Side:みほ


準決勝は、予想以上に苦戦させられたよ……此れも、ナオミさんとケイさんがサンダースに居たからなのかも知れないけどね。
だけど、此れで中学の時の仲間が居る学校は全て倒した!――と言っても、決勝戦が楽勝って言う事は無い筈……決勝の相手であるプラウ
ダ高校は、今の高校戦車道界では、黒森峰に次ぐ実力派として知られてる高校だから。

加えて、中戦車の性能に限って言えば、T-34はパンターには僅かに劣るけど、Ⅲ号やⅣ号は余裕で上回るからね……部隊の構成によって
は、かなり苦戦するかもだね。



「でしょうね。
 でも、それ以上に重要になるのは、当日のフィールド状況だわ。――前日に大雨でも降って地盤がぬかるんでたら、其れだけで黒森峰には
 不利な条件になるからね。」

「ですねぇ……黒森峰が所有してるドイツ戦車は強力ですが、足回りが弱いですから。
 逆にプラウダが所有するソ連の戦車は、足回りは抜群に強いですからね……確かにエリカさんの言うように、戦車の性能よりも、フィールド
 の状況が重要になってくるかもしれません。」

「確かに、其れは言えてるかもね……」

だけど、其ればっかりは私達で如何にか出来る問題じゃないから、今はどんなフィールド状況であっても、其れに対応出来る作戦を考えるべ
きだよ――次の決勝戦では、此れまで以上に遊撃隊の存在が重要になって来るのは間違い無いからね。



「確かに、其れは言えてるかもしれないわ――遊撃隊の存在は、今や黒森峰には欠かせないのだからね?」

「なら、決勝でも遊撃隊の力を見せつけてあげましょうみほさん。
 遊撃隊の力で10連覇を成し遂げたとなれば、誰も文句は言いようがないでしょうからね?――決勝戦でも暴れますよ♪」

「うん、頼りにしてるよエリカさん、小梅さん。」

激闘の準決勝を制した事で、黒森峰の10連覇は待ったなし!――って言いたいけど、油断は禁物だから、確りと作戦を立てないとだね。
まぁ、決勝戦でも遊撃隊は、その役目を果たすだけだけどね♪










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer92
『決勝戦前のブレイクタイムです』










Side:エリカ


決勝戦まで後3日ね……相手は強豪プラウダだけど、決勝戦の相手としては申し分ないわ。
寧ろ強い相手を叩きのめした上で10連覇を達成した方がインパクトがあるかも知れないからね……尤も、今大会の黒森峰の試合は、2回戦
以外の全てが決勝戦クラスの組み合わせだった訳だけど。

まぁ、其れは其れとして、最新の週刊戦車道は中々書いてくれるわね?
特集記事はこの間の準決勝……プラウダが順当に勝ち進んだ事には軽く触れてる程度だけど、黒森峰vsサンダースの試合については巻頭
カラーで5ページ分の大特集と来て、しかも内容が……OG会の小母さま方が知ったら烈火の如くブチ切れるでしょうね此れは。



