シンがザフトのアカデミアに入校した時、同期としてルナマリア・ホーク、メイリン・ホーク、レイ・ザ・バレル他数名もザフトのアカデミアに入校し、其の中でもシンとルナマリアとレイの三人は『アカデミア卒業後は赤服確定』と言われるレベルで優秀な成績を収めていた。
モビルスーツのシミュレーターでは、シンが『近接戦闘に長けた総合型』、ルナマリアが『中距離での精密射撃は苦手たが長距離の砲撃と近接戦が得意な総合型』、レイが『弱点の無い総合型』となっていた。
アカデミアの訓練は決して楽なモノではなかったが、其れでも入校した者達には夫々の目標があったので、その目標を達成する為ならば厳しい訓練でも熟す事が出来ていたのだった。

そんなアカデミアの生活の中で、シンとルナマリアは所謂『馬が合った』と言った感じで意気投合して交際関係に発展していた――アカデミアが休日の日にシンがルナリアを連れて自宅に戻り、妹のマユにルナマリアを紹介した時には、マユがルナマリアに『お兄ちゃんを宜しくお願いします』と言った位だった。
此れにはシンもルナマリアも気恥ずかしくなって頬を染めてしまったのだが、改めて交際関係になったと言う事を感じて恋愛感情が高まる結果になり、シンとルナマリアのカップルはアカデミアでも評判のカップルと相成ったのである。

其れとは別に、シンとルナマリアがシンの自宅を訪れていた頃、レイはプラントの市街地を見て回っていた。
シンやルナマリアと異なり、レイには家族と呼べる存在が居ない……彼には後見人として現プラント最高評議会の議長であるデュランダルが居るのだが、後見人と家族は違うだろう。
だからと言ってレイ自身は己を不幸だと思った事はない――家族が居ないと言う己の現状に思うところがなかった訳ではないが、だからと言って生活で不自由をした事も無ければ他者から蔑まれたり嫌がらせを受ける事も無かったのだから。
更にはザフトのアカデミアに入校した事でシンやルナマリアと言う友人も出来た――シンとは性格が真逆な事もあって衝突する事も少なくなかったが、其れが逆にお互いに本音でぶつかる事にもなっており、今では互いに何でも本音を言い合える関係になっていた。

それはさて置き、レイがやって来たのはプラントの空港――もとい、プラント間を航行するシャトルの発着場で、何故レイがそんな場所に来たのかと言うと、此の発着場には『空港ピアノ』と言うモノが存在していたからだ。

実はレイはピアノが趣味で、名立たる作曲家のピアノ曲ならば暗譜で弾く事が出来るレベルだったりするのだが、レイの自宅にはピアノがないので、所謂『街中ピアノ』と言われるモノで其の趣味を楽しんでいたのである
そして今日も今日とて思う存分ピアノを奏でたレイは、発着場のラウンジで演奏後のコーヒーでもと思っていたのだが――


「なんだアイツは?」


其の途中で一人の人間が目に留まった。
小柄な体格でフード付きの外套を纏い、其のフードを目深に被って表情はうかがえないが、体格から少女である事は分かった――が、其の少女と思しき人物はレイに黙って向き合うと、フードから僅かに見えている口元に笑みを浮かべ、レイを手招きすると発着場から駆け出した。


「俺に用があるのか?」


レイは其の少女と思しき人物を怪しんだモノの、無視する事が出来ずに相手を追って行った。
そうして追って行ったところでプラントの繁華街の路地裏にやって来たのだが、其処でレイは少女の姿を見失ってしまった――レイは少女の姿を探して路地裏を探索していたのだが……


「!!?」


突如背後から強烈な衝撃が襲ってレイは其の場で気を失ってしまった。
そして倒れたレイの背後にはフードの少女の姿があり、其の手にはスタンガンが握られていた――少女はレイを路地裏に誘い込んで背後を取り、電圧を高めた改造スタンガンを喰らわせてレイの意識を刈り取ったのだ。


