ミーアを餌にしてのラクス抹殺は失敗に終わり、其れに参加したスナイパーも全員が死亡すると言うアベンジャーズにとっては決して小さくない損害が出たラクス抹殺計画だったのだが、計画失敗の報を聞いてもマドカは其れほど気にはしていなかった。
「イチカ達が出て来たのならば傭兵崩れの狙撃手では相手にならんだろうさ。
寧ろ奴等程度に苦戦して貰っては困る……私が殺すべき相手は絶対的な強者であればこそ意味があるのだからな。」
「だが、奴を通じて此方の情報が向こうに漏れる可能性があるぞ?」
「漏れたところで問題はない。
レクイエムの二号機と中継点はミラージュコロイドステルスで隠されているから第一波が放たれるまでは存在を知られる事はない……ミーア・キャンベルはレクイエム二号機の正確な場所を把握している訳でもないからな。」
「レクイエムの第一波を放てば奴等との全面対決になる訳だが……キラとイチカになれなかった者達の機体は?」
「そちらに関しても問題ない。
ジブリールが残してくれたのはレクイエムの二号機だけでなく、レクイエムを操作するための基地もあったのだが、其処に多数の105ダガーとウィンダムが配備されていたのでな、其れを魔改造した機体を用意したさ。」
「コズミックイラ屈指のモビルスーツと言われているストライクの系譜の機体ならば性能面では問題ないか。」
ラクスの抹殺が完遂できれば勿論良かったのだろうが、ラクスの抹殺がなされようとなされまいとレクイエムと言う最悪の兵器がある以上は地球もプラントも攻撃可能な状況であり、更にイチカとキラの成りそこないには連合の量産機である105ダガーとウィンダムを改造したモビルスーツをあてがって全体的な戦力の底上げも行っていたのだ。
「更に、前大戦でパトリックが使用した大量破壊兵器の残骸も回収してレストアしてある……今は隠してあるが、遠隔操作できるように改造してあるのでモビルスーツを操縦しながらでも起動する事は可能だ。」
「世界を滅ぼしかねない超兵器の揃い踏みか……正に世界の存亡をかけた戦いになると言う訳か――其れは良いが、身体の方は大丈夫なのかマドカ?」
「大丈夫ではない。
普通ならば動く事も出来ないと衛生兵に言われたが、生憎と私は普通ではないのでな……この痛みも苦しみも糧として成長する事が出来る上、こうして普通に動く事が出来ている。
イチカを、奴を殺すまで私は死なん……だからこそ他の誰にも渡さん――奴が私以外の誰かに殺される事などあってはならないからな!!」
「中々に複雑だなお前の気持ちは……だが、その気持ちは分からんでもない……キラ・ヤマト、そしてイチカ・オリムラ――奴等の存在だけは認める訳には行かないからな。」
更にアベンジャーズは前大戦でパトリックが使用した最強最悪の破壊兵器『ジェネシス』をも再建していた。
レクイエムとジェネシス、核と合わせて『世界三大破壊兵器』の内、二つを有したアベンジャーズは、ロゴスよりも危険な存在と言っても言い過ぎと言う事はないだろう。
そしてアベンジャーズは月の裏側に陣取り、レクイエムのエネルギーが充填するのを待つのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE94
『新たな世界~Ouvertüre zu einer neuen Welt~』
ミーアを無事に救出した後、デュランダルはアークエンジェル――と言うよりもラクスにターミナル専用の端末からメッセージを送っていた。
其のメッセージの内容は、『兵士を労う為のバーベキューパーティを開催するので是非参加してほしい』と言うモノだった――無論断る理由はないのでオーブの部隊はプラントのパーティ会場を訪れ、疑似青空の下でのバーベキューパーティに参加していた。
「イチカさん、なんですか此の塩の塊?」
「俺式塩固め焼きってところだな……一撃必殺!!」
――バッガァァン!!
