Side:夏姫
アフ……朝か。
臨海学校最終日だな……流石に復活したばかりだから一晩寝てもダルさが残っているが、それ以外はマッタク問題なさそうだ――各関節は普通
に動くし、筋肉痛と言う事も無いからな。
取り敢えず着替えるか。
「夏姫姉、俺も起きてんだけどな……幾ら姉弟とは言え、目の前で下着姿になるってのは如何よ?」
「姉弟なら問題ないだろう?
……と言うか、アタシに言わせて貰うなら、下着姿もビキニの水着も大差ないだろう?なのに、どうして水着はOKで下着は駄目なのか、少し問
い詰めたい位だ――具体的には小一時間ほど。」
「言わんとしてる事は分かるんだけど、水着は見せる事が前提で、下着は隠す事が前提だろ?その差じゃないのか?」
「成程、納得できる理論だな其れは。」
「納得したなら、俺の前で下着姿は止めてくれよ……弟とは言え、俺だって健全な男子なんだからさ――否、鈴と箒が居るからアレだけどな?」
何だ、今更恥ずかしがる事でもないだろう?
子供の頃は一緒に風呂に入った事も有るんだ、照れる事は無いんじゃないか?
「子供の頃の話だから!!今はその時とは違うからな!!」
「そうか。」
まぁ、其れは其れとして、お前も早く着替えろ一夏……朝食の前に、行かねばならない所があるからね。
「行かなきゃならない場所だって?何処だよ其処?」
「決まってるだろう?織斑一秋と篠ノ之散が身柄を拘束されている部屋にさ――奴等には、究極の絶望と言うモノを与えてやらねばだろう?」
「究極の絶望……確かに、アイツ等は精神的に地獄に叩き落してやらないとだぜ。」
「ふ、そう言う事だ。」
既に千冬さんと束さんは、奴等と絶縁する為に必要な事は全てやってしまったから、奴等にはもう何の後ろ盾もない……だから、もう名前に守ら
れる事も無いだろうさ。
しかし、アイツ等はアタシを見たら果たしてどんな顔をするのか……少し、見物かも知れないな。
Infinite Breakers Break45
『臨海学校最終日~Last Days~』
さてと、途中で楯無、鈴、箒と合流して、あの馬鹿コンビが身柄を拘束されてる部屋まで来た訳なんだが……何と言うか、障子扉を開ける前から、
部屋の中から馬鹿共の喚き声が聞こえるな?……『俺は悪くない。』だの『私も一秋も間違っていない。』だの。
はぁ、アタシの事を殺しかけておいて、其れでも自分達は悪い事をしてないとでも思っているのか――殺人未遂が悪い事じゃないと言うのなら、こ
の世の大抵の悪事は許されるだろうね。
取り敢えず入ってみるか。
「身体が不自由って言うのはどんな気分だ一秋、散?」
「蓮杖夏姫……お前、なぜ生きている!!」
「確実に貫いた筈だ……其れなのに何故だ――!!」
「如何やらアタシは、相当に往生際が悪かったらしくてな……奇跡的に心臓を外れてたお陰で助かったんだよ。」
まるで亡霊でも見たかのような顔だが、まぁ仕方ないか――致命傷を受けて海に墜落した相手が、こうして元気な状態で目の前に現れたのだか
らな。
残念だったな、アタシを殺す事が出来なくて?まぁ、身体に一生消えない傷痕が残ってしまったけれどね。
「マッタク、夏姫の身体に傷を付けたと言う事だけでも、更識の拷問術をフルコースで御馳走してあげたい位だけど、貴方達には其れよりもキツイ
目に遭って貰うわ。」
「あぁ、安心しろよ?命までは取らない――ってか、お前等如き殺す価値も無いけどな。」
「お、俺達に何をする気だ!!」
「私達に何かあったら、束姉さんと織斑先生が……」
「ヤレヤレ、都合のいい時だけ姉さんを頼るとは、マッタクもって見下げ果てた下衆だな貴様は。」
「まぁ、もう二度と頼る事は出来ないんだけどね?そうでしょ、義姉さん、タバ姐さん?」
