Side:夏姫


アタシ達に完膚なきまでに叩きのめされた挙げ句に、楯無さんから断罪され、更にはトドメにイチから絶交を言い渡されて、スズ達は誰が見ても完全K
Oされたみたいだな。
一度完膚なきまでに叩きのめされれば、気付く事があるかも知れないと思ったんだが、楯無さんに断罪されてる最中も、コイツ等は自分の非を認める
事は無かった……イチが見限ったのも当然と言えば当然だな。
まぁ、結果としてイチは自分が置かれていた状況の異常さを認識して、自分を雁字搦めにしていた存在を切り離し、真に一緒に居るべきなのは誰なの
かを自覚し、楯無さん達とめでたく結ばれたのだからグッドエンドだ。

「時に一夏よ、この世界の虚さんはイチと付き合う事になった訳だが、そうなるとこの世界の弾の相手は誰になるんだ?」

「いや、俺に聞かれても知らねぇよ夏姫姉……虚さんがイチと一緒になったんなら、この世界の弾に彼女は出来ねぇんじゃね?……んでもって、タイプ
 の違う美女四人を彼女にしたイチに嫉妬して殴りかかって、厳さんのお玉喰らう未来しか見えねぇ。」

「……それ以外の結末を想像出来ないのが悲しいな。」

取り敢えず、イチを取り巻く環境を改善できたのは良いんだが……其れだけでは終わるとは思えん――目の前で、ショックのあまりに口から魂が抜け
掛けてる連中は兎も角として、コイツ等以上に面倒な存在が居るからなこの世界には。



「だね……戻って来たみたいだよなっちゃん。」

「グゥルにワイヤーで固定されていたにもかかわらず、此の短時間で戻って来るとは……束さんは束さん、腐っても鯛と言った所か。」

「鯛でも腐ったら只の生ゴミだと思う件について。」

「まぁ、普通に考えればその通りなんだがな?」

「諺って難しいわよね……」



うん、その意見には同意するぞ鈴……日本人であるアタシにも理解出来ない諺はあるからな――だが、其れは其れとしてよくもまぁ戻って来れたモノ
だな世紀の大天災様?
お前がどうやって戻って来たのかは知らないが、お前もまた断罪しなくてはならないな……人の心を持たない我儘の天災なんて言うモノは、世界にと
って最大の厄災でしかないからな。










Infinite Breakers Break84
『Send a disaster rabbit to another world










其れで、何やら舞い戻って来たみたいだが、何か用か天災?……アタシ達としては、お前に用はないんだがな……用が有るなら手短に頼むぞ?アタ
シ達も暇ではないのでな。



「何か用だって?……ふざけるなよ、束さんに狼藉を働いた上に、箒ちゃんの事を傷つけやがって――調子に乗るなよお前等!!
 箒ちゃんを傷つけたのは万死に値する!!……だから死ねよ。箒ちゃんを傷つける奴は全部敵だ!だから、死ね!死ね!!死んじまえ!!!
 私の思い通りにならない世界なんてものは必要ないんだよ!!」



アタシの物言いが気に入らなかったのか、天災は敵意を向けてくるがマッタク持って怖くも何ともない……アタシ達の世界の千冬さんがガチギレしたら
この比じゃないから、この程度の敵意など蚊ほども感じないな。
まぁ、其れは其れとして軽々しく『死』と言う言葉を使うなよ……それ以前にガキかお前は!……自分の思い通りにならかなった事は決して認めようと
はせずに、自分の功績は認めて欲しいってアホか。



「クーちゃんのおかげで助かったけど、よくも束さんを太平洋の大海原に放置してくれたね!!
 其れだけでも業腹物だって言うのに、模擬戦と称して箒ちゃんをイジメやがって……お前等全員覚悟は出来てんだろうな?ドイツもコイツも麻酔なし
 でバラバラにしてやる!!」

「クーちゃんとやらが誰かは如何でも良いけど、お前あの試合見てたのかよ?」

「あぁん?束さんの偽物如きが偉そうな口利くなよ?
 お前みたいなゴミクズに答えてやる義理も義務もねーんだよブワァーカ!!兎に角、束さんはお前等がやった事全部見てたんだからな?箒ちゃんを
 イジメた事、後悔させてやる!!」

