新織斑達の新たな本拠地である国際IS委員会の本部では、タバネが予想外の事態に四苦八苦していた。
突如として受精卵を急速的に成長させるポッドがエラーを起こして使用不能になっただけでなく、黒羽と氷雨を閉じ込めていたポッドにもエラーが発生して卵細胞の無限生成機能が停止しており、量産型織斑の無限生成が行えなくなっていたのだ。
「なんだよ此れ……私でも対処できないウィルスだって?……そんなモノは有り得ない、有ったとしても認めない!!」
その原因は外部から打ち込まれたコンピューターウィルスだった。
此のウィルスは感染すると同時に秒でテラバイトのデータ量を復元不能なレベルで破壊するだけでなく、破壊されたデータを復元しようとしたら即システムダウンを誘発し、更には再起動時にコンピューターを初期化すると言うトンデモナイ代物だったのだ。
正にコンピューターにとっては致死率100%となるウィルスにはタバネでも対応し切れていなかった――感染前に気付く事が出来たら対処も出来たのかも知れないが、感染した後では後の祭りだ。
『存在しても認めないとか、器が小さいねぇ?いや、此処はケツの穴が小さいって言ってやった方が良いかな?』
「誰だ!?」
『誰だだと?誰だと言ったか性悪兎!誰だと言われても答える義理はないんだけど、此処は特別に答えて上げようホトトギス!
私は地球上で発生したビックバン!超新星爆発が人格と身体を得て誕生した存在!地球が自ら生み出したチート無限のバグキャラにして、誰が呼んだか生きる都市伝説!歩く世界の七不思議!あの人毒効かねぇんですけどマジで!
カッ君の敵は私の敵!私の敵は滅殺上等!最強にして最凶の正義のマッドサイエンティスト、篠ノ之束とは私の事さ!』
『そして此のウィルスを作ったのは私……更識簪、よろしく。』
更に此処で束が国際IS委員会の本部の大型モニターをハッキングして、タバネの前に其の姿を簪と共に現した。
「お前は……お前が此の世界の私なのか……ふん、こんなつまらない世界を容認してるとか、トンだ腑抜けだね?世界をもっと面白くしようとか考えないのかよお前は?」
『思わないね。
確かに世界が面白くなってくれた方が良いとは思うけど、だからと言って人様に迷惑をかけてまで世界を面白くする必要はないよ……今の世界だって充分に楽しむ事は出来るんだからね。
私の異次元同位体にも関わらずそんな事も分からないなんてのは呆れてモノも言えないよ。
まぁ、お前が其れを理解する必要はないけどね……十分後、私はお前を殺す為に其処に行く……逃げるか、それとも私と一戦交えるか、好きな方を選択すると良い――尤も、逃げたところで逃げ切る事は出来ねーだろうけどさ。
ま、私だったら逃げないけどね絶対に。』
不遜な態度のタバネに対し、束は殺害予告をすると、其処でモニターが砂嵐になり通信は遮断された。
だが、実はこれすらも束と簪で考えた作戦であり、敢えて殺害予告をする事で、タバネが逆に逃げないと踏んでの事だった――特に束は自分が同じ状況になったら絶対に逃げないと自信満々に言った事も大きかっただろう。
「さてと、そんじゃあ私じゃない私を滅殺しに行きまっしょい!かんちゃん、弾丸の貯蔵は充分かい?」
「コスモソニックのエネルギー残量は充分だし、ミサイル其の他も残弾は充分だから問題ない……束さんとは似ても似つかないパラレル世界の存在、絶対にやっつける!」
「絶対滅殺でね♪」
簪がコンソールを操作してコスモソニックのエネルギー残量其の他諸々を確認するとエンジンを全開にして、一路国際IS委員会の本部に向かうのだった。
夏の月が進む世界 Episode107
『全ての決着~Genius vs. Natural Disaster~』
束と簪が国際IS委員会の本部に向かっていた頃、夏月組と新織斑達との戦いも佳境に入っていた――圧倒的な実力差で叩きのめされた新織斑達だったのだが、土壇場で超強化状態の『ハイパーモード』が発動して、改めて夏月達と対峙していたのだった。
「以前は暴走状態での使用だったが、今は此の強化状態を理性を保って使用する事が出来る……暴走状態の俺達に勝てなかったお前達が、この力を完全に使いこなしている俺達に勝てるかな?」
「随分と自信があるようだけれど、私達とてアレから更に修練を積んであの時とは比べ物にならない程に腕を上げていてね?