「塩の塊の中には骨付きラム肉が塊で入ってましたってやつだ。
更に塩の中にタイム、セージ、ローズマリーにローリエその他香草を細かく刻んで混ぜ込んであるからラム肉独特の臭みも消えてる上に、塩で固めて焼く事で蒸し焼きにされてラム肉の水分が飛ばず、肉も柔らかく仕上がってるぜ。」
「イチカさん、軍人辞めて料理人になっても食って行けるんじゃないですか?」
「世界が平和になったらそれも良いかもな。」
其処の場でイチカが見事な料理の腕前を披露して参加者の舌を満足させていたのだが、此のパーティではアルコール類だけは提供されていなかった。
表向きには集結した此度の戦争だが、まだ無視出来ない最後の敵……マドカ率いるテロリスト集団『アベンジャーズ』が健在であり、現在はその所在が知れないモノの間違いなく何かしらのアクションを起こすだろうと考え、有事に備えてアルコール類だけは提供しないようデュランダルが厳命したのだ。
「そしてみんなの憧れマンガ肉。」
「なんの肉なんですか此れって?」
「牛のもも肉、ブタのもも肉、羊のもも肉、そんでもってダチョウのもも肉だな。」
「ダチョウって食えるんですか!?」
「食える。可食部の70%がもも肉だけどな……って、ダチョウのもも肉を丸ごと行くのかステラ!」
「……とっても美味しい。」
「ふ……美少女が骨付き肉に豪快にかぶりつく様と言うのも悪くないな……実に絵になると、そうは思わないかいカタナ?」
「ロラン……何となく分かるわ。」
「アタシはケバブにはチリソースなんだけどラクスは?」
「私もチリシースですわねぇ……但しスウィートチリではなくホットチリの方が好きですわ。」
「オイオイ、ラクスもフレイもケバブにチリソースとか正気か?ケバブにはヨーグルトソースだろ!」
「そこで俺は敢えて18禁カレーソース(危険)を選択してみる!」
「イチカさん、其れ多分人間が食っていいもんじゃねぇっす!!」
バーベキューパーティは立食式で格式ばったモノでもなく、夫々が好きなように凄し、特設ステージではカラオケが行われたり、デュランダルとキラがチェスでプロ顔負けの勝負を行ったり、イチカとカタナが即興の漫才を行って笑いをとったりと暫し和やかな時間が流れていた。
だが、その時間も唐突に終わりを迎える事になった。
「ぎ、議長!大変です!!」
「如何したのだね?随分と慌てているようだが……」
「た、たった今、地球連合のアラスカ基地が……いえ、アラスカ其の物が攻撃され国が焦土と化しました!!」
「「「「「「!!!!!」」」」」」」
突如として舞い込んできたアラスカ崩壊の報に、パーティ会場の雰囲気は一転して緊張感が漂った。
更に其の直後、パーティを盛り上げる為に特設された巨大モニターが砂嵐となり、そして――
『アラスカへの攻撃は通ったようだな?』
「……マドカ……!!」
砂嵐が止むと、其処にはアベンジャーズの首領であるマドカの姿が映し出されていた。
『我々の名はアベンジャーズ。
此の世界に不満を持った者達によって構成された私設武装組織だ……我々は月の裏側にてロゴスが開発したレクイエムの二号機を発見した――アラスカへの攻撃は所謂性能テストだな。
だが、此れにてレクイエムの威力は証明された……次なる狙いはオーブとプラントなのだが……イチカ・オリムラとキラ・ヤマトの身柄を此方に引き渡すのであればオーブとプラントへの攻撃は行わないと約束しよう。』
其の中でマドカはオーブとプラントへの攻撃を表明したのだが、イチカとキラの身柄を引き渡せば攻撃を行わないと言って来た――オーブとプラントの民の命がイチカとキラの二人を差し出す事で護られるのならば必要な犠牲と割り切る事も出来るだろうし、マドカも其れを狙っていた。
そして、多くの民を護る為の生贄にされた絶望をイチカとキラに味わわせようとしたのだ。
「……賢い選択をするのならばイチカとキラ君を彼女達に差し出すのが正解なのかもしれないが、生憎と私は人の命を数で数えられるほどには冷徹でもないのでね……この要求は断固拒否する。
だからと言って討たれる心算は毛頭ない――彼女からの要求は断固拒否し、徹底抗戦あるのみだ!」
「キラを差し出せとか……良い度胸ですわね?」
「ガキが調子乗ってんじゃないわよ?」
「キラ、ラクスとフレイが殺意って波動ってるんだが……」
「イチカを差し出せですって……笑えない冗談ね……マドカァァァァァァァァァァァァ!!」
「逆にカタナはオロチの血が暴走してるみたいだね……」
「……俺達、愛されてるな。」
「愛されてるね。」
「キラもイチカも愛の感じ方がおかしくないか?」
だが其れはかえってデュランダルやラクスの逆鱗に触れる結果となった。
デュランダルもラクスも戦争に犠牲は付き物だと考えていながらも必要な犠牲を良しとはせず、ましてや命を天秤にかける行為を何よりも嫌っているのでマドカの提案を受け入れる気は毛頭なかったのだ。