「ククク……お前の方から私を誘ったのだから先に死んでしまうと言うのは無責任と言うモノだ。
 アル・ダ・フラガのクローンと言う事は一体だけではないと思っていたが、お前がそうだったとはな……お前には最後まで付き合って貰うぞレイ・ザ・バレル。
 いや、ラウ・ル・クルーゼ……!」


そしてフードの下から現れたのは、先の大戦のヤキンドゥーエ攻防戦に於いて生死不明となったマドカだった。
イチカとカタナのコンビの前に機体性能差をひっくり返されて敗北したマドカは、動く事は可能だったテスタメントを操って小さなコロニーに逃げ延び、其のコロニーで失った右目の代わりに機械義眼を埋め込んでおり、右目は金色となっていた。

其のマドカの顔には壮絶な笑みが張り付いており、気絶したレイを軽々と担ぎ上げると路地裏のビルに入り、其処に隠していた改修したテスタメントに乗り込むと、改修の際に追加されたミラージュコロイドステルスを起動し、誰にも気付かれる事なく其の場を後にしたのだった。

そして此の日、レイは行方不明となり、其れを聞いたデュランダルが捜索命令を下してレイの捜索が行われたのだが、その行方を掴む事は出来なかったのであった……











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE51
『新たな世界に向かって~Ein Schritt in eine neue Welt~』










オーブ軍を退役し、新たにザフトに入隊したイチカは、オーブ軍の尉官であった事を考慮されてアカデミアには入校せず、アカデミア生の卒業試験と同じ内容の試験を受け、其処で見事合格して目出度くザフトに入隊していた。
しかも其の試験でイチカはアカデミア時代のアスランを軽く凌駕する成績を収めたていたので、『赤服』としてザフトに入隊する事になったのだ――尤も、アカデミア卒業時のアスランと、今のイチカでは其の力には大きな差があるので、イチカがアスランの成績を凌駕したのは当然と言えるのだが。

こうしてイチカは正式にザフトの一員となり、先ずは『ジュール隊』に配属される事になった。
此のジュール隊は隊名から分かるように、イザークが隊長を務めている部隊であり、隊員にはイザークの恋人であるカンザシと、一般兵に降格となったカタナとディアッカの姿もあった――赤服でなく緑服となったカタナとディアッカだったが、『元赤服』のネームバリューは大きく、降格となった二人を嘲る者は居なかったが。


「ってな訳で、本日付でジュール隊配属となったイチカ・オリムラです。」

「イチカ、貴様生きていたのか!
 生きていたなら生きていたと連絡を寄越さんか馬鹿者ぉ!てっきり死んだとばかり思っていたぞ!」

「まぁ、お前がそう簡単に死ぬとは思ってなかったけどよ……」


ジュール隊に入隊したイチカは、入隊の挨拶をしたのだが、当然のようにイザークからの突っ込みを受けていた……プロヴィデンスとの戦いの後、キラは生存が確認されたが、イチカは生死不明となっていたので、イザークの言う事も当然と言えば当然だろう。
だが、其れ以上に――


「イチカ……本当にイチカなのよね?」

「あぁ、間違いなく俺だよカタナ……ただいま、心配させちまって悪かった。」


カタナはイチカが生きていた事を知って其の目から涙が溢れ、そしてイチカに抱き着き、イチカもそんなカタナを優しく抱き留めていた。
過去の記憶を略取り戻したカタナにとって、イチカが生死不明になってしまったと言う事は胸が締め付けられる思いだった――『此の世界でもイチカを喪ってしまうのか』と言う不安に駆られてしまったのは仕方ないだろう。
だからこうしてイチカの生存を知り、目に涙を浮かべて抱き着いたのも当然と言えば当然なのである。


「オイ、貴様等いちゃつくのは程々にだな……」

「イザーク、今だけは許してあげて。
 イチカが行方不明になった後のお姉ちゃんの焦燥っぷりは凄くて私も如何声を掛ければ良いのか分からなかったから……今だけはイチカに甘えさせてあげてくれると嬉しい。」

「カンザシ……そう言われると何も言えん……だが、カタナと同じくらいお前も不安だったのだろう……イチカが生きていたと言う事は、お前にとっても良い事だったのだろうな。
 因みにもしもの話になるが、俺が行方不明の生死不明になったらお前は如何する?」

