Side:夏姫


ライブラリアンの電波ジャックから三日が経ったのだが、意外にもライブラリアンは不意打ちの様な事はしてこなかった――一体何を考えているのか分から
ないが、不意打ちが無かったのは僥倖だ。
おかげで、此の三日間は存分に使う事が出来たからね。

まあ、其れは其れとしてだ……今現在、アタシと刀奈は学園の道場でスパーリングの真最中――アタシと刀奈の二人で、千冬さんと戦っている。
現役を退いてブランクがあるとは言ってたけど、それでもアタシと刀奈のコンビと互角以上に戦ってしまうとは驚きだ……ワールドパージの時の千冬さんが
モデルの暗殺者が如何に劣化版であったのかが良く分かると言うモノだな。



「あぁ、もう……私と夏姫が一緒に掛かっても押し切れないって、幾ら何でも強過ぎませんか織斑先生?」

「織斑計画唯一の成功例だからと言ってしまえば其れまでだが、其れを言うのならアタシだってプロジェクト・スーパーヒューマンの成功例なんだぞ……此
 れが『最高の人間』と『最強の人間』の差と言う奴か。」

「最高の人間は全てのステータスが百だとしたら、最強の人間は戦闘力だけ三百と言った所か?……確かに最強の人間として生み出された私の戦闘力
 は、早々超えられるモノではないのかも知れん。
 尤も、私と夏姫と言う人外と同レベルで戦えるお前に驚きだがな更識!」

「其れは、お褒めに預かり光栄ですわ、織斑先生!」



ホント、刀奈は如何なっているんだろうな?天然モノなのに、アタシと互角のレベルと言う時点で色々とオカシイだろ絶対に。
此れはアレだな、刀奈も束さんと同様に、天然のチートキャラと言う奴なのだろうな……こう、突然変異的に生まれた強個体的な感じの。……と言うか、そ
うでも無ければ説明が付かないしね。
まぁ、其れだけに頼りになるとも言えるんだけれどな。

「残り時間は一分か……千冬さん、現役時代の勘は取り戻せそうかな?」

「お前達に頼んだのは正解だったな?学園襲撃時に出た時は、少しばかり鈍った感覚があったのだが、大分勘が取り戻せて来た――此れならば、暮桜
 の試運転を含めても、期限までには充分間に合う。」

「全盛期の力を取り戻した世界最強……出来れば敵に回したくない相手ね。」

「ふ、其の全盛期を取り戻させてくれたのはお前達だがな!」



――ビー!!



此処でタイムアップ……結局お互いに決定打は与えられずか――二対一のハンディキャップマッチだと言う事を考えると、千冬さんの優勢勝ちと言った所
かな今回は。勝ち負けは関係ないけど。
だが、千冬さんが全盛期の勘を取り戻すだけじゃなく、アタシと刀奈も千冬さんとのスパーリングでレベルアップしたのは間違いないだろう。このスパーリン
グは双方にとって価値のある物だったみたいだわ。



「失礼します、織斑先生……って、何ですかこれぇ!?」

「山田先生?」

「何を驚いているんだ山田君?」

「さぁ?何ででしょうか?」

「織斑先生も更識さんも蓮杖さんも一体此処で何をしてたんですか!?
 何を如何やったら、道場の中がハリケーンが通過した後みたいになるんですか~~!?普通にスパーリングをしてたんじゃないんですか~~!?」

「「「あ。」」」


スパーリングに夢中で全然気付かなかったが、道場の中が酷い有様になっているな……中がこんな状態なのに、よく道場その物が壊れなかったモノだ。
外側に張り付けたPS装甲のおかげかも知れないが、内部は完全に作り直さないとダメだな此れは。

本日の教訓:人外が室内で戦ってはいけません。以上。










Infinite Breakers Break111
Before The Final Battle……』









道場内部のグランド・ゼロについては、後で説明するとして、山田先生は千冬さんに何か用事があったのではないのですか?何やら慌てていると言うか、
急いでいるような感じでしたが、緊急事態発生だったりします?