「その通りだ。」
「必要な手続きは、全部完了!ってか、国のデータベースにハッキングして、織斑家と篠ノ之家の戸籍情報書き換えちゃった♪」
真打登場だな。
……サラッと危険な発言してくれるな束さんは?尤も、今回に限っては行政の通常の処理を待つよりも物理的にデータを書き換えてしまった方が
早いからな。
つまり、一秋は織斑の戸籍から、散は篠ノ之の戸籍から除籍されたと言う事か。
「千冬さん、束さん、その事は世界には?」
「日本政府には既に伝えた。あと学園にもな。」
「束さん的にはライブ映像を世界に発信したかったんだけど、其れをやったらこの旅館に報道陣と言う名のマスゴミが現れそうだから止めた~♪」
「……姉さん、思い留まってくれて良かったです。」
本当にそう思うわ。
っと、馬鹿と阿呆は何が何だか分からないって顔をしているな?――千冬さん、束さん、コイツ等に引導を渡してやってくれ。
コイツ等の此れまでの行いに対する断罪は、これが一歩目だ。一秋にとっては、これから告げられる事は極刑を宣告されたに等しいだろうが、其
れすらも始まりに過ぎないからね。
「一秋……今この時を持って、私織斑千冬は、お前と家族の縁を切る!」
「へ?」
「おい愚妹。お前の事は、篠ノ之の戸籍から除籍した。序に馬鹿な日本政府の連中には、お前と絶縁した事を伝えてやったよ。
良かったね?此れでもうお前は私だけじゃなく、箒ちゃんの妹ですらなくなった――此れからは何処に行っても、篠ノ之束の妹として扱われる事
は無くなった訳だね。」
「な!?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔、と言うのは今の一秋と散の顔を言うんだろうね。
告げられた事実が衝撃的過ぎて思考回路がショートし、頭の中が真っ白になってしまった――大体そんな感じだろうと思うわ。……まぁ、アイツ等
の脳ミソじゃ、ショートしても仕方ないかも知れないけどな。
其れでも即座に再起動して、何故かと問う辺り、流石に絶縁されるとは思っていなかったと言う感じか?だとしたら、脳ミソが○ルコ○味噌に改造
されてたとしか言いようがない――寧ろ、今まで絶縁されなかったのが不思議な位だからな。
「絶縁って……嘘だろ千冬姉!!」
「ふん、もう私はお前の姉ではないし、お前は弟ではない。
私の弟は、3年前にドイツで誘拐されて死んでしまった、織斑一夏だけだ――貴様の様な下衆が、私の弟を名乗るとは烏滸がましいにも程があ
ると知れ。」
「絶縁……何故!?」
「何だって良いじゃんそんなの。
ってかさ、お前私の事が嫌いだったんでしょ?なら、家族じゃなくなってハッピーハッピーじゃん。だって、嫌いな相手と切れる事が出来たんだか
らさ?
けどさぁ、ぶっちゃけ言うと束さんもお前の事が大っ嫌いだったから、其の内絶縁してやる心算だったんだよね……何で私が姿を晦ましたかを考
えもせずに逆恨みしてるクセに、都合のいい時だけ私の名に頼る――ぶっちゃけ虫唾が走るんだよお前。
私の妹は箒ちゃんだけ。分かったか、箒ちゃんを作った際に出た廃材で作られた出来損ない。
でもって、変な力で身体に無理させて、暫く真面に動く事が出来ないってんだから、お前等揃って本当に役に立たない粗大ゴミだね。」
そして、更に止めを刺して行くか……千冬さんはシンプルに、束さんは毒舌マシンガンと言うのとは少し違うかもしれないが、これでもかと言う位に
言葉が出てくるモノだわ。
それ程までに、散の事は腹に据えかねていたと言う事なんだろうな。
「一撃必殺の千冬さんと、手数で勝負の束さんか?少し違うかもしれないが。」
「いえ、ある意味で合ってると思うわ夏姫。」
合ってるのか?
