Side:みほ


黒森峰の高等部に入学して、あっという間に1週間が経ったね……此の1週間で、新入生は多種多様な振るい落としに掛けられて、1週間経
った時点で、機甲科に残ってるのは60人――其れはつまり、此の1週間で、40人が機甲科から別の学科に転属になったか、戦車乗りじゃな
くて、整備士に回った事を意味してる。

でも、其れは無理もないかもだよ……ハッキリ言って、黒森峰の新人の振るい落としは異常としか言えないレベルだからね?
初日の学園艦一周に始まり、ティーガーⅡの砲弾を抱えての100メートルを何度も往復する砲弾運びに、体力作りの為の筋力トレーニングま
である訳だから、寧ろ60人も残ってる事に驚きだよ私は!!



「でしょうね……去年の隊長の同世代も、1週間が経った時点で、機甲科に残ってたのは、最初の半分にも満たなかったみたいよ?」

「其れを考えると、今年の1年生は、わりと根性があるように思いますね?……まだ60人も残ってるんですから。」

「逆に、其れだけ戦車道が好きだって事なんだろうけどね。」

好きこそものの上手なれって諺があるけど、先ずは好きにならなきゃ上達は見込めないもんね……尤も、機甲科から転属になった人達の中
には、整備に心血を注いでる人もいるから、戦車道との係わりあい方は十人十色って事なのかも知れないけどさ。



「好きこそ物の上手なれとは、至言ねみほ……先ずは好きにならなきゃ、上達なんて望めないモノ。」

「好きになるから上手くなる、そして上手くなるからより好きななる……戦車道も、整備も好きだからこそ向上するんですね!――逆に言うな
 ら、戦車と完全に切れてしまった人は、本気で戦車道が好きではなかったという事ですね?」

「うん、其れは否定できない。」

本当に戦車道が好きなら、選手としては駄目でも、整備士や審判て言う形で戦車道に関わって行くと思うからね……勿論、100%そうだとは
言えないけどさ。

結局の所、大事なのは自分の道を貫き通す事だと思うなぁ?……自分の確固たる道があれば、どんな事があっても前に進む事が出来る訳だ
から――少し、偉そうな事を言わせて貰えばだけどね。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer73
全力全開バトルロイヤルです!!』










其れは其れとして、予想してた事だけど、私は滅茶苦茶注目されてると言うか何と言うか……望んでなくても学園艦に名が知られてるみたい
だね?……まぁ、高等部で1年生の頃から隊長を務めてる『西住まほ』の妹となれば注目されない方がオカシイのかも知れないけどさ。
片腕って事で注目された事はあるけど、中学の時はお姉ちゃんと別々の学校だったから『西住まほ』の妹って言う事で注目された記憶は、殆
ど無いから、ちょっと戸惑っちゃうなぁ?



「いや、隊長の妹って事だけじゃなく、3日目に行われた1年生の紅白戦の結果も影響してるんじゃない?
 紅組の隊長が貴女だった訳だけど、殲滅戦ルールで完封勝利ってのは普通有り得ないわよ?幾ら、私と小梅と直下が貴女と同じチームだ
 ったとは言え、白組は黒森峰中等部からの生え抜きばかりで構成されたチームだったんだから。」

「隊長や副隊長は兎も角、大抵の人は黒森峰中からの生え抜きで構成された白組が勝つと思ってた所で、外部入学組が混じってる、言わば
 混成チームの紅組が完封勝利ですからねぇ?
 しかも紅組の隊長を務めていたのは、黒森峰の現隊長の妹ともなれば、注目されるのも当然ですって。」

「有名人の妹は元々注目されるのに、更に自分で注目される切っ掛け作っちゃったんだから、諦めるしかねーんじゃない?
 まぁ、戦車道以外でも、片腕であるにも拘らず、体育で跳び箱7段楽々クリアしたり、片手倒立をやってのけたり、パラアスリートも吃驚な事を
 してくれてるからねぇ……身から出た錆だ、諦めろみほ。」