もっと言うのならばあの時は夏月とタテナシが居なかった上に、タテナシとダリルの最強合体攻撃も使えない状態だった――トップ2が不在で最強合体攻撃も使えない、チームとしては十全に力を発揮出来ない状態だった。」
「ですが、今回はチームとして十全の力を発揮する事が出来ます……故に、私達が負ける事はありません、絶対に。」
新織斑達の機体はハイパーモードの発動によって溢れ出したエネルギーが禍々しいオーラのように立ち上っているが、夏月組はまるで怯まない。
禍々しさだけならば更識や亡国機業の仕事で相対した裏社会の住人の方が遥かに上なのだから当然だろう……人の皮を被った畜生、鬼、悪魔と比べれば新織斑達の禍々しさなど子供だましだった。
何より、前回ロラン達が負けたのは倒したと思った直後の突然の強化暴走と予想以上の強化に対処が間に合わなかった事、初見であった事が大きいので二度目であれば其の限りではないのだ。
「一度ぶっ倒されてからじゃなきゃ使えない強化なんぞ欠陥品も良いとこだぜ……其れに、逆を言えばその状態でぶっ倒されたら後はねぇって事だろ?
つか、戦場にてセカンドチャンスに頼ってる時点でテメェ等は全員三流以下のゴミクズだな……窮鼠猫を噛むってことわざがあるが、追い詰められた鼠が猫に噛み付いたところで、最終的には猫に噛み殺されて喰われるのがオチだ。」
「追い詰められて反撃しても、圧倒的な力量差の前には戦局を覆す事は出来ないのよ……」
「其れでも勝てると思うのならば全力で掛かって来い……せめてもの情けとして、姉が引導を渡してやろう。」
「ほざくなぁ!!」
「勝つのは新世代の織斑である私達だ……旧作は消え去れ!!」
新織斑達が飛び出すと同時に、多数の無人機が現れた――此れもまたハイパーモード発動後の機能であり、新織斑達の機体はハイパーモードが発動すると攻撃時に本体の戦闘スタイルをコピーした無人機が拡張領域から三機現れるのだ。
単純計算で一気に数が十八体も増加し、本体と合わせてその数二十四体。
対する夏月組は別行動の簪と、完全サポートに回っているファニールを除いて、フォルテ込みで十二人――凡そ倍の数な訳だが、二倍程度の戦力差ならば全然問題ではない。
「この期に及んで数頼みかよ……雑魚が何匹集まったところで、オレ達の敵じゃねぇって言ってんだろうがぁ!うおぉぉぉりゃぁあ!燃えろぉ!!」
ダリルがイグニッションブーストで無人機に一瞬で肉薄すると、鋭い肘打ちを喰らわせてから首元を掴んで絞首吊り状態にし、超高温の炎を掴んでいる手に発生させ爆発させる。
無人機とは言えISである以上は絶対防御があるのだが、夏月達は競技用のリミッターを解除しているので絶対防御を貫通させて致命傷を与える事が可能になっており、ダリルの攻撃を喰らった無人機は此の一撃でスクラップとなってしまったのだ。
「ヴィシュヌ、行っくよ~~!」
「合わせますよグリフィン。」
グリフィンが無人機を投げ飛ばし、ヴィシュヌが無人機を蹴り飛ばして無人機同士をぶつけ合わせると、其処にグリフィンのウェスタンラリアットとヴィシュヌのイナズマレッグラリアットが突き刺さり、変則式のクロスボンバーで無人機を破壊。
「数合わせの雑魚共に付き合ってやる道理はねぇ……此れで消えちまいな。」
更に夏月がイグニッションブーストと空烈断を合わせた、瞬間移動中速居合いを繰り出して無人機を全て破壊してしまった――ハイパーモードの新織斑達の戦いを模しているとは言え、所詮はコピーに過ぎなかったようだ。