「……此れだから頭でっかちのガキは始末に負えないね。
 あのなぁ、そのおめでたい頭で都合よく解釈してるみたいだけど、あの模擬戦を提案して来たのはこっちの猪突猛進中国で、なっちゃん達は其れを
 受けてやったに過ぎないんだよ。
 アイツ等が負けたのは身の丈を弁えずに格上に挑んだ結果であり、なっちゃん達がイジメた訳じゃないんだぞ?そんな事も理解出来ないとは、大し
 た天才だよお前。」



喚きたてる天災に対して、正論で反撃する束さん。そして只反撃するだけじゃなく、確りと煽る辺り流石です……千冬さんの親友は伊達じゃないわ。
にしても、この天災はモップ達以上に酷いな?束さんも言っていたが正に『頭でっかちのガキ』だ……なまじ、常人よりも遥かに知恵があるだけに、我
儘が酷過ぎる。
自分の思い通りにならないと癇癪起こしてブチ切れるとか、性質が悪い事この上ないわね。



「はぁ?お前馬鹿なの、死ぬの?
 例え鈴ちゃんの方から模擬戦を持ちかけたとしても、お前等はよそ者なんだから身分を弁えて無様に負けるのが筋だろ?何処の馬の骨とも知らな
 い奴が出過ぎたマネしてんじゃねぇよ!
 其れと、そこの青髪2匹と眼鏡とダボダボ!な~~に、いっ君と仲良くしてんの?いっ君と一緒に居るべきは箒ちゃんだ!勝手にいっ君に近付くんじ
 ゃねぇよこの泥棒猫が!!」



更には、イチと結ばれた更識布仏姉妹にまで攻撃の範囲を広めたか……イチが誰と一緒に居るかと言う事はイチが決める事であって、お前が決める
事ではないだろうに……越権行為も甚だしいな。
もう一発NIKU→LAP喰らわして、今度はグゥルでマリアナ海溝の最深部まで運んでもらった方が良いか?如何に天災とは言え、水深3000m以上の
水圧に耐える事は出来ないだろうから、確実に排除できる筈だ。



「夏姫、容赦がないわね?」

「ならば聞くが楯無、アレの存在がこの世界にとってプラスになるとでも?」

「いえ、マイナスにしかならないわ。」

「つまり、滅殺しても問題ないって言う事。」

「束さんと天災の最大の違いは自らの知識に一般常識があるかどうかって事だな……それは、スズやモップにも言える事かもしれないけどな。」



マッタクだな。
さて、結構イチとしては理不尽な事を言われた訳だがどうするのか……アタシ達が手を下しても良いんだが、イチにキッパリと言われた方が天災には
堪えるだろうから、少し見守ってるか。



「束さん、貴女は何を言ってるんですか?
 楯無さんに簪、虚さんにのほほんさんは俺が自分で選んだんです!彼女達が勝手に俺に近付いて来たんじゃない、俺が選んだんだ!独りよがりの
 憶測で勝手な事を言わないで下さい!
 って言うか、勝手に俺の相手を篠ノ之にしないで下さい、迷惑です。」

「んな、何を言ってるのいっ君!?」

「日本語ですけど?何ですか、引きこもりを続け過ぎて遂に日本語すら理解出来なくなりましたか?……なら、小学校から勉強をやり直す事をお勧め
 しますよ。」

「いやん、一夏君ったら篠ノ之博士相手でも容赦ないわね?」

「容赦する理由がありませんからね。
 と言うか、楯無さん達の事を泥棒猫呼ばわりしたのは許せませんから……束さん、この際だからハッキリ言わせて貰います。俺は、貴女の妹が大嫌
 いです。
 より正確に言うのならば、大嫌いだったと言う事に気が付きました――他ならぬ楯無さんとナツ達のおかげで。
 確かに俺と篠ノ之は子供の頃からの付き合いだったし、IS学園で再会した時には懐かしさを感じましたよ?……でも、アイツは俺を無視して、ISの事
 を教えてくれるって言った上級生を『篠ノ之束の妹だから』と言う事を持ち出して俺から遠ざけ、そのくせ自分がやったのは剣道の訓練だけ。
 そのくせオルコットに負けたら罵倒して来て、日常的には俺がアイツの思い通りにならないと木刀が炸裂とか、最大限ぶっちゃけるとこんなキチガイ
 じみた相手を好きになる要素がないですよね?……こんな奴を好きになるなんて、余程のマゾヒストですよ。」



――ドンドンドンドンドン!パフッ!!



