一夏とヴィシュヌが温泉旅行を楽しんでいた頃、IS学園最強無敵な教師の織斑千冬と、学園最強の生徒会長である更識楯無は都内のファーストフード店でランチタイムとなっていた。
ISバトルに於いては其の名を知らぬ人はいないと言っても過言ではない千冬と、裏社会では其れこそ知らないモノはもぐりと言われるレベルの楯無がファーストフード店でランチと言うのは中々に奇妙なモノではあるが特に何かあった訳でなく、たまたま千冬も楯無もGWで本土に戻っていたところ偶然街中で出くわし、適当な雑談をした後に良い時間になったので此のファーストフード店にやって来たのだ。

『世界最強』と『ロシアの国家代表』が来店した事でバイトの定員はカウンターでビビりまくっていたのだが。

尚注文したメニューは千冬が『辛口照り焼きチキンバーガーLLセット』で楯無が『エビカツバーガーLLセット』でドリンクは千冬が『強炭酸ジンジャエール』で楯無が『強炭酸ダイエットコーラ』であった。


「それにしても、織斑先生とGW中に学園外で出会うとは思っていませんでした。」

「それは私も同じだ……学園最強の生徒会長もGWを満喫中と言ったところかな?」

「正解です織斑先生。
 と言いたいところですが今日は簪ちゃん関係での外出なんですよねぇ……妹の為とは言え折角の休日が潰れるのは少しばかり残念な気分ですわ。」

「更識簪……円夏や凰と同じく日本の国家代表候補生だったな?
 一度だけ代表候補生の合宿を視察に行った際に彼女の事を見た事があるが、中々に腕は悪くなかった印象だ――少なくとも当時の合宿では円夏と凰と同程度の腕前であったと記憶している。」

「その時はそうだったでしょうけれど、今の簪ちゃんは円夏ちゃんにも鈴ちゃんにも勝つ事は出来ないと思ってますわ織斑先生。
 もしかしたら、当時の『日本代表候補選抜トライアル』で最終試験まで残りながらも合格出来なかった子達よりも今の簪ちゃんは弱いかもしれません。」

「その心は?」

「簪ちゃんは倉持で開発中の専用機の開発が凍結された事を知るや否や未完成の機体を完成させる事に躍起になって、最近では基本的なトレーニングすら疎かになっているみたいですから。
 それでは現在進行形で成長している円夏ちゃんや鈴ちゃん、トライアルに不合格になった事で改めてトレーニングを行っている人達に勝てる道理が存在しません。」

「倉持も馬鹿な事をしたと言いたいが、お前の妹の専用機の開発を行っていたのはひっじょ~~に不本意ではあるが、学生時代に私と束の友人であった『篝火ヒカルノ』だった筈だ、本人から聞いたからな。
 アイツは束に匹敵するほどの変人だったが、自分がやってる事を途中で投げ出す奴ではない……だからこそ、奴が自分が開発中の機体の開発凍結に何も言わなかったのかと不思議ではある。」

「ヒカルノ博士はある意味諦めていたのだと思います……簪ちゃんの専用機の開発が凍結されたのが決まった時には真っ先に簪ちゃんに連絡を入れて謝罪してたみたいですから――ある意味の意趣返しで、其の後の一夏君の専用機の開発に於いては色々やって絶対に一夏君が受け取らないように仕上げたとの事でしたけれど。」

「白式か……一夏でなくともあんなものを専用機として渡されるとなったら固辞するだろうよ。
 アレは言ってしまえば私が現役時代に使っていた暮桜の下位互換と言うか劣化版に過ぎん……しかも、暮桜には零落白夜用のエネルギーパックが搭載されていたのに対し、白式には其れがなく完全な諸刃の剣となっているからな。
 其れは兎も角として、なぜお前の妹は専用機の開発を躍起になって一人で行っているのだ?」

「端的に言って私に対する劣等感と嫉妬心ですね。
 あの子は私が専用機を私一人で完成させたと思い込んでいるんです……確かに、最終的な組み上げを行ったのは私ですけれど、其処に至るまでは周囲の助けがあったからこそなのに――その事は何度も言っているのですが簪ちゃんの耳には届いてないですわ。」

「お前も色々と大変だな……」

「姉と言うモノは弟や妹の事で苦労するのも役目であるのかもしれません。」

「確かにな。」


ランチタイムを終えると楯無は倉持技研に向かい、其処で新開発されたIS用武装のテストプレイヤーとしての仕事を熟していた――此れこそが簪関係の事での外出だった。
普通ならば開発が凍結された機体を一個人が所有する事など不可能なのだが、其処は楯無が『自分が倉持技研のテストプレイヤーに無料でなる』と言った事で簪は打鉄弐式を自らの手で開発する事が出来ているのだ。
尤も簪はそんな事は露とも知らない訳だが。

