学年別タッグトーナメント一年生の部の準決勝第一試合はヴィシュヌ&円夏ペアと乱&ティナだ。
国家代表候補生が四人集ったこの試合は注目度が高く実際に試合を行うヴィシュヌ達も其れなりに緊張はしていた――だが緊張はしていても固くなっているかと言われればそれは否だ。
ヴィシュヌと円夏だけでなく、乱とティナもアリーナ内の歓声に驚きはしたモノの特に気負った感じは見受けれなかった。


「改めてこうして対峙してみると、アンタの専用機って異質よね円夏?」

「怖いのならば棄権するのも一つの手だぞ?
 棄権した事を非難するバカも世の中には存在するが、棄権を選択したと言うのは己の力量と相手の力量差を知って勝てないと思った末に選択するモノなのだからな!」

「アンタの言う事は尤もかもしれないけど、そう言われてアタシが棄権すると思ってんの?」

「思ってないが?」

「だったらなんで言ったし!」

「此の展開は王道なのではないのか?」

「ちっがーう!いや、完全に間違ってないところがめんどくさい事此の上ねぇ!!」


そして始まった試合は試合開始直後にヴィシュヌが乱に近接戦闘を仕掛け、円夏はティナの足止めと言う形になっていたのだが、円夏とティナの戦いは些かティナの方が分が悪かった。
ティナが使っているのは学園の訓練機であるラファールであり、一応アメリカから送られて来た試作の近接用の大型ブレードを装備している他、ラファールの標準装備であるライフル以外にも拡張領域にマシンガン、グレネードランチャー、ショットガンに男のロマンであるロケットランチャーも詰め込んできてい有るので攻撃手段は豊富なのだが、円夏はワンオフの機体である『黒騎士』を操り、BT兵装にライフル、近接戦闘用の大剣を装備しているだけでなく、BT兵装を操作中に動く事が出来るのでティアはBT攻撃に対処しながら円夏の相手をすると言う超ハードモードを強いられていたのだ。
其れでもシールドエネルギーを削られながらも決定打をギリギリで回避しているティナの実力は疑いようもないだろう――ヴィシュヌと乱もヴィシュヌが優勢ながらも乱はギリギリで直撃を避けており、このギリギリ感が手に汗握る展開となっていた。

だがその試合の幕切れは突如として訪れた。
乱と近距離戦を行っていたヴィシュヌが突如間合いを離したかと思ったら、ヴィシュヌはクラスター・ボウを拡散状態で連射して乱とティナを其の場に釘付けにして来たのだ。
クラスター・ボウの拡散射撃は細かい狙いが付けられない代わりに広範囲を攻撃できる上、連射も効くのでかなり有効な攻撃手段と言えるのである。


「ではこれで終わりだ……!!」


そしてヴィシュヌが乱とティナを相手している間に円夏は専用のライフルにありったけのエネルギーを集約していた――此れが直撃したら一溜りもないだろう。


「喰らえ!滅びの爆裂疾風弾!!!」

「「!!!」」


そして放たれた一撃は見事に乱とティナに直撃し、乱とティナの機体エネルギーはゼロとなり、先ずはヴィシュヌ&円夏のペアが決勝戦にコマを進めたのだった。









夏と銀河と無限の成層圏 Episode23
『決勝戦と発現した悪意~Manifestation von Bosheit~』










そして続くは準決勝の第二試合である一夏&鈴ペアとラウラ&箒ペアだ。
夫々の控室では一夏は禅を組んで精神を集中して鈴は太極拳でウォーミングアップをしており、一方の箒&ラウラペアは控室では箒が椅子に座って静かに集中力を高めてラウラは武装の再チェックを行っていた。


――ピンポンパンポーン


『学年別タッグトーナメント一年生の部についてお知らせです。
 先程行われた準決勝第一試合で勝利したヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー&織斑円夏ペアは、円夏選手の機体が機体トラブルで決勝戦に出場出来なくなった事で棄権となりました。
 よって次の準決勝第二試合である『織斑一夏&凰鈴音ペアvsラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒ペア』の試合を事実上の決勝戦とします!』



――ドンガラガッシャーン!!