「雑魚は蹴散らした……残るのはお前等だけだな!」
無人機を全て破壊した夏月達は、改めて新織斑達との戦闘となったのだが、数の差が逆転した事もあり、其の戦いは一方的なモノとなっていた。
新織斑達が六人なのに対し、夏月組は十二人なので、新織斑達は単純計算で一人で二人を相手にしなくてはならないのだが、一対二と言う状況だけでも不利な上に、新織斑達は地力で夏月組に圧倒的に劣っていたので真面な戦闘になる筈もなく、あっと言う間にシールドエネルギーがレッドゾーンに突入していたのだった。
「ロラン達が負けちまったハイパーモードとやらがドンだけのモノかと思ったんだが、所詮は此の程度か……ロラン達が負けたのは初見だったからって事なんだろうな。」
「ぐ……そんな、馬鹿な……!」
更に夏月組は常にツーマンセルのコンビが瞬時に入れ替わる事で戦術のバリエーションを増やし、新織斑達に対応する暇すら与えなかった。
共に戦っていたパートナーが突然変わったら普通はコンビネーションに支障が出そうなモノだが、裏社会の鉄火場では戦闘中にパートナーが入れ替わる事など日常茶飯事だったので、夏月達は問題なくコンビネーションを継続出来るのだ。
一人に付き十一通りのタッグパターンがあり、其れが十二組存在している時点で既に百三十二パターンの戦術が存在しているのだが、夏月達は互いに武器の交換をして戦う事も出来るため、其れ等も加えたら戦術パターンは更に多くなり、乱の他のISのワンオフアビリティをコピーするワンオフアビリティを使ったら果たしてどれだけの戦術が存在するのかすら分からないだろう。
瞬時に入れ替わる目の前の相手、対処し切れない圧倒的な戦術の数々、そして何よりも新織斑達にとって認め難かったのは、夏月とマドカ以外の存在に圧倒されているという事実だった。
織斑計画で生み出された存在と交わった者は、特に女性の場合は其の身に織斑の遺伝子を取り込む事で強化されると言う事は知っていたが、其れを加味しても織斑を超える事は出来ない筈だった――織斑を超える存在の誕生は、織斑を使う側の手に余る可能性があるからだ。
「何故だ……ドレだけ兄さんと交わろうとも織斑を超える事は出来ない筈だ……それなのに何故……!」
「あらあら、何か勘違いをしているようね?
確かに私達は何度も夏月君と夜を共にしたけれど、私達の中の誰一人として夏月君の事は超えていないわ……私がギリギリ夏月君と同等と言ったところかしらね?
超える事が出来ないのは恐らくは交わった相手だけ……そして超える事は出来なくても同等にまでなら行く事が出来るのよ――つまり、貴方達よりも圧倒的に強い夏月君に何度も抱かれた私達は、夏月君を超える事は出来なくても同等レベルクラスにはなっているから貴方達に負ける要素はどこにもないの……まぁ、私達に貴方達が勝てない理由は其れだけじゃないけれどね。」
「君達に足りないモノ、其れは『愛』だ!
夏月は私達に無償の愛を与えてくれるが、私達もまた夏月に愛を与えている……互いに愛し愛される関係だからこそ私達はどこまでも強くなる事が出来るのさ。
日本のコミックに『愛ゆえに人は苦しむ』と言うセリフがあるらしいが、私は其れを否定しよう!『愛ゆえに人は万感の幸福を感じ無限に強くなれる』と言うのが真理さ!
