Side:しほ


序盤の平原での攻防は、逸見さんが敢えてみほに稜線を取らせた上でその裏をかいて、Ⅲ突2輌を撃破して先手を取ったのだけれど、続く
市街地戦では、明光大のパンター2輌が、黒森峰のラング2輌を葬って残存車輌数をイーブンに戻した。
そして、その後、みほのチームが黒森峰のパンター2輌を撃破し、逸見さんと赤星さんのチームも明光大のパンターを2輌撃破して、明光大と
黒森峰共に、残存車輌は6輌……この状況、貴女はどう見るかしら菊代?



「そうですね……残存車輌数が同じで、なおかつ市街地戦であると言う事を考えると、みほお嬢様が絶対有利であるのは間違いない事です
 が、逸見さんと赤星さん、そして去年から加入したツェスカさんの実力も相当なものです。
 夫々と一対一の戦いをしたら、みほお嬢様が勝つでしょうけれど、一対二以上の状態であるのならばその限りではないかと思います。
 ――最強のライバル2人を相手にするのは、如何にみほお嬢様でもかなり厳しいモノが有ると愚考します、奥様。」

「貴女も、そう考えるのね菊代……」

一対一の戦いなら、現在の黒森峰の誰を相手にしたところでみほが勝つのは間違いないわ――黒森峰側は、精々逸見さんと赤星さんが引
き分けに持ち込むのがやっとでしょうから。
だけど、一対一でないのならば話は変わって来るわ。
今年の大会を見る限り、逸見さんと赤星さんのコンビネーションは、去年のまほと逸見さんのコンビネーション以上の物を感じるから、彼女達
ならば、みほに勝つ事だって出来るかも知れない。

無論みほだって、簡単に倒せる相手じゃないから、そうなった場合は激戦必至なのは間違いないでしょうけれどね。



「ですが、奥様はそう言う展開になる事を望んでいるんですよね?」

「……其れは否定しないわ菊代。否定する気もないからね。」

貴女達の戦車道の試合は、西住流の師範に落ち着いた私の心にすら火を点けて、現役時代の思いを蘇らせてくれるからね……だから、何
方も頑張りなさい?
互いに全力を尽くして戦った先には、勝利よりももっと素晴らしい物が待っているのだから――其れを、手に入れなさい、何方の学校もね。
貴女達は、まだまだ強くなれるのだからね――此の決勝戦は、マッタク持って目が離せないわね。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer60
戦いは白熱のバーニングです!』









Side:みほ


残存車輌は互いに残り6輌……其れも残ってる車輌は、私達明光大がティーガーⅠが3輌とティーガーⅡが1輌でパンターが2輌。黒森峰も
ティーガーⅠが4輌で、パンターが2輌だから、戦車の性能的には完全に互角って言う感じになったかな――でも、フラッグ戦ではどれだけ
車輌が残っていてもフラッグ車を撃破されたら其処でお終いだから、数の差は実はあまり問題じゃない。

互いに戦力の4割を失った今、一つの判断ミスが勝敗を決すことにならないから、私の指示にミスは許されないよ――そんな状況を、楽しい
って思ってる私は、可成り戦車道に浸かってるんだって思うからね。

「つぼみさん、此のまま市街地を周って行きましょう。
 黒森峰は、恐らくこのフラッグ車を徹底的に狙ってくるはずですので、市街地戦である事を有効に活用して、黒森峰のペースを乱して行こう
 と思います――ペースを乱す事が出来れば、其処に勝機を見出す事が事が出来るから。
 勝ちに行きましょう此処で!!」

「お任せあれみほさん!!
 市街地を全速力でかっ飛ばして、黒森峰の戦車を見つけてあげるから安心していいわ!明光大最強の虎の王からは逃げられないわ!」

「どんな敵が来ても、撃ち抜いてあげるわ……ティーガーⅡの88mmなら、黒森峰の戦車をドレでも撃ち抜けるからね。」

「だから任せとけって!!」



本当に頼りになるなぁ皆。
さてと……黒森峰が徹底して私達を狙ってくるのは間違いない。なら、こっちもフラッグ車を、エリカさんを徹底的に狙って行くとしようかなぁ?
私の予測が正しければ、今年の黒森峰のトップ2であるエリカさんと小梅さんは多分一緒に行動してる筈――その状況で、フラッグ車だけを
狙いに行けば、フラッグ車は撃破出来なくともフラッグ車を守ろうとした小梅さんを撃破する事は出来るかも知れない。
今年の大会を見る限り、私1人でエリカさんと小梅さんの2人を相手にするのはちょっと厳しいからね……梓ちゃんが、ツェスカちゃんとのタイ
マン勝負を制して、援軍に加わってくれるなら大丈夫だろうけど、此ればっかりはどうなるか分からないからね?
最低でも小梅さんの事は撃破しておきたいって言うのが正直な所かな。

