Side:エリカ


スイッチ式の地雷で建物爆破とは……確かにルールで禁止されてないグレーゾーンではあるけど、合法か違法かって言うのならば間違いな
く『違法』よ!
ルールでは『戦車砲及び機銃以外での建造物破壊』はルールとして認められているけどそれ以外の方法は是でも非でもないグレーゾーン。
グレーゾーンは使わないって言う暗黙のルールすら破るなんて、横浜アドヴァンスの隊長は、勝利史上主義である事は間違いないわ。
『勝つ事』以上に優先する物は無いって考えてる以上、此れから先もグレーゾーンな手段を次々使ってくるのは確実――小学校の時から全
然成長してないわねアイツ。



「勝利至上主義とは言え少しやり過ぎですよ此れは――若しかしなくてもみほさんの逆鱗に触れるんじゃないですかアレは!?」

「言うまでもなく逆鱗に触れたわよ小梅。」

みほは、まほさんと比べるとのほほんとしたイメージだけど、戦車道に関しては誰よりも真剣に取り組んでいて、そして楽しんでいるわ。
そもそもにして、みほは勝つ事よりも楽しむ事を重視してるわ――其れで勝っちゃうのだから、あの子の戦車乗りとしての能力は疑う所がな
いわよ。

だからこそ、勝利を得る為にルールのグレーゾーンを使って来た横浜を許す事は出来ないでしょうね。



「と言う事は?」

「1回戦をみほが勝つのは必然よ小梅。」

あの子は今もまだ強くなってるから、小学校の頃から成長してない隊長が率いる相手なんて塵芥にもならないのでしょうね……益々、貴女と
決勝で戦いたくなったわみほ!!

だから、こんな所で負けないでよ?――私が望むのは、貴女との試合なんだからね!!――私も勝ち抜いて、待ってるわみほ、決勝で!









ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer51
姑息な手段をぶち壊します!』









No Side


1回戦第5試合である明光大付属中学校と横浜アドヴァンス中学校の戦いは序盤に、アドヴァンスがルールギリギリの瓦礫攻撃を仕掛けて
来たにも拘らず、其れに冷静に対処して明光大は致命傷を悉く回避し、アドヴァンスに決定打を与えない――幼い頃より西住流の手解きを
受けて来たみほにとって、試合中に瓦礫が落ちて来ると言う事は少なくない回数体験してるので、さして気にはしていなかったのだろう。

だが、此の瓦礫攻撃よりもみほには気になって居る事があった。


「(なんで向こうは、私達が此処を通る事を知ってたの?
  分散したチームの何れかが瓦礫攻撃を受けたのなら兎も角、全部のチームに正確に瓦礫攻撃を仕掛けるなんて言う事は不可能だし、仮
  に偵察を出していたとしても、私達が進んでるのは大通りじゃないから高いビルの上からでも見つけるのは難しい。
  何よりも、私達が何チームに分かれてるのかも分からないのに乗組員を偵察に出すのは得策じゃない……なら、どうして?)」


其れは、4つに分けた部隊全てが瓦礫攻撃を受けたと言う事だ。
自分の隊長チームと梓の副隊長チームだけが攻撃を受けたのならば未だ分かる。この2チームは分かれて居るとは言え、並行して通ってい
る道路を使ってアドヴァンスの試合開始位置に向かって居るのだから、偵察を出して見つけ出せば、この2チームに関しては同時瓦礫攻撃
を仕掛けるのは可能と言える。

だが、残る2チームは大回りしている為隊長チームと副隊長チームのように同時に発見するのは極めて難しいと言えるのである。
そうであるにも拘らず正確に全てのチームに瓦礫攻撃を仕掛けて来たと言うのは、矢張り解せない――まして航空機を使っての空からの偵
察はルールで禁止されているのだから余計にだ。

更に――


『此方Cチーム!敵戦車と遭遇!先回りされていたようです!』

『此方Dチーム!敵戦車より砲撃を受けました。待ち伏せされていた模様!』


「!?」


大回りしていた残る2チームから敵と交戦状態に入ったと言う連絡が入った。それも、あらかじめ其の場所を通る事が分かっていたかの様に
先回りや、待ち伏せをしていた部隊とだ。


「(何で、こうまで正確に此方の動きを把握する事が出来るの?幾ら何でもおかし過ぎる――まるで、空から見られているみたい……)
 落ち着いて、無理に撃破しようとはせずにCチームは駅前に、Dチームは役所前まで移動して下さい。追撃を振り切るのに必要だったらスモ
 ーク弾や閃光弾を使っても構いません。」