「緊急事態と言いますか何と言いますか、先程ドイツ国籍の軍用輸送機が学園に着陸許可を求めて来まして……その、乗っている方々は『我々はIS学園
 の援軍としてやって来た。』と仰ってるんです。
 只、其れが本当である証拠は何処にもないのでどう対応したモノかと思っていたら、通信相手の方が『織斑千冬教諭を連れて来てくれれば我々が敵で
 ない事を証明できる。』と言って……」

「其れで私を呼びに来たと言う訳か……ふむ、ドイツか。」

「ドイツからの援軍か……如何思う楯無?」

「現時点では何とも言えないけど、敵である可能性は可成り低いんじゃないかしら?
 もしもライブラリアンに付いた国が奇襲を仕掛けて来たのだとしたら、通信なんて事はせずに行き成り攻撃してくる筈だし、ISや戦闘機じゃなくて、輸送機
 が来たと言う点からも敵の可能性は低いわ。」

「通信で此方の気を逸らしている隙に、IS部隊を降下させると言う手段も考えられるが、態々千冬さんを指名して来る意味はない、か。」

「うむ、ボーデヴィッヒにドイツからの帰還命令は出ていないから、ドイツがライブラリアンに付いたとは考え辛いしな。
 山田君、通信相手の名前は聞いたか?」

「え?え~~と……確か、クラリッサ・ハルフォーフと言っていたような……」

「クラリッサ・ハルフォーフ、だと?フフフフ、そうかそうか、ハルフォーフの奴が来たのか!成程、其れならば私を呼べばと言うのも納得出来る。」



クラリッサ・ハルフォーフ……何処かで聞いた名前だが、誰だったかな?楯無、お前は分かるか?



「クラリッサ・ハルフォーフ……確か、ラウラちゃんが所属してる、ドイツの黒兎隊の副隊長じゃなかったかしら?」

「あぁ、そいつか。
 ラウラに色々と間違いまくってる日本文化を教えている、少し困った副官か……と言う事は、ラウラ同様に千冬さんのドイツでの教え子と言う事になる訳
 だな。」

恐らく本人には全く悪気はなく、恐らくだが日本の漫画やアニメで得た知識をそのままラウラに教えているだけなのだろうが、其れがそもそもにして間違い
だと言う事には気付いていないんだろうなきっと。
だが、千冬さんの教え子でラウラの部下ならば実力は生半可なモノではない筈だから、援軍だと言うのならば有り難いモノだわ。
輸送機で来たと言うのならば、一人ではなく、其れこそ黒兎隊とやらが全員で来た可能性は充分にある訳だからね。



「山田君、彼女達に着陸許可を出してやってくれ。私も着替えたら直ぐに発着場に向かう。
 何ならボーデヴィッヒを連れて行くと良い。ハルフォーフはボーデヴィッヒの部下だからな、上官の前で無礼は働くまい。」

「は、はい。分かりました。……念のためミューゼル先生と、オータムさんに付いて来てもらうようにします……強い人が味方に居るっていうのは、こう言う
 時に頼りになりますよねぇ。」



山田先生もIS操縦者としては、世界ランキングベスト10に名を連ねるレベルの強者だと思うけれどな。生身での戦闘は如何か分からないけど、少なくとも
身体能力は可成り高い筈だ。
運動音痴では、ISを動かす事など出来ないからね。

「アタシ達もシャワー浴びてから発着場に向かうとするか。」

「そうね。……何だったら、一緒の個室でシャワー浴びる?」

「其れをやったら、シャワー浴びるだけで終わりそうにないから辞めておこう。と言うか、教師が二人も居る前で、何を平然と言ってるんだ生徒会長よ。」

「はわわわわ……同じ個室でシャワーって……だ、ダメですよ更識さん、蓮杖さん!シャワールームの個室は一人用なので、其処に二人も入ったら、狭く
 て身動きが取れなくなっちゃいますよ!」



