全国中学校剣道大会……今年から新たに追加された『男女混合個人戦』の決勝戦は此れまでにない盛り上がりを見せていた――まぁ、当然と言えば当然
だろう。
決勝戦を戦っているのは男子個人戦の優勝者である少年と、女子個人戦の優勝者である少女と言う文字通りの頂上決戦なのだから。
加えてこの二人は三年生である為、中学で出場出来る大会は此れが最後となる……其れだけに、此の試合に掛ける思いは大きいだろう。
「てぇぇぇい!せい!はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「…………」
その試合、果敢に攻めているのは少女の方であり、少年の方は防御に徹している――単純に其れだけを見ると、少女が少年を圧倒している様に見えるだ
ろうが、実はそうではない。
先に攻勢に出て来た少女に対し、少年は『見』に徹して彼女の剣筋をじっくり観察しているのだ、巧みな防御で決して有効打を与えさせずにだ――其れだけ
でなく、少年の冷静かつパ~~~フェクトォな防御で全ての攻撃を防がれている少女には次第に焦りが生まれ、攻撃もドンドン単調になって行き、動きも鈍
くなって行く。
因みに少年は防御に徹してはいるが、其れだけだと反則を取られてしまうので、反則が取られないギリギリの範囲で防御し、時々牽制程度の攻撃は繰り出
しているのだから抜け目ない。
「く……此れも防ぐとは……ならば、此れは如何だ!」
散々攻撃を防御された事で、少女の方はいい加減イライラして来たのか、『此れで決める』とばかりに大きく踏み込んでからの面を打ち込んでくる。
「冷静さを欠いた大技ってのは一撃必殺だ……お前にとってのな。」
だが、其れを待っていたとばかりに、必殺の面を放って来た少女に対し、少年は竹刀を横一文字に一閃!
『パァァァァン!』と音がした瞬間、少年は少女の胴を打った状態で少女の背後に竹刀を振り抜いた姿勢で立っていた……鋭く速く大きな踏み込みからの雷
光の胴に、審判も観客も一瞬何が起きたのか理解が及ばなかったが……
「胴あり、一本!赤、織斑一夏!」
主審が胴を決めた少年――織斑一夏の一本を宣言し、副審二人も赤旗を上げて一本を認定した事で一夏の一本勝ちが確定し、同時に優勝も決定。
既に男子個人戦で優勝を決めていた一夏は、この新種目をも制覇した事で全国大会二冠を達成したのみならず、『中学時代に出場した剣道大会の個人戦
で全て優勝する』と言う偉業をも達成したのだ。
「お疲れ一夏……見事な一本だったわよ?」
「うお、見てたのかよ刀奈……ってか、そっちの方はもう終わったのか?――結果はどうだった……ってのは、聞くだけ野暮だったかな?」
「うふふ、勿論優勝したわ♪
ボクシングで勝ち上がって来た猛者だったけど、投げられる経験と極められる経験のないボクサーじゃ、打・投・極の全てに精通してる天神真楊流柔術の
敵じゃないわよ。
カウンターの真空投げから三角締めでキッチリKO勝ちよ♪」
「お見事……と言いたい所だけど、出来れば刀奈が優勝する所を見たかったぜ。」
「同じ日に同じ武道館の別アリーナで行われてる大会じゃ中々難しいわよ……まぁ、私が優勝する所を見て貰えなかったのは残念ではあるけど、私は一夏
が優勝する所を見れたから嬉しいかな?
居合を応用した雷光の胴、カッコ良かったよ。」
「ハハ、サンキュ。」
試合を終えて舞台から降り、面を外した一夏に話し掛けて来たのは、袴姿で青髪が特徴的な少女――彼女も、出場した『中学総合格闘技大会・女子の部』
で見事に優勝したようだ。
少女の名は更識刀奈。
世界でも有数の大企業である『更識ワールドカンパニー』の社長令嬢であり、一夏の彼女だ。
因みに刀奈も今回優勝した事で、この大会を三連覇した事になる……一夏は剣道部で、刀奈は総合格闘技部で夫々敵無しである事もあり、『武闘派夫婦』
と呼ばれていたりするのだ。
「なんだよ、嫁さんが祝福に来てんのか?お前等ほんとにお似合いだぜ、織斑、更識。」
「ま、今のうちにイチャ付いとけよ?高校になったら離れ離れになっちまうんだからよ――更識は日本代表だから、高校は妹と一緒にIS学園だからな。」
「嫁とか言うなっての。其れにイチャ付くってなんだよ?今くらいのは普通の会話だろうが!」
「るせぇ、此れ位は弄らせろ!