其れは良いとして、一秋と散への断罪は此れで終わりじゃない――束さんによる最大の一撃が残っているからね。
「其れとね、お前等は二度とISを使う事は出来ないからね?」
「「え?」」
「だから、お前達は二度とISを起動する事は出来ないって言ったんだよ。耳無いのお前等?
白式のコア人格はいっ君のストライクと融合したからお前の白式は魂がなくなった器でしかない――要するにお前は白式に見限られたって訳。
まぁ、そもそもにしてお前がISを起動できたのも、お前といっ君が一卵性双生児で同じ遺伝子を持ってたからだからね?
偶然触れた打鉄が、お前の事をいっ君と勘違いして起動しただけなんだよ――其れはお前もだパツ金ポニテ。
お前も箒ちゃんと同じ遺伝子を持ってたからISがお前を箒ちゃんと勘違いしてを起動出来たに過ぎねーんだよね?
まぁ、其れは其れとして、白式がお前を見限った以上、お前達はもう二度とISを動かす事は出来ねーんだよ――コアネットワークを通じて、全て
のISが『織斑一秋』と『篠ノ之散』に対しては起動しない事を決めたからね。」
「「そ、そんな!!!」」
そう、コイツ等はもうISを起動する事は出来ない――束さん以外に『有人』のISを造れる奴が居ない限りはね。
一夏の白式のコア人格と融合したストライクのコア人格が、コアネットワークを通じてこの二人に対しては一切の反応をしないように、全てのISに
命じたらしい。
しかも、一夏から聞いた話だと、ストライクのコアは白騎士のコアを改造したものだそうだからな?原初のISにして、全てのISの祖である白騎士の
命令とあらば、少なくとも束さんが作ったコアを搭載してる機体は従わざるを得ないしね。
「白式のコア人格が……テメェ、盗みやがったな蓮杖!!」
「盗んだとは言いがかりも良い所だぜ織斑?白式がドレだけ呼びかけても気付きもしなかったくせに。
白式は事ある毎にお前の事を止めようとしてた、そんな事はしちゃダメだと、間違ってるから止めてくれと叫び続けてたんだぜ?――だってのに
テメェは何をした?
卑怯な手を使って、其処の馬鹿と一緒に鈴をリンチし、そいつを使ってラウラにプラスチック爆弾喰らわせて、挙げ句の果てには二人揃って夏姫
姉を殺そうとしやがった……テメェのやった事は、必死に呼びかけてた白式の静止の声を無視して、其の子の前で残酷行為を繰り返し見せつけ
たに等しいんだよ!
ハッキリ言って、白式は今までよく我慢したもんだぜ!!」
「一夏の言う通りだな。
まぁ、何にせよ此れ等の事は、今までお前達が『織斑千冬の弟』、『篠ノ之束の妹』と言う事で見逃されていた、或いは減刑されて来たツケだと
思って受け入れるんだな。」
「そうよね?
本当だったら貴方達二人は、鈴ちゃんへの暴行事件の時に退学になっていたっておかしくないんだから……まぁアレね、因果応報ってヤツ?」
――【或いは逆転有罪♪】
「楯姐さん、其れは合ってるような合ってないような……」
「当たらずとも遠からずかも知れないが、何となく違和感を感じてしまうな此れは。
だが、ISを起動出来なくなったのならば、お前達がIS学園に在籍している理由は何処にもないし、これ以上学園に居る事が出来ないのは確実
だろう――精々、司法の場で捌かれて相応の罰を受けると良い。」
「あぁ、其れなんだけどね箒ちゃん、その二人は退学させないから。」
「「「「え?」」」」
思わず間抜けな声が出てしまったが、コイツ等は退学させないのか楯無?