山田先生、突っ込む所は其処なんですか……まぁ、此の天然っぷりが山田先生の魅力ではあるのだけどね。
IS操縦者としての実力は間違い無く超一流レベルなのだが、それ以外の部分は何かと残念な部分が目立つ山田先生程『天は二物を与えず』の良い例と
言える人は居ないかも知れないな。
まぁ、世の中には一夏みたいに『神に溺愛されまくった』としか思えない人間も居るから、神様ってのは不公平な奴だとつくづく思うわ。イケメンフェイス、高
い身体能力に平均を上回る頭脳、女子のプライドを尽く圧し折るレベルの女子力の高さに加えて、美人で可愛い嫁が二人とかドンだけ勝ち組なのか。
世の男共から呪われても文句は言えんな一夏は。



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シャワーを浴びて着替えてから、アタシと刀奈も学園の発着場に。
既に件の輸送機は着陸していて、其処には千冬さんと山田先生、スコールさんとオータムさんにラウラ、そして黒兎隊と思われる女性達の姿が……ラウラ
と千冬さんに対し、先頭で敬礼をしているのがクラリッサかな?



「多分そうでしょうね。
 副隊長と言うのなら、ラウラちゃんの居ない黒兎隊では最高指揮官になる訳だから、その立場の人間が先頭に立つのは当然の事だわ……ラウラちゃん
 と織斑先生も軍隊式の敬礼を返しているしね。」

「意外と普通の敬礼なんだな?てっきり、ドイツの敬礼と言うのは右手を指先までまっすぐ伸ばすモノだと思っていたんだが……」

「其れはドイツ式じゃなくてナチス式よ。ドイツ国内で其れをやったら問答無用で逮捕されちゃうからね?
 実際にドイツでは、タクシーを拾おうとして右手を上げた外国人旅行者が逮捕されるっていう事が起きてるのだから……ドイツにとって黒歴史とも言える
 ナチスの彼是は、完全にタブーなのよ。」

「そうだったのか、覚えておこう。」





「我等ドイツ軍黒兎隊は、現時点をもってIS学園の指揮下に入ります!此れは黒兎隊の総意であります!
 我々は、軍内部の不穏分子の排除を命令されていましたが、其れが終わった後の事は特に何も言われていなかったので、独断でIS学園に協力する事
 を決め、此処にやって来ました!」

「随分と大胆な選択をしたものだなハルフォーフ少尉……いや、今は大尉だったか。」

「クラリッサ、良く来てくれたな?よもやお前達が援軍として来るとは思わなかったが……独断でと言うのは感心出来んぞ?
 ちゃんと軍の方に報告しておかなければ駄目だろう?……特に司令が心配なさるだろうに。」

「其れは分かっています隊長。学園に到着したら、報告しようと思っていたのであります。」



いや、其れ完全に事後報告だからダメなパターンだと思うんだがな?……ラウラの間違った知識の原因が彼女だと言う事を考えると、今回の事もまた、ア
ニメや漫画の影響であるのかも知れないわね。
日本が世界に誇る文化を、其処まで好きになってくれると言うのは嬉しいモノがあるんだが、アニメや漫画には真似してはいけないモノもあるからな?
カードで撃鉄止めたり、生身で成層圏に到達したり、柱放り投げて其れに乗って移動したり、相手の背骨ブチ折ってラーメンにしたりと色々な……その辺を
一度確りと教えた方が良いかも知れないわね、彼女には。



「黒兎より司令部へ。此方クラリッサ・ハルフォーフ。任務完了、反逆者は全員始末いたしました。」

『うむ、ご苦労だった大尉。……それにしても、君達が任務に当たったにしては随分と報告までに時間が掛かったようだが……何かトラブルでも?』

「いえ、何のトラブルもありません。
 ただ、IS学園に到着してからご報告をと思いましたので、時間が掛かってしまいました!」

『……大尉、私の聞き間違いでなければ、IS学園に到着したらと聞こえたのだが、君は、君達黒兎隊は、現在IS学園に居るのかね?』

「ハッ!任務終了後は即帰還せよとは言われておりませんし、我々黒兎隊は反逆者の言いなりになったフリをしていましたので、其方では脱走兵扱いに
 なって居ると思いましたので、脱走兵らしく勝手に行動してみました!
 その上で、ライブラリアンではなくIS学園に協力すべきと判断し、今此処に居る訳であります!」