そんな中で突如入って来た放送に、一夏も鈴も箒もラウラも盛大にずっこけた。


「き、機体トラブルってなんでよ!?」

「恐らくだがトドメの一発だろうなぁ。
 俺が知る限り円夏の黒騎士にあんな攻撃をするモノはなかった――となると、束さんに頼んで此のトーナメントの為に作って貰った可能性が高い。
 束さんも短期開発だから性能テストをする暇もなくカタログスペック上は問題なかったんだろうが、試射もしないでぶっつけ本番でフルパワーで使った事で不具合が出たって所だろうな……ヴィシュヌと円夏とは決勝で戦いたかったんだが仕方ねぇな。」

「円夏って頭いいくせに時々バカなのよねぇ……中二病を何時まで拗らせてんのよマジで。」

「でもってその中二病は見事にラウラに伝播しちまってる上に、ラウラの専用機の性能は中二病をくすぐる装備満載な上に、アイツの眼帯に隠された右目は中二病の極みとも言えるモノなんだよなぁ……」

「何それ怖いんですけど。」


まさかの円夏の機体トラブルでヴィシュヌ&円夏ペアは棄権となり、一夏&鈴ペアと箒&ラウラペアの試合が決勝戦となったのだった――色々と突っ込みどころはあるだろうが此の試合が決勝戦になると言うのならば双方のペアの気合もより高まっていた。


「つっても目指すは優勝のみなんだから、絶対に勝つわよ一夏?足引っ張んじゃないわよ?」

「俺が足を引っ張るだって?冗談も休み休み言えってんだ……俺を誰だと思ってんだお前は?」

「千冬さんの弟で円夏の兄貴でアタシの悪友でしょ?
 其れとヴィシュヌの彼氏でもあるか……此れ以上の答えって必要?」

「いんや、過不足ねぇわ。……そんじゃ、行くぜ鈴!」

「えぇ、決勝戦に相応しく暴れてやりましょ!!」


一夏と鈴は軽口を交わした後に軽く拳を合わせてからカタパルトに乗りアリーナへと飛び立ち、ほぼ同じタイミングで箒とラウラもアリーナへと姿を現したのであった。








――――――








「よもや姉上が機体トラブルで棄権とは……だが、そのおかげで決勝戦となったこの試合で兄上と戦える事になったのは喜ぶべき事か?」

「其れは分からないが、少なくともお前が喜べるんならそうなんだろうよ……だが、俺にとってはこの試合が準決勝だろうと決勝だろうと大きな変わりはない……ヴィシュヌと戦えなくなっちまった事を除けばな。
 つー訳で初手から全力で来いよラウラ。全力じゃなきゃ、俺には勝てないぜ?」

「言われずともその心算だ!」


「あっちは昔馴染みで盛り上がってるみたいだから、アタシ達はアタシ達で楽しみましょうか箒?一夏の幼馴染同士の対決ってのも悪くないっしょ?」

「異論はない……私としてもお前とは一度本気で遣り合ってみたいと思っていたからな。
 全力を尽くして相手をさせてもらう!」

「そう来なくっちゃね!」


試合前の口の応酬は互角と言ったところだろう――全員の口元に好戦的な笑みが浮かんでいるのがその証拠と言える。


『それでは学年別タッグトーナメント一年生の部決勝戦!織斑一夏&凰鈴音ペアvsラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒ペア、デュエルスタート!!!』


そして告げられた試合開始と同時に全員が飛び出したのだが、一夏がラウラに、鈴が箒に向かう感じだったのだが、接敵する直前に一夏と鈴はお互いの位置を入れ替え一夏が箒に、鈴がラウラに対応する布陣になっていた――試合前の会話から既に一夏と鈴は仕掛けていたのだ。


