織斑一夏――其の名は世界でも有名である。
姉の織斑千冬はISバトルの世界大会『モンドグロッソ』の第一回大会に出場し、決勝戦を含めた全ての試合を十秒以内、しかも一撃で決着させた『世界最強のブリュンヒルデ』であるが、一夏の名が有名なのは千冬の名声とは関係ない。

IS――インフィニットストラトスとは自他共に認める稀代の大天才にして天災で史上最強の奇人変人である『篠ノ之束』が開発した宇宙進出の為のパワードスーツであるが、ISには『女性しか扱えない』と言う致命的な欠陥が存在していた。
更にISには現行のあらゆる兵器――其れこそ核ミサイルをも上回る力を有していたのでISが軍事転用されれば世界の軍事バランスは大きく崩れ、更に女性しか扱えないと言う性質から『女尊男卑』の思考が世界的に広まる危険性もあったのだが、そうはならなかった。
ISの軍事転用に関しては、束が事前に『ISバトルみたいなエンタメ競技に使われる武器はOKだけど、戦争の為の兵器の搭載はNG』と設定した事で、ISは其の圧倒的な性能を軍事力として使う事が出来なくなっていたのだ。
そしてもう一つ、女尊男卑の世界にならなかったのは、其れは一夏の功績が大きい。
束からISの致命的な欠陥を聞いた一夏は『だったら仮想空間だけでも男がIS使えるようになれば良いんじゃね?』と言って、既に開発されていた電脳ダイブを用いたオンラインゲームの開発を束に提案し、其れを聞いた束が『それはいいね!』と言って開発した『インフィニットストラトス エクストリームVS』、通称『ISEXVS』は世界的な大ヒットとなり、各国の国家代表や代表候補生がシミュレーターとして使用するまでになっていたのだ。
無論其れであっても、ごく僅かであるモノの『女尊男卑』の思考を持った者達が居るのも事実であり、カルト教団的な組織も存在しているのが現実ではあるが――因みに一夏は中学時代に男尊女卑思考で男子を差別していた教師を何人か『懲戒処分(物理)』させていたりする。

そして一夏が世界的に有名なのも、この『ISEXVS』が理由だ。
ISEXVSを世に発表するに先駆け、束は運営会社を設立したのだが、束は自分は社長と言うガラではない事を理解していたので、中学に進学したばかりの当時13歳の一夏に『社長やってみない?』と持ち掛けたのだ。

普通なら断るところだろうが、一夏は『中学に上がったらバイトするか』と考えていた事もあったので束の提案は渡りに船と言えたので、『俺で良ければやります』と答えて、若干13歳で束が立ち上げたISEXVSの運営会社である『株式会社ラビットカンパニー』の社長となった。
若干十三歳の少年に会社経営が出来るのかとも思うだろうが、一夏は束から話を貰ったその日から経済学を徹底的に学んでいたので会社運営は順調の一言だった。
更に一夏には既に恋人も存在していた。

それは『ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー』だ。
一夏が中学一年の時にタイから『一年間のホームステイ』でやって来た留学生であり、ホームステイ中のホストが織斑家であった事から一夏と多くの時間を過ごす中で一夏に惹かれて告白し、一夏も其れを受け入れて見事にカップルとなっていた。

この様に一夏は非のうちどこのない完璧超人なのだが―――千冬が参加する第二回『モンドグロッソ』の決勝戦を観戦する為に、双子の妹である円夏と訪れたドイツの地にて、一夏は謎の組織に誘拐されてしまったのだった。









夏と銀河と無限の成層圏 Episode1
『始まり~Episode Zero Strike~』










円夏に『飲み物を買ってくる』と告げた一夏は、自販機前で背後からスタンガン攻撃を喰らって失神し、車に詰め込まれて郊外の廃工場へと連れ込まれていた。
一夏が意識を取り戻すと、十人ほどの人物が『無事に誘拐できたな。』、『ブリュンヒルデが決勝戦を辞退すれば俺達も大儲けだ』と話しており、其れを聞いた一夏は、連中が千冬のモンドグロッソ二連覇を阻止する為に自分を誘拐したのだと理解した。
第一回大会で圧倒的な強さを見せて優勝した千冬だが、タダでさえISの登場によって日本の国際的立場は今やアメリカに次ぐ世界第二位となっているので、そんな世界情勢の中でモンドグロッソで千冬が二連覇を成し遂げとなれば、アメリカは国際的立場を失う事になるかもしれない……故に、自分を誘拐したのはアメリカ政府の過激派がギャングを雇って行ったであろう事は容易に想像出来た。