顔はイケメンでスポーツ万能で、それで居ながら学力に関しても定期試験では常に二十番以内をキープしてる上に、こんな美人な彼女が居るとか、ドンだ
け神に溺愛されてんだテメェは!
少しくらい弄られて、俺等の留飲下げさせろ!」
「何その理不尽!?」
「あらあら、大変ね一夏?」
「刀奈、お前絶対此の状況楽しんでるだろ!」
仲間達とふざけ合いながらもしかし、一夏も刀奈も高校から離れ離れになる事は絶対に無いと確信していた――何故ならば、一夏には本人と刀奈を含む極
一部の人間しか知らない秘密があったから。
『織斑一夏は男性でありながら、女性にしか扱えないISを使う事が出来る』と言う、世界を引っ繰り返してしまうような秘密が。
そしてその秘密は、一夏が中学を卒業すると同時に世界に発信される事になっているので、一夏もまた刀奈と共にIS学園への進学が確定しているから。
夏と刀と無限の空 Episode1
『始まりの原初と物語の始まり』
そもそも何故に男である一夏がISを起動したのか?――其れは、一夏が中学一年の時にまで遡る。
第二回モンド・グロッソの決勝戦が行われたその日、一夏は妹の円夏と共に、姉である『織斑千冬』の応援の為にドイツの会場に来ていた。(ドイツ入りした
のは二日前。)
織斑千冬は、第一回モンド・グロッソでも優勝を果たしており、この大会でも二連覇は確実だろうと言われていた――何せ、千冬の強さたるや他の選手を一
切寄せ付けずに決勝戦以外の全ての試合を一分以内で終わらせた猛者なのだ。
決勝戦の相手だったスコール・ミューゼルが何とか互角に渡り合ったモノの、最後は千冬の専用機である『暮桜』のワンオフアビリティーである『零落白夜』
を叩き込まれて敗北したのだから。
と言う事は、千冬はISバトルの世界では知らない者は居ないレベルの超有名人であるから、その家族である一夏と円夏に観戦及び移動中の護衛が付けら
れたのは当然と言えよう。
移動中も会場内でも護衛が付いていたのだが、一夏が『ちょっと飲み物を買って来る』と席を立ったのが運命の分岐点だった――もしも此の時に、一人でも
護衛が付いて行ったら未来は変わっていたかも知れない。
一夏が『すぐ戻るから』と、護衛に付いて来なくても良いと言い、一夏は円夏にリクエストを聞いて売店に向かったのだが、それが間違いだった。
一夏に護衛が付いていない事を確認した何者かが一夏を強襲したのだ――如何に剣道その他諸々の武道で鍛えているとは言え、完全に気配を殺した状
態で背後から強襲されては対処しようがない。
十万ボルトのスタンガンを喰らわせられてアッサリとスタンしてしまったのだ……と同時に、偶然それを目撃してしまった刀奈もまた背後からの十万ボルト攻
撃を喰らってスタンし、見事仲良く誘拐されてしまったのだ。
次に一夏と刀奈が目を覚ましたのはどっかの倉庫みたいな場所で、確りと椅子にロープで身体を縛り付けられていた……刀奈は何故か上半身ブラオンリー
だったが、誘拐犯曰く『アーケード版ファイナルファイトのオープニングを意識した』との事。うん、意味分からん。
此の時刀奈は、上半身下着姿にされたと言う羞恥よりも、恐怖が感情の大部分を占めていた……如何に自分が天神真楊流柔術を修めているとは言え、身
体の自由が利かない上に多勢に無勢と言う状況は絶望的過ぎた。
誘拐犯達の目的は分からないが、目的が達成出来なかったその時は、自分達は殺される可能性が高いと言うのも恐怖の一因だっただろう。
だからこそ、こんな状況であっても器用に足で頭を掻く余裕のある一夏の事が気になった――だから聞いてみたのだ、『この状況が怖くないのか』と。
その刀奈の問いに対する一夏の答えは至ってシンプルだった。
「あのなぁ、俺の姉貴が誰か知ってるか?世界最強の織斑千冬だぜ?
俺は千冬姉の弟なんだよ……だから千冬姉の恐ろしさは誰よりも知ってるんだ――ぶっちゃけて言わせて貰うと、本気でキレた千冬姉以上に怖い物なん
ざこの世に存在しねぇんだよ!
本気でキレた千冬姉なら、ダイヤモンド・ドレイクでも人修羅でもZERO2の真豪鬼でも瞬殺出来ると俺は思ってるからな。」
一夏のこの一言には刀奈だけでなく誘拐犯一味も納得してしまった……確かに本気でキレた千冬以上に怖い物は無いのだろうこの世界では――だがしか
し、マッタク恐れをなさない一夏を快く思わない輩が居るのもまた事実。
誘拐犯のリーダー格らしき女性は、こんな状況でも落ち着き払っている一夏にむかっ腹が立ったのか、手にした待機状態のISで一夏を殴ってしまったのだ。
如何に待機状態とは言え、ISは待機状態でも可成りの強度を誇る――其れで殴られた一夏の頭は割れ、鮮血が溢れ出す……事はなかった。
何故かって?
