――― 新暦76年2月  管理外世界ズラール カハーゲル研究所跡地 ―――

 

 

事件解決後、漸く事後処理も終わり落ち着いた頃。  

なのは達リベリオンズとはやて達機動六課のフォワード達、そして地球から高町夫妻がカハーゲル研究所跡地を訪れていた。

それは此の地に眠るリオンに逢うため。

 

「フム……此処がなのはとはやて嬢、そしてサークの『始まり』の場所か……」 

「にゃはは……。実感は無いんだけど、ね……?」  

「それでも『懐かしい』と感じたのなら、そうなんでしょう。」  

「……僕は最近まで居た……」

「せやったね。そやからこうしてお父さんに逢いに来れたんやしね。」 

 

2月半ば。 

なのは達はアースラを利用して、サークに残されていた座標を頼りにこのズラールにやって来た。 

だが実際には、リオンの遺体は最高評議会派の局員の手によって持ち出され、
死してなお『アンデッドウィザード』としてキスティ側の戦力に利用され、再びなのはとはやて二人の手によって漸く本当の眠りに就く事が出来たのだ。

故にサークが最初に建てた墓標は破壊されてはいたが、
改めて棺には最期まで身に付けていた武装隊の制服(奇跡的に残った)を納め、再びサークが埋葬したのだ。 

リオンの前に現れたのは、スカリエッティとサイファー、高町夫妻、そしてサークと白夜と夜天の主従。 

 

「……リオン君。漸く一段落だ。これから管理局の体制も変わってくる。……だから安心したまえ。」 

そう呟いてスカリエッティは墓標の前に膝を付き、リオンの墓前に報告をした。  

「……あんたの相棒は、私が最期まで一緒にいるよ。だから安心してくれ。」  

サイファーがライオンハートを掲げながらリオンに報告すると、それに応じる様にライオンハートもチカチカと明減する。

「……リオンさん、貴方に是非一度お逢いしたかった。立場はどうであれ、同じ『父親』として語りたかったと。」 

「なのはの親としては勿論だけど、はやてちゃんの親代わりとしてもサーク君の親代わりとしても、この先の人生を見守っていきますわ。」

 

思うところはあるだろうに、高町夫妻も穏やかな表情を見せながらリオンに話し掛ける。 
高町夫妻には、改めてスカリエッティから何故なのはとはやてが魔力を持って産まれたのか、
何故なのはとルナが8年もの間身を隠さなければならなかったのか、と言う理由を説明した。

本来なら告げるべき事柄では無いだろう。
だがそれでもスカリエッティは、8年間も自分の下でなのはとルナを保護し、行動を共にしてきた。それ故夫妻に謝罪と説明はすべきと決断したのだ。

 

「……感謝する。
 貴方がなのはとはやて嬢の人工リンカーコアを調整しなければ、私達魔導書の管制ユニットは主たるなのはとはやて嬢に出逢う事は無かっただろう。」

「あぁ。幾らはやてに元々夜天の因子が有ったとしても、私はこうして此処には居なかっただろうな。」

「「我等共に祝福の風の名を抱く者。主と共に、白夜と夜天の空を共に渡って行こう。」」

ルナとアインスも共に、リオンに向けて改めて誓いを立てる。艦内では「リインもですーっ!」とツヴァイが騒いでいたが。

「……マスター……。違う。父さん。ドクターに新しい身体貰った。僕も人として、なの姉とはや姉と頑張る。」

そう言ってサークもリオンに報告する。

サークの見た目は12歳程度となっており、なのはとはやての弟分と言う事で何方で面倒(高町家か八神家か)を見るかで揉めたが、
当のサークがヴァンフォーレ(調整の完了がしたのは、ヴァンフォーレを名乗った時期である為)を名乗る事を告げ、
スカリエッティ達リベリオンズの拠点を軸として生活する事も告げた事により、一応の決着を付けた。
……尤も高町家と八神家を行き来する事を条件に、と言う事になったが。  
その影響もあってか美由希の弟分と言う事にもなるので、ヴィヴィオはサークの事を『おにーちゃん』と認識したらしいのはお約束と言う事で。 

 

「……にゃはは……。うん、お父さんがいる側でリオンさんをお父さんと呼ぶのもアレだけど……。あの時に言った言葉には嘘はないから。」

「……せやね。魔法と出逢って10年になるけど、普通やったら考えられへん位、いろんな事を経験して充実してる。……えぇ事も悪い事も含めてな?」  

「思いがけず長い人生を送る事になりそうだけど、遣りたい事遣りきったらリオン父さんに逢いに行くから。」

「それまで此処から見とってな、リオン父さん。」

そして最後に、なのはとはやてそれぞれもまた、リオンにそう宣言して祈りを捧げた。

 