『『了解!』』


その連絡に、更に疑問を持ちつつも、みほは冷静に指示を出して指定場所まで移動するように伝達し、自身のチームは進軍して行く。
完全に手の内が読まれているとしか思えない状況でありながら、しかし明光大のチームは大慌てしてチームが混乱する事もなく冷静に対処
出来るのが強みとも言えるだろう。
とは言え、このままでは良くない。此方の手の内が相手に筒抜け状態では、圧倒的に不利なのだから。
みほは指示を出しながらも、この状況をどう打開するかを同時に考えていた。








――――――








一方、アドヴァンス中の隊長であるアリサは、隊長車の中でほくそ笑んでいた。
瓦礫攻撃こそ決定打にはならなかったが、今の所試合は自分の思うように進んでいるのだから当然とも言えるだろう――何よりも、去年の
優勝校を倒したとなれば一躍ヒーローになるのは間違いないのだから。


「さぁて、如何するの隻腕の軍神さん?アンタ達の動きはバッチリ把握できてるわよ?」


そんなアリサの手元にはタブレット端末が。
端末自体の持ち込みは違法ではないが、問題はその端末が映し出している画面――其れは、上空から試合会場を撮影した映像であり、明
光大の戦車の位置が確りと映し出されていたのである。
みほが『空から見られているみたい』と感じたのは、間違いではなかったのだ。


「弱小校とは言え、1年の頃から隊長を務めてチームをベスト4に導き、去年は優勝までさせた、今や中学戦車道界隈でその名を知らない者
 は居ない、生きる伝説と化している隻腕の軍神・西住みほ。
 アタシがアンタの伝説を終わらせてやるわ。」


手元のタブレットを弄りながら、アリサは次々と隊員に指示を飛ばして行く。
勝つ事以上に優先する物が無くなってしまった競技者の成れの果て――其れが、今のアリサだと言えるだろう。普通は守るべき『暗黙のル
ール』であるグレーゾーンを堂々と使っているのだから。

少なくとも今のアリサから、戦車道と言う武道を行う者に必要な心は感じられない――有るのは『勝利』と言う美蜜に酔ったジャンキーの姿だ
けだった。








――――――








そのアリサの策略で、みほ率いる明光大はマッタクペースを掴む事が出来ていなかった。
如何に敵戦車から戦略的撤退をして、みほが指示した場所へ向かっても、アドヴァンス中の戦車は必ず先回りしているのだ。如何にみほで
あっても、こうも次々と自分の策を読まれていたのでは流石にキツイだろう。

だが、だからこそ強烈に『オカシイ』と感じていたのだ、明光大の全員が。
みほの指揮官の能力は極めて高く、明光大と黒森峰の合同合宿では模擬戦とはいえみほが隊長を務めたチームは負け知らずな上、バトル
ロイヤルであっても負けなしなのだ。
其れだけの能力を持ったみほが、こうも相手に手の内を読まれる物だろうか?其れが、疑問となっていたのだ。


「クソっ垂れ、どうなってんだオイ!?みほの策が此処まで読まれるって有り得ねぇぞ?
 まさかとは思うが、あいつら通信傍受とかしてんじゃねぇだろうな!?」

「其れは無いと思う、通信傍受のバルーンは見当たらなかったから。」


だから、当然のように『こちらの通信が傍受されているのではないか?』と言う疑問にぶち当たる。
だが、みほもその可能性を考えて空をくまなく探してみたが、其れらしきものは一切見当たらなかったのだ。だからこそ、手の内が筒抜けに
なっているカラクリが分からないのだ。


「(通信傍受じゃない……だとしたら如何して此処まで正確に私達の動きを把握できるの?
  航空機での上空からの偵察はルールで禁止されてるから無理なのに、此れはまるで空から私達の動きを把握してるとしか思えないよ!
  ……って、航空機での偵察は禁止?――と言う事はまさか!)
 つぼみさん、A-3地点のマリンタワーに向かって下さい!あそこは砲撃禁止区域ですから、入ってしまえば安全です。」

「何か考えがあるのねみほさん?了解したわ!!」


だが、此処でみほが『航空機での偵察は禁止』と言う所から、何かに気付いて操縦士のつぼみに試合会場である都市のランドマークともな
っている海沿いのマリンタワーに進むように命令。
そして其処は『砲撃禁止区域』であるから、其処に入ってしまえば攻撃を受ける事はないのだ。(市街地戦の場合、史跡やランドマーク等の
場所は、戦車で入る事は出来ても戦闘行為が禁止されている場所なのである。)