……エリカさんと小梅さんの言うように、あの紅白戦はちょっとやり過ぎたと言うか、あそこまで圧倒的に勝てるとは思ってなかったんだよ?
エリカさんと小梅さんと直下さんが一緒だったから、結構やり易くはあったけど、私の考えた策が、次から次へと面白いように決まるなんて、完
全に予想外だったんだって――勿論、相手が黒森峰中からの生え抜きチームだって言うのは分かったから、アンチ黒森峰な奇策と搦め手に
満ち溢れた策ではあったんだけどね?
それでもまぁ、完封勝利したとなれば注目されちゃうのは当然か……直下さんの言うように、戦車道以外でも色々やってるし、何よりも虎と狐
を引き連れて登校してる時点で、注目されるなって言う方が無理な相談だったよね。

でも、注目されるのは未だ良いとして、余所余所しく接するのは止めて欲しいんだよね?
同学年でも名前で呼んでくれるのってエリカさんと小梅さんと直下さんだけだし、上級生でも『さん』付けで呼んでくる人が多いから……上級生
で、私に対して余所余所しくないのって、お姉ちゃんと近坂先輩を除いたら、整備科の西濱先輩位じゃないかな?
西濱先輩も、私の事を『妹ちゃん』て呼んで、名前では呼んでくれないけど、結構フランクに接してくれるから気分的には楽な部分があるしね。
『妹ちゃんの乗る戦車は、アタシがガッツリ整備してやるから安心しな!』って言ってくれたのも嬉しかったし。

なんて言うか、黒森峰の厳しさよりも、回りの態度が悩みの種だよ……中学時代が普通だっただけに余計にね。



「其ればっかりは、実力主義の黒森峰では仕方ないと割り切りなさい。
 貴女には実力がある。実力があれば注目されると同時に、同学年所か上級生であっても畏怖してしまうのが実力主義の世界なんだから。」

「実力なら、エリカさんと小梅さんと直下さんだって、並の上級生を凌駕してると思うんだけど……」

「其処はネームバリューでしょヤッパリ?」

「エリカさんは中等部の隊長で、私は副隊長でしたけど、それでもやっぱり『西住流の次女』にして、弱小校を立て直して、全国大会で2連覇さ
 せた『隻腕の軍神』のネームバリューには、到底及びませんて。」

「何か其れ、スッゴク納得いかないよ……」

でもまぁ、エリカさん達が居るから、実は其処まで深刻に悩んでる訳でもないんだけどね――ただ、出来ればもう少しフランクに接して欲しいっ
てだけの話だから。

で、そんな話をしてる間に学食に到着しちゃったけど、今日のお昼は何を食べようか?



「午後もガッツリ行きたいから、今日はカツ丼かな~~。」

「無難にから揚げ定食ですね私は。」

「ハンバーグランチ……今日はガーリックを利かせたスパイシーなスタミナソースで攻めてみようかしら?でも、濃厚なゴルゴンゾーラソースも
 捨てがたいわね……よし、ハンバーグを2個盛にして、両方のソースを試す事にしましょう。」

「エリカさんのハンバーグへの拘りって凄いよね?……と言いながら、私は今日は、オムハンバーグカレーで行こうかと思ってる。」

チキンライスの上にトロットロの卵を乗せて、其処にハンバーグをトッピングして、スパイシーなカレーを上からかけたメニューは、絶対に美味し
いに決まってるし、此れならスプーン1本で食べる事も出来るからね。

夫々メニューを受け取ったら、窓際の4人掛けのテーブルに陣取って食事開始。
食事中は、取り止めのない話から、戦車道の話、雑誌やテレビの話題で雑談しながら食べるのが流儀って言うか、楽しく食事が出来るコツか
も知れないね。

取り敢えず、今日のランチも美味しかったです。ごちそうさまでした。








――――――








Side:エリカ


で、今日も今日とて戦車道の時間がやって来たわね。――正直言って、どの時間よりも、この戦車道の時間が一番楽しくて待ち遠しいって言
うのは間違いないわ。
間違いないけれど……



「本日の練習だが、1年生には基礎訓練の後にバトルロイヤル形式での模擬戦を行って貰う。
 なお、このバトルロイヤルでは、ルールに違反しない限りはどんな戦い方をしようとも構わないので、各々自由に戦ってみて欲しい。」