「え?」
「嘘?」
「マジか!?」
待機状態のISで殴られたその瞬間に、そのISが起動して一夏が装着していたからだ――其れは、『ISは女性にしか扱えない』と言う常識が崩れた瞬間でも
あった。
まさかの事態に混乱する誘拐犯だったが、混乱していたのは一夏もである……まぁ、女性にしか起動出来ないISを男である自分が動かしたとなれば、混乱
するなってのが無理な話だ。
さて、予想外にISを起動してしまった一夏であるが、其の力を使って刀奈と共に脱出した!となれば、物語としては非常にカッコいいのだが、現実ではそうは
簡単には行かない。
ISを起動したとは言え、一夏はそもそもISの動かし方すら分からないのだから起動した所で何かが出来る訳でもないのだ――起動したのが刀奈であったの
ならば、誘拐犯の隙を突いてこの場から脱出する事も出来ただろう。刀奈は、日本代表になるために日々研鑽を積んでいたのだから。
だが、現実は非常だ――一夏はISを起動したとは言え如何して良いか分からない上に、ISの武装は生身の人間には一切効果が無いから、この場からの離
脱は出来ても犯人を制圧するのは難易度がクッソ高い。
如何したモノかと思ったその瞬間に現れたのは、倉庫の扉を蹴破って現れた黒髪黒目の青年――澤稼津斗だった。
後から聞いた話では、偶然誘拐現場を目撃し、千冬にその事を伝え、必ず助けるからアンタは試合に集中しろと言って、現場に急行してくれたのだ――そし
てその戦闘力は凄まじく、武器を持った誘拐犯を殆ど無傷で鎧袖一触!
リーダーである女性に『瞬獄殺』を叩き込んだのは目の錯覚と言う事にして行こう。
まぁ、そんな訳で一夏も刀奈も無事に救出されたのだが、一夏がISを起動したと言う問題があった――此れは如何したモノかと、千冬も円夏も頭を悩ませた
が、刀奈が『一夏の身柄を更識ワールドカンパニーで保護し、一夏の中学卒業と同時にISを起動出来ると言う事を発表しては如何か?』と提案した事でアッ
サリと解決してしまった。
何よりも、更識ワールドカンパニーには名を偽った束が居るから不安が無かったと言うのも有るだろう。――因みにこの時の縁があって、後に千冬と稼津斗
は交際関係に発展している。
そんな事もあって、一夏は中学時代は更識ワールドカンパニーでISの事を学びながら実践訓練を行いつつ、学業と部活も熟すと言う中々ハードな生活を行
っていたのだ。(因みに一夏がISを動かす以前から、妹の円夏はIS乗りとしての訓練を行っており、更識姉妹と共に日本の代表候補になっている。)
だが、一夏は決して弱音を吐かずに、学校生活とISの訓練を続け、そして何時しかその生活を楽しむようになっていた。――元々一夏は『どうせやるならトコ
トンやる』と言う考えを持って居た為、ISを動かせるのなら其れを極めてみようと思ったのだ。
何よりも、日々上達していく事が実感出来る事が、一夏には楽しくて仕方なかったのだろう――好きこそ物の上手なれと言う言葉があるが、それを体現した
かのように、訓練を始めてから半年が経つ頃には、一夏は高等技術である『イグニッションブースト』を体得するに至っていた。
そして、そんな一夏の姿は刀奈の心に大きな印象を刻み付けていた。
元より刀奈は、誘拐されても決して動じない一夏の心の強さに頼もしさを覚えていたのだが、一夏が更識ワールドカンパニーでISの訓練を、弱音も吐かずに
ストイックに行う姿を見て、何時しか一夏に好意を抱くようになっていた。
刀奈自身、日本の国家代表を目指してISの訓練を行って来たから、その訓練が簡単なモノではないのは重々理解しているが、一夏が行っている訓練は自
分や簪、そして円夏が行ってきたモノよりもずっとハードなモノであり、学校が休みの土日は略丸一日ISに費やしていると言っても過言ではなかった……そ
んな一夏の事を、刀奈は自然とサポートするようになっていた。
座学では専門用語を分かり易く説明し、実践訓練では何度も模擬戦の相手を務め、訓練の後は反省会を行って問題点を洗い出して、一夏の成長に貢献し
たのだ。
此の献身的な刀奈に、一夏が惹かれるようになったのは当然の成り行きだろう――少し悪戯っ子なところもあり、一夏自身刀奈の悪戯を喰らった事は数知
れないが、刀奈の悪戯は全てが『笑って済ませられる』レベルの物であり、人の道を外れる様な事だけは絶対にしなかった事から、一夏は刀奈の悪戯すら