「俺を誘拐したところで千冬姉の決勝戦出場を止める事なんざ出来ねぇってのに、無駄なお仕事ご苦労さんだぜ……」

「誘拐犯側の俺が言う事でもないが、俺もお前さんと全く同じ意見だ……つか、お前誘拐されてるってのに随分余裕あるじゃねぇの?怖くねぇのか?」

「殴ってぶっ倒せるモノに関しては怖いモノはねぇし、寧ろガチギレした千冬姉や束さん以上に怖いモノが存在してるってんなら是非とも教えてほしい。」

「ゴジラが現実に存在してれば……いや、ブリュンヒルデと天災だと生身でぶっ倒す未来しか見えねぇ……」

「だろ?
 そんでもって、普通なら日本政府が俺が誘拐された事を千冬姉に伝えるところなんだが……そうはならない。理由は二つ、一つは俺一人の命なんかよりも、千冬姉の勝利、ひいては日本の立場向上の方が大事だから。それと…」

「ブリュンヒルデが出張らなくても、天災兎が何とかするってか。」

「そーゆーこと。
 だけど束さんが動くと色々問題になるから、俺としては束さんを動かしたくはないんだけどな。」


誰に言うでもなく呟いた一夏の一言に反応したのは、一夏の傍にいたオレンジのロングヘア―の女性だった。
迷彩柄のボトムズに白のタンクトップ、手にはアサルトライフル、腰にはナックルガード付きのコンバットナイフを装備した如何にも武闘派バリバリと言った感じであり、本来ならば警戒すべき相手なのだが、一夏にはこの女性が敵とは思えなかった。


「そんでお姉さんはアイツ等の仲間なのか?」

「広義の意味では仲間だが……俺はアイツ等に金で雇われた兵隊、つまり傭兵に過ぎねぇ。
 仲間意識なんぞそもそもねぇし、お前みたいなガキを誘拐するってのは気に入らねぇ事此の上ねぇ……仕事を選べねぇってのは傭兵の最も不便な点だよなマジで。」

「傭兵なのか……なら雇い主変更だ。
 更に終身雇用、俺の護衛兼掃除屋になるってのはどうだ?年俸はドジャースの翔平さんには劣るけど此れ位で。」

「此処で俺を雇い直すとかどんだけ肝座ってんだお前……だが、其れも良いかもな。
 金額もそうだが、其の胆力が気に入った!今この時より、俺はお前の剣となってやるぜ織斑一夏!!」


なので一夏は女性に『雇い主変更』を持ち掛け、女性も其れを受け入れた――尤も、女性は一夏が持ちかけた金額なんかよりもこんな状況でも全く慌てる事無く、自分に雇用主変更を言って来た一夏の胆力にこそ惚れたのだが。
因みに一夏のスマホは誘拐犯に没収されているのだが、没収されたのはダミーであり、現在光学モニターを起動させている腕時計こそが本物のマルチ通信機であったりする。


「そんで旦那、俺は如何すればいい?」

「全員戦闘不能に。但し殺さない範囲で……そう言えば、お姉さんの名前は?」

「オータムだ。」

「オータム……秋か。
 そんじゃ、頼むぜ秋姉!!」

「へっ!悪くねぇなその呼び方は!!」


其処からはあっと言う間の出来事だった。
女性――オータムは誘拐犯達の足元にアサルトライフルを放つと、予想外の事態に混乱した誘拐犯達を次から次へと一撃で戦闘不能にして行った。


「貴様、裏切るのか!!」

「裏切る?ちょっと違うな……見限ったんだよ!
 テメェ等と仕事しても俺には一文の特にもなりゃしねぇって事が分かったからな…そんな訳で、其処で伸びてろ!!」

「ぺぎゃぁ!!!」


最後の一人の頭を掴んでそのまま地面に叩き付ければ、相手は断末魔の如き悲鳴を上げて、そしてピクリとも動かなくなった。
そしてその数分後に千冬と円夏が現場に到着し、一夏が無事だった事に安堵し、オータムの事も一夏からの説明を受けて納得してはいた……千冬に睨まれたオータムは『人生で初めて戦う前に逃げたいと思った』とかなんとか。


「つー訳で、俺亡国機業抜けるわスコール。」

『待ちなさいオータム!貴女組織を裏切る心算!?』

「裏切るも何も、俺は元々亡国機業に忠誠を誓ってる訳じゃねぇからな。
 ま、お前がどんな選択をするかは分からないけど、精々虎と兎を怒らせないようにするこった……そんじゃな~~!アディオ~ス!!」