「如何したのエリカさん?今週の週刊戦車道に、なんか載ってた?」

「如何したもこうしたも、その黒森峰vsサンダースの記事を読んでみなさいみほ、小梅……中々面白いわよ?」

「この間の準決勝ですよね?ドレドレ……成程、こう来ましたか?」



『王者・黒森峰女学園まさかの大苦戦?サンダース大学付属高等学校の奮闘ぶりにあわや!!
 第62回全国高校戦車道大会の準決勝、第1試合のプラウダ高校vs青師団高校の試合は、プラウダが圧倒的な実力差を見せ、順当に決
 勝戦へと駒を進めたが、続く第2試合の黒森峰女学園vsサンダース大学付属高校の試合はまさかの展開が待っていた。
 両校ともに、10輌の本隊と、5輌の別動隊に分かれて行動していたのだが、サンダースの別動隊がまさかの戦車偽装工作を行い、別動隊
 にファイアフライが2輌出張ったと黒森峰に誤認させてきたのだ。
 此れが何と大当たりし、虎殺しのファイアフライ4輌が投入されたサンダースの本隊を相手に、黒森峰の本隊は大苦戦を強いられた。
 隊長である西住まほ、副隊長である近坂凛が奮闘した事も有りフラッグ車が撃破される事は無かったが、其れでも本隊は、隊長と副隊長以
 外の全てが撃破され絶体絶命の窮地に立たされたのだ。
 絶対王者まさかの敗北かと思われた矢先に現れたのが、別動隊からやって来た2輌のパンターと、1輌のヤークトパンターだった。
 此の3輌は現れるなりサンダースの戦線に風穴を開け、本隊の窮地を救うと共に、反撃の狼煙を上げる切っ掛けとなった。
 時同じ頃、別動隊を率いていた西住みほは、逸見エリカと共に5輌の戦車と対峙していたが、其処は流石に隻腕の軍神と言った所か、単騎
 でサンダースの部隊に斬り込むと、逸見エリカが其れを追うように攻撃をし、サンダースの部隊を混乱に陥れたのだ。
 無論それでやられるサンダースではなく、副隊長のケイが乗るファイアフライが逸見エリカのティーガーⅠを道連れにするが、其れで止まる
 西住みほではなく、逸見エリカが撃破されると同時に、流れる様な動きでサンダースの別動隊の残りの車輌を撃滅!
 そのまま、本隊へと合流し、姉である西住まほと力を合わせてサンダースのフラッグ車を撃破し、何とか勝利を捥ぎ取る事に成功した。
 辛くも勝利を捥ぎ取った黒森峰だが、若しも西住みほ率いる別動隊の存在が無ければ、此の試合で敗北を喫していたのは火を見るよりも
 明らかだろう。
 此の試合は、王道の戦いを掲げる絶対王者の限界と、今年から運用を始めた別動隊――遊撃隊の有効性を認識させてくれる戦いだったと
 言えるだろう。
 絶対王者にも変革の時が来たと、筆者は強く感じた次第だ。』




「あはは……此れは、確かにOG会の人やお祖母ちゃんが見たら怒り心頭は間違いないかも。」

「下手したら、編集部に抗議の電話入れて、記事の撤回と謝罪文の掲載を求めそうですよね……ですがこの記事は、あの試合の事実を誇張
 無く、正確に伝えてると思いますよ?
 ――唯一の相違点があるとすれば、ケイさんがエリカさんを道連れにしたって言う事位ですし。」

「まぁ、アレは私の方がファイアフライを道連れにしたって言うのが正しいからね。」

でもこの記事は、私達遊撃隊が黒森峰を勝利に導いたって事を暗に伝えてるでしょ?
隊長がこの手の雑誌を読んでるとは思えないけど、副隊長が隊長にこの記事を見せてる可能性は可成り高いから、隊長もこの記事の内容を
知ってると見て間違い無い――だとしたら、OG会の小母さま方がどんなに喚いても、隊長の鶴の一声で黙ると思うわ。

『勝ったのだから文句を言うな。その勝利の立役者は遊撃隊なのだから、遊撃隊の運用に関して口を挟むな』ってね。



「『勝利こそが全てなのだろう?ならば勝ったのだから文句を言わないで頂きたい!
 何よりもこの勝利は、みほ率いる遊撃隊があっての物……貴女方は王道の戦い方に反するとして遊撃隊の存在を不要と言っていたが、遊
 撃隊の存在が無ければ負けていた。
 この勝利の立役者は遊撃隊だ!――これ以上、遊撃隊の運用に関しては口を挟まないで頂きたい!』って感じで?」

「そうそう、そんな感じよみほ!」

「相変わらず恐ろしいほど似てますねみほさんの隊長の物真似は?
 しかも声だけじゃなくて、真似するときは目じりを釣り上げてるから、後は隊長の特徴的な後ろ髪のハネがあれば殆ど本人ですよ此れ。」



本当にね?
でもだからと言って、隊長の目じりを下げて、後ろ髪のハネを失くしたらみほになるかと言われるとそうでもないのよね?――目じりを下げて、
後ろ髪のハネを失くした隊長は、ぶっちゃけて言うと『誰だお前』って感じだし。



「誰だお前だと?……良い度胸だなエリカ、その度胸に敬意を表して、今日は私が一対一で指導してやる。何、遠慮は要らんぞ?」

「ちょ、もうやめてみほ。マジギブ、似すぎてるから……!!」

って言うか、貴女の顔で隊長ボイスって色々アレだわマジで。
――で、馬鹿話は此れ位にして、みほと小梅はこの記事を如何思う?