良いぞイチ!よく言った!!
思わずアタシ達も応援用の太鼓叩いてラッパ吹いたくらいだからな……って、どっから出した此れ!?……持って来た筈がないモノが存在していると
言うのはちょっとしたミステリーだが、其処に突っ込んだら負けなんだろうなきっと。
何に負けたのかは議論しないが。

まぁ、其れは兎も角としてイチの言って居る事は正しいな。
一体何処の世界に理不尽な暴力を振るう相手を好きになる奴が居るのか説明して欲しいモノだな天災よ?……お前が本当の天才であるのならば納
得の行く説明が出来る筈だろう?



「そんなのは如何でも良い!いっ君は箒ちゃんと共に在るべきなんだよ!!それ以外の有象無象なんかと一緒は有り得ないんだ!!
 このビッチ共が、お前達がいっ君をたぶらかしたんだろ!!」

「……ダメだコイツ、日本語が通じない。」

「ホントに困ったモノね夏姫ちゃん。
 しかしまぁ、たぶらかしたとは人聞きが悪いですね篠ノ之博士?私達は別に何もしてません……一夏君が私達を選んでくれた、其れだけの事です。
 大体にしてたぶらかすと言うのは、一夏君が自室のドアを開けた瞬間、水着エプロンで『おかえりなさい♪本音にします?簪ちゃんにします?虚ちゃ
 んにします?それとも、ワ・タ・シ?』とかやって誘惑する事じゃないんですか?」

「いぃ!?そんな事する心算なんですか楯無さん!?」

「お姉ちゃん自重して……でも、少しくらいなら良いかも――ゴメン、今のは無し。」

「んな、んな、んなぁぁぁぁ!?
 この腐れビッチ!お前そんな事やっていっ君を誘惑する心算だったのかよ!!箒ちゃんよりもおっぱい小さいくせに生意気だ!身の程を弁えろ!」



いや、突っ込む所は其処じゃない気がするんだが……言うだけ無駄か。
其れと楯無さん、あまり天災の事を煽らない方が良いと思うぞ?頭でっかちの子供と言うのは、キレると何をしでかすか分からないからな……最悪の
場合、この場でお前達の事を殺しに掛かる可能性もあるぞ。



「御忠告痛み入るわ夏姫ちゃん。
 其れでも私は敢えて言わせて貰うわ……篠ノ之博士、自己中の自己満足と妄想による言い掛かりは止めて下さらないかしら?今のこの状況は、一
 夏君が自分で選んだモノであって、私達が強要したモノではありません。
 一夏君が私達を選び、私達も一夏君を選んだだけの事……其処に貴女の介入する隙間なんて存在しないんですよ。」

「お姉ちゃんの言う通り。
 これは私達と一夏が選んだ結末……そして箒達も、アレが自分達で選んだ結末だから、貴方がとやかく言う筋合いはない。言う権利もない。」

「だから~~、さっさと帰ってくれると嬉しいな~~~~♪」

「本音、貴女と言う人はホントにいつも……ですが、私も本音の意見に賛同します。
 篠ノ之束博士、此処は貴女が居るべき場所ではないし、貴女が介入すべき事でもありません。早急にお引き取り願います。」

「束さん……俺はやっと気付いたんだ、俺にとって本当に必要な人って誰だったのか。
 其れは楯無さんと簪とのほほんさんと虚さんで、篠ノ之達じゃなかった……ただそれだけの事だったんだ――だからもう、アンタも俺に関わるのはこ
 れっきりにしてくれ。
 何を考えてたか知らないけど、アンタは俺の人生ぶっ壊したんだから、もう十分だろ。」



だが、其れでも止まらない所か、簪君、のんびりさん、虚女史の追撃にイチのフィニッシュブロー……イチの人生が天災にぶっ壊されたと言うのは気に
なる所ではあるが、其れについて聞く暇はなさそうだな。



「いっ君……そうかい、君も私の思い通りにならない訳か――じゃあ、もういらない。
 箒ちゃんのパートナーには君を考えていたけど、そうならないって言うんなら価値はない……君みたいな男は中々居ないけど、私の思い通りになら
 ないならもういいや……殺してその細胞から、束さんの言う通りに動くいっ君を作ってやるから!!」

「其処まで自分勝手だと、呆れるのを通り越して、逆に感心するねマッタク……よくもまぁ恥も外聞もなくそんな事が言えたモノだよ。」



――ギュルリ!!