『確かに黒兎隊は、表面上脱走兵扱いになっているが、其れは全て裏切り者を粛正する為のモノだから、其処までリアルにやらなくても良いのだがね?
 大尉、君から連絡が来たら事の真相を軍全体に説明する心算であったのだから……だがまぁ、もうやってしまったというのならば仕方ない。
 IS学園と言う事は、少佐や織斑教官も居るのだろう?』


「はい、此処に居ます指令。お久しぶりです、司令。」

「二年ぶりになりますか……無沙汰にしています、司令殿。」

『おぉ、ボーデヴィッヒ少佐に織斑教官か。
 此度は、ウチの者達が迷惑をかけてしまい申し訳ないが、やってしまった以上は仕方ない……今から帰還させると言うのも、彼女達の決意を無駄にす
 る事になるからしたくないからね。
 申し訳ないが、ハルフォーフ大尉以下、黒兎隊の事を宜しく頼む。』


「お任せを!黒兎隊の隊長として、クラリッサ達の事は確りと面倒を見ます!何よりも、援軍と言うのは有り難いモノですから!」

「ボーデヴィッヒの言う通り、数で劣るIS学園にとって、一個小隊分の援軍と言うのは正直有難いモノです――其れも、生半可な者達で無く、私が直々に
 鍛えた者達だと言うのならば尚更です。
 彼女達には確りと働いて貰いますよ司令。」

『うむ、存分に使ってくれたまえ。
 ハルフォーフ大尉、独断行動を行った君達には、本来の任務達成の褒章とは別に厳罰を下さねばならない所だが、今回に限っては独断行動を不問と
 する。
 その代わりに、君達に新たな任務を言い渡す……ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の指揮下に入り、IS学園の戦闘部隊の一員としてライブラリアン壊滅に全
 力を注ぐように!』


「ハッ!任務了解しました!良いな、お前達!」

「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」



……可成り強引で無理矢理な感じがしなくもないが、取り敢えず丸く収まったと言った所かな此れは――だが、千冬さんの言う通り、数で劣るIS学園にと
って援軍と言うのは有り難いモノだ。
しかも、ラウラが隊長を務めていた黒兎隊が来てくれるとは、嬉しい誤算と言う奴だよ。嘗て千冬さんに鍛えられた面々ならば、学園に来た頃のラウラと同
等クラスの実力はあるだろうからね。

「取り敢えず、貴重な援軍ゲット、かな?」

「そうね、生半可なモノではなく、現役の軍人が援軍として来てくれたと言うのは大きいわよ夏姫?
 ライブラリアンに屈した国がドレだけあるか分からない今、戦力はあって困る物じゃないけど、欲しいのは猫の手ではなく虎の牙ですもの。」

「……加わったの黒兎なんだが?」

「夏姫知ってる?兎が全力で跳ねる時の地面を蹴る力って、ミルコ・クロコップのハイキックよりもずっと強いのよ?……兎の本気の蹴りが下顎にクリーン
 ヒットしたらライオンやトラでも昏倒するでしょうね。」

「マジかオイ……」

草食獣の秘められた戦闘力恐るべしだな。……そう言えば、サイも最高速度は時速六十kmに達するらしいから、その体当たりはハリケーンミキサー並な
のだろうな。
ふ、援軍の黒兎達は、どこぞの戦車のエンブレムになってる両手に包丁を持ったピンクの兎を黒くして得物をナイフと拳銃にした感じだと言う訳か。



「失礼するが、貴女が蓮杖夏姫か?」

「ん?確かにアタシが蓮杖夏姫だが、其れが如何かしたか?」

「貴女がそうなのか……我等黒兎隊、此れより貴女の事を『お姉様』と呼ばせて頂きたい!」

「は?」

ハルフォーフに声を掛けられたら、行き成りぶっ飛んだことを言われた気がする……良し、ちょっと落ち着こうかハルフォーフ?何で如何して、アタシがお前
達黒兎隊から『お姉様』と呼ばれなければならんのだ?