嗚呼、私を含めこれだけの女性を虜にしてしまった君はきっと罪深い男性なのだろう夏月……だが、自然界の摂理に従うのならば、雌は強く優秀な雄を欲するモノだからね?……此れは正常な事であると言えるのだろうね。
愛なき力はドレだけ大きかろうとも所詮は限界まで膨らませた風船に過ぎない……破けたら一気にゼロになってお終いさ。」
「ほざくなぁ!!」
「甘いね。」
突っ込んで来た一春をロランは轟龍の横薙ぎで吹き飛ばす。
ロランは峰うちではなく、ハルバートである轟龍の斧の部分で攻撃したので絶対防御が発動して一春は此処で戦闘不能となり、それに続いて新織斑達は次々と戦闘不能になって行ったのだが――
「「「「「「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」
機体が強制解除されて戦闘不能になった新織斑達は獣のような咆哮を上げると、直後に筋肉が盛り上がって身体が巨大化して行った――それに合わせて骨も肥大化して行ったのだが、皮膚は其れに追い付かずに裂け、結果として異形の巨人が誕生した。
「皮膚が裂けて筋肉が見えてるって、進撃の巨人かよ。」
「簪が居たら喜んだかもしれませんが……巨大化は死亡フラグです。そうでしょう、夏月?」
「だな……終わらせるぜ、此れでな!!」
新織斑達の異形化はタバネが仕込んでいたプログラムによるものであり、異形化した新織斑達は其の能力が大きく引き上げられたのだが、それでも夏月達の敵ではなかった。
巨大化した事で大きく攻撃範囲が広がったのは当然の事であり、腕の一振りで一都市を壊滅させる事も出来るのだが、巨大が故に攻撃モーションが大きく、其の攻撃が夏月達を捉える事はなかった。
「まさか此処までのモノを用意してたとはな……だが、此の程度で俺達に勝てると思ったのがそもそもの間違いだぜ……此れで終わりにするぜ!
楯無!ダリル!!」
「言われずとも、既に準備は出来ているわ!」
「絶対零度のブリザードと、灼熱のマグマが生み出す最強攻撃の前に消えちまいな!此れがオレ達の全力全壊ってな!喰らいやがれ!!」
「此れが氷と炎が織りなす最強の二重奏!メドローア!!」
此処で夏月組は切り札を切り、楯無とダリルが氷と炎の対消滅攻撃であるメドローアをぶっぱなし、其の射線上に居た新織斑達は跡形もなく消滅してしまったのだ。
射線上から外れていた新織斑達も身体の一部が消滅し、特に腹部を抉られた個体は完全に致命傷だろう。
「巨体には其れに見合う頑丈さがあるってるろ剣の比子清十郎が言ってたが、マジで頑丈だな……つってもギリギリだけどよ。
これで本当のフィナーレだ……精々閻魔がどんな裁きを下すのかを楽しみにしてろ――ま、俺達も地獄行きは間違いねぇから、地獄で再会した其の時はよろしくな。」
「さぁ、最大のフィナーレよ!」
ギリギリで生き残った新織斑達に対し、夏月は空断裂とイグニッションブーストを使った居合いを組み合わせた『夏月式九頭竜閃』を発動し、更に楯無が夏月の分身を作り出して新織斑達にぶつける。
予測不能な居合いに、夏月の動きをトレースする分身が加わった事で生き残った新織斑達は対処し切れずにその斬撃を真面に喰らって細切れにされた後に鈴と乱のプラズマ龍砲で跡形もなく消し去られたのだった。
「新型なら旧式に勝てると思ったのがそもそもの間違いだったな……確かに俺はお前等と比べれば旧式だろうが、お前等とは戦いに於ける年季が段違いなんでな……負ける気がしなかったぜ。」
「と言ってももう聞こえてないでしょうけどね♪」
新織斑達を撃破後、夏月達は国際IS委員会の本部に向かい、そして其処でポッドに入って新織斑達の製造機となっていた氷雨と黒羽をポッドを破壊して救出し、機能停止に陥った成長促進機も破壊していたのだった。
もうこの時点で此度の戦いは夏月組に軍配が上がると言えるだろう――だが、戦いは此れでは終わらない。
「呼ばれなくても勝手にやって来る、それが束さんクオリティ!突っ込めカンちゃん!!」
「合点承知の助……思い切り突っ込む!」
束と簪の乗るコスモソニックが国際IS委員会の本部ビルに突撃吶喊!