「議長の弱みを握って逆らえなくした上でイザークの捜索に全力を注がせる……そして私自身も寝ないで貴方の事を探す……仮に死んでいたとしても、此の目で確認するまでは絶対に信じない。」

「そうか……うむ、其処まで思って貰っているとは、俺は幸せ者だな。」

「……ラウンジに行ってブラックコーヒー飲むか。
 こんな事ならミリィを無理にでもプラントに連れて来るべきだったのかも知れねぇって思っちまうけど、『報道ジャーナリスト兼カメラマンになって、世界の情勢を伝えたい』って夢を俺の我儘で邪魔するのは良くねぇからな。
 てか、俺がミリィと一緒に地球に行けばよかったのか?……アスランと一緒にオーブに亡命しとくべきだったかもしれねぇな此れは。」


ディアッカが若干不憫ではあるが、こうしてジュール隊には最高クラスの兵士が配備され、更にはジンに変わって新たにザフトの量産機として開発された最新鋭機の『ザク』も配備された。
ザクは連合のストライクの機体能力を大きくフィードバックした機体であり、ストライクのストライカーパックを模した換装式のバックパック『ウィザード』を採用する事で、バックパックの換装だけであらゆる戦局に対応出来る万能な量産機となっていたのだ。

ジュール隊では隊長のイザークと、赤服のイチカに指揮官用の『ザクファントム』が、カタナとディアッカには一般兵用の『ザクウォーリア』が配備された。
因みに、赤服であれば何方の機体も自由に選ぶ事が出来るので、赤服でも一般兵用のザクウォーリアを使っている者も存在してる――とは言っても其の数は極少数であるが。

隊長のイザークと赤服のイチカは機体をパーソナルカラーで染める事が出来たので、イチカは白、イザークは青で機体をカラーリングし、イチカもイザークも近接型の『スラッシュウィザード』を装備していた。
カタナとディアッカは通常の緑のザクウォーリアを使う事になり、カタナは『ブレイズウィザード』を、ディアッカは『ガナーウィザード』を選択していた。

こうして誕生したジュール隊は、平和になった世界でも活躍していた――と言うのも、戦争が一応の終結となったとは言え、壊れたコロニーから物資を盗み出す輩は後を絶たず、そんな輩をジュール隊は逃さずに全て捕らえていたのだ。
モビルスーツは流石に持っておらず、最高の戦力が既に型落ちとなったモビルアーマーではザフトの最新鋭機であるザクの敵ではなく、ジュール隊のメンバーによって滅殺されていた――イチカとイザークが敵の親玉を挟み撃ちにして、ビームアックスで一刀両断したのは実に見事であり、撃破後に見事な『勝利のポーズ』を決めてターンエンドだった。








――――――








一方のアカデミアでは、レイが行方不明になった事で少しばかり騒然としたモノの直ぐに日常を取り戻して日々の訓練に戻っており、シンとルナマリアは其の力を高めていた。
やがてレイが行方不明になって半年が経った頃にはデュランダルも捜索の人員を大幅に削減し、一年が経った頃には捜索が打ち切られる事になった。
此れが地球で行方不明になったのならばもっと捜索するのだが、プラントのコロニーは宇宙に幾つか存在しており、コロニー間の移動は地球の大陸間移動以上に時間が掛かる上、全てのコロニーを捜索するとなれば、其れは地球の全世界を捜索する以上に時間も人員も必要になってしまうので、主要コロニーにてレイを発見出来なかった事でデュランダルは捜索に見切りをつけたのだ。

レイが自分の意志で行方をくらませる理由がないので、第三者によって連れ去られたとデュランダルは考えていたのだが、同時にアカデミアがあるコロニーから出ていたとしたら見つけ出すのは略不可能であるとも思っていた。
そう言う意味ではレイの捜索を開始したのは、『行方知れずになったザフトの訓練生を捜索せずに見殺しにした』と言うマイナスのイメージを持たれないようにしたという政治的側面もあるだろう。


