Side:まほ


く……まさかサンダースが偽装工作を使ってくるとは夢にも思わなかったな……否、そんな手を使ってでも、私達を、黒森峰を倒したかったと
言う訳か……絶対王者と言われてる側としては、光栄な事だ。
それに、その気持ちは分からんでもないよ――絶対王者を倒したいと言う気持ちは誰にでも少なからずあるからな。

そして、その気持ちが現実になった時の恐ろしさを、絶賛この身で体験中だ!
みほが率いる遊撃隊の方に2輌のファイアフライを向かわせたと思わせておきながら、その実遊撃隊に挑んだファイアフライは1輌だったのだ
からね。

つまりサンダースの本隊には虎殺しのファイアフライが4輌も居る事になるのだから……これは、少し拙いかも知れん――此の状態が長引け
ば、ジリ貧になるのは目に見えているからな。


と、普通ならばこのように考える所なのだろうが、生憎と私は、後ろ向きな考えは好きじゃないし、既に秘匿回線を使って状況をみほに伝えて
ある――遠からず、遊撃隊の方から援軍が来る筈だ。
だから、慌てる事はない。状況が好転するまで凛の乗るフラッグ車が撃破されないように注意しながら戦うだけの事だからね。

「撃て!!」

「Jawohl!!(了解!!)」



―ドガァァァァァァァァァァァァァン!!

――パシュン!!




『サンダース大学付属高校、M4シャーマン1号車、3号車行動不能!!』


「!!――く……流石に簡単にはやられてくれないわね!?」

「当たり前だ。
 確かに先手は取られた上に状況だけを見るならば分が悪いが、その程度の事で倒されていては9連覇など達成出来る筈もないだろう?」

絶対王者とは、簡単に負けないからこそ、そう呼ばれるに至るのだからな?……
尤も勝負には時の運があるのは否定できないから、決勝戦にコマを進めるのは、黒森峰か其れともサンダースかは結果が出るまで分からな
いが、此れだけは言っておく――私とみほが揃った、真の西住流に隙は無い、とな。







ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer90
『熱闘:ガールズ&パンツァー’62です!』










Side:みほ


さてと、小梅さん達を本隊の援護に向かわせた訳だけど、此処からは2輌で5輌を相手にしないとならない上に、サンダースにはティーガーⅠ
の装甲を抜く事の出来るファイアフライがある……さて、如何行こうかエリカさん?



「如何もこうもないでしょ?
 私達がやられて、小梅達を追撃されたら、其れこそアウトなんだから、徹底的に足止め――なんてのは性に合わないから、正直に言うわ。
 1輌残らずぶっ倒す!!1輌たりとも本隊の方には向かわせないわ!!」

「だよねぇ!!」

足止め?本隊への合流を阻止する?其れは確かに戦術としては正しいし、数で劣ってる以上は策を弄してそうするのがベターな選択だって
言うのは分かってるけど、正直言って私もエリカさんも、そんなのは性に合わないよ!
勿論、状況によっては足止めや本隊への合流阻止だって選択するけど、今回に限っては足止めや合流阻止じゃダメなんだ――ケイさんが車
長を務め、ナオミさんが砲手を務めてるファイアフライが居る以上ね。
数で劣ってる状態での足止めって言うのは、自分達が撃破されない事を前提に行うから、場当たり的な策が多くなるし、合流を阻止する場合
でも、撤退戦のような戦い方になっちゃう――そんな戦い方をしてたら、ナオミさんに狙い撃ちされてTHE ENDだしね。

だったら、最初から足止めとか、合流阻止って言う考えを捨てて、ケイさん率いるサンダースの別動隊を全滅させる一択だよ!!



「軍神招来、狂狼咆哮、敵機殲滅、我勝必来。」

「エリカさん、其れ漢詩?」

「即興だし、あんまり意味ないけどね。」



いや、結構イケてたと思うよ?
軍神が現れ、血を求めて狂った狼が吼える時、敵は殲滅され、我等は勝利を得る……うん、悪くない!――なら、その通りに行くとしようかエ
リカさん!!