「私は、別に如何とも思わないかな?
 此処に書かれてる事は真実だし、黒森峰が苦戦した事に変わりは無いからね?――遊撃隊の存在を有効だって、暗に示してくれた事に関
 しては良いと思うけど。」

「私もみほさんと同感です。
 ただ、週刊誌としては珍しく誇張的表現があまり無いのには好感が持てますけれど……みほさんとエリカさんの名前が出てるのに、本隊の
 窮地を救った私と直下さんと狭山さんの名前が無いのが大いに不満ではありますけれどね?」

「「………(汗)」」


小梅……貴女って意外と、目立ちたがりと言うか、案外自己主張が強い子だったのね?――否、単純に私とみほの名前が出てるのに、他の
遊撃隊の車長の名前が出てない事が不満なのかも知れないけど。
でも、みほと小梅が言うように、この記事は正確な事実を伝えてるでしょ?……此れは、次の決勝戦でも遊撃隊は好きに動く事が出来るって
事でもあるわ。
遊撃隊の有用性は、戦車道を取り扱う有名雑誌が認めたんだから、流石にその評価を無視する事は出来ないモノ。

「まぁ、此れまでの戦いで遊撃隊の有用性は証明されたから、決勝で勝って其れを盤石な物にしようじゃない?
 決勝戦で遊撃隊が勝利に多大な貢献を果たせば、頭の固いOG会の小母様達だって遊撃隊の存在を認めざるを得ない――そうなれば、隊
 長が目指した黒森峰の改革に繋がるんだから。」

「勿論その心算だよエリカさん。
 お姉ちゃんは私の戦車道を認めてくれたんだから、だったら私はお姉ちゃんが打ち出した改革案は正しかったって証明するだけだから。」

「絶対不変の強さは存在しない……頂点を目指し、極に至り、更にその上を目指すのならば常に変わる事を心掛けよ、ですね?」



其の通りよ小梅。
極の更に先を目指すのなら、変革は必須なのよ――って言うか、言わせて貰うなら『王道の戦い』なんて考え方は下らないにも程があるわ。
だって、隊長の力押しの蹂躙戦術と、みほの搦め手上等のトリッキー戦術が合わさった時にこそ、今の黒森峰は真の強さを発揮する事が出来
るんだからね。

故に、隊長とみほが揃ってる今の私達に負けは無いわ!
みほと隊長が揃ってる今の黒森峰は、天下無敵の真の西住流が存在してるって言っても過言じゃないのだから!――悪いけど、決勝は勝た
せて貰うわプラウダ!!

黒森峰の10連覇を阻止するモノは存在しないって、教えてやるわ。








――――――








Side:みほ


決勝戦の2日前。今日は中学全国大会の決勝戦の日で、決勝戦の組み合わせは明光大vs黒森峰。
当然観戦に来てるんだけど、母校である明光大を応援すべきなのか、其れとも黒森峰高等部の生徒として黒森峰中等部を応援するのか、迷
う所だね此れは。



「いや、貴女の場合は明光大の応援で良いんじゃないのみほ?
 別に黒森峰の生徒として応援に来てる訳じゃないんだし。……何よりも、貴女が黒森峰の応援をしたら、澤は間違い無く凹んじゃうわよ?」

「あ~~……うん。其れは確かにそうかも。
 私が梓ちゃんの立場だったら、自校の卒業生が相手校を応援してるのを見たら、可成り凹んじゃうかもしれないからね。」

「まぁ、みほさんの場合、凹んだ後で逆に燃え上がりそうですけど♪」

「言えてるわ其れ。
 憧れの先輩が対戦相手の方を応援してる事にショックを受けつつも、次の瞬間にはそのショックが闘志となって燃え上がり……奇想天外な
 戦術をこれでもかと駆使して、相手を葬るわね絶対に。」

