
「ダメだ。」
傍から見てるとバカバカしいまでの不毛な争いだが本人達は至って真剣。
特に遊星はナチュラルに対応して此れなのだからある意味最も性質が悪いとも言える。
「束の間の平和ですね…」
そんな光景を、茶を啜りながらゴドウィンは見ている。
管理局の動向を逆監視しているものの、表立って動く事は無い為この人も大概暇らしい。(模擬戦を頼まれれば受ける事もあるが。)
「ところで遊星、魔力の蒐集状況はどうなってますか?」
「あと1回スターダストの攻撃を蒐集させれば闇の書は完成すると言う所だな。
只、はやてが蒐集した魔法を自在に操れるようになる必要があるから最後の1回はクリスマスと言うところだ。」
砂糖を巡る戦いは遊星がジャンク・デストロイヤーをシンクロ召喚したことで終わりを告げていた。
高い魔導技術を持つリンディも4本の腕で拘束されては抗う術は無かったらしい。
「あう…お砂糖入りのお茶…」
「(無視)成程。其れならば問題ないでしょう。ギル・グレアムの方はクロノ執務官が自ら赴いて事情を話したようですしね。
彼ほどの人物ならば自身の計画よりも優れた手段があるといって其れを妨害するような愚行はしないでしょう。
ですが、そうなると最大の問題は…」
「あぁ、ディマクの姿をしたダークシグナーだ。奴の行動は散発的でエイミィの管制能力を以てしても行動を補足仕切れなかった。
何時も後手後手になっていた…恐らく奴も地縛神復活に必要なエネルギーは手にしている筈だ。」
そう、ダークシグナーの同行は余りにも予測不可能で対処しきれて居なかったのだ。
それを考えると地縛神復活は最早阻止する事は困難だろう。
復活した所を全て叩くことになる事は間違い無いように思えた。
だが、遊星は其れに恐れる様子など無い。
当然だ、頼りになる、そして信じる仲間がこの世界にも居るのだ。
其の仲間達との『絆』を信じていれば必ず難局も乗り越えられると信じているのだ。
「だが地縛神が復活しようとも俺は、俺達は負けない。必ず其れを打ち倒してみせる!」
「其の意気です。処で八神はやてさんは?」
「今日は病院の定期健診だ。足の方も極僅かずつだが良くなってきてるらしい。」
「其れは良い兆候ですね。」
闇の書完成は間近。
しかし、もう恐れも何も存在しては居なかった。
――――――
クリスマスを1週間後に控えたある日の夜の事…
「何処やねん此処?…まぁ夢やろうけど。」
はやては見知らぬ場所に居た。
床が無い空間。
いや、床だけではなくありとあらゆる物が空間に溶け込み其の姿はまるで『混沌』だ。
一見すれば不気味だが、不思議とはやては恐れも何も感じていなかった。
其れは目の前に居る存在のせいだろう。
『黒』を纏った銀髪の女性。
其の静かな赤い瞳がはやても見つめている…何よりも大切そうに。
『間も無く闇の書は完成し私が表に出ることになります。』
女性は静かに語る。
はやては何も言わずに其れを聞く。
『ですが其れと同時に書は暴走を開始し貴女を取り込むでしょう。
……そんな事はしたくない。ですがプログラムである以上、私は其れに抗う術が無いのです。
我が主よ、貴女には辛い事が起きるでしょう、ですがどうか絶望しないで下さい。心を強く持ってください。
貴女と『彼』ならばきっと書の呪いを超えられる事でしょう……終わらせて下さい、悲しみの連鎖を…』
女性はドンドン其の姿が薄くなっていく。
『貴女のような人ばかりが私の所有者であったら或いは…』
そこで空間を眩い光が埋め尽くし、はやての意識は現実へと浮上した。
「…目が覚めたのか?」
「うん。夢ん中で闇の書とお話してた。」
目を覚ませば隣には遊星。
半年前から変らないこの状況。
『遊星ならば大丈夫だ!』とシグナムのお墨付きもあって寝る時ははやてと遊星は一緒なのだ。
「そうか。何か言ってたか?」
「心を強く持って絶望するなて。それから悲しみの連鎖を終わらせてくれ言ってた。」
「なら、その願いはかなえなくちゃな。大丈夫だ、俺達が力を合わせれば必ず出来る。」
「うん、そうやね…」
そのまま遊星に寄り添う。
目が覚めたとは言え時刻は夜中の2時。
起床するにはマダマダ早すぎる。
遊星に腕枕をしてもらい、はやては再び眠りに入る。
あっという間に寝息を立て始めたはやての髪を撫で、遊星もまた夢の世界へ…
遊星の方はどんな夢かは分からないが、今度ははやての方にあの銀髪の女性は現われなかった…
――――――
12月25日:とある次元世界
世間では『クリスマス』のこの日、遊星とはやて、ヴォルケンリッターとなのはとフェイトとアルフ、そしてクロノはこの場所に居た。
此れからいよいよ最後の魔力蒐集を行うのだ。
書の暴走の事を考え、海鳴ではなくこの無人の次元世界で最後の蒐集は行われる事となった。
この場に居ないメンバーはすぐに動けるようにアースラ、或いは時の箱庭で待機している。
「こっちは準備OKやで遊星!」
「あぁ、行くぞ!ボルト・へッジホッグとシールド・ウィングに、デブリ・ドラゴンをチューニング!