巨大なビルに戦闘艇が突き刺さっている様は中々にシュールだが、国際IS委員会の本部ビルは嘗てのアメリカの同時多発テロを教訓にして作られていたためコスモソニックが突っ込んでも崩壊する事はなかった。
「クソ、何なんだよアイツ等……織斑計画で誕生した奴等も役に立たなかった……此処はもう捨てるしかないみたいだね――だけど、私は必ず再起してやる!この世界をぶっ壊して私が望む世界にするんだ!」
「世界を自分の思うように出来るんならとっくに私がやってるっての……世界を自分の望むようにするとか神にでもなった心算かよお前。」
タバネは此の場から一旦逃げて再起を図ろうとしていたが、それを許す束ではない。
グレネードランチャーを装備した簪と共にタバネの前に其の姿を現した――束はクロスボウハンドガンを持ってきているようだ。
「私の異次元同位体でありながら逃げの一手を選ぶとは情けないね?
異次元同位体とは言え私なら逃げる事はしないんじゃないかって思ったんだけど、如何やらそれは見当違いだったみたいだ……負けた時に潔く散る覚悟もないなら悪事に手を貸すなよ。」
束はゴミを見るような視線をタバネに向けると手にしたクロスボウハンドガンを構える。
「そんなモノで私を殺せると思ってんの?例え矢に毒が塗ってあっても、私には毒は効かねーんだよ!」
「知ってるよ。
だけど生憎これは毒じゃない……束さんが開発した、最強にして最悪の生物を絶対に殺す代物さ!」
言うが早いか束はウェスタン映画のガンマンもビックリの早撃ちでタバネにクロスボウハンドガンを放つ――其の矢は見事にタバネの左胸に突き刺さったのだが、豊満な胸のおかげで心臓にまでは矢が届かなかったようだ。
「なんだよ、こんなモノ……って、あれ?私の腕ってこんな色してたっけか?」
致命傷には至らなかったタバネだが、此処で自分の体に異常が起きている事に気が付いた。
矢を抜こうとした腕が鈍色に変化しており、鈍い金属光沢を放っていたのだから異常を感じない方がオカシイと言えるだろう。
「矢を避けなかったのがお前の敗因だよクソ兎。
其の矢には、私が開発した『タンパク質を鋼鉄化させるバクテリア』が塗ってあったんだよねぇ……だから、この矢を喰らった――否、掠っただけでも相手を無機物化しちまうんだよ。
生きながらに鋼鉄の像になるってのは滅多に経験出来るモノじゃないから精々楽しむと良いさ。」
「な、なんだよ其れ……生物は一部を除いてタンパク質の塊なんだ……そんなモノを喰らったら絶対に助からないじゃないか……太古に送られたならまだ生き延びる事が出来たけど、全身が鋼鉄化するなんて、そんな事になったら……!!」
「100%タンパク質の筋肉で構成されてる心臓も鋼鉄化して動かなくなるから死ぬ……仮に心臓だけ動いていたとしても全身が鋼鉄化して動く事も出来なくなるからそうなれば永遠に死ぬ事も出来ない存在になり果てるだけの事。」
束が放ったボウガンの矢には束が開発した『タンパク質を鋼鉄化させるバクテリア』が塗布されており、この矢は掠っただけでも生物にとっては必殺となる代物だったのだ。
束が開発したバクテリアの増殖速度は一秒間に細胞分裂で一個から百個に増えると言う凄まじいモノであり、その増殖能力を持ってしてあっと言う間に生物を鋼鉄の彫像に変える事が出来るのである。
「そ、そんな……太古の世界で眠りに就いて、今の世界に復活したのに、此処で、こんなところで終わるのか私は……そんな事が認められるかぁぁ!!」
「お前が認められなくても終わりなんだよ……私を敵に回した時点で、お前は詰んでたんだよクソ兎。」
タバネはあっと言う間に鋼の彫像と化して動く事が出来なくなってしまった。