「言いすぎじゃないかなぁ?……あ、でもちょっと否定できないかも……」

若しも去年の決勝戦を近坂先輩が見に来てて、黒森峰の応援をしてるのを見たら……うん、間違いなく凹んだ後に、逆に燃えてるね私なら。

其れは其れとして、今年の決勝戦も去年と同様かそれ以上の戦いになってるね?
展開としては、明光大が黒森峰を市街地戦に連れ込んだ感じだけど、その手法は中々鮮やかで、ツェスカちゃんからしたら、梓ちゃんの策に
嵌められたって所かな?
まぁ、其れに関しては、このフィールドは梓ちゃんにとっては3回目で、ツェスカちゃんにとっては2回目だったって言うのが大きいかな?
たった1回の差かも知れないけど、其の1回の差って言うのが、実戦では意外と大きな差になって来るからね――1回分の差だけ、此のフィー
ルドでの戦い方は梓ちゃんの方が知っていたって事だから。
その後の市街地は、何方も一歩も退かない戦いって言う所かな?
梓ちゃんの奇策、搦め手に対して、ツェスカちゃんもドイツ仕込みの戦車道テクニックで対抗して、両チームとも確実に数を減らしてるからね。

此れは、若しかしたら去年と同じ展開になるかな?



「かも知れないわね。
 だけどまぁ、澤ってのは本当に凄い子ね?貴女が抜けた後の明光大を、確りと纏め上げてるんだから……正直言って、此れは予想外よ。」

「む、其れって梓ちゃんが隊長には向かないって事かなエリカさん?」

「違うわよ。……正直言って、貴女が抜けた後の明光大はまた弱小に戻るんじゃないかって思ってたのよ。
 貴女は確かに強いけど、貴女の戦車道は貴女の能力による所が大きい――分かり易く言えば才能って言う所かしら?
 こう言っちゃなんだけど、貴女の戦い方はマニュアル化出来るモノじゃないって思ってたから、次の世代に継承できる物じゃないと思ってたん
 だけど……澤は見事に其れを継承したわ。
 其れも、只継承するだけじゃなくて、貴女の戦い方を自分の中で徹底的にトレースした上で、ある程度の形を作り、其れを明光大戦車チーム
 の戦い方の基本にしてしまった……才能が生み出した戦い方をマニュアル化するなんて、早々出来るモノじゃないわ。」

「ですね……1人の天才剣豪が感覚で編み出した剣術を、弟子が一つの流派に昇華させるような物ですからね此れは。
 私が同じ事をやれと言われても、多分無理です。って言うか絶対無理です。」

「……確かに、そう言われてみると確かに梓ちゃんは凄いかもね……」

其れが出来たのは梓ちゃんの才能と、明光大では誰よりも私の戦い方を見てたからかも知れないね。
っと、そんな事を話してる内に、何時の間にやら残る車輌は互いにフラッグ車のみに!――此れは、本当に去年と同じ展開になってきたよ。

睨み合うのはパールホワイトとデザートイエローの2輌のティーガーⅠ……2頭の鋼鉄の虎が睨み合う構図って言うのは、観客側から見ると、
可成りの迫力があるね。
そしてそれ以上に絵になるのが、キューポラから上半身を出してる梓ちゃんとツェスカちゃんかな。
梓ちゃんはジャケットの上着を型に引っ掛けるように羽織って腕を組み、ツェスカちゃんは略帽を外し、上着のボタンを全て外してインナーのシ
ャツも大きく胸元を開けてちょっぴりセクシーな感じになってるからね?
まぁ、2人とも狙ってやった訳じゃなくて、単純にヒートアップして来て熱くなったからそうなっただけなんだろうけど。

で、始まった一騎打ちは凄まじいの一言に尽きるかな?
互いに動き回りながら、時には搦め手やトリックプレイを織り交ぜながら、相手の戦車を撃破しようと縦横無尽に走り回る……其れが結果とし
て互いに決定打を与える事が出来ない……だけど、そのせめぎ合いは長くは続かないモノだよ。去年の私とエリカさんがそうだったからね。



「でしょうね……ツェスカも澤も、次で決めるみたいだから。」

「実力は略互角で、乗る戦車も同性能……最後の攻撃となるタンクジョスト――此れはマッタク予想がつきませんよ。」

「うん、私も予想が付かないよ小梅さん。」

オーロラヴィジョンに映し出された梓ちゃんとツェスカちゃんの顔には、どちらも笑みが浮かんでる……本当に心の底から、此の試合を楽しんで
居たからこそ浮かぶ笑みが浮かんでる。
その笑みを浮かべる者同士のラストバトルの結果を予想するのは、100年以内に地球の落下する隕石の数を完璧に予想するのと同じ位難し
い事だからね――でも、頑張って梓ちゃん!!