そしてつぼみの見事な操縦で、隊長車はあっと言う間にマリンタワーに到着し、到着すると同時にみほは戦車を降りてマリンタワーの階段を
駆け上がる。(市街地戦の会場になった都市は、試合中はエレベーターやエスカレーター等の電源はオフにしなければならない。)
常人ではあり得ないほどの速さで階段を駆けあがって展望台まで到達すると、ポケットからヘアピンを取り出して関係者しか入る事の出来な
い屋上へと続く扉をピッキングでオープン!
そのまま、屋上へと上がって周囲を見渡す――そして……


「見つけた……!!」


目的の物を発見。
みほが見つけたのは、周囲の景色を反射するようにミラー塗装が成された無人機のドローン。地上からでは見つける事が出来なかった相手
だが、500mを越えるマリンタワーの屋上に来た事で見つける事が出来たのだ。

アリサは此のドローンが撮影した映像をリアルタイムで自らのタブレットに送信させて、明光大の動きを把握していたのだ。
確かに航空機での偵察は禁止されているが、ドローンのような無人機を使っての偵察は禁止ではない――此処でも確りとグレーゾーン事態
を使ってきてくれたのだ。

ルールで禁止されていないのならば反則でないとは言え、其れを堂々と使うと言うのは普通はためらうだろう――そんな事をして勝って、何
の意味があるのかと思ってしまうから。
そうであるにも拘らず、堂々とグレーゾーンを使ってきたアリサに対してみほが抱いたのは『怒り』でしかない。

みほは心の底から戦車道が大好きで、其れを楽しんでいるが故に、戦車道を穢すアリサの行為は断じて許せるものではないのだ。みほとし
ても『西住流の娘』としても。


「ドローンを飛ばして……瓦礫攻撃に続いて何処までも卑劣な――アリサさん、貴女にだけは絶対に負けないよ!!」


だからこそ、アドヴァンス中のドローンは破壊対象でしかない。
みほはポケットからピンを抜いていない閃光弾を取り出すと、ピンを抜かないままドローンに全力投球!!
ピンを抜いていないから閃光を発する事はないが、ピンを抜いていない閃光弾は野球ボール大の鉄球と同じであると言える。そんな物がみ
ほの投擲(最大時速130km:女子中学生最強)でドローンに放たれたらどうなるか?


――バァァァァァァァン!!!


答えは言うまでもなく、閃光弾がぶち当たった瞬間にドローンは大爆発を起こして落下。此れではもう、明光大の動きを把握する事は出来な
いだろう。


「敵の無人機、ドローンは破壊しました――なので、此方の手の内が読まれる事はもうありません。
 さぁ、反撃と行きましょう!此れまで好き勝手やってくれた相手に、私達の――明光大の本当の力を教えてあげましょう!Panzer Vor!」

『『『『『『『『『Jawohl!』』』』』』』』』


そして其れは明光大の真の力が解放された事と同義。
此れまで先回りを許して来た明光大が、此れで先手を取れるようになったのである。――だから、CチームとDチームは閃光弾を使ってアドヴ
ァンス中の戦車に目暗ましを行ってその場から離脱する。

同時に、ドローンが文字通りみほの手によって破壊されたアドヴァンス中は一気に混乱の極みに陥っていた。
今までは隊長であるアリサの指示に従っていればそれでよかったのが、ドローンが破壊された事で、アリサは明光大の動きを把握すると言
う事が出来なくなってしまった事で、明確な指示が出せなくなっていたのだ。


「な、何でいきなりカメラが砂嵐になってるのよ!?
 其れに、画像が途切れる前に聞こえた鈍い音……若しかして、カラクリがばれてドローンが破壊された!?
 あり得ない!!戦車砲で撃ち落とすのは不可能なのに……ま、まさかビルの屋上とかから石でも投げてドローンを落としたって言うの!?
 でも、其れにしたってドンだけの強肩の持ち主だってのよ!!」


加えてマッタク予想していなかった事態に、隊員以上にアリサが大焦り状態となり、明光大の位置を把握できなくなった今、どう戦うのかと言
う事が全然思い浮かばなくなっていた。
だが、其れはある意味で当然だろう。元々碌な戦術も立てず、言うなれば相手の手札を覗き見しながらゲームをしていたようなモノなのだ。
その覗き見が出来なくなった、相手の位置が分からなくなったとなっては如何して良いのか分からなくなるのは道理――加えてアリサはみ
ほと違い、事前にフィールドを下見する、或はネットマップの航空写真で試合場の全体図を頭に叩き込むと言う事をしていないせいで、離脱し
た明光大の戦車が何処に行ったのか予測も出来ない。
予測が出来ないから正確な指示が出せない――となれば、どうなるか?