『可愛いモノだな』と思っていた。
だから、互いに惹かれ合う二人が、一夏からの告白で交際するに至ったのは至極当然の事であったと言えるだろう――まぁ、交際する事になったらなった
で、円夏や簪に盛大に弄られる事になったのだが、其れは一種の御愛嬌だろう。
因みに一夏と刀奈は普通に『恋人繋ぎ』で手を繋ぐし、デートもするが、未だにキスだけは出来ないでいた――と言うか、しようとすると必ず邪魔が入って出
来ない状態が続いていた。
それはさておき、『インフィニット・ストラトス』と言う『作品』を知っている読者諸氏は、刀奈について『楯無じゃなくて刀奈?』と思っている人も居るだろう。
だが、この世界は弓弦イズル氏によって生み出された『インフィニット・ストラトス』と言う『創作』の世界ではなく、『インフィニット・ストラトス』通称『IS』と言うマ
ルチパワードスーツが存在している『現実』なのだ――なので創作の『インフィニット・ストラトス』(以下原作と表記)とは異なる部分がある。
その一つが更識家だ。
原作では日本の暗部であるが、この世界では暗部としての更識は存在せず、世界有数の大企業となっている――まぁ、暗部組織が現実には存在しないと
は言わないが、問題は原作の彼女が『第十七代更識楯無』だった事だろう。
令和となったこのご時世でも、家系を五~七代遡れば、御先祖様は明治を通り越して江戸時代だ――其れを考えると十七代も遡った初代の楯無は何時代
の人間になるのか?
原作の彼女の様に若くして楯無を襲名した者が他に居たとしても、十七代とは相当であり、最低でも徳川が天下を取る前後辺りで暗部組織として存在して
居なければならないのだが、其れだと現在まで暗部家業が続いているのは無理があるのだ。
幕府側の組織であったのならば維新の際に明治新政府によって幕府方の組織は解体され、逆に天皇側の組織であったとしても第二次世界大戦終結後に
GHQによって組織が解体され現在まで存続するのは不可能なのだ。
仮に戦後に組織されたとしたら、戦後八十年足らずの間に一体どれだけ代替わりしてんだって話になるので、十七代更識楯無は、創作の世界で存在しても
現実にはぶっちゃけ有り得ないのだ。
そして、原作と異なるのは其れだけではない。
まずこの世界では『白騎士事件』は起きておらず、束はISを学会に発表する際に、会場を国立競技場にして、其の場で自分が最初に作ったIS『白騎士』を纏
った千冬に、超強力な空気砲で『壊れたブロック塀』、『破損した植木鉢』、『壊れた傘』を次々と打ち出して其れを撃破させ、更には一万mの水圧にも耐えら
れる水中カメラを千冬に持たせて、ISでの深海探索までやってのけたのだ……因みにこの時の千冬は『有人で海の最も深い場所まで潜った人物』としてギ
ネス認定されており、序に新種の深海生物を五種類ほど発見した。
この圧倒的な性能によりISの存在を認めさせたが、その性能故に『兵器として利用されるのでは?』と言う懸念も生まれた――が、其処は自称『正義のマッ
ドサイエンティスト』の篠ノ之束、その対策もバッチリしていた。
其れは、『ISの攻撃はIS以外の人工物と人間には効果が無い』と言うモノ――つまり、ISの攻撃はISにしか通用せず、他の如何なる人工物と人間には無力
であるように作っていたのだ。
此れではISを兵器として利用する事は出来ないだろう――ISはISでしか倒せないなら未だしも、ISの攻撃はISにしか通じないとなれば、大凡兵器として使用
する事は出来ないのだから。
尚、ISの攻撃は災害現場の瓦礫や、隕石、宇宙ゴミに対しては有効である事を付け加えておく。
だが、ISの攻撃はISには有効と言う事に目を付ける輩は居る訳で、この超高性能のマルチパワードスーツ同士が戦う『ISバトル』はプロレスや各種スポーツ
に負けず劣らずのエンターテイメントになるのではないかと考える者が現れたのだ。
束としては本来の目的からズレているので若干不満はあったモノの、『戦争に使われる訳じゃないから、其れ位は良いか』と『ISバトル』を容認し、その結果
『ISバトル』は人々にとっての最高の娯楽の一つとなって行った。
もう一つ原作と異なるのは、この世界は『女尊男卑』の風潮が広まってない事が上げられるだろう――ISは、生みの親である束ですら分からない『女性にし
か扱えない』と言うバグが存在するが、だからと言って女尊男卑の風潮が広まるだろうか?