ISを起動出来ない連中をIS学園に置いておく理由が見つからないわ……さっさと退学にして、日本政府に身柄引き渡して、IS学園の彼是を表沙
汰にして裁きを受けさせるべきだろう。
特に今回の、アタシに対しての殺人未遂は学園の外で起きた事、もっと言うなら日本国内で起きた事だから如何足掻いたって逃げる事は出来な
いだろう?――日本に旅行に来た、或いは働きに来た外国人が、日本国内で罪を犯したら日本の法律で裁かれるのと同じようにな。
「確かに其の通りなんだけど、日本の司法の場には、厄介な事に『少年保護法』って言うのがあるから、その二人に厳罰を科すのは難しいのよ。
だから、敢えて退学にはしないで世界中の如何なる司法の力が及ばない治外法権である学園で裁くのが一番だと思わない?」
「成程、そう言う考え方も有るか。」
ふ、良かったな退学にならなくて。
だが、これからお前達に待っているのは、裁判とは名ばかりの救いのない断罪だ――仮に、お前達に弁護士を呼ぶ権利があったとしても、如何
足掻いても負けるしかない裁判の弁護を引き受ける弁護士など居ないからな。……まぁ、法外な依頼料を払えば、金目当てで引き受ける三流は
要るかも知れないけれどね。
まぁ、何にせよお前達は二度と陽の光の下を歩く事は出来ないだろうさ。
IS適性を失い、身体の自由も失い、家族も何もかも失った状態で、己のした事の愚かさを噛み締めて生きると良いさ、学園の地下の懲罰房でな。
さて、アタシ達の用は済んだ。これでお暇させて貰うぞ。
「ふ、ふざけるな!!こんな事、こんな事認められるかよ!!」
「そうだ!私と一秋は悪くない!悪いのは、私達の邪魔をするお前達だ!お前達が邪魔さえしなければ!!」
この期に及んで自分の非を認めないとは、最早呆れを通り越して感心してしまうわ……何と言うか、もう相手にするのも面倒だな、冗談抜きで。
口だけは動かせても、コイツ等は暫く真面に動く事すら出来ないんだから放置しても問題は無いから、此処からは一切無視だ。
朝食……まではまだ時間があるから、朝食前に一風呂浴びるか?
「あ、其れ賛成よ夏姫!
やっぱり折角温泉に来たんだから、入れる時に入っとかなきゃ損よね!特にここの温泉って、疲労回復だけじゃなくて美肌効果もあるみたいだ
から入り過ぎて悪いって事もないだろうし♪」
「美肌か……ウム、其れならば確かに入っても良いかも知れないな。」
「美肌ねぇ?鈴も箒も充分肌はキレイだと思うから、これ以上必要ないと思うんだけど……まぁ、男の俺とは感覚が違うって事か。」
「そう言う事だ一夏。」
そしてサラッと鈴と箒の肌を褒める辺り、お前は鈍感じゃないが無自覚に女心を刺激して行くやつだな?……もしもこれで鈍感の朴念仁の唐変木
だったら、無自覚にフラグを建てまくった挙げ句に後ろから刺されてたのは間違い無いわね。
っと、話は変わりますけど束さん、福音のパイロットをISRIに引き抜く事って出来ますか?
「可能だけど、何で?」
「いや、千冬さんがブリュンヒルデの雷名を使って、国際IS委員会にアメリカとイスラエルに対して厳罰を下させたそうですけど、イスラエルは未だし
も、アメリカにとって福音のパイロットは火種でしかないでしょう?