「私の事は如何かクラリッサと!
 どうしてかと問われれば、隊長が貴女の事を『姉上』と呼んでいるからです!隊長の姉であるのならば、我々の姉でもあるので、『お姉様』と!!」

「そう来たか……あぁ、もうどこから突っ込めばいいのか分からないわアタシ。……一々、考えるのも面倒だ、好きにしてくれクラリッサ。」

「はい、好きにしますお姉様!」

「此れはまた、一気に妹が増えたわね夏姫?」



本当にな……一体誰が、一個小隊分の妹が出来ると予想出来ると言うのか?……ある日突然十二人の妹が出来た『シス○リ』もビックリだ。ドレ位ビック
リかと言うと、エクゾディアがゾークに瞬殺されたのと同じ位ビックリだよ。
シモンがエクゾディアを召喚した時には、『此れは勝った』と思ったんだけどな。
まぁ、アタシに妹が増えたのは良いとして、黒兎隊のISはラウラのシュバルツェ・レーゲンの同型機だとしても、ライブラリアン所有の機体とは性能差がある
のは否めないから、束さんに改造して貰う必要があるんだが、流石に残り三日で一個小隊分のISを改造すると言うのは束さんでも無理があるのではない
だろうか?



「ところがギッチョン、そうでもないんだな此れが!!」

「真・昇龍拳!」

「行くわよ……神龍拳!」

「ぺぎゃらっぱぁ!?」



突如現れた存在に、アタシの真・昇龍拳と楯無の神龍拳が炸裂してしまったが……現れたのは束さんだったのか――なら、アタシと楯無のダブルアタック
を喰らっても大丈夫だな。
こう言っては何だが、束さんのしぶとさは黒光りするGの百倍はあるだろうからね。



「フッフッフ、相変わらず良い拳だぜなっちゃん、たっちゃん……だけど、ちーちゃんのアイアンクローにはまだ及ばないね!
 って、そんな事は如何でも良いんだよ!黒兎の皆のISだけどね、ラーちゃんの機体が二次移行してる事を利用すれば、強化はそれほど難しくないんだよ
 此れが!
 ラーちゃんの機体は二次移行してるから、ラーちゃんの機体のコアと、黒兎隊の皆の機体のコアを同調して共鳴させれば、外部から二次移行を行う事が
 出来るんだよ。
 強制二次移行ならぬ、共鳴二次移行ってね!」

「其れはまた何とも、束博士だからこそ出来る反則技ですね?」

「其れは言ってやるな更識……束は存在その物が反則技みたいなモノだからな。こう言っては何だが、私はコイツが何の理由もなしに桜色の元気玉を作
 っても一切驚かん。
 何よりも、作って居そうだからな、自分専用のISであるレ○ジン○ハー○エク○リオ○をな。」

「いや、流石に其れは作ってねーからね?束さんは管理局の白い魔王じゃねーから……リインちゃんは、時々私を見て懐かしい思いに耽ってるみたいだ
 どさ。」



……突っ込み所は多数あれど、ラウラのシュバルツアストレイのコアと同調、共鳴させる事で二次移行を促すと言うのは良い手だな?
其れならば新たに改造する手間を省く事も出来るし、高性能であるシュバルツアストレイが一個小隊分誕生すると言う事になる訳だからな……束さん、其
の案グッドです。
黒兎隊の機体は其れで行くとして、ヴィシュヌ達の機体の方はどんな感じですか?三日もあれば、可成り改造出来たと思うんだけど。



「そっちも任せてよなっちゃん!
 代表候補後発組の機体は魔改造してるし、ちーちゃんの暮桜も魔改造してるし、スーちゃんとオーちゃんの機体も強化改造してる最中だからね!!
 特に、ちーちゃんが出て来るなんてのはライブラリアンでも予想外だろうからさ、アイツ等の驚く顔が目に浮かぶってモンだよ!!」