答えは否だ。
ISバトルも、ISでの宇宙活動も女性にしか行えない事ではあるが、だからと言って女尊男卑になるだろうか――日本には、未だに女性が土俵に上がる事を
禁じてる『相撲』があるんだぜ?
女人禁制の『相撲』が有るからと言って男尊女卑にはならないだろう――其れと同じ理由で、『ISは女性にしか扱えない』と言う理由で女尊男卑の風潮が広
まるとかは普通にない。
と言うかそんな風潮が広まってしまったら、ISその物が衰退の一途を辿る事になるだろう――今では、女性も其れなりに進出して来たとは言えども、機械整
備はマダマダ男性の仕事なのだから。
そんな状況で女尊男卑の風潮が蔓延し、男性排斥なんて事をしたら、ISの整備を行う人が居なくなり、ISはあっと言う間にアボーンしてバーンしてドバーンと
なって廃れて行っただろう。
故に、現実には女尊男卑の風潮は蔓延しなかった――女性にとってISを使える事が一つのステータスにはなったが、だからと言って女尊男卑と言った考え
が蔓延する事はなく、寧ろそうした考えを持つ勘違い女性は社会から白い目で見られるようになったのだった。(尚、ISコアは束にしか作る事が出来ないの
で、原作同様に束は国際手配となったのだが、名を偽って更識ワールドカンパニーに入り込んで、各国の追跡を躱している。)
話が少しではなく大幅に逸れたが、一夏が中学を卒業すると同時に、更識ワールドカンパニーは新型機のお披露目と同時に一夏の事を『世界初となるISの
男性操縦者』として発表し、一夏が四月からIS学園に通う事を確定させた。
余談だが、此の発表で紹介された一夏は日本刀型のISブレードを左手に持ち、右手で前髪をかき上げていたのだが、その背に刀奈が寄りかかって、ウィン
クしてたのがベストショットとなり、翌日のスポーツ紙の一面を飾った事を記しておく。
だが、一夏と言うイレギュラーが現れた事で、世界中で『織斑一夏以外にISを動かせる男性が居ないか?』との調査が行われたのは当然の成り行きだと言
えるだろう――『ISを動かせる男性』が居れば、其れだけで国のステータスとなるのだから。
そして、その調査の結果、一夏に続いて一人だけISを動かせる存在が見つかった――其れは一夏と同い年の日本人で、その名を『正義陽彩(まさよしひい
ろ)』と言った。
――――――
突然だが世界で二人目のIS操縦者となった『正義陽彩』――『正義ヒーロー』とも読めるふざけた名前を持った彼は、『転生者』である。二次創作なんかで良
く見る転生者だ。
今でこそ『金髪赤目の超イケメン』であるが、前世の彼は引きニートのキモオタデブであり、イケメンとは程遠い存在だった――成人しても定職に就かず、親
の脛齧りをして、自分の趣味に邁進していた可成りの屑人間だなのだが、そんな彼の人生は唐突に終わりを迎えた、
引きニートのオタク生活に加え、ジャンクフードを貪り、酒を喰らい、タバコを煽っていた彼の身体はある日、心筋梗塞と脳卒中を併発して、敢え無く墓地送り
となったのだが、死んだ彼の前に『神』を名乗る存在が現れ、『別の世界に転生してあげるよ、特典付きで』とか言われたので、彼は其れに飛びついた。
それが『インフィニット・ストラトス』の世界だと言うのも大きかっただろう――だから、彼は『一夏をアンチして一夏ハーレムを俺の物にしてやるぜ!』と言う最
低にして最悪の考えを持ってたのだ。ガチで最悪だなマジで。
特典として、『チートな頭脳と身体能力』、『超イケメンな容姿』、『俺の専用機はダブルオーライザー』を貰って転生したのだが、彼を転生させた神は実は『見
習い』であり、そうであるにも関わらず勝手な事をしたと言う事で、最高神である『ラーの翼神竜』に『ゴッドフェニックス』でキッチリお仕置きされ、陽彩の転生
特典にも制限が加えられる事に。
イケメンな容姿は兎も角、チートな頭脳と身体能力に関しては、其れを維持する為のトレーニングをしなければ劣化するようになり、専用機に関してもダブル
オーライザーからガンダムエクシアへと弱体化したのだった。まぁ、其れでも充分機体としては強いけど。