もしも彼女が自国に戻って、自分が福音のパイロットであった事を公表し、アメリカが自国の為に自身を斬り捨てようとしたなんて言う事を暴露さ
れたらアメリカはお終いですからね……そう考えると、彼女がアメリカに消される可能性がありますからね。」
「成程、言われてみれば納得得々得々セールだね。
OK、そう言う事なら福音のパイロットをISIRに引き抜く事にするよ。――福音のパイロットは軍属らしいけど、退役の記録なんて幾らでもでっち上
げる事は出来るからね♪」
其れは、普通は完全に犯罪なんだけど、今回は人助けと言う事でな。
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楯無、鈴、箒と一緒に温泉を済ませた後は、臨海学校最終日の朝食なんだが、最終日と言う事も有ってか、朝から豪勢だな此れは?
艶々の銀シャリと、特大の蛤の入った吸い物だけでも贅沢だと言うのに、今日水揚げされたばかりだと言う新鮮この上ない金目鯛と鰹と真鯛とサ
ヨリの刺身に、滅多にお目にかかれないイカの生き造りまであるんだから驚きだ。
しかもイカの生き造りで残ったゲソの部分は天婦羅にしてくれると言うんだから、豪華サービスこの上ないね。
まぁ、其れは其れとして……
「ねぇ、昨日何があったのか教えてよ鷹月さん!」
「だから、無理。ダメじゃなくて無理なの。
一つだけ言えるとしたら、昨日の事は国際問題に発展しかねない事だったから、私の口から軽々しく言える物じゃないんだよ……と言うか、もし
も言ったら、私も貴女達も3年間は檻の中だから。」
流石に昨日の事を聞いてくる奴が多いな?――まぁ、気持ちは分からんでもないけどね。
だが、昨日の事を話す事は出来ないな……今回の事は実際に国際問題となったと言えるからな――この事件のせいで、アメリカとイスラエルは
国際社会での立場を失くした訳だしね。
だからと言って、女子高生が納得するとは思えないがな。
「止まる筈がないわよ夏姫。
女子高生って言うのは、目ぼしいネタがあると、其処にまっしぐらですもの――昨日の事が気になっても仕方ない……ある意味で、女子高生の
正しい姿かもね。」
「成程、そう切り返して来たか。」
とは言え、アタシ達が話せる事は何もないから、これは噂が自然消滅するのを待つしかないか……時に楯無、金目鯛一切れくれないか?
「良いわよ?その代わり、夏姫の鰹を一切れ頂戴な♪」
「あぁ、良いぞ。」
こうして賑やかに朝食の時間は過ぎて――いよいよ学園に帰る時間がやって来たな。
「三日間、お世話になりました。」
「いえいえ此方こそ……来年もまた、お待ちしています。」
臨海学校は、後は学園に帰るだけ――朝食後の自由時間で、各々旅館の土産コーナーで土産を買ったり、近所の土産物店に足を運んだりして
臨海学校の土産を買っていたな。
かく言うアタシも、虚さんとオータムさんへの土産を購入したけれどね。
時に織斑先生、帰りのバスは何処でしょう?みたところ何処にも姿が見えないんですが……まさか、アクシデントがあって遅れてるとかじゃないで
すよね?
「ふ、そうじゃない。
どうせだから、学園への帰還は派手に行こうと思っただけだ。」
「派手に?……って、まさか!!」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
次の瞬間、巨大な何かが海から現れてくれたが……アレは、アークエンジェル!?――まさかとは思いますけど、学園までこれで帰る心算なので
しょうか?
「無論だ。
これほど安全な移動手段は無いし、アークエンジェルは機体其の物に可成り優秀な武装を搭載しているから道中襲撃されても対応する事が出
来るからな。」
「そう言われると確かにそうかも知れないですね。
束さん曰く、アークエンジェルの性能は既存の戦艦を遥かに凌駕するって事でしたから。……空飛ぶ戦艦って時点でアレですけど。」
でもまぁ、アークエンジェルの規模を考えれば、1年生全員が搭乗してもまるで問題ない訳だからね……暫し大天使に抱かれての至福の時を過ご
すのも悪くはないだろうし、内部の施設も充実してるから退屈する事も無いだろう。
「ハァイ、貴女が蓮杖夏姫かしら?」
なんて事を考えていたら、何時の間にかアタシの前にハニーブロンドの美女が……えっと、何方様でしたっけ?