「ふ……貴女がそう言うのならば期待させて貰うよ束さん。」

黒兎隊の機体が共鳴二次移行を行い、更にヴィシュヌ達の機体を強化改造して、千冬さんの暮桜を改造して、スコールさんとオータムさんの機体にも強化
改造が施されていると言うのならば頼りになる事この上ないからね。
なんだろう、物凄く今更だがこの戦力があれば、世界を相手に喧嘩をしても勝てる気がするな。やらないけど。



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そして翌日。
アリーナでは、複数のISが飛び回っている――其れは言わずもがな、束さんによって魔改造された千冬さんの暮桜をはじめとした機体達だ……機体性能
を見る為の模擬戦な訳だが、ドレも此れも凄まじい機体スペックになってるみたいだな?
特に千冬さんの暮桜改め、レッドフレーム改は群を抜いている……最強のIS乗りが最強の天才が改造した機体に乗るとあそこまで凄いモノなのかと思わ
ざるを得ない。

「一夏、楯無、あの千冬さんに勝てると思うか?」

「無理に決まってんだろ夏姫姉……千冬さんの技術も勿論だけど、機体性能が凄すぎねぇかな?
 束さんが千冬さん用にフルチューンした機体ってのはあそこまで凄いモンなのかよ……機体の基本スペックは、俺達以上じゃないのか多分?」

「恐らくだけど、機体性能を其処まで引き上げないと、織斑先生の反応速度に機体が付いて行く事が出来なかったのかも知れないわね?
 あの織斑先生には勝てる気がしないわ……前に引き分ける事が出来たのは、織斑先生にブランクがあったのと、学園の打鉄を使っていたからなんだと
 痛感したわ。」

「だな。アタシもあの千冬さんには勝てる気がしないよ。」

二振りの日本刀に、大剣やトンファーブレード、弓のような射撃武器に変形するバックパックと言った武装をモノの見事に使いこなしている上に、ビームは
発射してから軌道を操作可能ってドレだけだマッタク?
恐らくだがレッドフレーム改には、束さんの持てる技術の全てが詰め込まれているのかも知れないな。
スコールさんのゴールドフレームと、オータムさんのデュエルも強化されてるみたいだが……デュエルをストライカーパック搭載可能にするとは大胆な改造
をしたものだな?しかも、搭載してるのはエール・ソード・ランチャーを統合したストライカーパックか。
元々特化型の兵装を統合したと言うのは、本来なら可成り使い勝手の悪いモノだと思うんだが、其れを見事に使いこなしてしまうオータムさんは流石の実
力者と言った所だね。



「僅か四日でこれ程の機体に仕上げてしまうのは流石姉さんだと思うのだが……コメット姉妹の機体があぁなるとは流石に予想出来なかったな。」

「いや、アレは予想しろって方が無理でしょ?
 二人で一つの機体を使うからって、まさか片方をストライカーパックにしちゃおうなんて発想、タバ姐さん意外に思いつかないっての。」

「だけど、あれならストライカーパックの運用はオニールに任せられるから、ファニールは本隊の操作に集中出来る。
 二人で一つの機体を扱うからこそのメリットがあの機体にはある……と言うか、改造前の機体だと、二人で一つのメリットがマッタクなかったから。」



簪、其れは言っちゃダメだ。多分『やってみたかったから』とかそう言う理由だと思うからきっと。
だが本当に、本体をファニール、ストライカーパックをオニールにと言うのは大胆な発想だとは思うな……まぁ、その発想を実現した結果、二機のISが背中
合わせにくっついてる様な異様な見た目になってしまっているんだが、コメット姉妹は使い易そうだから良いか。
他の機体も夫々の個性に合わせた調整がされているから、以前よりも戦闘能力は大幅にアップしてるのは間違いない。
黒兎隊の機体も、共鳴二次移行で、ラウラのシュバルツアストレイと同系統の機体になっているからな……ビームライフルショーティーだったり、ソードピス
トルだったりと、装備に違いがあるのは夫々の個性に合わせてと言う事なのかも知れないね。