隊長、其れは『四の五の言わず全員みほに倒されて来い』って事ですか?……いえ、負ける気はないですし、バトルロイヤル形式なら誰にで
も生き残る可能性が残されていると言うのは理解出来ますけどね?
……まさか、このバトルロイヤルで更なる振るい落としを行う心算なんじゃ……



「ん~~……流石に其れは無いと思うよエリカさん?
 バトルロイヤルを使って振るい落としをするなら、もっと最初の方にやっておいた方が効果があると思うから。多分、お姉ちゃんには振るい落
 とし以外の目的があるんだと思うんだよ。」

「何よ、その目的って?」

「其れまでは流石に分からないよ。
 『西住まほ』の考えならある程度分かるけど、『黒森峰戦車道の隊長』の考えとなると、普段のお姉ちゃんとはちょっと違う感じがするから。」

「普段のまほさんてどんな感じよ?」

「其れは秘密のアッコちゃん♪」

「ぶふぅ!!」

そ、其処でボケかまさないでくれる!?油断してたボディに思いっきり来たわ!!
……隊長が話してる時に噴き出すだなんて、大恥モノじゃないのよ!!隊長のバトルロイヤル発言で、1年がざわついてる中だったから目立
たなかったけど!!――下手したら、高校生活でネタにされる失態を曝す所だったわ。



「静粛に。
 何故今バトルロイヤルと思うだろうが、此の1週間の訓練――通称『新人振るい落とし期間』を生き残った諸君等は、真に黒森峰の戦車道チ
 ームの一員となったと言えるだろうからだ。
 と言うのも、黒森峰は今年より、新たな戦術として、通常の指揮系統に属さない『遊撃隊』を組織する事になったのだ。そして、その部隊の一
 期生となる隊員を、今年の1年生から選出しようかと考えている。
 遊撃隊は独立機動権を持つ代わりに、隊長である私からの指示を受ける事が出来ない故に、高い個人資質が重要になって来る故に、この
 バトルロイヤルで遊撃隊のメンバーを選出したいと考えている。」

「「「!!!」」」


遊撃隊って……其れも、今年の1年生で組織するって、此れは間違いなくみほが試合で自由に動けるようにする為の処置よね?
こう言っちゃなんだけど、どんな試合展開になっても、最後まで生き残るのは私と小梅と直下、そしてみほの4人でしょうから……そうなれば、
誰が生き残っても、みほと私と小梅と直下のチームは遊撃隊のメンバーとして残る事が出来る筈よ。
そして、此のメンバーが残れば、仮にみほが勝利しなくても、私も小梅も直下もみほを推すのは間違いないモノね?……此れは、入学式の日
に小梅が言っていた事が現実になったって事か。



「そして、このバトルロイヤルは、チームメンバーは此方で決めたが、使用戦車は夫々のチームで良く考えて決める様に。
 尚、マウスは使用禁止とする――此処までで、何か質問は?……無いな。では、バトルロイヤルのチーム編成を発表する。」



チーム編成は隊長が決めたとは言え、使用戦車はチームが独自に決めるって言うのも、このバトルロイヤルの鍵になりそうね?
で、出来上がったのは4人1組のチームが15個……バトルロイヤルでは通信士が必要ないから、この編成だったんだろうけど、非情に有り難
い事に、私のチームは、操縦士と砲撃手が去年の大会で一緒だった子達だったわ。
装填士の子は、外部入学だけど、振るい落としを生き残ったって事を考えれば実力は確かだから不安はないしね。――と言うか、他のチーム
をざっと見た所、持ち上がり組2~3人と外部入学組1~2の混成チームばかりみたいね?
唯一、みほのチームだけが出身校が全員バラバラの人間で構成されてるみたいだけど……多分、戦力を巧くばらけさせた結果だと思うわ。

チームメンバーは此れで良いとして、問題はどの戦車を使うかね?
ティーガーⅠやティーガーⅡの人気が高いけど、ヤークトティーガーやエレファントなんかを選ぶ連中が居る中で、小梅は手堅くティーガーⅠを
選んで、直下は回転砲塔こそないけど、パンターと同程度の防御力と機動力を有しながらもティーガーⅡと同等の火力を備えた最強駆逐戦車
のヤークトパンターを選んで来たか……私は如何しようかしら?
紅白戦とかだったらティーガーⅠかティーガーⅡを選ぶ所だけど、バトルロイヤルは生き延びてナンボだから、防御力だけじゃなくて機動力も
優れてないといけないから……此処は、パンターで行くのが最良ね。