『横浜アドヴァンス中、パンターG型、行動不能。』


「んな!なんですってぇ!?」


明光大の部隊の迎撃に出していた部隊のパンターが撃破されたのだ。



『た、隊長!此方αチーム!
 敵チームの強襲!敵フラッグ車を含めたティーガーⅠ3輌が攻撃してきました!』

『こ、此方βチーム!
 パンター2輌とⅢ突2輌による奇襲!目暗ましを喰らった隙に回り込まれて挟撃を受けた模様!指示を願います!!』



其れと同時にアリサに入る隊員からの現状報告は、一気に自分達に逆風が吹いて来た事をアリサに実感させるには充分なモノであった。
タブレットの映像が途切れてから3分と経っていないにも拘らず、明光大が別動隊であるαチームとβチームを強襲!しかもβチームの方に
は2輌のパンターとⅢ突の計4輌による挟撃が成されているのだから、此れはもう驚く他ない。

そしてこれ等は全てみほの的確な指示と、明光大の戦車道チームの隊員の迅速かつ柔軟な対応が有ればこそだろう。
閃光弾攻撃成功の報告を受けたみほは、マリンタワーを駆け降りながらCチームにDチームと合流して相手部隊を攻撃するように指示し、梓
率いる部隊にはCチームと戦っていた部隊の攻撃を指示。
みほがしたのは其れだけであり、CチームとDチームの挟撃作戦は、夫々のチーム間で連絡を取り合って自分達で考えた物であったのだ。

そしてその効果は抜群!



『横浜アドヴァンス中、パンターG型が2輌、T-34/76が3輌、行動不能。』



瞬く間にαチームとβチームは全滅!
梓率いる部隊が、ティーガーⅠの圧倒的な火力と防御力で攻守力で劣るパンターを撃破し、CチームとDチームは見事な連携でT-34/76を
全て撃破!

此れで横浜アドヴァンス中の戦車は残り4輌に対して、明光大は無傷の10輌。
フラッグ戦である事を考えれば逆転できない数字ではあるが、如何せん分が悪いのは否めない。
此れだけの車輌数に差があると、明光大はフラッグ車を後方に下げた上で、横浜アドヴァンス中のフラッグ車を包囲すると言う戦術を取る事
が可能であり、横浜アドヴァンス中がフラッグ車を狙うのは極めて困難になるのである。
更に、フィールドはみほの十八番である市街地戦であり、フィールドマップが頭に叩き込まれているみほならば、横浜アドヴァンス中のフラッ
グ車を発見し次第、他の車輌を最短ルートを通らせてフラッグ車へ向かわせる事が可能……最早、盤面は完全に明光大の形となっていた。


「そ、そんな……会敵してから僅か2分で、6輌のパンターとT-34/76が全滅ですって?……これが、隻腕の軍神の力だとでも言うの!?」

「て、敵戦車来ます!アイスブルーのパンター……明光大の隊長車です!!」

「!!ほ、砲撃開始!撃ち貫け!!」


戦車道に於いては瞬殺とも言えるタイムでαチームとβチームが撃破された事に動揺するアリサの前に、みほ率いるパンター軍団が出現!
あまりにも早いと思うかもしれないが、ドローンを破壊する為にマリンタワーの屋上に登った際に、みほは双眼鏡を使ってアリサの部隊の位
置を確かめていたのである。
そして、自身が戦車に乗り込むと同時に最短距離を通って此処まで来たのだ。

其れに驚いたアリサは、即時攻撃を命令するが、その攻撃は当たらない。
つぼみが操縦する隊長車は元より、残る2輌のパンターも、普通では考えられないような変態軌道で横浜アドヴァンス中の攻撃を悉く回避。
全国最強レベルの回避能力を誇る明光大の戦車に対して、焦りのある砲撃が当たる筈もなく――


――ズドォォォォン!×2

――キュポン!×2




『横浜アドヴァンス中、T-34/85、パンターG型、走行不能。』



逆に横浜アドヴァンス中のパンターとT-34/85を1輌ずつ撃破!此れで、残るはアリサの乗るフラッグ車であるパンターと、副隊長の乗るT
-34/85のみ。
この時点で絶望的な事は間違いない――この場に明光大のフラッグ車である梓のパールホワイトのティーガーⅠが居るのならば、其れを狙
う事も出来たが、この場に居るのはみほ率いるパンター軍団のみなのだ。
此処から離脱してフラッグ車を探すと言う選択肢もあるが、如何せん効率が悪い上に、そうなると追撃を受けて益々不利になるのは火を見る
よりも明らかであるが故に、先ずはみほの部隊を倒さない事にはフラッグ車を撃破しに行く事すら出来ない。