「……さて、そろそろ此処を離れよう。これ以上はリオン君の眠りの妨げになるしね。」

そう言ってスカリエッティが声を掛けた時だった。
ザァッ!と不意に強い風が吹き、淡いピンクの花弁が舞い散った。 

「なっ?これは……桜の花弁っ?」  

「そんなアホなっ……!桜の木どころか、なんもあらへんのに……!」

有り得ない光景に唖然とするなのは達。  

「っ?なのはちゃん!彼処!」   

何かに気付いたはやてがなのはに声を掛けた。当然ながらなのはも気付いてはいたが。 

……それは残留思念体なのか、はたまた用意されたプログラム体なのか……。 
けれども穏やかな……本当に穏やかな表情を浮かべて、リオンは笑っていた。それはスカリエッティでさえ初めて見る表情。  
その表情こそが、本来の『リオン・アークヒール』そのものなのだろう。   

「っ、約束する!お父さんの分まで、わたしら幸せになるから!」  

「だから安心して!今度こそユックリと眠って、お父さんっ!」 

「なの姉とはや姉と一緒に未来を歩くよ。」

それを聞いて満足したのか、リオンは穏やかな笑みを浮かべたまま再び舞い上がった桜の花弁と共に、その姿を消した。

 

「……二人とも大丈夫か?」 

「……アインス……うん、大丈夫や」  

「リオンさん、笑ってた。本当に穏やかな表情で……」  

「漸く解放されたんだろう……今までのいろんな事からな。」 

「マスター……初めて見た、あんな表情。でも良かった。」

「……さぁ、今度こそ帰ろう。そう頻繁に来る事は叶わないが、何時かまたリオン君に逢いに来よう。」

 

突如として草木も生えなくなった不毛の大地に現れた、一本の大きな桜の木。その桜の花は、数年に一度訪れる者達の目を楽しませる事となった……。

 

 

 

 

――――― 新暦××年 カハーゲル研究所跡地 ―――――

 

「……今年も綺麗に咲いたなぁ……」

「……そうだね……」

「皆が逝ってもうて、何年になる?」

「覚えてないよ、もう……」

「……傍に居てくれてるのは、アインスとルナさん、それに王様達だけやね……」

「主と共に逝くのが我らが最期の務め…」

「うむ、ルナの言う通りぞ。流石に我も少々草臥れた…」

「えぇーっ?僕はまだまだ元気だぞ!」

「〜〜この戯けっ!」

「……どれだけ年数が経っても、雷華は雷華ですね……」

「……納得です。でも私達も良い眠りに就けそうです」

《私とシュベルトクロイツも居ますよマスター、それにはやて。》

「……そう、だったね……。ありがとう、レイジングハート。お疲れ様……」

「わたしとアギトも居るですよ!」

「そうだぜ!」

「……今更やけど、ホンマにえぇんか?」

「あたしはシグナムと約束してたかんな。はやてが生涯を閉じるまでは、融合騎としてじゃなく家族として居るって。」

「そうですよ。いくらリインが誰とでも融合できるといっても、はやてちゃんと王様達以外とはしたくないですよ」

「まぁモノは試しでプログラム生命体である我らと融合してみたが……」

《思いの外、問題ありませんでしたね。……星奈とアギトの適合率が良かったのはアレでしたが。》

「「驚きでした(驚いたよ)」」

「星奈んも炎熱系の技を使うからねー。僕はリインとのゆにぞんは楽しかったぞ!」

「はいです!」

《最期までマスター達と共に過ごせた時間は、私達デバイスにとっても大変幸せな事でした。ありがとうございます、マスターなのは、はやて。》

「……そーかー、レイジングハートの言う通りやね……。リインもアギトもおおきにな。シュベルトクロイツもお疲れさんや……」

「さ、リオン殿がお待ちです……。お二人とも、ごゆるりとお休みを……」  

「……そやね……。ほんならおやすみな、アインス、リイン、アギト、ルナさん、なのはちゃん、王様に星奈ちゃん、雷華ちゃんにゆうりちゃん……」  

「うん、おやすみ、ルナ、アインスさん、はやてちゃん、リインにツヴァイ、冥沙に星奈、雷華にゆうり……。なはとも、一緒にね?」 

「〜〜♪」

「「お休みなさい、我が主……」」  

「暫しゆるりと眠るが良い、ナノハに小鴉よ…」

「「お休みなさい、良き(いい)夢を…」」

「おやすみなさい、はやてちゃん、なのはさん」

「お休み、はやて、なのは」

「おやすみー!起きたらまたあそぼーね!ナノハに小鴉ちん!」 

「「「「雷華よ……」」」」  

「にゃはは……雷華らしいなぁ……。もう……」  

「えぇんちゃう……?……なぁなのはちゃん、手ェ繋いで逝かへんか?」  

「良いよ、はやてちゃん。……ありがとう、はやてちゃん」

「こちらこそおおきにな、なのはちゃん……」

 

「「おやすみなさい……」」

 

 

―――― おとーさん、ただいま!――――

―――― あぁ、おかえり…… ――――

 

 

 

 

THE END