「「…………………」」



10秒ほどの沈黙の後、先に仕掛けたのは梓ちゃんの方だった。
ツェスカちゃんの足元に砲撃を放って強制的に動かすと、次の瞬間にツェスカちゃんが逃げた方向にある歩道橋を砲撃で崩し、巨大なコンクリ
ートの塊を上から降らせる。
でもツェスカちゃんも其れに的確に対処し、逆に梓ちゃんへと突進し……其れに応えるかのように梓ちゃんも突撃!
そして互いに擦れ違う直前で、まさかの戦車ドリフト!
梓ちゃんもツェスカちゃんも戦車ドリフトを行った事で、戦車ドリフトのアドバンテージは得られないけど、だからこそ静止した瞬間の砲撃が重要
だよ。

その結果は――



――ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!

――キュポン!




『明光大、フラッグ車行動不能。
 黒森峰女学園の、勝利です!!』




負けちゃったか。
最後の最後で運に見放されちゃったね梓ちゃんは……でも、手に汗握る戦いだったのは間違い無いから、梓ちゃんの実力を多くの人に認めさ
せる事は出来たと思うけどさ。

だけど、それ以上にお疲れ様でした梓ちゃん。
とってもいい試合だったよ!



「西住先輩!?……来てたんですか。
 あはは……今回は負けちゃいました……でも、持てる力の全てを出し切ったので悔いはないです。中学最後の大会を、最高のライバルとの
 試合で終える事が出来たのはとっても幸福な事でした。」

「うん、その気持ちはよく分かるよ梓ちゃん。――私も、去年の決勝戦は燃えたからね。」

「だったら今年の決勝戦でも燃えて下さい西住先輩!
 西住先輩の活躍と、黒森峰の前人未到の10連覇の偉業達成を信じています!」

「なら、その期待には応えないとだね♪」

約束するよ梓ちゃん。
私達は決勝戦も勝って、10連覇の偉業と共に、真紅の優勝旗を手にするって!――其れにV10の栄冠は、戦車道だけじゃなくて、どんなス
ポーツに於いても達成された事のない偉業だから、絶対に達成したいからね。



「先輩、決勝戦は絶対に見に行きますから、カッコ良く決めて下さい!出来ればフラッグ車の撃破をしちゃってください!!」

「あはは……其れは流石に確約しかねるけど、其れが可能な状況だったら絶対に撃破するって約束するよ梓ちゃん。」

其れと、優勝は出来なかったけど、健闘したって言う事で、此れは御褒美だよ。



――チュ



「ほえぇぇ!?西住先輩からデコチュー!?……はうあぁ///

「梓ちゃん?おーい、梓ちゃん?」

「呼びかけても無駄だわ……今現在、澤の意識は宇宙の彼方を話迷ってるだろうからね……」

「それ以上に、ナチュラルにデコチューを敢行するみほさんに驚きですよ……」



ナチュラルにって……私にとっては別に普通なんだけどなぁ?
練習で良い結果を出したら、お姉ちゃんが『よくやったなみほ』って言っておでこにキスしてくれたし、模擬戦で勝った時には、お母さんが『実に
見事でしたよ』って言っておでこにキスしてくれたし。
西住流的には、デコチューは最大の賛辞だと思ってたけど、違うのかな?