「何にせよ、此れで此方の準備は略整ったな?欲を言うのならば、黒兎隊以外の援軍が欲しい所だが、無い物ねだりをしても仕方ないか。
 あの電波ジャック以降、各国はどんな判断をしたのか分かるか楯無?」

「ドイツは言わずもがなIS学園サイドだけど、中国、南北の朝鮮、ロシアはライブラリアンに下り、他の国は現状では中立の立場を貫いているわ。
 まぁ、冷静に考えれば何方にも付かないと言うのが最もベターな答えではあるのよ……何方に付いたとしても、付いた側が負けてしまえば、その国は全
 てを失う事になり兼ねないのだから。」

「あ~~~……ISRIに所属した時点で日本に帰化しときゃ良かったわアタシ。
 ライブラリアンに付くのは勝手だけど、負けたらどうなるかとか考えないのかしら中国のお偉いさんって?……いや、自分達に都合の悪い事なんて考えら
 れる筈がないわね……はぁ。」



心中察するよ鈴。
まぁ、いざと言う時には束さんに頼んでみると良いかも知れないぞ?束さんの手にかかれば一個人の戸籍を改竄する事なんて朝飯前だからな……きっと
今日中に国籍が日本になってる筈だ。
取り敢えず、ライブラリアン側の戦力の総数は此方よりも上なのは間違いないだろうが、戦力の質では果たしてどうだろうな――全ては三日後に明らかに
なるのだけれどね。



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其れからあっと言う間に時は過ぎて、今日は決戦前夜なんだが、何故かアリーナで大宴会が行われていた。
如何やら非戦闘員の生徒や教師達が、戦闘員であるアタシ達を出撃前にもてなすと言う事で開催してくれたらしいんだが、沢山の御馳走に飲み物も複数
用意されていてとても本格的だね。
大きな作戦を前に宴を開くと言うのは、映画でも見るシーンだが、実際に其れを体験する事になるとはね。

「決戦前夜に大宴会とは予想外だったが、楽しんでるか一夏?」

「おう、楽しんでるぜ夏姫姉。俺だけじゃなくて、鈴や箒も楽しんでるみたいだ……見てみろよアレ。」



「り、鈴。その巨大な骨付き肉は一体何だ?」

「皆の憧れ、一度は食べてみたいと思った事があるであろうマンガ肉!分かり易く言うなら原始肉よ箒。一度これを丸かじりしてみたかったのよねぇ!」

「此れはまた随分とワイルドに行ったわね鈴?」

「鈴の原始肉の迫力には負けるけど、ローストターキーレッグを丸かじりしてるマリアも充分ワイルドだからね?」

「あら、ワイルドなのは嫌いかしら静寐?」

「いえ、全然。寧ろウェルカム、寧ろ大好物です。」



ハハハ……うん、各々楽しんでいるみたいだな。
刀奈は虚さんと談笑しているし、コメット姉妹はステージ上で持ち歌をバンバン披露し、千冬さん達大人組は程よくアルコールが入ってるみたいだが、まぁ
飲み過ぎると言う事は無いだろうから大丈夫だろう。



「ほら、もっと食べなよ簪!あ、其れともステーキよりもスシの方が良かったかな?」

「あ、ううん。大丈夫だからグリフィン……」



さて、此処で少しばかり触れておきたいのが簪とグリフィンだ……何があったのかは知らないが、二日程前から急激に距離が縮まり、簪が年上であるグリ
フィンに対して敬称なしで呼ぶ様になっていた。
ホントに何があったのかは全く分からないが、アタシ達のあずかり知らない所で新たな百合カップルが誕生していたらしい……よもや簪がなぁ。
一夏の三人目の嫁じゃなくて、そっちに走ってしまうとは予想外だったが、簪は幸せそうだから何も言うまい……刀奈も、特別何かする心算はないみたい
だしね。

「……いよいよ明日だな一夏。」

「あぁ……ライブラリアン達を、俺達の手でぶっ潰してやろうぜ夏姫姉。」

「無論、言われるまでもないが……お前、一秋と戦場で会ったら如何する心算だ?」

アイツは何処まで行ってもクズ野郎だが、同時に何時までも自分がお前より上の天才だと思い込んでいる――そんなアイツが、戦場でお前の事を放って
置く筈がない。
確実にお前の事を狙って来ると思うんだが、その時お前は如何する?