何よりも……



「西住さん、どの戦車で行くの?」

「ん~~……黒森峰の保有戦車はドレも強力だけど、今回はパンターで行きましょう。
 攻守速のバランスが取れたパンターなら、バトルロイヤルに最適ですから。」



みほもパンターを選んだからね。
パンターは中学時代のみほの愛機だったから、多分1年生の中では誰よりもパンターって言う戦車の事を分かってる……その愛機でバトルロ
イヤルに臨むのはある意味で当然だけれど。

さて、其れじゃあ始めましょうか……遊撃隊メンバー選出のバトルロイヤルってモノをね!!








――――――








No Side


『其れでは、試合開始!』

「「「「「「「「「「「「「「「Panzer Vor!!」」」」」」」」」」」」」」」


まほの号令で始まったバトルロイヤルだが、大方の予想通りに、15チーム中、11チームがみほとエリカと小梅を真っ先に潰そうと、一時的な
同盟を結んで行動していた。
まぁ、此れは当然の事だろう。
みほとエリカは、去年の中学大会で壮絶な痛み分けを演じた戦車乗りであるし、小梅もエリカと共に、みほをあわやと言う所まで追い詰めた猛
者なのだから、此の3人を真っ先に排除しようとするのは自然と言える。

だがしかし、そんな事はみほもエリカも小梅も分かって居る。


「前進してください。ジグザグに動きながら、威嚇砲撃を行ってください。
 敵の動きが止まった所を突破します。」

「機動力の低いヤークトティーガーとエレファントを撹乱しつつ、ティーガーⅠとティーガーⅡの後部か履帯を狙いなさい。
 履帯を切ってしまえば動く事が出来なくなるから、動けない戦車はバトルロイヤルでは的になるだけだからね。」

「敵に後部を取られない様に注意しながら、的を絞らせない様に動いてください。
 砲撃は、出来るだけ相手の足元を狙って撃つようにしてください。」


夫々が最適と思われる方法で其れに対処して行く。
此れに加えて、集中攻撃の対象にならなかった直下が、ヤークトパンターの火力を持ってして仮初の連盟軍の戦車の横っ面を殴りつけ、其れ
を皮切りに、バトルロイヤルらしい大乱闘が勃発!
本来バトルロイヤルとは、自分以外が全て敵で味方である戦い故に、仮初の協力や裏切りが当たり前であり、このバトルロイヤルでも其れは
同じ事だ。

強敵であるみほ、エリカ、小梅の3チームを真っ先に倒そうと考えた11チームは、手痛いカウンターを喰らった上で、手を組んで居なかった直
下からの一撃を受けて連携どころではなくなり、夫々が好きに動く事態となっていたのだ。


「何やってるのよ!ヤークトティーガーなら、射程外から赤星を撃破出来たでしょ?何で前に出て来たのよ!!」

「エレファントに乗ってるアンタが其れを言うか?アンタの方こそ、前に出なくても逸見を撃破出来たんじゃないの?」


更に、みほ達を撃破出来なかったと言う事で、仮初の同盟は此処で仲間割れを起こして、交戦状態に突入し、本当の意味で、バトルロイヤル
になったのだ。

そんな中で、エリカと小梅と直下は、自分から攻める事はせずに、自分達に向かってくる相手のみを相手にしていたのだが、仮初の同盟軍の
攻撃を突破して以降、みほのチームは何処かに雲隠れして、一向にその姿を見せてはいなかった。


「(みほが攻めて来ない?……此れはちょっと不気味ね……)」

「(みほさんにしては大人しすぎる……さて、何を狙ってるんでしょうか?)」

「(みほならこの混戦の中でも見事に立ち回る筈なのに仕掛けて来ないなんて……絶対に、土壇場で仕掛けて来るよね此れは。)」


エリカと小梅と直下は、其れを不思議に思いながらも、的確に相手を撃破して数を減らして行く。






「よし、そろそろ行こうか?」

「其れを待ってたよ西住さん。」



試合が動いたのは、残り車輌が約半分の8輌になった時だった。
突如として、みほの乗るパンターが戦場に躍り出て、瞬く間にエレファント1輌と、ヤークトティーガー1輌、ティーガーⅠ2輌を撃破してのだ。
其れは余りにも素早い電撃戦であり、各戦車の弱点を的確に射貫いていると言うのだから驚く他ないだろう。