『オータム!オータム!?』

《たった今よりこの電話は使われておりません♪》

『オータムゥ……!!』


オータムは上役のスコールに電話一本で亡国機業を抜ける事を告げると、直後に束がオータムのスマホの電話番号とメールアドレスを外部から改変して亡国機業とは一切の連絡が取れないようにしてしまった。
そしてオータムとの連絡手段を失ったスコールは憎悪が籠った視線を自身のスマホに向け、次の瞬間にはスマホを握り潰していた。
オータムとスコールは同性の恋人同士であり、互いに愛し合っていたのだが、愛するが故に愛が反転した際の憎しみも一際大きかったと言う事なのだろう多分。

その後オータムは正式に一夏専属の護衛兼掃除屋となり、一夏の身辺警護を完璧に行いつつ、一夏からの依頼があれば世界各国にある『違法な研究施設』に出向いてその施設を壊滅させていき、何時しかオータムは裏社会で『蜘蛛の死神』として恐れられるようになったのだった。
因みに一夏の誘拐に関しては、束が『アメリカ政府の過激派が亡国機業と結託して行った事』が暴かれ、其れをアメリカ大統領に送りつけた結果、黒幕である政治家達は議会の全会一致で議員資格剥奪が決定され、更に『国家反逆罪』で訴えられ、裁判の結果全員に『懲役百二十年』が言い渡されたのであった。

そんなこんなで時は過ぎ、一夏と円夏は中学三年生になり、高校受験を迎えようとしていた。








――――――








中学三年の三学期。
多くの中学三年生が高校受験を終えたこの時期に、世界に一つの爆弾が投下された――私立も公立も試験が終わったタイミングで一夏が全世界に向けて自分が『ISを操縦できる男性』である事を発表したのだ。
一夏がISを起動出来る事は随分と前から分かっていたのだが、あまりに早い段階で其れを公表すると一夏の身柄を力尽くで確保しようとしてくる輩が現れると考えて、高校受験のタイミングで明らかにしたのだ。

双子の妹であるマドカは十三歳で日本の国家代表候補生に就任し、専用機も持っているので中学卒業後はIS学園に進学する事が決まっていたのだが今回の発表により一夏もIS学園に進学する事になったのだった。

それとは別に、一夏が『世界初の男性IS操縦者』となった事で、織斑家には連日多くの報道陣が詰めかけていたのだ、一夏の護衛を務めていたオータムが押しかけた報道陣のカメラマンのカメラを奪い取って片手で握り潰し、泣く子は更に大泣き確定の凄惨な笑みを浮かべて『此のガラクタと同じになっても良いって奴だけ此の場に残れや』と告げると報道陣達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行き、結果として一夏は穏やかな日常を過ごす事が出来ていた。


「スマンな更識。」

「お気になさらずに織斑先生。此れも生徒会長の仕事ですので。」


一方、IS学園では一夏の入学に向けて急ピッチで準備が進められていた。
一夏の実姉である千冬ならば一夏がISを使える事を一夏が公にする前に知っていそうなモノだが、実は千冬や円夏ですら今回の一夏の公表で知ったのでIS学園でも対応が遅れてしまったのだ……一夏がISを使えると知った後に、『先に言え馬鹿者!』と一夏に一発ゴッドハンドクラッシャーしたのは致し方ないと言えるだろう。
男子トイレの増設、男子更衣室の新築等々が行われているのだが、現在千冬がIS学園の生徒会長である『更識楯無』と行っているのは一夏の寮の部屋に関しての事だった。
普通ならば一夏を一人部屋にすべきなのだが、そうした場合今年の新入生の人数的に女子生徒一人にも一人部屋をあてがう必要がある上に、一夏を手に入れる、あるいは接点を得るために入学式以降に転入してくる・送られてくる生徒が居るであろう事を考えると一夏は特例的な一人部屋にするよりも誰かとの同室にする必要があったのだ。
だがそうなると一夏のルームメイトが問題となった。
一夏のルームメイトとなれば、いざと言う時の為に戦う力を持っている必要があり、かつ一夏のストレスとならない人物に限られるのでそれほど多くはないのだが、其れでも作業は難航していた。