「一秋の奴が俺の前に現れたその時は、容赦なく斬る。
 子供の頃俺を馬鹿にしてたのは兎も角、鈴をリンチした事と、夏姫姉を殺そうとしたことに関しては、俺は絶対にアイツを許さねぇ……今度こそ、二度と再
 起出来ない様に完全にトドメを刺すさ。
 箒もきっと、散の奴を同じようにするだろうからな。
 元家族とは言え、アイツは自らの手で堕ちる所まで堕ちちまったからな……だったら、最後の引導は俺がこの手で渡してやる。其れは、俺がやらなきゃ
 ならない事だ思うしさ。」

「そうか……覚悟は出来ていると言う訳だな。」

「おうよ。
 逆に聞くけど夏姫姉は如何なんだ?確実にイルジオンと戦う事になると思うんだけど。」

「そうだな……」

アイツとは、イルジオンとは一度全力で戦う必要はあると思ってるが、何だろうな?アタシはイルジオンの事を殺したくはない。
京都の時も思ったんだが、アイツは一秋達の様な下衆ではないし、アイツが望めば此方側に、日の当たる世界で生きる事だって出来る筈だからね……ア
タシは、イルジオンを殺せないよきっとね。



「夏姫姉はそう思ってても、アイツは本気で殺しに来るんじゃないのか?」

「だろうな……だが其れは、アイツが勘違いしてるからだ。
 アタシが今得ている物は、アタシが誕生しなければイルジオンが得ていた物だと思い込んでいるんだろう……だが、其れは違う。此れはアタシだから得
 られたモノであって、アタシが生まれなかったからと言ってイルジオンが得る事が出来たとは言えない。
 イルジオンには別の形で、アタシでは得られなかった日常を手にしていた筈だろうからね……其れに気付いていないんだよイルジオンはな。」

「其れって、盛大な勘違いの末の嫉妬なんじゃないのか?」

「有り体に言えばな。」

だが、只言葉をぶつけるだけではイルジオンも納得しないだろうから、先ずはお互いの持てる力の全てを出して戦ってから、よね。
まぁ、其れとは別に、イルジオンと本気で戦いと思っているアタシが居るのもまた事実だな――最初に会った時は女権団との戦いでの共闘だったからアレ
だし、二度目の京都の時は馬鹿共のお守りだったから、結局満足に戦う事は出来なかったからね。
次が三度目の正直か……今度こそ決着を付けようじゃないかイルジオン。アタシはお前を倒すけど殺さない……殺さずに倒して、そして救って見せる。
戦場で会おうな、姉さん。

宴は夜遅くまで続き、十一時を回った頃に漸くお開きになり、各自自分の部屋に戻って就寝となり――翌日、遂に決戦の日の朝がやって来たのだった。










 To Be Continued… 





キャラクター設定



・クラリッサ・ハルフォーフ
ドイツ軍黒兎隊の副隊長で、ラウラと同じ眼帯を着用している。
ドイツ軍内部の裏切り者を粛正する任務を遂行後、乗っていた輸送機でIS学園に向かい、IS学園に援軍を申し入れた。
日本のアニメや漫画が大好きで、それ等から得た大分間違った日本文化をラウラに教え込んだ張本人だが、本人は間違った事を教えたとは思ってない。
副隊長と言う事でその実力は極めて高く、ラウラに匹敵する実力を秘めている。
ラウラが夏姫の事を『姉上』と呼んでいる事から、彼女もまた夏姫の事を『お姉様』と呼び、序に黒兎隊全員がそう呼ぶ様になってしまった。