「沈黙の前半は、最後に勝つ為の布石って事だったのね……バトルロイヤルの戦い方を良く分かってるわ貴女は……!
 だけど、負ける心算は無いわみほ!!」

「バトルロイヤルって言うのは、最後まで生き残ってたのが勝者だから、序盤は潰し合いを静観するのが吉だからね?
 ……だけど、静観するのも飽きたから、此処からは本気で行かせて貰うよ!!」

「上等!!」


そのみほ車は、其処からエリカのパンターと交戦状態に。
普通に考えるなら、小梅と直下もエリカに付いてみほを狙うのだろうが……みほが参戦したと同時に、何と直下は小梅に向かって攻撃を始め
たのだ。


「直下さん!?」

「悪いね小梅、生き残る為には、これも必要なんだわ。」


直下は、悪びれる様子もなく小梅を攻撃し、しかし小梅もその攻撃を食事の角度で弾くなり、躱すなりして防ぎながら、直下のヤークトパンター
と交戦を開始する。

その戦いは激しく、しかし戦車道のお手本となるような戦いで、早々に脱落したチームの1年生は元より、2・3年生ですら目を見張る物があっ
たらしく、試合を食い入るように見つめているのだ。

しかし、その戦いも唐突に終わりを迎える事となる。


「行くよ、エリカさん!」

「受けて立つわ、みほ!!」


パンター同士で激戦を繰り広げていたみほとエリカは、決着を付けるべく互いに全速力で前進し、擦れ違い様に戦車ドリフトをかまして相手の
側面を捉えて砲撃――


「撃て!」

「急速前進!!」


する刹那に、みほのパンターは急発進し、結果としてエリカのパンターは砲撃をギリギリで躱される結果となったのだが、エリカのパンターが放
った砲撃の射線上には、直下と交戦していた小梅のティーガーⅠが!


「な…!!そんな!!」


激戦の末に直下を下した小梅だが、完全に予想外の一撃に対処出来る筈もなく、ティーガーⅠは後部装甲を撃ち抜かれて白旗判定!(因み
に、小梅に撃破された直下のヤークトパンターは、お約束的に履帯が切れていた。)

そして、其れでは終わらずに、みほはパンターを急旋回させると、エリカの乗るパンターに突撃し、横っ腹からのゼロ距離砲撃を敢行!!


――キュポン!


其れを喰らったエリカのパンターは沈黙し、同時にバトルロイヤルは終了したのだった――西住みほが勝者となって。








――――――








Side:エリカ


ふぅ……やっぱり勝ったのはみほだったわね……とても見事な戦いだったわよみほ。正に、バトルロイヤルの戦いのお手本のような戦い方だ
ったわ――相変わらず、良い腕をしてるわね。

まぁ、其れが分からないアホ共も居るみたいだけど。



「雲隠れして、数が減った所で出て来るなんて卑怯よ!」

「黒森峰に在籍してるなら、搦め手とか使わないで正々堂々と戦えーーー!西住流の名が泣くぞーーー!!」



はぁ……聞いてて呆れるわね此れは。
何を勘違いしてるのか知らないけど、バトルロイヤルって言うのは最後まで生き残っていた者が勝者なんだから、生き残る為には、どんな手を
使っても其れを非難する事は出来ないわよ?
何よりもみほのチームは、全てのメンバーの出身校がバラバラだったから、其れを一つに纏め上げる時間も必要だったんじゃない?……私の
予想では、あの沈黙の間で、みほはチームメンバーの癖やら何やらを把握して、其れを自分の中で最適化して、どんな指示を出せば良いかっ
て考えてた時間だと思うからね。

そして其れはみほが戦線に加わるまでの時間だから、時間にして僅か20分なのよ?……たったそれだけの時間で、初めてチームを組んだ
人の事を把握する事なんて出来ないでしょ?
にも拘らず、みほは流儀も練度もバラバラなチームを纏め上げて、バトルロイヤルを勝ち抜いたのよ?――果たして、貴女達に其れが出来た
かしら?