天災が激昂してイチ達に襲い掛かったが、その攻撃がイチ達に届くよりも早く束さんがワイヤーを飛ばして天災を拘束したか……さっきはアタシと楯無
のNIKU→LAPでKOした所をグルグル巻きにしたけれど、動いている相手を完璧に捕らえるとは流石ですね。

「実に見事ですよ束さん……矢張り貴女と天災では雲泥の差があるようだ。」

「まぁ、当然だろう夏姫……姉さんが、この世界の色々と迷惑なだけの篠ノ之束に負ける筈がないからな。」

「ククク……頭でっかちのガキでは、真なる天才に勝てる筈もないか――マッタク持って愉快痛快極まりない事だな。
 尤も、束さんが何もせずとも、此方の世界の更識楯無ならば対処しただろうが……如何に頭脳と身体能力がオーバースペックであっても、実戦経験
 皆無では、暗部の長として修練を積み、実戦経験もある相手に勝つ事は出来ないだろうからな。」

「ふ、其れは至言だなマドカ。
 ステータスは強くても戦い方を知らなければ勝てる道理は無いからな……よくよく見れば、束さんと天災は同じ容姿ではあるが身体つきは全然違う
 みたいだからね。」

束さんが出るとこ出てるけど締まるとこ締まってて、アタシ達ほどじゃないとは言え一応は必要最低限の戦う為の筋肉が付いているのに対して、天災
の方は、出る所は出てて締まるとこは締まってるが、筋肉については日常生活が送れれば充分レベルだからね……束さんと比べるまでもないか。



「ぐぬぬ……オイコラ放せ!!」

「誰が放すか大馬鹿モンが。
 な~~にが、自分の思い通りにならないなら要らないだ……ふざけた事言い腐るのも大概にしろよお前?イチ君はお前の玩具じゃねぇんだよ、自分
 の意思を持った人間なんだよ、そこんとこ理解しろ。
 大体なぁ、世の中全部自分の思い通りになるって思ってる時点で大分終わってるよお前……世の中ってのは、自分の思い通りにならない事が有る
 から面白いんでしょうが。
 世の中全部自分の思い通りになってみろ、退屈で死んじゃうって。……良いか、『何でも出来るってのは、何も出来ないのと同じ』なんだぞ。」

「知らない!そんな事は知らないし如何でも良い!この世界は私の思うように動けば其れで良いんだ!!
 その為に、今まで準備して来たんだ!!ISを作ったのも、この世界を束さんの思う通りにする為……私は全ての人類の頂点に立ってるんだから、そ
 れ位はやっても許されるんだ!!」

「ホント、精神がガキのままで成長しない奴がなまじ知恵を得るとホントめんどくさいね。
 其れよりも、イチ君が言ってたお前に人生を壊されたって言う話……流石に聞き流す事は出来ないんだよねぇ……どういう事か聞かせて貰える?」

「ベーだ、誰がお前なんかに言ってやるもんか!!」



で、始まった束さんと天災の舌戦……此れも束さんの方に分があるみたいだな。
天災の方は抵抗して、束さんの言った事に反抗しているが、別に話して貰わなくても結構だ。お前が口を割らないのであれば、イチ本人に聞けば良い
だけの事だからな。



「イチ、天災に人生ぶっ壊されたって如何言う事だ?」

「ナツ、俺が入試の試験会場間違って、其処にあったISに触れて起動させちゃった事でIS学園に強制入学になっちまったって事は話しただろ?
 今にして思うとさ、アレって凄く不自然なんだよ……幾らIS学園の入試試験会場だからって、普通そんな場所にISを持って来るか?
 でもって、偶々試験会場を間違えた俺が、偶々そのIS触って、偶々起動したなんて、ドンだけの確率だっっての――冷静になって考えると、俺が試
 験会場を間違えるのも、其処にISが有ったのも、俺がISを起動させたのも全部篠ノ之束が画策した事だと考えると納得出来るんだ。
 恐らく、俺と篠ノ之をIS学園で再会させて、最終的にはくっつける心算だったんだろ……臨海学校の時の福音暴走も、今にして思えば篠ノ之のIS操
 縦者デビューを飾る為のマッチポンプだったのかもな。」