尚、千冬は此のファーストフード店の店長から『お願いします』と拝み倒され、渋々ながら色紙にサインをする事になるのだった。









夏と銀河と無限の成層圏 Episode13
『GW3日目~Fishing, the zoo, and~……』










温泉旅行二日目。
旅行中であっても一夏とヴィシュヌは鍛錬を怠る事はなく、早朝のランニングに始まり、旅館内にあるスポーツ施設で水泳やルームランナーで汗を流し、サンドバッグ打ちでは一夏が矢部のアニキ直伝の『殺人空手』の正拳突きでサンドバッグを貫通し、ヴィシュヌが『人間凶器』と称される母親から教え込まれた『一般人が喰らったら頭蓋骨骨折か頚椎骨折は免れない』ハイキックでサンドバックを破壊していた……プロ仕様ではないとは言えサンドバッグを破壊した一夏とヴィシュヌの攻撃力は途轍もないだろう――故意ではないとは言え、旅館のモノを破壊してしまったので謝罪をし、一夏が纏めて弁償する事にはなったのだが。

トレーニング後に温泉で汗を流し、『ご飯』、『納豆』、『アジの開き』、『味噌汁』と言った純和風の朝食を済ませた一夏とヴィシュヌは海へと繰り出していた。
まだ海開き前なので海水浴が目的ではなく、一夏とヴィシュヌは釣りにやって来たのだ。
午前中は船で沖に出ての海釣りを、昼食を挟んでの午後はまた別の予定が入っている。


「マグロは流石に無理だろうが、大物を釣り上げたいところだな。」

「ですね。」


一夏はブルージーンズに黒のTシャツの上にライフジャケットを搭載してサングラスと言った出で立ちで、ヴィシュヌは黒のデニムのホットパンツに赤い七分丈のTシャツにライフジャケットだった。
尚、釣り上げた魚は港に戻ってから漁師さんが調理してくれるという『地元の漁師飯』が堪能できるので此れもまた旅先ならでは贅沢と言えるだろう。


「そんじゃあ行きますか!」

「せ~~の!」

「「丼アタック!!」」


船が沖に出ると、一夏とヴィシュヌは謎の掛け声と共に釣り糸を海へテイクオフ!
釣りは忍耐とも言われるので、即当たりが来るなんて事はないので、一夏もヴィシュヌも釣り竿を固定してスマホゲームを楽しみながら地元漁師に伝わる海の伝説なんかを聞いて時間を潰していた。

そして糸を垂らして二十分後。


「ヴィシュヌ、竿引いてる!」

「来ましたか!!」


先ずはヴィシュヌの竿に当たりが来た。
ヴィシュヌは竿を引きながらリールを巻いて喰いついた魚との格闘を開始……強引にリールを巻けば良いと言う訳でなく、喰いついた魚との微妙な力比べをしながら引き上げとリールの巻きを行わねばならないのが釣りの奥深いところだろう。


「此れは、中々の大物ですね……ですが、私の足腰の強さを舐めて貰っては困ります!」


此処でヴィシュヌはムエタイで鍛えた下半身の強さを発揮して、腰を落とすと強靭な足腰の強さにモノを言わせて、リールを巻きながら一気に竿を引き上げる!
そして次の瞬間には獲物が戦場に上がったのだが、ヴィシュヌが釣り上げたのは、体長50㎝は有ろうかと言う立派なカツオだった。
これほどの大物は滅多にお目に掛かれないので、一夏はヴィシュヌがカツオの尻尾を持って吊り下げているさまを写真に収めていた。


そして更に――


「一夏の竿も引いています!」

「来たか!やったるわぁ!!」


一夏の竿にも当たりが!
すぐさま一夏は竿を引いてリールを巻くが、喰いついた相手は相当な大物だったのか、リールを巻くのも簡単ではない……一般人ならば逆に海に引き込まれてしまう引きなのだから苦戦するのは当然と言えるだろう。


「ぐ……コイツは可成りの大物だな?
 だがなぁ、力比べってのは純粋な力だけじゃなくて気合と根性が入ってる奴が最終的には勝つんだぜ……小峠のアニキから学んだ気合と根性舐めんじゃねぇぞゴルァ!!」


だが一夏は此処で腹に思いきり力を入れると、腰を落とし竿が動かないように固定すると、喰いついた魚の力が緩んだ僅かな隙にリールを一気に巻いて魚を海中から引き摺り出そうとする――が、喰いついた相手もなんとか逃れようと海中で暴れているのか中々海面まで上がってこない。
そうして格闘する事二十分、遂に一夏の釣り竿に喰いついた魚の姿が海面まで上がってきて其の正体が明らかになった。


「これは、カジキマグロですか?」

「角入れて2mってところか……中型のマカジキだな。
 だがメーター越えとなれば相当な大物だ……そしてコイツでフィニッシュじゃあ!!」


それは全長およそ2mのマカジキだった。
因みにマカジキの身はマグロの王様であるクロマグロと同じくらいに美味なのだが、クロマグロと比べると安価なので回転寿司屋によってはこのマカジキを『マグロ』として提供している場合もある位だ。

それはさて置き、一夏は『これで終わりだ』とばかりに一気にリールを巻きながら釣り竿を力任せにぶっこ抜き、盛大な水しぶきと共にマカジキが海面上に引き上げられ船上に舞い、落ちて来た所を一夏が尻尾の根元を掴んでキャッチしてブイサイン。