「全車に通達。黒森峰の他の戦車には構わずに、フラッグ車を徹底的に狙って下さい。」

『隊長!其れじゃあ隊長のフラッグ車が黒森峰の残存戦力に囲まれちゃったら拙くないですか!?』

「大丈夫。ティーガーⅡの防御力なら、ティーガーⅠとパンターの砲撃でもそう簡単に撃ち抜かれる事はないし、エリカさんと小梅さん以上の
 戦車乗りが相手じゃなければ、私は負けないから。
 だから、私を信じて敵フラッグ車のみを狙って下さい。」

『大丈夫です!もしもの場合は、私が全力で西住隊長のサポートに回りますから!!』



私が敵車輌に囲まれる危険性についての意見は出るとは思ってたけど、此処で予想外の梓ちゃんの援護射撃が来たね?
梓ちゃんの車長としての能力は、私以外の3年生をも凌駕して、今や完全に明光大のナンバー2の地位を確立してる副隊長だから、その副
隊長がサポートに回るって言うのなら、これ以上に安心できる物はないからね。
だけど、梓ちゃん、ツェスカちゃんとの戦いは良いのかなぁ?



『もちろんツェスカにも勝ちたいですけど、優先すべきは私の戦いよりも明光大の勝利ですよ西住隊長!
 戦車道は、まず楽しむ物だって言うのは理解してますけど、西住隊長にとっては中学最後の公式戦となる此の決勝戦は、やっぱり勝ちた
 いんです!!
 何よりも私が、隊長には優勝を手にして明光大を卒業して欲しいって思っていますから!!』



梓ちゃん……ライバルとの直接対決を捨ててまで、明光大が勝つ為に動くって言うなんて、実に立派な事だよ其れは。
人は誰しも、己のライバルとの直接対決を目の前にちらつかせられたら、そっちに意識が向いちゃうって言うのに、ライバルを前にしながらも
チームの為にって言う選択ができる梓ちゃんは大した者だね。

でも、だからこそ背中を任せる事が出来るよ。
仮に私が窮地に陥ったその時は、梓ちゃんがきっと助けてくれるだろうからね――うん、頼りにしてるよ梓ちゃん!!



『任せて下さい西住隊長!!私のサポートが必要な場合には、スマホに1切り入れて下さい!!』

「了解です副隊長さん。その時は、頼りにさせて貰うよ♪」

『はい!!』



互いにフラッグ車を狙うって言う作戦に出た以上、此処からは更なる激戦が予想される――って言うか、確実に超激戦になるのは間違いな
いんじゃないかと思うよ。
其れこそ、大会のルールはフラッグ戦であるにも関わらず、殲滅戦みたいな様相を呈して来るんじゃないかって思うからね?

でも、其れなら其れで上等だよ!!――私の持てる力の全てを持ってして、勝利をもぎ取って見せるから!!
だから、絶対に負けないよエリカさん、小梅さん!!明光大付属中学校の戦車道部の真髄を、満腹になるまで味わって貰うから、覚悟してお
いてね?――きっとエリカさんと小梅さんでも驚くだろうからね!!

さぁ、行こう!勝利の旗を目指して!!