集いし願いが、新たに輝く星となる。光射す道となれ!シンクロ召喚、飛翔せよ『スターダスト・ドラゴン』!」
「コォォォォォ!!」
スターダスト・ドラゴン:ATK2500
蒐集のトリを務めるのは遊星のエース『スターダスト・ドラゴン』
勿論此れにも理由がある。
遊星のモンスターでの攻撃なら、他のメンバーが魔力を消費する事無く暴走した闇の書との戦闘に備えられる。
更に、此れならば遊星は最初からエースモンスターを召喚した状態で戦う事ができるからと言うこの2点が決定打だったのだ。
「行くぞはやて!響け『シューティング・ソニック』!」
スターダストから音速の衝撃波が発射されはやてに向かう。
「蒐集開始や!」
其れを闇の書で受け止め、其の力を蒐集させる。
全員が息を呑む。
攻撃はドンドン蒐集され、そして遂に闇の書の全項『666項』が埋まった。
「Anfang. 」
同時に書から闇が溢れはやてを包み込む。
「はやてちゃん!」
「はやて!」
分かっていた事とは言え、子供であるなのはとフェイトは矢張り驚いてしまう。
勿論取り込まれるはやても恐怖は感じているだろう。
だが、完全に取り込まれる寸前にまだ取り込まれていなかった左手でサムズアップをして見せたのだ。
『頑張るから、少しの間お願いな?』
そんな意志の篭ったサムズアップに全員が無言で頷く。
其れを最後にはやての身体は完全に闇に飲まれその場に黒い球体が形成される。
「皆、来るぞ!なのはとクロノ、シャマルは後方で待機してくれ。」
「ヴィータとフェイト、アルフは私と共に前に出ろ!ザフィーラは防御に専念だ。」
「了解です!行くよレイジングハート!」
「All right.」
「僕達の役目は、砲台と補助だな。」
「バックスならお手の物です!」
「へ、やってやるぜ!」
「やるよ、バルディッシュ。」
「Yes sir.」
「さぁて…行くよ?」
「盾の守護獣…行くぞ!」
遊星とシグナムの掛け声で全員が各々の配置に付く。
細かい事は言わない、夫々が得意な間合いを取っている。
――ピシッ
やがて球体に亀裂が入り…
――パリィンッ!
其れが砕け散る。
そして中から現われたのは、銀髪で赤い目の女性。
黒衣を纏い、背中には4枚の黒い鴉の翼。
顔と左腕には赤い紋様、右腕と両足にはまるで拘束するかのようなベルトが。
「……………」
何も語らずに無言。
だが其の全身からは恐ろしいまでの魔力が溢れ出ている。
闇の書の呪いを超える戦いが始まろうとしていた。
――――――
同じ頃、遊星達が居るのとは又別の次元世界。
此処でも最後の儀式が行われようとしていた。
不気味に描かれた魔法陣。
其の中心に居るのはディマクだ。
「クククク…此れで全てが整った!さぁ今こそ復活の時だ!我に蓄えられた魔力と、魔導師共の魂を生贄に現われよ!
蘇れ地に縛られし邪神!『地縛神Ccapac Apu』『地縛神Aslla piscu』『地縛神Ccarayhua』『地縛神Cusillu』『地縛神Chacu Challhua』
『地縛神Uru』、そして……『地縛神Wiraqocha Rasca』!!大地より其の姿を現し世界を滅びへと導け!!」
夜空に心臓のようなオブジェが7つ現われ、不気味に脈動を始める。
其れに呼応するように魔力やら何やらが集中して行く。
そして…
「「「「「「「ウオォォォォォォォォン!!!!」」」」」」」
不気味な咆哮と共に現われた7体の地縛神。
同時に現われる無数のダークシンクロモンスター。
「はぁっはっは!!遂に手に入れたぞこの絶対的な力を!!この力で今度こそ世界を!!」
正気等消え失せた所謂『凶眼』で笑うディマク。
其の狂気が多分に含まれた笑いは闇夜に不気味に響き渡る。
「座標特定…其処に居たか不動遊星。しかも闇の書が暴走か…都合が良い。此処で終わらせてくれよう!」
遊星の居場所を特定し、転移先を其処に設定する。
12月25日。
この聖なる夜に、大きな、そして退く事の出来ない戦いが幕を上げたのだった…
*補足
糖分魔神シュガー・ポット
レベル8 地属性
岩石族・シンクロ
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
人の体重と中性脂肪と体脂肪率と血糖値を大幅に上昇させる恐るべき存在。
こいつの誘惑に負けた者は二度と戻ってくる事は出来ないといわれている。
ATK2800 DEF2000
ハルモニアの鏡
通常罠
相手がシンクロモンスターをシンクロ召喚以外で特殊召喚したときに発動できる。
其のモンスターのコントロールを得る。
To Be Continued… 