「獲ったぞ~~~~!!!」

「お見事です♪」


そして今度はヴィシュヌがマカジキを片手にブイサインをした一夏を己のスマホで撮影していた。
其の後も一夏とヴィシュヌは色々な魚を釣り上げたのだが、いずれも卵持ちのメスや小さな個体だったのでリリースし、最終的な釣果はヴィシュヌがカツオとマサバ、一夏がマカジキと真鯛だった。
釣り後は港に戻って釣り上げた魚を漁師さんが調理してくれた漁師飯で昼食となった。
全ての魚は一部が刺身となり、マサバは刺身にならなかった部分が塩焼きに、カツオの中落ちはなめろうに、マカジキの大トロ部分はレアステーキに、真鯛のアラはあら汁に、マカジキの頭は豪快なカブト焼となり、一夏とヴィシュヌはそれらを全て美味しく頂いた。
流石にマカジキは全て食べ切る事は出来なかったので、残った身は切り身にしてもらい、クール便で明日の十八時以降到着、つまりは明日家に戻った以降に到着するようにクール便で送ったのだった。


海の幸を味わった一夏とヴィシュヌは、午後は地元の動物園に来ていた。
この日は偶然にも園で飼育中のメスのゾウの誕生日で、誕生日の特別な化粧をされたゾウが園内を練り歩くと言う中々豪快なイベントを楽しむ事が出来ていた。


「ゾウの誕生日を祝うですか……タイではゾウは神聖な生き物ですので、この手のイベントはタイの動物園でも行われるべきかもしれませんねぇ。」

「あの巨体だからなぁ、古代の人間が見たら神様と思うのも納得だぜ。」


そのゾウのパレードを見た後は、順路で園内を回って行ったのだが、その最中でゴリラが一夏に対してドラミングを行って威嚇して来て、其れに一夏も同じくドラミングで応え、最終的にはお互いにサムズアップして謎の友情が結ばれたり、ヴィシュヌに求愛してきたチンパンジーを一夏がメンチ切りで撃退していたりしていた。


そうして午後は動物園を満喫して旅館に戻って来た一夏とヴィシュヌは部屋に併設されている温泉に入る事にして、今日は一夏が先に入ったのだが……


「し、失礼します///

「ヴィ、ヴィシュヌ!?///


其処にまさかのヴィシュヌ襲来!
ヴィシュヌの均整の取れた褐色のダイナマイトボディに、バスタオル一枚の破壊力はソウルエナジーマックスのオベリスク状態であり、並の野郎だったら即理性が焼き切れてヴィシュヌにルパンダイブするところなのだろうが、一夏は天羽組で鍛えられた鋼の精神力でなんとか耐えていた。


「な、なんで入ってきてんだよ?」

「折角のカップル部屋なので、一緒に入っても良いかなと……一夏は嫌ですか?」

「嫌な訳ないだろ……ぶっちゃけると俺だって本音を言えばヴィシュヌと一緒に入りたかったよ……だけど恥ずかしくて言えなかった――ったく、思った以上にヘタレかもな俺は。」

「紳士であると言いませんか?」

「成程、其れは確かに良い言い方かも知れないな。」


互いに気恥ずかしさはあったモノの、それも最初だけで其の後は一緒に温泉に浸かり、互いに背中を流し合い、先に一夏が上がり、其の後にヴィシュヌが上がって本当の意味で裸の付き合いになる事はなかった。

と、此処で終われば綺麗だったのだろうが、温泉後の夕食に最大のトラップが仕込まれていた。
二日目の夕食は『カップル限定コース』であり、先ずは刺身の三点盛り、唐揚げ、鍋だったのだが、刺身三点盛りはスッポンの身と肝臓と腸の刺身で、唐揚げはぶつ切りにしたスッポンの首と足を使ったモノで、鍋に関してはスッポンのあらゆる部位を使ったモノであり、精力アップ300%とも言えるモノだったのだ。

そして其れだけ精力アップされた十代中盤の一夏とヴィシュヌが果たしてそれに抗う事が出来るか?……答えは否である。


「はぁ、はぁ……一夏……身体が火照って……其れ以上に身体が疼いてしまっています……その、はしたないとは思いますが、したい、です。」

「……実は俺もなんだよなぁ……スッポンの精力増強効果恐るべしだな……だけど、優しくできる自信がない……其れでも良いかヴィシュヌ?」

「貴方の全てを私に下さい。」

「……了解した。」


そしてこの夜、一夏とヴィシュヌは最後の壁を突破して結ばれた。
互いに初めてだったのもあり少しぎこちなかったが、夜が深くなるにつれ互いに求めあい、そして深く愛し合ったのだった。


因みに……


「束、お前何処まで見ていた?」

「ほぼ全部♪」

「そうか……遊びは終わりだ!」

「へ?ちょっと待ってクーちゃん、それは!!」

「泣け!叫べ!そして、朽ち果てろぉぉ!!馬鹿め!楽には死ねんぞぉ!ここまでだ!!」

「八稚女の後は必ず採華!!」


束のラボではデバガメしていた束にリインフォース・クロニクルが八稚女→採華のコンボを極めて見事にKOしていたのだった。









 To Be Continued