「隊長からのデコチューですって!?羨ましい事この上ないわコンチクショー!!」

「なんなら変わるエリカさん?
 カッコいいお姉ちゃんと、カッコいいお母さんが付いて来る代わりに、前時代的な思考に捕らわれた救いようの梅干しお婆ちゃんがどうやって
 も付いて来るけどね。」

「隊長と師範だけなら喜んでって言う所だけど、家元が付いて来るならお断りだわ……ぶっちゃけ、あの人の考え方には共感できないから。」

「其れは私もです――勝利ありきの考え方は、スポーツの世界では絶対に間違ってると思いますから。」



うん、絶対に間違ってる――だから、私はお婆ちゃんの言う西住流を真っ向から否定する!
戦車道はスポーツであって戦争じゃないんだからね……お婆ちゃんには其れを言葉じゃなくて、行動で受け入れさせるしかないのかも知れな
いけどさ。

ともあれ、よくやったね梓ちゃん?
結果は準優勝だったけど、本当によく頑張ったよ梓ちゃん……貴女は、私の誇りだよ。



「そう言って貰えると光栄です――決勝戦、勝って下さいね西住先輩!」

「うん、絶対に勝つよ!」

勝って黒森峰の大記録を成し遂げる!!
きっとお姉ちゃんも、10連覇を達成するための作戦を考えてるだろうからね――だから梓ちゃん、その目に焼きつけなさい……黒森峰が10
連覇を果たすその瞬間をね。








――――――








Side:小梅


決勝戦前日……昨日から降り始めた雨は弱まる所が、更に強くなっていますね……此のままじゃ明日の決勝戦に影響が出るのは間違いあり
ません!!

なので、こんな物を作ってみました!!



「何此れ?」

「てるてる坊主みたいだけど……数がハンパない感じが……」



おぉ、流石に気付きましたねみほさん?
仰る通り、此れはただのてるてる坊主ではなく、千羽鶴ならぬ400人てるてる坊主です!
此れだけのてるてる坊主があれば、明日は快晴間違いなしです!――序に等身大のてるてる坊主を、寮のロビーと軒先に可能な限りぶら下
げてみました!!
これはもう、明日は快晴以外は有り得ません!!



「かも知れないけど、等身大のてるてるボーズを大量に設置するのは如何なものかと思うよ小梅さん?
 こう言ったら何だけど、等身大のてるてる坊主が複数体吊り下げられてる様は、殆ど『一家心中』の現場みたいだからね……余り過剰な演
 出は遠慮してね小梅さん?」

「う……了解です――」

でも、ロビーのは兎も角、軒下に設置したてるてる坊主は除去しませんよ?
このまま雨が降り続いたら黒森峰が不利になるの目に見えてますから……ゲン担ぎの意味でも、このてるてる坊主は残しておきたいんです。
此の子が居たからこそ、決勝戦の舞台は晴れたんだって、そう言いたいですから。



「うん、それで良いよ小梅さん――この大量のてるてる坊主は、確かに大きな力になるかも知れないら。」

「なら、適当にその辺に吊るしちゃいましょ?――此の子が天気をもたらしてくれるのなら、其れは其れで悪い事じゃないからね。」

「はい♪」

そんな訳で、私がこしらえたてるてる坊主は寮の軒下に飾られる事になりました!――頼みますよてるてる坊主さん、雨の中での決勝戦なん
てのは、絶対にゴメンですからね。








――――――








Side:みほ


決勝戦当日は、昨日までの雨が嘘のような大快晴!それこそ、決勝戦に相応しい天気って言う所だよ!!
まぁ、前日の雨の影響でフィールドのぬかるみは多いかも知れないけど、其れ位の事ならディスアドバンテージにはならない……だから、此の
決勝戦は、黒森峰にとってもプラウダにとってもイーブンの条件だって思うよ。

でも、だからこそ勝って見せるよ、絶対に!!



「気合が入ってるわねみほ?」

「勿論、入りまくりだよエリカさん!!」



――轟!!



「軍神招来……此れは、勝てますね!!」

「勿論、勝ちに行くよ小梅さん!!」

だから覚悟してねプラウダ……貴女達を倒して、私達は10連覇を達成するよ?
恐らくは黒森峰対策をして来てるんだろうけど、そんな物は無意味だって言う事を教えてあげる――その上で、見せてやる西住の戦車道を!

第62回全国高校戦車道大会の決勝戦……此れまで以上に本気で行くよ!












 To Be Continued… 





キャラクター補足