――――――








No Side


明光大、黒森峰共に残存車輌は残り6輌であり、何方が有利とは一概に言えないだろう。
みほは市街地戦を得意としているので、フィールドアドバンテージを見ればみほが絶対有利に見えるだろうが、研ぎ澄まされた牙を持つ『黒
森峰の銀狼』こと、逸見エリカと、『黒森峰の隼』こと、赤星小梅が力を合わせたのならばその限りではない。

今年の黒森峰の強さは、エリカの持ち前の行動力と、小梅の冷静な判断力が巧く調和した結果の強さだ。
前隊長のまほの様に、圧倒的に勝てる訳ではないが、しかしエリカと小梅の戦い方は圧倒的では無いが、エリカの大胆な戦い方と、小梅の
鋭くも繊細な戦い方が融合し『どんな相手と戦っても勝てる戦車道』となっているのだ。

言うなれば剛柔の両方が入り混じった戦い方であり、如何に『隻腕の軍神』と渾名されるみほでも、簡単に勝てる相手ではないのだ。
みほが『フラッグ車のみを狙え』と指示したのも、エリカと小梅の両方が揃っている状態と言うのは危険だと判断したからに他ならないのだ。
『フラッグ車のみを狙え』の裏には『フラッグ車を倒す事もが出来なくても副隊長車を撃破出来れば儲けもの』と隠れた命令もあったのだ。

明光大がフラッグ車を目指して進軍を開始した頃、黒森峰の部隊もまた、みほの読み通り明光大のフラッグ車に向かっていた。
が、此れはエリカが命じた事ではなく、黒森峰の隊員略全員が、同じ考えに至った事で自然に発生した事なのだが、此れはある意味で当然
の事であったのかも知れない。
黒森峰の2年生以上の機甲科の生徒は、去年と一昨年の合宿で『西住みほ』と言う戦車乗りの規格外さを知っている――2回の合宿に於い
て、みほ達の乗るアイスブルーのパンターは只の一度も撃破された事は無く、合宿中の無敗伝説を打ち立てているのだから。
加えて、明光大の戦車部隊は有り得ないような軌道を普通にやる様な連中であり、それらと市街地でやり合うのはリスクが高い――ならば
他は無視してフラッグ車を狙いに行くのが上策だと考えたのだろう。

しかし、この時黒森峰の部隊は『ティーガーⅠ2輌』が明光大のフラッグ車へと向かっていた。
ツェスカの乗るパンターは、梓の乗るティーガーⅠを探しているのかも知れないが、残るもう1輌のパンターは何故かフラッグ車には向かわず
に、市街地をうろついて明光大の部隊を探していたのだ。
みほの凄さを分かっていないのか?――いや、その凄さを体験していないだけだった。
このパンターの車長は、今大会で唯一1年生の車長であり、更に乗組員も全員1年生と言うルーキーチームだったのだ。
それ故に、此れまでの試合で明光大が強いと言う事は漠然と理解出来ていても、合宿の経験がない為に『西住みほ』がドレだけ凄まじい戦
車乗りであるのかと言う事を全く理解していなかった。
エリカや小梅、その他黒森峰の先輩の話を聞いても『少しオーバーに言ってるよね此れ?』と言った感じで捕らえてしまい、みほの戦車道力
を本来よりも低く見積もってしまい、フラッグ車を討つよりも敵戦車の数を減らして、数のアドバンテージを取る事を選んでしまったのだ。

だが、彼女が発見した明光大の戦車は、最悪の相手だった。
見つけたのはパールホワイトのティーガーⅠ――明光大の副隊長車だったのだ。
みほに徹底的に鍛えられた梓は、戦車道を始めて僅か1年でありながら、黒森峰のレギュラー陣をも凌駕する力を身に付けている――中学
から始めた梓だからこそ、変な癖がついて居なくて、スポンジが水を吸収する様にみほの教えがすんなり浸透したのだ。
故にその力は可成りなモノなのだが、副隊長車を発見したパンターの車長は、此れはチャンスだと思ってしまった。

副隊長を撃破する事が出来れば、隊長の補佐が居なくなって黒森峰にとって有利になると考えたのと同時に、副隊長車を撃破したと言う事
になれば、自分の評価も上がると言うちょっとした欲もあったから。
とは言え、マッタク勝算が無く挑む心算は無かった。
攻防力では劣るが、機動力ならばパンターの方が圧倒的に上なので、市街地と言う特性を利用すればティーガーⅠが相手でも勝てると踏ん
だのだ。

しかし――


「敵戦車発見……なのは!」

88mmのバスターを喰らいやがれなのぉぉぉ!!!



――ドガァァァァァァァァァン!!