「言われなくともその心算よみほ!
 軍神の軍刀と、狂犬の牙で、連中の喉笛を切り裂いて、喰いちぎってやろうじゃない!!――さぁ、高らかに命令してくれるかしら、みほ!」

「勿論!――サンダースの別動隊を撃破せよ!1輌たりとも残さずに、殲滅せよ!!」

「Jawohl!(了解!)」



「ウワォ!自分と副官を残して、残りは本隊の援護に向かわせるとは、相変わらず大胆な戦術を執って来るわねみほは?
 私達と本隊の位置関係を考えると、みほ達を倒さない限り追撃は難しそうだから……先ずは貴女達から倒させて貰うわよ!」

「そうは行きません、寧ろここで貴女達を倒します!」

ケイさんとナオミさんが居る以上、この別動隊は可成りの強敵だろうとは思うけど、決して勝てない相手じゃないから、絶対に倒しとかないとだ
よ!――仮に殲滅できなかったとしても、最低でもファイアフライの撃破は必須だけどさ。

ファイアフライを本体に向かわせてしまったら、状況が相当に悪くなるのは目に見えてるからね?
だからこそ、此処で討つ――覚悟して貰うよ、ケイさん!ナオミさん!!








――――――








No Side


数で言えば黒森峰側が3輌のビハインドを背負ったのと同じ状況で始まった、黒森峰の遊撃隊トップ2vsサンダースの別動隊の戦い。
観客の多くは、遊撃隊が奮戦虚しく散る展開を予想していただろう――数で劣る上に、パンターもティーガーも容易に撃破出来るファイアフラ
イが居ては、如何に黒森峰の遊撃隊と言えども分が悪いと、そう思っていたのだ。

だがしかし、現実は違った。


「エリカさん、狙って!!」

「其処だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



みほとエリカは、抜群のコンビネーションを発揮し、数で勝るサンダースの別動隊を相手に苦戦するどころか、互角以上に戦っていたのだ。
状況が状況だけに、サンダースの車輌を簡単に撃破する事は出来ないが、其れでも最終防衛ラインを守りつつ、サンダースの別動隊を翻弄
していた。


「西住本家での合宿の時にも思ったけど、みほとエリカは組むと凄いな?
 ……相手となって初めて分かったけど、敵に回すとこれほど恐ろしいとはね……此れはまほさんも、澤も勝てない筈だわ…」


そんなみほとエリカのコンビネーションに誰よりも戦慄を覚えていたのは、他でもないファイアフライの砲手であるナオミだった。
ナオミは中学時代の3年間、みほの指揮する戦車の砲手を務めており、みほの凄さは十二分に理解しているが、同時に夏休みのお決まりだ
った西住本家での明光大と黒森峰の合同合宿でエリカの実力の高さも理解していたし、模擬戦の結果から、みほとエリカが組んだ時は、凄ま
じいほど強いと言う事も実感していた。

だが、模擬戦の時には味方だった最強コンビが、今は敵として自分達と対峙していると言うのは、驚異以外の何物でもなかった。――だから
と言ってナオミとて負ける心算は毛頭ない。
何よりも、『黒森峰の最強伝説を終わらせる』と豪語した手前、驚異の存在が相手であっても怯みはしない。
みほと過ごした中学3年間で、ナオミの精神力は相当に鍛えられており、『強敵』を前にしても怯まない――それどころか、逆に闘争心が燃え
上がるレベルになっているのだ。


「ウワォ!たった2輌で5輌を相手にするとか、相変わらずExcitingな戦い方をするわねミホは!
 私達に最終防衛ラインを越えさせないように立ち回りつつ、自分達は絶対に被弾しない様に回避、或いは撃破されないように食事の角度で
 防ぐ……言葉にするのは簡単だけど、此れって試合の中で咄嗟にやるのって難しいのよ?
 ホント、ミホってばExcellentね!一緒に戦ってる銀髪の子――エリカって言ったかしら?彼女も中々にGreatよ!」


ファイアフライの車長であるケイも、中学の大会以来となるみほとの戦いに心が躍っているようだ。
名門のサンダース大学付属高等学校に進学し、2年生で副隊長の大役を務める事になった事で、ケイは自分が戦車乗りとしてレベルアップし
た事を実感していた。
故に、レベルアップした己の力をみほにぶつけてみたいと常々思っていたのだ――そして、其れが全国大会の準決勝の大舞台で叶った。
シチュエーションとしては、中学の大会の時と同じだが、今回は4強の一角vs絶対王者の構図であり、中学の時とは観客の盛り上がり方も段
違いで、其れがまたケイの心を滾らせていた。


「Audienceの多くは黒森峰のV10を望んでるんだろうけど、その反面『どこが黒森峰の快進撃を止めるのか?』って期待もある筈よね。
 なら、その期待は私達で叶えるとしようかな?――ナオミ、照準をティーガーⅠに合わせて。」