だが、そんな事は露知らない陽彩は、一夏ハーレムを自分の物にすべく色々やっていた――箒とは同じ学校ではなかったが、小学四年の時に箒が転校し
て来た事も嬉しい誤算だった。
陽彩はこの時、一夏と別れて傷心状態だった箒に近付き、(チートを駆使した)剣道の強さを見せつけて、箒の中の一夏と言う存在を自分で上書きしたので
ある――其の結果として箒の行為のベクトルを自分に向ける事に成功した。
とは言っても、一年後に箒は再び転校してしまったのだが、其れと入れ替わりの様に中国から『凰鈴音』が転校して来て、陽彩は原作の一夏よろしく、虐め
っ子達のターゲットになった鈴を助けて、鈴からの好感度も得るに至った。
此れで原作のヒロイン二人を落とした陽彩だが、其れだけで満足はせずに、『セシリアもシャルもラウラも俺のもんだ!一夏テメェは死ね!』の思考の元に一
夏がISを起動する日を心待ちにしていた――一夏がISを起動すれば、世界的に『ISを扱える男性が他にも居るのではないか?』との考えが世界中に蔓延し
て、他に男性でISを起動する者が居ないかと言う調査が行われるのは必然であり、結果として正義陽彩は、『二人目のIS男性操縦者』として世界中の人々
に認知され、IS学園に通う事になったのだ。(因みに陽彩は、更識ワールドカンパニーの発表は見ておらず、一夏が企業代表だと言う事は知らない。果たし
て此れが幸か不幸かは分からないが。)
さて、そんな二人目の彼だが、現在絶賛混乱中であった――別に女子の視線に当てられたと言う訳ではない。クラス内に一夏が居なかったからだ。
「(何で、如何して、一夏が居ねぇんだよ!!)」
IS学園での初日、陽彩は一年一組に配属された――其れを知った陽彩は歓喜した……此れで一夏と同じクラスだから、一夏を圧倒的な力でねじ伏せて俺
TUEEEEEEEして、ヒロインを全部奪ってやるぜと。……考えてる事が可也最悪で最低だコイツ。
だが、クラス内に一夏は居ない――箒とセシリアの姿は確認したが、一夏は居なかったのだ。
『事情があって遅れているのか?』とも考えたが、クラス内に空席は無かったのでその可能性は否定された――だけでなく、よくよく見れば一夏だけじゃなく
て、皆大好き『のほほんさん』や、アニメと原作にも登場していた『ネームドモブ』の姿すらない。
「(でもって何で、カナダの双子が居るし!!)」
加えて、原作知識を持つ陽彩からしたら、今この時期には居ない筈の『アーキタイプブレイカー』のキャラがクラスに居たのだから大混乱しても仕方ない事だ
ろう。
一夏が同じクラスでなければ、クラス代表決定戦で一夏を蹂躙して『俺TUEEEEEE』が出来なくなる上に、原作では居る筈のキャラが居なく、居ない筈のキャ
ラが居ると言うのは不安極まりなかった。
だが、一夏が居ないのなら、クラス代表決定戦でセシリアの好意を自分だけに向けさせる事が出来ると言う、如何しようもない思考の元に深く考える事を辞
めて、女子にモテるイケメンを演じる事に集中するのであった。
因みにこの後、山田先生が登場して挨拶をしたのだが、挨拶を返したのがコメット姉妹だけだったのを見て『高校生にもなって、挨拶も真面に出来ない子ば
かりなんですかねぇ?』と絶対零度の『人を殺せる笑み』で言われ、慌てて他の生徒も挨拶し直したと同時に、『この人は怒らせてはアカン』と実感したとか。
序に陽彩は『こんなキャラじゃないだろ山田先生!』と内心思い、原作との違いに又しても突っ込みを入れていた。
言っとくけど、お前の原作知識、ハッキリ言って役に立たねーと思うよ。
――――――
さて、二人目が一組で混乱したりしてた頃、一夏は何をしてたのかと言うと……
「えぇ~!織斑君、ISの稼働時間三千時間超えてるの!?」
「まぁ、IS動かせるって分かった時から、暇さえあれば知識叩き込むかIS動かすかしてたからな……其れに、将来的には企業代表が確定してたから相応の
実力は付けとこうと思ってさ。」
「一夏はやるとなったらトコトンだもんね?日本代表である私達よりも稼働時間で言うなら上よ。」
クラスメイト達と談笑していた。
一夏のクラスは四組であり、妹の円夏、彼女である刀奈とその妹の簪も同じクラスだ。序に言うと、皆大好き『のほほんさん』や、原作でのネームドモブの皆