「篠ノ之箒ちゃん、凰鈴音ちゃん、凰乱音ちゃんは一夏君の友達だったらしい上に、箒ちゃんは中学時代に剣道の大会で三年連続全国制覇、鈴ちゃんは日本では初となる外国人の日本代表候補生ですし、乱ちゃんも台湾の代表候補生なので一夏君のルームメイトとしては現状では適任だと思うのですがどうでしょう?」

「その三人は確かに新入生の中では特出しているし、一夏もストレスはないだろうが、護衛としては今一つだな……とは言え、現状では此の三人以外に居ないのもまた事実……ん?」

「如何しました織斑先生?」

「いや、コイツもIS学園に入学するのか更識?」

「此れは……ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーちゃんですね。
 タイの国家代表候補で、地元のムエタイのジュニア大会では全大会で優勝をかっさらい、更には四階級制覇も成し遂げている子ですね……と、そう言えば彼女は一夏君の恋人でしたね?」

「それを知っているとは流石は更識と言ったところか。
 確かにヴィシュヌは一夏の恋人であり実力も申し分ないから、一夏の同室は彼女以外に有り得ん……なにせヴィシュヌは、私に攻撃を防御させたのだからな。」

「!!」


中々一夏の同室の相手が決まらない中、千冬は次に手にした新入生の資料を見てその生徒を一夏の同室とすると言った……其れが『ヴィシュヌ』だったのだ。
ヴィシュヌはホームステイを終えて帰国した後にISの適性検査を受け、適性がタイではトップの『A+』だった事でタイの代表候補生になっていたのである。
そして楯無は千冬が言った『私に防御をさせた』と言うセリフに戦慄していた――と言うのも、千冬は現役時代にモンドグロッソを二連覇しているが、二大会を通じて被弾数はゼロ。
此れには千冬の専用機であった『暮桜』の特性も関係しているのだが、其れでも超人的な回避能力を持つ千冬に攻撃を防御させたと言うのは驚く以外のナニモノでもなかったのだ。


「中学の頃、ヴィシュヌはホームステイで日本に来ていてな。
 其のホストとなったのが織斑家で、なんやかんやで一夏とヴィシュヌは交際に至ったのだが……当時の私は愚かにも『一夏の交際相手はそれ相応の実力がないとダメだ』と考えていてな。
 其処でヴィシュヌにスパーリングを申し込んだのだ――とは言っても私からは攻撃しない形だが。」

「そりゃデコピンで人一人をメートル単位で吹っ飛ばせる人が攻撃するのはヤバいですわねぇ……」

「私の本気のデコピンはコンクリートブロックを粉砕する……って、其れはどうでも良いんだ。
 ヴィシュヌの攻撃は鋭かったが腕の攻撃は全て見切る事が出来て回避できた――しかし蹴りに関してはそうは行かなかった。
 腕での攻撃は拳か肘の二択だったのだが、蹴りは変幻自在すぎた……ハイキック一つをとってもそのままハイキックに来るパターン、軌道を変えて踵落としに来るパターン、足を伸ばさずに膝蹴りに来るパターンと三択になっている上に、ヴィシュヌはロー、ミドル、ハイの打ち分けが見事で、更にはヨガで鍛えられた身体の柔軟さが動きに一切無駄を出していなかった。
 そして今のヴィシュヌはあの頃よりも強くなっているだろうからな……彼女以上に一夏の同室として相応しい相手は居ないだろうよ。」

「其処までですか……ですが織斑先生の推薦であれば誰も文句は言わないでしょうから此れにて一件落着ですわね♪」

「だな。
 時に更識、今年はお前の妹もIS学園に入学するのだろう?そちらの方は問題ないのか?」

「……其れについては心配ご無用ですわ織斑先生。
 既に彼女の部屋割りは出来ていますので……何にしても身内がIS学園に入学するとなると立場的にお互い苦労しますわね織斑先生。」

「違いない。」


ヴィシュヌの実力には疑いの余地がないので、一夏の寮での同室相手はヴィシュヌに決まったのだった。
逆に円夏には一人部屋が与えられたのだが、これは新学期後にドイツからやってくる予定の『ドイツの国家代表候補生』との相部屋にする心算だったので問題なしなのである。








――――――








そしてあっと言う間に時は過ぎて新年度。
IS学園に入学する生徒の多くは本土からのモノレールにのってIS学園島まで足を運んでいた――各国の代表候補生の中には専用機で学園島までやって来る者もいたのだが、多くは此のモノレールでやってきているのが現実だ。