「鈴が言った事はブラフか!」

「卑怯とは言うなよ?言葉もまた兵法ってのはお前も龍韻さんから聞いてるだろ?」


「む、兄上ではなくお前が相手か……だが相手にとって不足はない!」

「ま、チビ同士仲良くやりましょ♪」


箒とラウラは良く言えば真面目、悪く言えば馬鹿正直なところがあるからこそ一夏と鈴の言葉を信じてしまい、この直前のスイッチに虚を突かれた形となってしまい、先手を取られる形となってしまった。
加えて箒が一夏の相手をするのは剣術の実力的にもISの操縦レベル的にもキツイモノがあるのだが、実はラウラにとっても鈴は相性面では最悪と言える相手だったりする。
鈴とラウラの専用機はタイプは違えど近接寄りの万能機であり完全な遠距離戦にならない限りは余程の実力者が相手ではない限り後れを取る事はない。
だが、甲龍とシュバルツェア・レーゲンでは近接戦闘の様式が異なる。
シュバルツェア・レーゲンの近接武器が両手のプラズマ手刀と六本のワイヤーブレードであるのに対し、甲龍の近接武器は二振りの青龍刀である双天月牙であり、物量的にはシュバルツェア・レーゲンの方が有利なのだが……


「ほらほらほら!そんなんじゃアタシに勝つ事は出来ないわよ!」

「此れは、中々に厄介だな……!!」


鈴は双天月牙を二刀流、柄の部分を連結させての双頭剣と臨機応変に使い分けてラウラを攻め立てていた――加えて甲龍は燃費の良さに念頭を置いて開発された機体なので操縦者による無茶な操縦にも耐える事が出来るのだ。


「アンタのAICだったっけか?
 相手の動きを止める事が出来るってのは確かに強力だけど、其れってアンタが見えてる事が大前提なのよね?……だったらこれを止める事は出来ないって事になるわね!!」

「!!」


此処で鈴が龍砲を近距離で放ちラウラを吹き飛ばす。
龍砲の最大の利点はレーダーやISのハイパーセンサーでも感知できない不可視性でありながら同時に初見殺しになり辛く有効な攻撃として使い続けられる点にある――まだ鈴が龍砲の扱いに慣れていなかったとは言えクラス対抗戦の際に見切った一夏の方が異常なのである。


「く……成程、見えないモノは確かに停止させる事は出来んが、ならば見えるようにすればいいだけの事!
 決勝戦ならば最早出し惜しみは必要あるまい……この右目の封印を解く時が来たようだな!!」

「いや、此処で中二病発動するんかい!」


吹き飛ばされたラウラは、中二病的な発言をした後に右目の眼帯を外す――そして眼帯の下から現れたのは特徴的な金色の瞳『ヴォーダンオージュ』だった。


「んでもって現れたのは金色の瞳とかガチ中二展開ねぇ?
 そんで何?其の金色の瞳には破壊精霊様でも封印されてんの?」

「いや、コイツは言うなれば義眼型のハイパーセンサーだな。
 此れとレーゲン、二重のハイパーセンサーを使えば見えない龍砲を何とか見る事が可能となるだろう……なにせこの目は見えすぎるからな?余程の温度差がない限りは見る事の出来ない地面の温度と大気の温度差の揺らぎすら見る事が出来るからな?」

「成程、其れなら確かに龍砲も見切れるかもしれないわね……だったらアタシもギアを上げるだけよ!」


此れにより鈴の龍砲の有効性は下がり、近接戦闘に於いても不利になったのだが、其の程度で怯む鈴ではなく、寧ろ攻撃的な獰猛な笑みを浮かべてみせた――特徴的な八重歯が最早牙である。
鈴とラウラの戦いは更に過熱していくのだった。