いざ動こうとした所で、ティーガーⅠからの先制攻撃を受ける形になってしまった。


「か、回避!!」


その攻撃はギリギリで回避したが、パンターの車長は内心で冷や汗をかいていた。
自分達がティーガーⅠを発見した時、相手は此方に気付いていない様子だった――だからこそ、奇襲をかけて先手を取ろうとしたのだが、逆
に先制攻撃をされてしまった。

其れが意味するのはつまり、梓は黒森峰のパンターに発見される前から、パンターの存在を認識してたと言う事に他ならない。
既に見つけていたにもかかわらず、気付いていないフリをして、相手が動き出した所に出鼻を挫く一撃をお見舞いしたのだ――この辺りの巧
さも、みほ流を確りと受け継いでいると言えるだろう。

そして先手を取った梓は、其のまま一気にティーガーⅠを加速させてパンターに迫る。
当然パンターは逃げるが、此処でパンターの車長は己が致命的なミスをしていた事に気付く――自分が居た場所は開けた場所ではなく、ビ
ルが密集している狭い場所であったと。

戦車の性能で言えばパンターの方がティーガーⅠよりも機動力は上だ。(ティーガーⅠの最高速度は38kmで、パンターは55km。但し、明光
大のティーガーはⅠ&Ⅱ共に魔改造により、最高速度が40㎞まで引き上げられている。)
開けた場所ならばその機動力を持ってして豹が虎を翻弄する事も出来ただろう。
しかし、動ける範囲が限定されている場所では、高い機動力も本来の力を発揮するのは難しい。――こう言っては何だが、ティーガーⅠの先
制攻撃を回避できたのも奇跡的なモノなのだ。

それ程までに限定的な空間に於いて、パンターでティーガーに挑むのは無謀だろう。
しかしながら、このパンターの車長は可也好戦的な性格だったらしく……


「やってくれたわね?絶対にぶっ倒してやるわ!!」


退くどころか、逆に梓のティーガーⅠに向かって行く。
もしもこのチームに2年生以上の隊員が居たのならば、撤退を指示しただろう――其れこそ先輩と言う立場を利用してでもだ。
だが、此のパンターの乗組員は全員が1年生で構成されているが故に、車長に異を唱える者はいない――他の乗組員たちもまた、車長と同
じ思いだからだ。

やる気むんむんのパンターに対して、明光大副隊長の梓は極めて冷静だった。


「クロエ、右にフェイトを入れた後で左に急旋回して。
 そうすれば、相手は態勢を崩して最低でも此方に側面を曝す事になるから、相手の側面か後部を捉えたら容赦なく撃ち抜いて、なのは。」

「了解したヨ、アズサ!!」

「全力全壊!ブチかましてやるの!!」


向かってくるパンターに対して正面から迎え撃つと見せかけながら広い場所まで誘き出すと、右に少しのフェイントを入れ、そのフェイントに誘
われたパンターを左側から抜いて側面を取り、其のまま88mmの主砲を発射!!
如何に攻守速に優れているパンターと言えど、近距離から側面をティーガーⅠの88mmで撃ち抜かれたら堪った物ではない。
横っ腹から強烈なストレートをブチかまされたパンターは、その威力で吹っ飛び、横転し、その後に白旗を上げる事になった。


『黒森峰、パンター3号車、行動不能!』


エリカと小梅は、経験を積ませる意味で今大会には必ず1年生だけのチームを出場させていたのだが、此の決勝戦に限っては、其れが裏目
に出た結果となってしまっただろう。








――――――








だが、試合はまだ終わっていない。
梓がパンターを撃破した頃、みほは黒森峰のティーガーⅠ2輌とエンカウントしていた。
最強クラスの重戦車2輌を相手にしなければならないと言うのは、普通ならば可成りきついモノが有るのだが、みほはそんな物は何処吹く風
だと言わんばかりに冷静だ。
それどころか、顔には笑みを浮かべ、其れと同時にパンツァージャケットの上着を脱いで、外套の様に肩に引っ掛ける『超軍神モード』(命名
青子)となる。