そして、其れはオーブに残ったカガリも同様であり、マドカの放送に合わせるようにオーブの代表首長としての会見を全世界に向けて発進してアベンジャーズの要求は拒否する事を表明し、続いてデュランダルとラクスも共同会見を開いてアベンジャーズの要求を拒否する意向を表明したのだった。
アベンジャーズの凶行によりバーベキューパーティは強制終了となり、ザフトとオーブ軍は緊急で出撃準備を行っていた。
プラントの旗艦はミネルバ、オーブの旗艦はアークエンジェルだ。
「こうしてまたアークエンジェルと共に戦えることを光栄に思うわラミアス艦長。」
「同じ志を持つ者同士、全力を尽くしましょうグラディス艦長。」
マリューとタリアはガッチリと握手を交わすと夫々の艦に戻り、出撃命令を下した。
更にラクスが艦長を務めるエターナルも発進し、アベンジャーズに対してプラントとオーブの全勢力が結集した形となった――プラント側からはミネルバ隊だけでなくジュール隊も出撃してるのだから。
「此れが最終決戦……だと良いですね。」
「此れを最終決戦にするのも俺達の仕事だ。
……で、此処で終わらせる為に俺からお前に一言……思い切り暴れろ。理性を捨てて戦闘本能に身を委ねろ……戦闘時のお前は人間じゃねぇ、百獣の王であるライオンと密林の王である虎のハイブリットのライガーだ。
其の爪牙でクソッタレ共の喉笛を引き裂いてやれ――お前は獣神サンダー・ライガーだ!!」
「俺が伝説のライガーですか……なら、その期待には応えてみせますよ!!」
「バッチリ決めてくれよシン!
イチカ・オリムラ。キャリバーン、行くぜ!」
「カタナ・サラシキ。エアリアル、行くわよ!」
「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ。ジャスティス、出る!」
「シン・アスカ。デスティニー、行きます!」
「ルナマリア・ホーク。コアスプレンダー、出るわよ!」
「ステラ・ルーシェ。ガイア、出る!」
「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。セイバー、発進する!」
「ジュール隊、イザーク・ジュール。グフ、出るぞ!!」
「ジュール隊、ディアッカ・エルスマン。ザク、出るぜ。」
「ジュール隊、シホ・ハーネンフース。ザク、発進する。」
そしてプラントとオーブの連合軍は初手から精鋭を出撃させていた――ジュール隊はザクとグフの構成なのだが、一線級の腕前を持つイザークとディアッカとシホならば問題ないだろう。
「よーし、ミーティアリフトオフ!」
更にエターナルから主砲の役割を担っているミーティアがパージされ、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスと合体して、自由の翼と正義の剣は問答無用に最強形態となった。
イチカ達が出撃したのと時を同じくして月の基地からもアベンジャーズの部隊が出撃し、アークエンジェル級の戦艦一隻とナスカ級が五隻、そして魔改造された105ダガーとウィンダム、そしてキメラモビルスーツが多数出撃して来た。
ファラクトテスタメントとレジェンドの姿は無く、マドカとレイはまだ出撃していないようだが、其れでもザフトとオーブの連合軍に負けず劣らずの頭数が揃っているのだから驚くべき事だろう――イチカやキラに鳴り損ねた生き残りに加え、理由は多々あれど此の世界に不満を持っている人間も相当な数存在していると言う事だろう。
「僕達の行く手を阻むと言うなら容赦はしない!」
「オーブもプラントも討たせない!絶対に!!」
「死にたくなければ道を開けろ!」
「悪い子には、おねーさんお仕置きしちゃうわよ?」
其の大群に対してストライクフリーダムとインフィニットジャスティスはミーティアフルバーストを、キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスはエスカッシャンフルバーストを放って一気に五十機以上のモビルスーツを破壊し戦闘不能にする――キラは此処でも不殺だったのだが、全体攻撃レベルのフルバーストで不殺を行えるのはキラだからだろう。
更にブラストシルエットを装備したインパルスも初代フリーダム張りのフルバーストを行って敵機を撃破しザフトとオーブの連合軍(以降『連合軍』と表記)は目標のレクイエムのビーム中継地点『ステーションワン』に着実に迫っていた。
レクイエムの中継地点はミラージュコロイドで隠されていたが、レクイエム使用時にはミラージュコロイドをオフにしなければレクイエムのレーダーにも映らなく中継地点に向けてビームを放つ事が出来ないのでミラージュコロイドをオフにしたため、アラスカを攻撃した時点で場所は割れていたのだ。
ステーションワンを破壊してしまえばレクイエムのビームを曲げる事は出来なくなるので、最優先で破壊すべきなのだが、アベンジャーズも其れは分かっているのでステーションワンを必死で守ろうと攻撃してくる。
「そんなにプラントとオーブを撃ちたいのかよ!ふざ、けるなぁぁぁぁ!!!」
――バシュゥゥゥゥン!!