こう言っちゃなんだけど、私と小梅だって無理だと思うわ。
だから、此れがみほの実力なんだって認めなさい?――何よりも、チーム内で内乱が起きたって言うのは洒落にならないし、何よりもまほさん
が待ってる集合場所で試合後の挨拶をしないとだもの。

何にしても、このバトルロイヤルの結果で、みほが遊撃隊の隊長になるのは間違いないでしょうね……此れはもう、今年の黒森峰は安泰であ
るのは間違いないわね。








――――――







Side:みほ


バトルロイヤルは私が勝って、その後のミーティングで遊撃部隊のメンバーが発表されて、遊撃隊の隊長も明らかになったんだけど、まさか私
が遊撃隊の隊長に選出されるとは思わなったよ!!(因みに遊撃隊のメンバーは私のチームと、エリカさんのチームと、小梅さんのチームと、
直下さんのチームが暫定的なスタメンになったね。)



「いや、此れは順当な選択だと思うわよ?……こう言っちゃなんだけど、貴女の指揮能力はずば抜けてるから、遊撃隊の隊長ってのは適任だ
 と思うわね。」

「エリカさんに賛成です。
 みほさん以上に、この遊撃隊を指示できる人なんていないと思いますから。」

「其れは高評価だと思うけど、この人事には納得してない人も居るんじゃないかな?」

「いるわよ、其処に……」



「確かに彼女は優秀でしょうが、だからと言ってバトルロイヤルを生き延びたと言うだけで、遊撃隊の隊長に任命されると言うのは、幾ら何でも
 納得できません!」

「ふむ、つまりみほには遊撃隊の隊長は務まらないと、そう言いたいんだなお前は?」



うん、居たね……私の遊撃隊隊長選出に真っ向から異を唱える人が居るとは思わなかったよ――お姉ちゃんの言う事には、基本的に誰も異
を唱える事が無いからね?
そうであるにも拘らず、お姉ちゃんに食って掛かるとは、結構いい度胸の持ち主なのは間違いないよ。



「そうは言ってません!
 このバトルロイヤルの結果だけで、遊撃隊の隊長を決めるのはおかしいって言ってるんです!――だから私は、この場で遊撃隊隊長の座を
 かけて、西住みほに勝負を申し入れます!!」



……はい?
ちょっと、何言ってるのか分からなかったから、要約してくれるかなエリカさん?



「端的に言うなら、みほじゃ遊撃隊の隊長は務まらないから、隊長を私にしろって事なんでしょうけど、此れは明らかに喧嘩を売る相手を間違
 えたとしか言いようが無いんじゃない?」

「みほさんに喧嘩を売るとは身の程知らずとしか言いようがないですよ。」

「今のバトルロイヤルで分からなかったのか、それとも単純に同じ1年なのに大役を任されたのが気に入らないのか……多分両方だな。」



成程、そう言事だったんだ……だけど、売られた喧嘩は買うのが礼儀だから、本気で行くよ?――新たな火種が見つかったけど、其れは私が
鎮火すれば良い事だしね。

突然の事だから、此処で勝負って事にはならないと思うし、準備期間が設けられるはずだけど、試合をするって言うなら負けられない――何
よりも、私の事を遊撃隊隊長に任命してくれたお姉ちゃんの為にもね。
そして、骨の髄まで知ってもらうかな……隻腕の軍神に喧嘩を売ったら火傷じゃ済まない事になるって言う事を。


バトルロイヤル直後に厄介事が発生してくれたけど、此れは此れでちょっと楽しみかも。
私の実力に不満があるみたいだから、たっぷりと味わわせてあげるよ――私の、『西住みほ』の戦車道って言うモノを……!!












 To Be Continued… 





キャラクター補足



西濱千恵子
整備課に所属してる3年生で、細かいことは気にしない豪快な性格をしている。
みほの事を気に入っており、『妹ちゃん』と呼んでいる。
整備の腕は一流で、まほが自身の搭乗車輌であるティーガーⅠの整備を直々に依頼する程である。