さんも仲良く四組である。
一夏がクラスメイトと談笑する事が出来ているのは、刀奈の存在が大きいだろう――彼女が一夏と普通に話していた事で、クラスメイト達は一夏を好奇の目
で見る事を早々に止めて、実際に話し掛けてみる事にしたのだ。
その結果として、一夏は別に話辛い相手ではなく、寧ろ人当たりの良い人物であると理解し、こうして普通に会話するに至ったのだ。
「だけどちょっと残念。織斑君、既に更識さんのお姉さんの方と付き合ってたなんて~~~!フリーのイケメンが来たと思ってたのに!!」
「クラス唯一の男子が、実は彼女持ちでしたとかこの世に神は居ないのか!?否、神は死んだのか!?」
まぁ、其の中で『一夏と刀奈が付き合ってる』事が知られ(と言うか、刀奈がぶっちゃけた。)、若干カオスディメンションになってはいたが、其れもまた御愛嬌
と言えるだろう。
だって本気で言ってる訳じゃなくで、ノリに任せたおふざけなのだから。
「はい、其れじゃあホームルームを始めるから皆席について。」
そんな中、扉を開けて入って来たのはモデルの様な美貌が目を引く金髪の女性……なのだが、その服装は何故かジャージ。其れも、ピンクな上に缶コーヒ
ーの『BOSS』のパロディ商品である『BOZU』のジャージである。
これを見た四組の生徒は『この人、美人だけど服装のセンスが残念過ぎる』、と心がシンクロしていた。
「先ずはIS学園に入学おめでとう。私はこのクラスの担任を務めさせて貰うスコール・ミューゼルよ。宜しくね。」
「「「「「「「「「「よろしくお願いします。」」」」」」」」」」
まぁ、だからと言って担任の挨拶に無言と言う事はなく、ちゃんと返しているのだから問題は無いだろう……一組の連中も、最初から返していれば要らぬ恐
怖を味わわなくて済んだと言うのにね。
其処からはまぁ、自己紹介と言う流れになったのは当然の事で、出席番号的にも割と上の一夏には直ぐに順番が回って来た。
「織斑一夏です。知ってる人も多いと思うけど、何の因果か男なのにISを動かした事で此処に居ます。
つっても、俺自身はISを動かせる事以外は、何処にでも居る男子高校生に過ぎないから、気軽に話しかけてくれ――其れと、俺はかの織斑千冬の弟だか
ら、千冬姉の秘密エピソードも色々知ってるので、個人的に聞きたい人はLINEで質問してくれると助かるぜ。
趣味は、ゲームとようつべ視聴とトレーニングと家事全般、特に料理。取り敢えず、宜しくな。」
で、この様につかみバッチリの自己紹介をしてターンエンド……『オイ、姉の秘密を暴露するな?』、と突っ込みを入れたくもなるが、次に自己紹介をした円夏
も『姉弄り』をぶっこんで来たので、一夏と円夏にとっての『姉弄り』は鉄板ネタなのかも知れない。
調子に乗ると『千冬ゴッドハンドクラッシャー』が炸裂するとは分かっていても、やめられない止まらないカッパエビせんなのだろう。――こんな事が出来るの
も真に仲が良い事の証だろう。
こうして恙なく自己紹介は進み、最後に一夏の護衛として更識ワールドカンパニーから出向している『オータム・アーミア』が自己紹介をしてホームルームは
終わり、其のまま一時限目に突入したのだが、特に問題はなく授業は進んだ。
同刻、一組の陽彩は専門用語だらけの授業に全く付いて行けず、『チート頭脳がある筈なのに何で分からねぇんだよ!』と思っていたとか……幾らチートな
頭脳でも、知識として全然知らなきゃ意味ねぇんじゃね?とは言うだけ無駄か。――まぁ、恨むならチートを当てにして事前に渡された参考書を全く読まなか
った自分を恨むんだな。自業自得乙!
休み時間は特に何もなく、精々回りが女子だらけの環境に若干疲れた一夏を刀奈が扇子で仰いで癒していた程度だ――その扇子に『頑張れ男の子』と書
かれていたのはエールなのかネタなのか。
まぁ、そんな刀奈を一夏がハグした事でクラス内から黄色い悲鳴が上がったりしてたのだが、当人達は幸せそうだから良しとしよう。末永く爆発してくれ。
で、二時限目なのだが、担任のスコールが『この時間はクラス代表』を決めると言ってくれやがったんですよえぇ。其れも、『自薦他薦』問わずって形でね!