「ティーガーⅠに?パンターじゃなくて?」


其れでも、ケイと言う少女は表面上はエキサイトしていても、心の一番奥は常にクールで居る事が出来る人物であり、熱くなりすぎる事なく指
示を飛ばす事が出来る。
そのケイの指示を深読みするなら『パンターは無視してティーガーⅠを狙え』と言うモノだ。
確かに高い火力と防御力を有するティーガーⅠは強敵であり、それこそ『虎殺し』であるファイアフライで真っ先に撃破するのがセオリーと言え
るが、ナオミからしたら真っ先にみほのパンターを撃破すべきと考えていたから、この指示は可成り意外なモノであった。


「確かにミホを倒す事が出来ればBestなんだけど、ミホを倒すのは簡単じゃないわ。
 でも彼女は、自分よりも仲間を優先するでしょ?……なら、ティーガーⅠを集中的に狙えば、間違いなくミホはフォローに入って来る――そこ
 を狙うのよ。」


だが其れがケイの作戦であった。
みほは厄介な相手だが、仲間を最優先にする所があるので、みほを無視してエリカを集中的に狙えば、みほは必ずフォローに入る。そこを狙
えば、撃破するのは難しくないと、そう考えたのだ。

確かにその考えは間違いではない。
みほは仲間の事を第一に考える上に『自分を守らない事が出来る』人物だ――ならば、仲間を窮地に追い込んでやれば、間違いなく自分を
犠牲にしても仲間を守る為に動くだろう。

そうなってくれれば、狙い撃つのは難しくないが……西住みほと言う戦車乗りは、とことん相手の斜め上を行く戦車乗りであった。


「副隊長、パンターが単機で突っ込んで来ます!!」

「Wha's!?単機でって、まさか特攻!?……じゃあないわよね?」


エリカの乗るティーガーⅠを集中攻撃しようとした矢先、みほの乗るパンターが、サンダースの別動隊目掛けて、真正面からの単機駆けを仕
掛けて来たのだ。

普通ならヤケになって特攻して来たと思う所だが、相手がみほだと言う事を考えると、其れは無いと即座に判断できる――ならば、何故此処
で突撃して来たのか?

その答えもまた、予想外の形で齎される事になった。



――ドガァァァァァァァァァァァァァン!!!



「んな!?味方が突撃した所に砲撃を打ち込むって、正気!?Crazyにも程があるわ!!」


みほのパンターが単機駆けを行ったと同時に、エリカのティーガーⅠが其れを追う形で砲撃!
地面に着弾した事でサンダースの車輌が撃破される事は無かったが、普通なら有り得ない攻撃に、流石のケイも背筋に冷たい物を感じてし
まったのは仕方ないだろう。
味方が突っ込んだ所に砲撃を放つなど、相手の虚を突く効果があるとは言え、一歩間違えばフレンドリーファイヤーで味方を撃破しかねない
危険な行為なのだ。
だが、エリカは其れを迷うことなく選択した……それが、ケイには背筋が凍る思いだった。


「鋼鉄の豹の動きに付いて来れるかな?」

「ほらほら、豹の動きに惑わされてると、鋼鉄の虎の牙が喉笛を喰いちぎるわよ?」


そんなケイを他所に、みほのパンターはサンダースの別動隊の中を縦横無尽に動き回り、その動きに合わせるようにエリカのティーガーⅠか
らの砲撃が放たれる。
この味方を撃破しかねない戦術に、サンダースの別動隊は混乱。
入り込んだパンターを撃破しようとすれば誤爆の可能性があるし、ティーガーⅠを狙おうとすれば、其処をパンターに狙われる危険性がある…
…完全に、別動隊は恐慌状態に陥っていた――ケイが車長を務めるファイアフライを除いては。


「やってくれるわみほ……でも、何だってこんなRiskyな戦術を?……一歩間違えば誤爆で自滅する可能性があるのに。」


そのケイも、みほがリスクの方が大きい戦術を展開して来た事が謎だった。
みほは常人では考えも付かない戦術を展開する天才だったが、同時にリスクの高い戦術を執る事は余りなかった――だからこそ、自機が撃
破される危険性のあるこの戦術を執って来た事が解せないのだ。


「……信頼ね、此れは。」

「ナオミ?」

「此れはみほとエリカが互いを信頼してるからこそ出来る作戦なんだケイ。
 みほは『エリカなら絶対に誤爆は無い』って信じて、エリカはエリカで『みほなら絶対にギリギリで回避する』って信じてるから、こんな非常識
 な戦術が採れるんだ……隻腕の軍神と、孤高の銀狼の信頼関係は、其処まで強くなってたって事だわ……!」