「良い気迫だね?……相手になるよ!!!」

「西住みほ、覚悟!!」

「我ら黒森峰の勝利の為に、貴女を討ちます!!」


みほが超軍神モードになったのを合図と言うかの様に、戦闘開始!
2輌のティーガーⅠは、みほのティーガーⅡを挟み撃ちにしようと両脇から攻めて来るが、その挟み撃ちはつぼみの華麗なる操縦で躱し、逆
に、ティーガーⅠ3号車の側面に回って一撃を叩き込む!
回避行動とタイムラグが無い砲撃は、青子の高速装填と、ナオミの正確無比な砲撃があればこそだろう――装填手と砲撃手の呼吸がピタリ
とあって居なければ、不可能なほどの超砲撃なのだ。

辛うじてティーガーⅠ3号車は『食事の角度』で撃破を免れたが、その程度でみほ達隊長車の猛攻を止める事は出来ない。

みほ自身はありとあらゆる策を使って戦う策士だが、同時に母であるしほから西住流を叩き込まれており、押せ押せの戦い方も出来る。
故に、一度攻撃のスイッチが入ったみほは、凄まじいの一言に尽きる――天性の才能に、西住流の攻撃特化の戦術がプラスされたのなら、
其れは最強の矛となるのだから。


「如何したの?其れじゃあ私を討つ事は出来ないよ!!」

「く……ティーガーⅡでこれ程の動きをするなんて……妹様は化け物か!?」


更に恐ろしいのは、西住流の攻撃特化の戦術を使いながらも、同時に自身が得意とする搦め手も確りと使ってくる事だ。
みほはティーガーⅡの圧倒的な攻守力を生かしながらも、『電柱を攻撃して倒す』、『ビルを攻撃して瓦礫を降らせる』、『道路を抉って敵戦車
を落とす』と言う、アウトサイド攻撃を行い、黒森峰のティーガーⅠ2輌を、完全に手玉に取っていたのだ。

其れでも簡単にやられないのは、流石は黒森峰と言う所だが、みほの力は黒森峰のレギュラー陣を軽く凌駕するのだ。


「ナオミさん『狙って』!!」

「任せなさい。目標を狙い撃つわ!」


みほに命じられたナオミは、今はもう使われていない火の見櫓に砲撃を喰らわせ手鉄塔を圧し折り、圧し折られた鉄塔がティーガーⅠ2輌に
向かって倒れて行く。
倒れて来る鉄塔の先に位置する場所に居たティーガーⅠはギリギリで回避する事に成功したが、根元に近い部分に居たティーガーⅠは、有
り得ない事態に慌てて回避行動が間に合わず、哀れ鉄塔の下敷きに。

特殊なカーボンのお陰で乗組員は無事だが、めでたく白旗を上げる結果となってしまったのだ。


『黒森峰、ティーガーⅠ3号車行動不能!』


更に、鉄塔攻撃を回避したティーガーⅠに対しても、みほのティーガーⅡの行動は素早く、回避先に車輌を滑り込ませて後部をとる。
一見すれば、ドレだけ勘が良いのかとも思うだろうが、鉄塔攻撃を回避した際の起動は、鉄塔の先端の横にずれるか後方に下がるかの2択
なので、みほにとっては簡単な事だった。
確率的に、横に避けるよりも、後に下がる確率が高いと読んでティーガーⅡを移動させたのだ。

みほの読みもさることながら、つぼみの操縦技術があったからこそ出来た事だ――そして、其の効果は覿面であり。


「装填完了!ブチかませナオミ!!」

「此れで終わりよ……吹き飛びなさい。」


――バガァァァァァァン!!

――キュポン!!



『黒森峰、ティーガーⅠ4号車行動不能!』


残るティーガーⅠをも撃破!
みほは、己を狙って来た相手を見事に返り討ちにしたのだ――隻腕の軍神の二つ名は伊達ではないと、知らしめて見せたのであった。








――――――








みほが黒森峰のティーガーⅠ2輌を撃破した頃、エリカと小梅は明光大のティーガーⅠ2輌と、パンター2輌の襲撃を受けていた。
みほから『フラッグ車のみを狙え』と言う命令を受けた明光大の隊員は、梓を除いて全員がエリカと小梅を狩らんと、進撃して来たのである。


「コイツ等……上等じゃない!!受けて立つわよ小梅!!」

「はい、行きましょうエリカさん!!」


数の上では2対4と可成り不利だが、その程度で怯むエリカと小梅ではない。
怯むどころか、口元には笑みを浮かべて明光大の戦車との戦車戦を開始し、凄まじいまでの攻防を展開する――エリカが持ち前の行動力で
明光大の戦車に突っ込めば、小梅が其れを繊細な戦術でサポートし、数の差をものともしない戦いを見せているのだ。