が、アタシが聞くよりも先に一夏が聞いたか。
其れで返ってきた答えには本気で笑えない……天災の策略でIS学園に強制入学になったと考えれば、確かにイチの人生は天災によってぶっ壊され
たと言っても過言ではないな。
更に、臨海学校のアレがモップのデビュー戦の為のマッチポンプとは……狂っているにも程があるだろうに。――もう、コイツは天災どころか只の厄災
でしかないだろう。



「ふぅん……本気でクズだねお前。マジで生きてるだけで害悪じゃん。
 そうなると、この世界における『白騎士事件』はISを認めて貰えなかったお前が癇癪を起こして自作自演した可能性もある訳だ……だとしたら、呆れ
 てモノを言う気にもならないね。
 だけど一つだけハッキリしてる事……お前は、この世界における癌みたいなモンだって事だ。
 だからさ、お前にはこの世界から消えて貰う事にするよ……この世界の為に、イチ君の為にね……!!」

「世界から消すって、如何する心算なんですか束さん?」

「簡単な事だよなっちゃん。
 この『パラレルワールド君1号(仮)』を使って、コイツをここでも私達の世界でもない別のパラレルワールドに転送する――但し、時間軸を大幅にずら
 して、地球上に現在の人類の祖先であるホモサピエンスが現れた頃にだけどね。
 其処に居るのは、サル程度の知能の人間しか居ないから、そんな世界を支配して神を気取れば良いさ……其れなら、コイツの言う自分の思い通り
 にしかならない世界を実現できる筈だからね……精々、お山の大将を気取ってると良いさ。」

「な、ちょっと待て!!そんな事されたら束さんは箒ちゃんとは……!!」

「まぁ、二度と会えないだろうね。
 ウサギは寂しいと死ぬらしいけど、人の迷惑を考えない厄災ウサギは寂しくなるとどうなる事やら……コールドスリープで生きながらえるか、それとも
 自然の摂理にならって息絶えて、そのまま化石になるか――好きな方を選ぶと良いよ。
 ま、精々自分がお山の大将を気取れる世界を楽しみな。ほい、ぽちっとな。」

「そんな……待て――!!」



――ギュゥゥゥゥゥン……パシュン



全部言い切る前に、転送が完了し、天災は遥か古代の並行世界に強制転送されてしまったか……ホモサピエンスの時代では、今の様な科学技術は
存在していない訳で、元の世界に戻る為の装置を開発出来る筈もないから、アイツは送られた先で余生を過ごす以外の選択肢は存在してないと言う
事になるな……自業自得故に同情はしないけれどね。

「さてと、小うるさいのが消えてくれてスッキリしたが、天災に人生をぶっ壊されたと言っていたが、アイツが謀略を巡らせてなかったら、お前と楯無さん
 達が出会う事も無かったと思うんだが、其処は如何思うナツ?」

「かも知れないけど、多分試験会場でISを起動しなくても、あの人なら二重三重に策を巡らせて絶対に俺にISを起動させてただろうから、そう言う意味
 では楯無さん達と出会うのは必然だったんじゃないかって思う。
 だから、きっとどんな選択をしても最終的にはこの状態になったんじゃないかって考えてるよ、今はな。」



フッ、そう来たかイチ。
そう考える事が出来るのならば上出来かな……たとえどんな選択をしても、お前達は結ばれていたと考える事が出来る訳だからな……アタシが態々
言わなくても分かってるだろうが、楯無さん達の事、大事にしろよ?



「おうよ、言われるまでも無いぜ!!楯無さんも簪も、のほほんさんも虚さんも、何があっても俺が全力で守ってやる!
 護ってやる事が出来るように強くなってやるぜ!!……何よりも、嫁さんよりも弱いってのは流石に格好が付かないからな……だけど、楯無さん達
 より強くなるには楯無さん達に訓練をお願いしないといけないこの状況……色々とアレだ。」

「ドレだイチ?」

「アレだナツ!!」

「コレか!!」

「ソレだ!!」



オイコラ、何を双子漫才してるんだ?
まぁ、今はまだお前は楯無さん達には及ばないんだから、訓練して強くなるしかないだろう……アタシ達ももう少しこっちの世界に居る心算だから協力
してやるとするか。
イチは正しい方法で磨いてやれば、短期間でも凄まじいレベルアップが見込めるだろうからな。