「マジで……!?」


だが其れも、ナオミの一言で理解できた。
みほもエリカも互いに信頼していたからこそ、こんなリスクの高い戦術を選択したのだ――幼少の頃に出会い、小学生の大会で戦い、中学時
代は大会と合宿で切磋琢磨し、黒森峰の高等部では遊撃隊の隊長と副隊長として絆を紡いできた。
そんなみほとエリカにとって、この戦術のリスクなどないに等しいのだ――みほはエリカなら誤爆は無いと信じているし、エリカはみほなら絶対
に回避すると信じているのだから。

其れは正に最強と言っても過言ではないが、だがしかし、其れを聞いてもケイは一瞬驚いたモノの、次の瞬間には戦車乗り特有の獰猛な笑
みを浮かべ、瞳には剣呑な光が宿っていた。


「Good!Great!!Excellent!!!
 ミホもエリカも楽しませてくれるじゃない!!此れが戦車道……此れこそが戦車道だわ!!――でも、だからこそ私は貴女達には負けたく
 ないわ!!!
 こうなりゃとことんやってやろうじゃない?Could I determine?Miho&Erica!?(覚悟は良いわね?ミホ、エリカ!?)」

「Es ist naturlich Kay!(勿論その心算ですよケイさん!)」

「Bekomme ich die Starke der Sanders zu sehen!(サンダースの底力、見せてもらうわ!!)」

「Kira Naomi……snipe at a target!(吉良ナオミ……目標を狙い撃つ!)」


其れに応えるようにナオミの闘気が滾り、そしてみほとエリカの闘気が爆発する!
そしてその瞬間に、みほとエリカの瞳からはハイライトが消え、極端に瞳孔が収縮した『超集中状態』に移行する。

黒森峰の遊撃隊トップ2と、サンダース別動隊の戦いは、此処からが本番と言う事なのだろう。








――――――








同じ頃、本隊の援護に向かった小梅達は、予想だにしなかった相手と対峙していた。


「遊撃隊を分割させて攻めて来る事なんて、予想していたわ!」

「流石、4強の一角の名は伊達ではないと言う事ですね?」


小梅達の前に現れたのは2輌のM4シャーマンだ。
サンダースは、本隊が窮地に陥れば、遊撃隊を2つに分け、別動隊の足止めと本隊の援護を行うだろうと予想しており、そうなった時の為の
備えはしていたのだ。

そして、其れは見事に功を奏し、小梅達の行く手を阻んでいるのだが……


「ですが、貴女如きで私を止められると思ってるんですかアリサさん?」

「あん、何ですってぇ?」

「貴女では私の足止めをするのは役者不足だって言ってるんです――正直な事を言わせて頂きますと、貴女如きは私の敵じゃないんです。」


小梅は余裕綽々の挑発を行いアリサを煽る。
言葉での挑発だけでなく、親指を己の首元に当て、そして真横に親指を走らせ、最後にサムズダウンすると言う物理的な挑発のおまけつき。
更に、此れだけの挑発行為を爽やかな笑顔で行っているのだから性質が悪く、アリサを逆上させるには充分だった。


「舐めんじゃないわよ此の天パ娘!!
 アンタ達なんて、速攻でぶっ倒して、サンダースの勝利の礎にしてやるわ!!――アタシを怒らせたことを後悔させてあげるわ!!!」


顔を真っ赤にして攻撃してくるアリサは、正に修羅の如しだが、しかし小梅が冷静さを失う事はない。
確かに今のアリサは修羅其の物だが、小梅が信じているみほは、その修羅を軽々と踏み砕く力を持った軍神だ……故に修羅を前にして怯む
事など有り得ないのだ。


「アリサさん、貴女では勝てません。」

「なんですってぇ!?――言ってくれるじゃない天パ娘!
 アンタ、中学時代も黒森峰だったらしけど、何よ、絶対王者の中に居る余裕だっての?……流石は、エリート様、その思考には脱帽だわ!」

「そうじゃないんですけど……やっぱりそう思われちゃうんですかね?
 此れは、いよいよ他校の短絡思考が危険に思えてきました……如何やら、思考形態の矯正が必要みたいですね?――尤も、其れで矯正
 されるかは謎ですが。」


そして舌戦でも小梅は負けていない。
と言うか、アリサを完全に手玉に取っている行っても過言ではなないだろう。

『言葉もまた兵法』と言う言葉があるが、今の小梅は其れを実践している状態だ――言葉で敵を煽って冷静な思考力を奪った上で、叩く。
言葉にすれば簡単だが、実際に行うとなると可成り難しい戦術を小梅は迷うことなく選択し、そして成果を挙げていた。