「(だが、連れ去られたのだとしたら一体誰がレイを?そして何の目的で?
  ……いや、ラウが連合のアラスカ基地から連れ帰ったという少女、彼女がヤキンドゥーエの戦いで生き延びていたとしたら……そしてレイの正体を知ったとしたら有り得ない話ではないのか?
  もしもそうだとしたら、君は死してなおトンデモナイ爆弾を此の世界に残してくれたなラウ……!)」


デュランダルは亡き友が残して行った一種の『負の遺産』とも言うべき存在に少しばかり頭痛を覚えたのだが、そうであるのならば尚の事自分の為すべき事を達成せねばならないと考え、プリントアウトされた二機のモビルスーツの設計図を手にしていた。
その設計図はタバネから送られたモノであり、イチカ用の『キャリバーンフリーダム』、カタナ用の『エアリアルジャスティス』の詳細が記されていた。


「核エンジンでもデュートリオンエンジンとも異なる新型エンジンと、パイロットと機体のシンクロ率を高めるシステムと其のシステムによって発生するパイロットへの負荷を肩代わりするシステムか……いずれも未知のモノだが、其の未知なるモノの設計図まであるとは、君は一体何者なのだねタバネ博士……」


その設計図を見たデュランダルは、未知の技術満載でありながら、其の未知の技術を製作する為の設計図まで出来上がっている事に驚いていた……此の二機はフリーダムとジャスティスをも超える機体になるかもしれないが、ユニウス条約で禁止されている核エンジン搭載型ではないので、完成すればプラントにとって大きな戦力となるのは間違いないだろう。


「此の二機は平和の守護者となるか、其れとも戦いの断罪者となるのか……恐らくは後者――此の平和は一時の夢でしかないと言う事か。」


そして其の二機の開発と並行して、ザフトの新たな戦艦である『ミネルバ』の製造も行われ、プラントは平和な期間にも『何時何処で戦いが起きても対応する事が出来る』態勢を整えていたのだった。








――――――








其れから更に時は経って、シンがザフトのアカデミアに入校して二年。
其の途中で地球から亡命して来たロランが中途で入学してシン達と同期扱いとなり、アカデミア卒業時にはシンとルナマリアとロランは『赤の卒業生』としてアカデミアを卒業し、赤服としてザフトに着任し、更には最新鋭艦である『ミネルバ』の配属となったのだった。


「そう言えばシン、ミネルバにはジュール隊から二人出向してくるらしいわよ?」

「ジュール隊って……今のザフトで最強って言われてる部隊だよな?
 其処から二人も出向してくるって……きっと俺達なんか目じゃない位に凄い人が来るんだろうな……楽しみだぜ!」


因みにルナマリアの妹である『メイリン・ホーク』は総合成績は優秀だったのだが、モビルスーツの操縦技術だけはどん底レベルだったので『赤の卒業生』にはならず、一般兵のオペレーターとしてミネルバへの配属が決まっていた。


「俺とお前がミネルバに出向か……デュランダル議長はミネルバを相当に重要視してると見えるな。」

「近く進水式も控えているから、其の護衛の意味もあると思うわ――暫くカンザシちゃんと会う事が出来なくなっちゃったのは痛いけれど、議長直々の任命と言うのは光栄極まりないから、その任は熟すわ。」


「え?……あの人は……!」


其処にジュール隊からミネルバへの出向を命じられたイチカとカタナが現れた。
其れを見たシンは驚くと同時に、恩人であるイチカが同じザフトに存在していると言う事を喜んでいた――そして、シンの方から声を掛けた事でイチカもシンに気付き、二年越しとなる縁が此処に紡がれたのだった。


「カタナさんは……元赤服なんですよね?」

「元赤服で、現緑服よルナマリアちゃん♪……赤服からの降格で済んだのは僥倖だわ――下手すれば銃殺刑だったかもしれないんだからね。」


赤服から降格となったカタナもミネルバに配属されたメンバーとは持ち前の『人誑しスキル』であっという間に打ち解けてミネルバには最強とも言える戦力が集ったのだった。

だが、運命とは残酷なモノであり、ヤキンドゥーエの攻防戦から二年経ったザフトのプラントにて、新たな戦いの火ぶたが切って落とされようとしていたのだった――











 To Be Continued