「そう言えば、夏姫ちゃん達はこっちの世界にドレ位居るの?」

「2~3日って所だな……明後日には元の世界に戻る心算だ――この世界にとっては異物であるアタシ達が長居しては、必要のない歪みが生じる可
 能性が有るからな。
 尤も、その期間に寝泊まりできる場所を考えねばなのだがね。」

「あら、其れなら大丈夫よ――今日は金曜日だから、明日と明後日は学校は土日の休みになるから、殆どの生徒は本土に帰っちゃうのよ……IS学園
 の生徒とは言え花の女子高生だから、土日の休みにまで学園に缶詰めになるのはゴメンって言う事よ。
 だから日曜日の夕方までは寮の部屋は略全室空室だから好きに使って貰って構わないから♪」

「其れって色々問題ねぇっすか?」

「フォルテちゃん……バレなきゃいいのよ、バレなきゃ♪」

「ぶっちゃけ過ぎだろオイ!!」



ダリル、その突っ込みは正しいと思うぞ。
だが、宿泊場所が確保できたのは有り難い――流石に野宿は勘弁願いたかったからな……まぁ、其れは其れとして、アタシ達が滞在してる間に、お
前の事を徹底的に鍛えてやるから覚悟しておけよイチ……アタシ達の特訓は厳しいからな?



「上等だぜ夏姫さん、手加減なしでやってくれ!!」

「ふ、そう来なくてはな。」

「手加減なし……イチ君のレベルアップは間違いないかなマドカちゃん?」

「間違い無かろう静寐……あのキチガイ集団から不必要な訓練を受けていたにも拘らず、イチはナツ兄さんに一撃を加える事が出来たんだ。正しく鍛
 えてやれば、ブリュンヒルデを超える可能性だって充分にあるからな。」

「え、俺って其処までの潜在能力持ってんの?」

「今のは、あくまでもマドカの予想だが、略確実に持っていると見て間違い無いと思うぜイチ。」

「そうそう、一夏君は強いのよ本当はね。此れからは、私達との訓練の時間も多く取れるから、此れまで以上にレベルアップ出来る筈だから♪」

「私も、模擬戦の相手ちゃんとやるから期待して。」

「整備は私に任せるのだ~~♪」

「訓練のカリキュラムなどは私にお任せ下さい……一夏君の無理のない範囲で、最も効率的なカリキュラムを組みますので。」



イチだけでなく、楯無さん達もやる気か……良い事だな。
今日はもう無理だが、明日からの残された2日間、お前の事を徹底的に鍛えてやるぞイチ……其れこそ、楯無さんであっても守ってやれるくらいに。
だが、其れとは別にイチの機体は改造した方が良いですよね束さん?



「だね。って言うか改造以外の選択肢が無いから。
 よくもまぁ、こんな燃費の悪い欠陥機をイチ君に宛がったもんだよ……この世界の政府は脳ミソ腐ってんじゃないの?――一次形態から単一仕様が
 使えるってのは兎も角として、零落白夜ありきの性能とかピーキーすぎて笑えない。
 イチ君のスタイルとも噛み合ってないから、本当の意味でのイチ君の為の機体に作り替える必要があるね……よっしゃ、今夜は徹夜で仕上げるから
 白式貸して!序にタテちゃんとカッちゃんの機体も!!
 束さんの技術の粋を駆使して、君達の機体を君達に最も適したモノに改造してあげようじゃないか!!」

「「「えぇぇぇぇ!?」」」



ククク……まぁ驚くだろうな。
だが、束さんがお前達に最も適した機体に改造すると言った以上、お前達の機体が今よりも数倍の性能になるのは間違いないだろうな……もっと言
うのであれば、フルスキンになるのも略間違いないだろうさ。
さて、一体どんな改造が成されるのか、期待するなと言うのが無理と言うモノだわ。


そう言えば、モップ達は静かだったが……まだ放心してるみたいだから放置で良いか。――もしも魂が戻って来て、何やらいちゃもんを付けて来たそ
の時は、スズが提案してくれた『勝者は敗者に一つだけ命令出来る』権利を使って黙らせてやるだけの事だからな。

明日からの2日間、イチの事を鍛えてやるのが楽しみになって来たよ……埋もれていた才能を磨き上げると言うのもまた、とても楽しい事だからね。










 To Be Continued… 





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