「ナターシャ・ファイルス、福音のパイロットよ。
まずはお礼を言わせてくれるかしら?貴女達が、私と福音を助けてくれたのよね?」
「まぁ、結果論ではあるがな。」
若しも失敗していたら、お前は此処に居なかったかも知れないから気持ちは分かるけどね――だが、これから貴女はISRIの専属パイロットとなる
のだから、機会があれば一手お願いしようかな。
「ふふ、その機会がある事を願って居るわ――じゃあ、またね英雄さん。」
英雄ね……ガラじゃないが、そう呼ばれて悪い気はしないな――お前もそうだろう楯無?
「そうね、悪い気はしないわ。」
「だろう?……で、何をこそこそやってたんだ?」
「こそこそだなんて心外よ夏姫?彼女が現れたから、出て行くタイミングを失ってしまっただけよ。」
「あ~~……其れを言われると何も言えないな。」
其れで何用だ楯無?
「貴女にだけは私の本当の名前を教えておこうと思ったから、かな?
『楯無』と言うのは、更識の当主が代々継ぐ物であって本当の名前では無いのよ――悪い言い方をするなら、私は偽名で学園に在籍している
と言う事になるわ。
まぁ、其れは学園の方で適正に処理されてるから良いんだけど、貴女にだけは私の本当の名を伝えておきたかったのよ夏姫。」
「お前の本当の名か……其れは是非とも知りたいな?――お前の本当の名は何と言うんだ?」
「刀奈。其れが私の本当の名よ。」
刀奈か……うん、良い名前だな。お前によく似合っているよ。
「ありがとう。
其れで、お願いなんだけど、皆の前では兎も角、二人きりの時は私の事は刀奈と呼んでくれないかしら?――お母さんですら、刀奈と呼ぶ事は
無くなってしまったから、せめて夏姫には私の本当の名を呼んで欲しいのよ。」
「そんな事、OKに決まってるだろう刀奈……アタシはお前の恋人だぞ?」
「ふふ、そうだったわね。」
アタシ自身、己に百合要素が有った事に驚きだが、お前ならば良いと思ったのも事実だからな――マッタク、愛に性別は関係ないと言うのは誰の
言葉か忘れたが、其れは真理であり至言だったみたいだ。
で、アークエンジェル内で盛大なカラオケパーティや、ビンゴ大会が行われて、楽しいままにアークエンジェルは学園に到着し、此れにて臨海学校
はお終いだな。
色々有った上に死にかけたが、忘れられない思い出になったのは間違い無いわね。
――――――
Side:???
ふぅ、これで任務完了だな。
互いに全身装甲の機体を纏っていたから顔を見る事は出来なかったんだが、あの強さは相当なモノだ――大剣の二刀流と言うだけでも驚きなの
に、更には二刀の連結状態も見事に使いこなしていたからね。
加えてフリーダムのパイロットもまた超凄腕なのは間違いないだろう――ククク、今度は素顔で会いたいモノだな、夏兄さん。そして、夏兄さんの
今の姉である蓮杖夏姫。
次に会うまではそう遠くないだろうが、次に会うその時を楽しみにしているぞ!!――ふふ、待っていてくれよ夏兄さん♪
To Be Continued… 
キャラクター設定
・ナターシャ・ファイルス
『銀の福音』のパイロットだったアメリカ軍の女性兵士。福音とは心を通わせ合っており、互いに互いを大事なパートナーと思っていた。
福音の暴走時には自我を失っていたが、福音が沈黙すると同時に自我を取り戻した。
彼女の身を案じた夏姫の提案でISRIにスカウトされ、アメリカ軍を退役し、福音暴走事件後はISRIのテストパイロットとしての日々を送っている。
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