だが、其れは不可能だろうと思ったのは、他でもないアリサ自身だった。


「ルールで禁止されていないからと言って、ギリギリのグレーゾーンを平気で使い、戦車道を穢した代償を払って貰いますよアリサさん?」


パンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けた状態でキューポラの上に仁王立ちして自身を睨みつけるみほを前にして、アリサの戦意は完全
に消失してしまい、同時に真に強い者に対しては如何なる謀略も意味を成さないのだと理解してしまったのだ。


「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁ!!
 撃て!撃て撃て撃て!!あいつを倒せ!西住みほを倒せぇ!!」


其れが睨み付けられた恐怖とごっちゃになって、アリサは半ば半狂乱のような状態になって攻撃を指示するが、当てずっぽうな攻撃など、み
ほのパンターには通じずに、全て回避され――


「Das ist das Ende!(此れで終わりです!)」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



――ドォォォォォン!!

――キュポン!




『横浜アドヴァンス中、フラッグ車、行動不能。
 明光大付属中学校の勝利です!!』



流れるような動きで後部を取ったアイスブルーのパンターの砲撃が、アリサのパンターの後部装甲を撃ち抜いて試合終了!
序盤はアリサの謀略に苦戦した明光大だったが、ドローンを破壊してからは文字通りのワンサイドゲーム。
自軍は損失0でありながら、敵部隊の残存車輌は1輌のみと言う、フラッグ戦における『完全勝利』の定義を見事に満たした大勝利なのだ。


「勝つ事に固執した事で、貴女は戦車道の何たるかを忘れてしまった……其れじゃあ私に勝つ事は出来ない。
 戦車道は勝つ事が全てじゃないし上に、そもそもにしてスポーツであり武道だよ?――この負けを期に、戦車道の本質を見直すべきだね。
 其れが出来れば、貴女はもっと伸びると思うから。」

「西住みほ……!!次に戦う事が有ったら絶対に負けないわ!――アンタを倒して、アタシは!!だから、次は負けないわ!!」


アリサから睨まれてもみほは何のそのだ。自覚はしてないが『強者の余裕』で、完全にアリサの怨念染みた一言も見事に受け流していた。
兎にも角にも此れにて決着!
1回戦の第5試合は、みほ率いる明光大付属中学校が自軍損失0のパーフェクト勝ちで、横浜アドヴァンス中学を下したのであった。








――――――








Side:しほ


ふぅ、ドローンを使っての偵察に少々冷や冷やしたモノの、ドローンを破壊してしまえば、あとはみほのペースでしたね。
ルールで禁止されていないグレーゾーンを使うのは、確かに有効と言えるでしょうが、逆に言うのならば其れは各校が『暗黙のルール』として
遵守している事を破る事であり、同時に戦車道への冒涜でもある――みほが怒るのも当然ね。

でも、今回の事を考えると、来期のルール改正の際には『試合中の偵察は、有人による地上及び建物・高台からに限る』と明記しなくてはね。



「そのグレーゾーンを堂々と使ってきた相手に対してパーフェクト勝ちしてしまうみほお嬢様は流石ですね奥様♪」

「菊代、あの子を誰だと思ってるの?現役時代は『日本戦車道に西住あり』とまで言われた私の子よ?
 純粋な西住流を使ってもみほは充分に強いけれど、あの子は西住流とは異なるドクトリンも使う事が出来る――西住流の『剛』とみほ独自
 の『柔』が合わさった戦術は、まだ完成形ではないとは言え相当なモノよ。」

故に、姑息な手を使ってくる相手など敵ではない――此の試合結果は当然の帰結だと私は考えているわ。



「其れに関しては同感です。」

「真の強者には如何なる謀略も策略も通じない――みほは此の試合で、其れを証明したわね。」

そう、まだ未完成な戦術であるにも拘らず、みほは既に『絶対強者』の領域に達しているから、あの子の戦術が完成したら果たしてどうなるの
のか想像も出来ないわ。――将来的には、私やまほすら凌駕する戦車乗りになるのかも知れないわ。

でも、それらは取り敢えず置いておいて、見事な戦いでしたみほ。――今年の大会も、貴女が率いる明光大付属中学校が更なる活躍をする
事を願っていますよ。
西住流師範としてではなく、貴女の母としてね。











 To Be Continued… 





キャラクター補足