「金属に最も効果があるのは硫酸弾……此れで終わり!」
金属の彫像と化したタバネに、簪がグレネードランチャーで硫酸弾をぶっ放す――此の硫酸弾は束が開発したモノなので通常の硫酸の凡そ五十倍の溶解力がある『束製濃縮硫酸』だ。
王水の更に二十倍の溶解力がある束特製硫酸に溶かせないモノは地球上には存在しないので、鋼鉄化したタバネは見事にドロドロの液体に溶け切ってしまったのだった。
「普通ならこれで死んだと思うんだけど、此の溶解して出来た液体が集まって復活したりしないかな?」
「T-1000型ターミネーターじゃないんだから流石に其れは無いと思うんだけど……万が一って事もあるから、火炎弾で焼き払っとくか。」
「焼き払った際に発生した煙が集まって復活しない?」
「魔人ブウか!私にだってそんな事出来ないんだから、私未満のアレにはそんな芸当不可能っしょ?」
「其れもそっか。それじゃあこれで本当に終わり。アディオス。」
更に其の液体を簪がグレネードランチャーの火炎弾で焼き払って完全に消滅させる……太古の時代から現代まで生き永らえた傍迷惑な天災は此の世から永遠に消え去ったのだ。
『束さん、黒羽さんと氷雨さん救出したけど今何処?つか、すげー音したんだけど何?』
「お~、救出したかいカッ君や!私とかんちゃんは……えっと、建物の結構上の方だね?すげー音の正体はコスモソニックで建物に突っ込んだから♪」
『あら、惚れ惚れする大胆さ♪流石は束さんね?簪ちゃんもノリノリで突撃したんでしょうね♪』
「お姉ちゃん……うん、ノリノリだった。』
此処で夏月達から通信が入り、合流後一行は現場を離脱。
氷雨と黒羽の両名は直ちにコスモソニック内に束が作った治療用のメディカルマシーンに入れての治療が行われると同時に、束が二人の脳の状態を解析して新織斑達に拉致されてからの記憶を消去し、それ以前の記憶から崩壊してしまった精神と人格の再構築を行っていた。
「やれる事は全部やった。復活できるかどうかは彼女達次第だね。」
「なら、学園に戻ったら伊織さん呼ばねぇとな……この二人のライバルの伊織さんが声かけ続けてくれれば復活する確率は大幅に上がるだろうからな。」
「好敵手の言葉が奇跡の復活を成し遂げる……嗚呼、なんとも劇的でロマンチックだね。」
黒羽と氷雨の復活が成るかは不透明ではあるが、取り敢えず此れにて新織斑達とタバネの野望は全て潰え、世界が混乱に陥る事は回避された――とは言え、国際IS委員会の本部が壊滅状態になったのは事実であり、束が全世界一斉同時電波ジャックで新織斑達の撃破を伝えた後に、各国のIS委員会支部同士でオンライン会議が行われ、新たな本部の駐屯委員の選出、本部再建の費用負担等が話し合われたのであった。
「アタシ達の介入は必要なかったな……まぁ、アイツ等ならば負ける事はないと思っていたけれどね――奴が生き延びていた事には驚いたが、今度こそお終いだ。
此の世界はもう大丈夫だ……さて、次はどこに行く?」
「そうねぇ……いっそ宇宙の外に行ってみましょうか?ビッグバンで宇宙が誕生したと言うのなら、広大な宇宙を内包しているモノがある筈ですもの。」
「ふ、其れも面白そうだな。」
一連の事を遥か彼方から見守っていた二人の女性は、夏月達の勝利を見届けると夫々がフルスキンのISを纏い、誰に知られる事も無く地球を後にした。
事件後、今回の一件を重く見た国連は新たに『デザイナーズベイビー規制法』を制定し、人工授精、体外受精、受精卵の遺伝子操作を行う際の規定を設け織斑が二度と誕生しないようにしたのであった。
To Be Continued 
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