並の相手なら、此れで勝利は確実だが、しかし相手は明光大なのでそうは行かない。
エリカと小梅の猛攻を受けながらも、明光大の部隊は其れに対処しつつ、正確にエリカの乗るフラッグ車を狙ってきているのだ――此のまま
戦い続ければ、何方が先にジリ貧になるかは言うまでもないだろう。


「(ち……分かってはいたけど、面倒な連中だわ!!)」

「(たった2輌の差が、此処まで重いと思うのは初めてですね……流石はみほさんの指導を受けているだけありますよ――!)」


此のままならジリ貧だが、しかしそうはならなかった。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!やらせるぁぁぁ!!!」


――ドガシャァァァァァァァ!!!

――キュポン!



『明光大、パンター2号車、行動不能!』


ツェスカが乗るパンターが(どうやって乗ったのか分からないが)コンビニの屋根から飛来して、明光大のパンター2号車を押し潰して行動不
能にし、更に――


「どっせい!!」

「うっそだぁ!?」



――バガァァァン!!!

――キュポン!



『明光大、パンター3号車、行動不能!!』


目にも留まらぬ速さで、明光大のパンター3号車を撃破!!
ドイツのジュニアリーグのトップ選手であったツェスカの実力は本物であり、明光大のパンターを2輌連続で撃破したのだ――ツェスカは『何
となく嫌な予感がする』と思って、エリカ達の元に向かったのだが、其れが結果として大当たりだったのだ。

そして、数の差がなくなればエリカも小梅も同性能の戦車が相手であっても負けはしない。


「やるじゃないツェスカ……貴女が齎してくれた好機、無駄にはしないわ!!――行くわよ小梅!!」

「はい、エリカさん!!」


瞬く間もなく、エリカの隊長車から砲撃が放たれて明光大のティーガーⅠを強襲!
明光大のティーガーⅠ2輌も、持ち前の変態的回避能力で其れを避けるが、回避した先には既に小梅のティーガーⅠとツェスカのパンターが
先回りしており、詰まり次の攻撃を回避する事は不可能だ。


此れで終わりです!!


――ガァァァァァァァァン!!!

――キュポン



『明光大、ティーガーⅠ2号車、行動不能。』


先ずは小梅が、明光大のティーガーⅠ2号車を行動不能にし、続いてツェスカが明光大のティーガーⅠ3号車に攻撃するが、それは『食事の
角度』で弾かれる。
だが、ツェスカ車の放った1の矢の次には、エリカ車からの2の矢が待っていた。


「大人しく眠りなさい……」


――ドガァァァァァァァァァァン!!

――キュポン!!



『明光大、ティーガーⅠ3号車行動不能!』


食事の角度を取っていた明光大のティーガーⅠ3号車の裏に回ったエリカは、其のままウィークポイントである後部を撃ち抜いて、ティーガー
Ⅰ3号車を沈黙させる。

此れで残存車輌は明光大がティーガーⅡ1輌とティーガーⅠが1輌の計2輌。
黒森峰がティーガーⅠが2輌とパンターが1輌の計3輌と、何方も一歩も譲らない戦いの結果が現れているような残存車輌数となっていた。

同時に此の決勝戦は、フラッグ戦であるにも拘らず、最終的には何方かの車輌が全滅するまで決着の付かない『殲滅戦』の様相を呈して来
ていた。


「(此れは面白くなって来たね……トコトンやろう、エリカさん、小梅さん!!)」

「(この展開……上等じゃない!徹底的にやってやるわみほ!!)」

「(此処からが本当の勝負……行きますよみほさん!!)」

「(最高の舞台が整ったわ――Zu begleichen Azusa!(決着を付けましょう、アズサ!))」

「(この戦い、絶対に負けられない――勝たせて貰うよツェスカ!!)」


そして残った車輌の車長は、夫々の思いを胸に最終決戦へと向かう――決勝戦は、此処からがクライマックスだと、観客の誰もが、そう確信
していたのだった。











 To Be Continued… 





キャラクター補足