そんな中で学園のヘリポートには一機のヘリコプターが着陸していた。
防弾の強化ガラス、100mm装甲で覆われた機体に機体下部に搭載されたガトリングと、両翼に搭載されているミサイルポッドを見ると軍用ヘリに思えるが此のヘリコプターは『株式会社ラピッドカンパニー』のモノであり、言うなれば民間企業のヘリなのだ。
その民間企業のヘリが何故此処までの武装を搭載しているのかと言われればそれは簡単な答え――此のヘリにはラピッドカンパニーの社長である一夏と、その妹である円夏が搭乗していたため、不測の事態に備えて軍用ヘリ最強と言われている米軍の『アパッチ』以上の戦闘力を備えていたのである。


「来たか一夏、円夏。無事に到着したようで何よりだ。」


ヘリポートには千冬をはじめとしたIS学園の教師陣だけではなく、学園の警備を担当する通称『教員部隊』も揃っていた――世界初の男性IS操縦者が学園に来るとなれば此れ位の事は当然と言えるだろう。


「余程の事が無けりゃ無事に着く事は確定だよ千冬姉。」

「兎お手製の此のヘリなら戦闘機のミサイルを受けても外装甲には傷一つ付かんからなぁ……」

「更には俺まで一緒に乗ってんだ、仮に襲われてもなんとかなんだろ?」


ヘリから降りて来たのは一夏と円夏、そしてオータムだ。
ヘリの戦闘力もさる事ながら、オータムは亡国機業時代、『実働部隊最強』とまで言われていたほどの実力者であり、IS学園の教員部隊を一人で圧倒する事も可能……そんなオータムが専用ISを持った状態で一緒にヘリに乗り込んでいたのならば大抵の事は如何にかなるだろう。


「確かにお前が一緒ならば安心出来る……もしもお前が私の現役時代にモンドグロッソに参加していたら私も優勝するのは難しかったと思うからな。」

「天下のブリュンヒルデにそう言って貰えるとは光栄だぜ……とは言え、こうして対峙してみてもアンタに勝てるヴィジョンが全く見えねぇんだけどよ。
 スコール、悪い事言わねぇからマジで組織抜けろって……」

「千冬姉は戦闘力が戦闘民族並みだから地球人類が勝つのは多分無理だ。
 そんで、俺達はこのまま入学式が行われる講堂に行けば良いのか千冬姉?」

「誰が戦闘民族か……否定出来んのが悲しいが。
 あぁ、一夏も円夏も此のまま講堂に向かってくれていい――教員部隊を護衛に付けさせようと思ったのだが、オータムが一緒ならば不要だろう。
 入学式後は初日から授業になるからしっかり準備しておけ。それと学園では織斑先生だ。」

「「了解しました、織斑先生。」」


一夏と円夏はオータムと共に入学式が行われる講堂へと移動して行き、千冬はそんな一夏と円夏を姉として、そして生徒を導く教師として見送っていた。
こうしてIS学園には次々と新入生が到着し、入学式の時間も近付いて来ていた。


「まさか飛び級でIS学園に入学する事になるとはね……だけど、一夏もいるから此れで良かったのかも知れないわ!」


「ったく、IS動かせるとかマジでぶっ飛びすぎでしょアイツ……でも、IS学園でもアイツとバカ出来るってのは悪くないわね!」


「此処がIS学園……嗚呼、世界初の男性IS操縦者と時同じくしてIS学園に入学出来るのはなんという幸運か!
 更に学園にはまだ開花していない愛でるべき花も多くある事だろう……99人の恋人達とは違う、本当の私の恋人がこの学園で見つかるかな?」


「直接会うのは6年ぶりか……会見映像で見た限りでは鍛錬は行っていないようだ……一夏、お前は相変わらず自分には一切妥協しないみたいで安心したぞ。」


「やっとここまで来た……ここで私はお姉ちゃんを超える、絶対に……!!」


中には一夏に対して夫々の思いを抱く新入生も居るだろう。
特に『国家代表候補生』の肩書を持つ生徒には、世界初の男性IS操縦者である一夏と関わりを持つように言われている場合もあるので、下手をすれば各国の代表候補生の間で『一夏争奪戦』が勃発する可能性もあるだろう――尤も当の一夏はヴィシュヌ一筋なので、ハニートラップを仕掛けられても仕掛けて来た相手を速攻で抹殺!滅殺!!瞬獄殺!!するだけなのだ、円夏が。


「一夏……連絡は取り合っていましたが、直接会うのは二年ぶりですね……」


夫々の思いを胸に、IS学園の新たな一年が幕を開けようとしていた。








 To Be Continued