――――――








その一方で一夏と箒の戦いは、一夏が圧倒する展開となるかと思いきや、一夏がやや優勢ながらもほぼ互角の戦いとなっていた。


「カウンター狙いじゃなくて真正面から斬り合いに応じるとは意外だったな?」

「勝率で言えばカウンターを選択するのが正解なのだろう……剣士としての腕はお前の方が僅かに上なだけでなくIS操縦者としてはお前の方が圧倒的にレベルが上だからな。
 だが逆に言えば私がカウンターを狙って来るのはお前の想定内であり、そうなればカウンターを決めるのは困難だ……ならば真っ向から斬り合った方がまだ勝機はあると言うモノ!
 何よりも私は、お前とは真っ向から遣り合いたかったからな!!」

「なら其れには応えねぇとな!蒼龍皇、アレ出すぞ!」

『アレか……確かに此の状況では使わない理由がないな。』


箒はカウンター型ではなく、真っ向勝負を一夏に挑んでいたのだ。
そして箒がカウンターを選択しなかった理由を聞いた一夏は、蒼龍皇に何かを言うと、次の瞬間に登龍剣の形が変わり、両刃の西洋剣だった見た目が片刃の日本刀の姿になったのだ。


「登龍剣閻魔刀モード……此れを使うのはお前が初めてだ箒。」

「刀こそがお前の真骨頂……其れを引き出す事が出来たのならば私も少しは強くなれたと言う事か。」

「少しじゃねぇ、お前は強いよ箒。
 ぶっちゃけて言うなら専用機を持ってない一年生の中ではお前は間違いなく最強だと俺は思うぜ?実の姉がアレだからお前の自己評価が低くなるのは仕方ないのかもしれないが、お前はお前で束さんは束さんだ同じじゃねぇ。
 そもそもにして束さんは人類のバグみたいな存在なんだから比べる事自体間違ってんだって。」

「……改めて言われると確かに納得だな。
 確かに少し焦っていたのかもしれん……ふむ、少しばかり思考がクリアになった。行くぞ一夏!」

「来い、箒!!」


一夏と箒の戦いもヒートアップし、正に決勝戦に相応しい試合展開となって行くのだった。








――――――








試合は両ペアともリミッターを解除した事で凄まじい試合展開となっており、ラウラが六本のワイヤーブレードを射出すれば、鈴は其れを連結状態の双天月牙で弾き飛ばしてから中国拳法の虎掌襲を叩き込んでダメージを与えるも、ラウラもカウンター気味にプラズマ手刀を叩き込む。
一夏と箒の方も、箒が一夏の鞘を使った二刀流に苦戦しながらも疑似二刀流の攻撃をバックステップで躱すと痛烈なスライディングキックで一夏の態勢を崩し、其処から飛びつき型の三角締めに移行した――のだが、一夏は三角締めを極められながらも強引に立ち上がると……


「変則型キン肉ドライバー!!」

「なんだと!!」


箒に三角締めを極められたまま急降下して箒をアリーナの床に叩きつける!
此れにより箒の打鉄には大きなダメージが入り、残りシールドエネルギーは30%を切ってしまったのだが、一夏も強引な攻撃を行った事で右腕に大ダメージを負ってしまい右腕の装甲が吹っ飛んでしまったのだが、此の程度は問題にならない。
そして両ペアとも仕切り直しとばかりに一度距離を離した。


「楽しい戦いだからもっと楽しみたいんだが、そろそろ決着を付けないと泥仕合になりそうなんでな……次で決めるぜ?」

「上等だ兄上……!!」

「全部出し切る!アンタも気張んなさいよ箒!!」

「限界まで……否、限界の更に先まで飛ばしてやるさ!!」


そして改めて両ペアはぶつかる事になり、其れこそどちらが勝ってもおかしくない状況になったのだが――



「悪く思うなよエロガキ……やらなきゃ俺達も終わりなんでね。VTシステム起動ってな。」


観客席ではダリルがシュバルツェア・レーゲンにインストールしたVTシステムを起動していた――そして、このシステムの起動によって学年別タッグトーナメント一年生の部はトンデモナイ事になるのだった。








 To Be Continued