そんなアベンジャーズに対してシンの怒りが爆発してSEEDが弾け、それに呼応するかのようにデスティニーに光の翼が現れ、アロンダイトを構えるとアベンジャーズの部隊に突撃!
そのままキメラモビルスーツ一機を串刺しにすると、返す刀でもう一機一刀両断し、別の機体にビームブーメランを投擲してダルマにするとアロンダイトで真っ二つに切り裂き、別の一機には体当たりからコックピット部分を掴んでパルマフィオキーナを放って爆殺!
その姿は正に鬼神の如きだ。
「デスティニーの彼、凄いね?」
「シンは強いぜキラ。
アイツは俺やお前を超える逸材だよ。」
デスティニーの猛攻によって道が開かれ、其処をストライクフリーダムとインフィニットジャスティス、キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスが駆け抜けて行き、其れを追おうとした者達はジュール隊がシャットアウトする。
其れによりイチカ達はステーションワンに辿り着き、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスがミーティアの超巨大ビームサーベルで、キャリバーンフリーダムが対艦刀バルムンクで、エアリアルジャスティスがビームライフルにエスカッシャンを合体させた超高出力ビームライフルでステーションワンを攻撃して、ステーションワンはモノの見事に粉砕!玉砕!!大喝采!!!――とは行かずとも、四分割されてその機能を停止したのだった。
此れでプラントとオーブが討たれる事はなくなったが、だからと言って戦闘が終わった訳ではない。
「ステーションワンが破壊されたか……まぁ、奴等ならば容易い事だったろうが、粉々にされたのでなければ直ぐに修復できるから問題ないな。
だが、奴等ではイチカ達を抑える事は出来んか……まぁ、そうでなくては面白くないがな――行くぞレイ。」
「あぁ、行こうか。」
月基地からはレイとマドカが出撃し――
『フラガ一佐、出撃どうぞ!』
「だから俺はネオ・ロアノーク、大佐!……って、オーブの一佐は連合の大佐と同じだから階級は間違ってないか。
コホン……其れじゃあ気を取り直して!ネオ・ロアノーク。アカツキ、行くぜ!!」
アークエンジェルからアカツキが出撃していた。
アカツキはオーブ上空での戦闘で装備していた『オオワシパック』ではなく、宇宙戦仕様のバックパックである『シラヌイ』を装備していた――シラヌイはドラグーンと同等の無線誘導ビーム砲塔であり、多角的な攻撃が可能で一対多の戦闘で其の力を発揮する装備だ。
ネオはその性能を存分に引き出し、ドラグーンで敵機を十機戦闘不能にすると、更に擦れ違いざまに双刃式ビームサーベルでキメラモビルスーツを斬り捨てゴメン!!
「記憶は戻ってなくてもエンディミオンの鷹は健在だな……!」
「伊達に二つ名は持っていなかったって事ね。」
戦局は連合軍に有利に傾いていた――このまま戦闘が続けば、最低でも一時間以内に勝負は決するだろう――
「キラ・ヤマト、イチカ・オリムラ……お前達の存在は許さない……!!」
そんな状況の中、レイはイチカとキラへの憎悪を最大レベルまで増幅し、イチカとキラを自らの手で葬り去る事を考えてた――とは言え、イチカはマドカが狙っているので必然的にレイの相手はキラになるのだが。
何れにしても此れにてマドカ達も戦力の全てを注ぐ事になり、正に最終決戦と言った雰囲気となっていた――そして、此処から此の戦いは更に激しさを増して行くのであった。
To Be Continued 
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