「ぶち殺す!そこを動くな!!」

「と言われて、動かない相手は居ませんよアリサさん!」


乱射される砲撃も何のそのと言わんばかりに、小梅はアリサの攻撃を、大胆に、そして華麗に回避する――其れはまるで、牛若丸が弁慶の
剛撃を回避するかの如くだ。
そして、この華麗な回避は只の回避に非ず。


「呼び込みました……やっちゃってください直下さん。」

「よっしゃー!!其れを待ってたわよ赤星ぃぃぃぃぃ!!」

「しまった!!!」


その本命は誘導。
小梅はアリサを挑発しながら砲撃を回避し、直下のヤークトパンターの前まで誘導していたのだ――アリサが冷静であったのならば気付いた
かも知れないが、小梅の挑発で冷静さを失っていたアリサは其れに気付く事が出来なかった。

そして其れは、致命傷だ――


「Ein Gebet zu Gott!(精々神に祈るんだな!)」

「Jesus……!(神よ……!)」


その隙を逃す筈もなく、直下のヤークトティーガーの主砲が火を噴き、そのままアリサの乗るM4シャーマンを撃破!!――虎の牙と豹の俊敏
さを併せ持ったヤークトパンターは、その役割を見事に果たしたのだった。


そして其れだけでは終わらず……


「此れで終わりです……みほさんとの訓練をしている私達にとって、貴女は敵ではありませんでした。」


小梅のパンターが、もう1輌のM4シャーマンを撃破!!!
同時に此れは、小梅達の行く手を阻む物が何もなくなった証だ――ならば、この好機を逃す手はない。
手を拱いて居たら、第2、第3陣が来た可能性は可成り高く、そうなってしまってはどうしようもない……そこで、小梅は本隊で副官を務めてい
るアリサを利用する事を考えた。

アリサは参謀として高い能力を持っているモノの精神的に幼い部分があり、ちょとした事で直ぐに逆上してしまう――そんなアリサの性格を逆
に利用して、小梅は敢えて挑発したのだ。

其してそれは上手く嵌り、結果として残ったのは、まごう事無き、勝者と敗者の構図だった……


「私の勝ち、ですね?」

「……忌々しいけどね。
 だけど、今回は負けたけど次は負けないわよ!!アンタも西住みほ同様に、アタシが倒すべき相手に認定されたからね!――次にやる時
 は負けないから、覚悟なさい!!」


其れでも減らず口を叩くアリサに対して、小梅は何も言わずに笑みを浮かべると、そのままパンターに乗り込んで、直進!


「まぁ、精々頑張りなさい……貴女達の道が何処で終焉するのか……見届けさせて貰うわ。」


そんな小梅を見ながら、アリサは一人呟いていた――其れは、此の小梅が率いる遊撃隊の別動隊がとんでもない力を秘めている事を実感し
たからの言葉だったのか其れは分からないが、何れにしても、この場で勝ったのは小梅だ。其れは変えられない事実だった。








――――――







Side:まほ


既に黒森峰の防衛線は決壊し、サンダースに決定打を与えられないまま逃げ回り、結果として残っているのは私と凛のティーガーⅠだけだ。
圧倒的に不利……認めたくないが、正直此処までなのかも知れないな。
徹底的に研究された末か――ある意味で戦車乗りとしては誉だが……



「まだです!まだ試合は終わってません!!」

「道を開けろ雑魚共!!開けねぇならひき殺すぞコラァ!!」



如何やら私の運はまだ尽きていないようだな?
此の土壇場で、小梅と直下と狭山……遊撃隊の3人が合流してくれたからね――だが、良いタイミングで合流してくれた。
正直、お前達が来てくれなかったら、私も凛も撃破されていた筈だからね……だから礼を言わせてくれ。よく間に合ってくれた。



「みほさんの大胆な選択のおかげですよ隊長―ーそれは兎も角として、やられっぱなしってのは性に合いませんよね?」

「あぁ、勿論だ小梅。」

確かにやられっぱなしと言うのは性に合わんのでな……やられた分はキッチリ返させて貰うぞサンダース!!――尤も拒否した所で、強制
的に礼はさせて貰うがな!!

如何やら、クライマックスが近づいているようだな――終焉が訪れるその時まで、精々私を楽しませてくれよサンダース?
そして味わうが良い――西住の戦車道をな!!












 To Be Continued… 





キャラクター補足