そうなれば当然……
「はい、織斑君を推薦します!」
「私も織斑君を!」
はい、一夏君大人気。
まぁ、男子って言う希少価値だけでなく、ホームルーム前に『ISの稼働時間が三千時間』と言うのも効いているのだろう――稼働時間だけで言うのならば日
本代表の刀奈、簪、円夏の倍なのだから。
だが、一夏が居るとは言っても、このクラスには日本代表が居るのだから其れを推薦しない手は無いだろう。
「私は更識のお姉さんを!」
「更識さんの妹の方を推薦します!」
「織斑君も良いけど、妹の織斑さんだって行けるっしょ!」
一夏だけでなく、刀奈、簪、円夏を推薦する声が次々と上がり、此の四人で代表を争う事になったのだが、如何なる方法で代表を決めるかが問題なった。
決選投票を行えば、略間違いなく一夏が勝つので其れは却下だが、だからと言ってジャンケンやクジで決めると言うのもなんか違う気がするので、ヤッパリ
却下。
如何したモノかと悩んでいた時、声を上げたのは一夏だった。
「だったら、ISバトルで決めようぜ?
クラス代表なら、それ相応の実力がある奴が務めた方が良いだろ?俺と刀奈と円夏と簪でISバトルをやって、一番成績が良かった奴がクラス代表をやる
って事で如何だ?そしてクラス代表になった奴は副代表を決める権利を得る――分かり易いだろ?」
どうせだったらISバトルで決めようぜと言うのは、クラスメートのハートをガッチリと掴み、満場一致でその案が採用され、一週間後の放課後にクラス代表決
定戦が行われる事になったのだった。
奇しくも一組でもクラス代表争いが勃発し、ISバトルで決める事になったのだが、四組とは違いイギリス代表候補のセシリアが女尊男卑な発言と日本を貶め
る発言をした事で陽彩が其れに反論して、流れで決闘と言うどうしようもない展開の果てだったのだが。
その後は何事もなく初日が終了し、一夏達は此れからの生活の場である学生寮に向かっていた。
原作では放課後に寮生活である事を知って、散々な目に遭った一夏だが、この世界では入学前に寮生活になる事を聞かされていたので、事前に生活に必
要な物+趣味の彼是を学園宛に郵送していたので問題は無かった。
そんな一夏の寮部屋は『1030』であり、同居人は刀奈だった。
「知らない女子との相部屋だったら勘弁だったけど、刀奈だったら安心だな。」
「えぇ、私も一夏と一緒の部屋で嬉しいわ……お義姉さんが手を回してくれたのかしら?」
「かもな。」
此の部屋割は寮長である千冬の計らいだったのかも知れないと思い、一夏と刀奈は千冬に感謝した――一夏からしたら見知らぬ女子との相部屋では、気
が休まらないし、刀奈としては見知らぬ女子が一夏と一緒に居ると言うのは不安だったのだから。
「つっても、流石に今日は疲れたから、シャワー浴びて寝たいぜ……勿論、夕飯食ってからだけど。」
「クラスメイトは全員女子って言うのは一夏でも堪えたみたいね?」
「そりゃそうだ……刀奈のおかげで、好奇の目に晒されないで済んだけど、同じクラスに男子が居ないってのがこんなにもキツイとは思わなかったよ。」
だろうね。その環境は普通に死ねるからな。
其れでも、笑顔でそんな事を言うあたり、一夏はこの環境を『嫌だ』とは思っていないのだろう――『まぁ、此れも仕方ねぇよな』程度にしか思っていないから
こそ、笑顔で言えるのだろう。
その後は、ルームシャワーは何方が使うか、ベッドはどっちが窓側を使うかなどを決めた後に、食堂で夕食を摂った後にシャワーを浴びて、就寝時間になっ
た――シャワーの時に、先に浴びた刀奈がバスタオル一枚で出て来た事に一夏が突っ込み、シャワーを浴び終えた一夏がベビードール姿で居た刀奈に此
れまた突っ込みを入れ、刀奈が笑っていたのも平和な光景と言えるだろう。取り敢えずベビードールはエロいとだけ言っておく。
そんな感じで怒涛の一日が終わり、一夏と刀奈は『お休み前のハグ』をしてベッドに入り、IS学園での初日は幕を閉じたのだった。
尚、この日、部屋番号『1025』からは、凄まじい怒声と、扉を貫通した木刀が見えたらしいが、其れは別にどうでも良いだろう――だって其れは、陽彩が原
作を再現しただけだったのから。
尤も、陽彩と同居人の箒には、要らぬ騒ぎを起こしたと言う事で、千冬ゴッドハンドクラッシャーが炸裂したのだけれどね。ま、精々頑張るが良いさ転生者。
To Be Continued 
キャラクター設定
・正義陽彩
所謂一つの転生者。
神(見習い)の手で転生し、チートな転生で俺TUEEEしてハーレムを築こうとしてる中々に最低なクズ野郎であり、自分がオリ主だと思ってる勘違い野郎。
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