Side:まほ


チャーフィーを2輌撃破したとは言え、明光大もⅢ号を2輌失ったから、残存車輌数は同等…となると、性能で上回る向こうの方に分があると
考えるのが普通なのだが、みほはいとも簡単に性能差を覆してしまうから、その限りではないだろう。
エリカ、小梅、お前達がみほと同じ立場に置かれたら、この状況から如何戦いを展開させて行く?



「この状況から……私なら、Ⅲ突に待ち伏せをさせた上で、相手を其処に誘導し、パンターの機動力で相手を攪乱しつつチャーフィーを撃破
 して相手の機動力を奪い、包囲した上でティーガーⅡの破壊力抜群の主砲で、敵フラッグ車を撃破します。」

「私も、大体エリカさんと同じ意見です。
 この状況では、この作戦が最もベターな物だと思いますから。」

「うん、2人ともとても優秀な答えだ。ベターな方法であるから100点満点はあげられないが、それでも95点位はあげても良い答えだった。」

だが、みほはそのベターな答えをも覆して、思いもよらぬ方法でベストな答えを出してしまうんだ。
しかもその方法は、みほの直感と、みほの理論が融合して生まれた物なのだから恐ろしい。――最高の感性と、最高の理論は最終的には
同じ地点に行きつくとは言うが、その両方を持っている者が辿り着く先は、大凡見当がつかない次元なのだろうと思うよ。



「でしょうねきっと……と言うか隊長、私も小梅も、今更あの子がどんな戦術を展開しようとも、余程の事がない限りは驚きませんよ?
 去年の大会と合宿で、あの子の凄さとトンでもなさは充分に実感しましたし、今年の1回戦での『戦車ボディプレス』で驚き要素は大体持っ
 て行かれましたから。」

「確かに、アレには私も驚いたがな……」

「でも、この戦いは確かに見物ですよエリカさん!
 西住さんは、此の試合で初めて圧倒的に戦車の性能差で負けてる戦いに挑むんですから!虎殺しのパーシング相手に、漆黒の鋼鉄虎に
 乗った西住さんが如何戦うのか、とっても楽しみですよ!」

「ま、其れは確かに小梅に言う通りだけど。」



さて、虎殺し相手に如何立ち回るのか。
虎殺しが虎を討って終わるか、それとも規格外の虎が虎殺しを食い殺すのか……確りと見せて貰うとするぞ。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer34
『虎と虎殺しの真っ向勝負です!』









No Side


残存車輌数は、明光大、横須賀中共に8輌と、数の上では互角だが、対ティーガー用に開発されたパーシングを有する横須賀中の方が、戦
力では上待っていると言えるだろう。

普通に考えれば横須賀中絶対有利だが、明光大を指揮するのがみほである事を考えると、楽観視出来ないと言うのが現実なのである。
みほの実力は疑うまでもないが、実力以上に、仲間を動かすのが巧かった。

どの戦車をどのタイミングで如何動かすのか、其れを直観と、膨大な知識から構築された理論の両方で瞬時に頭の中で構築して仲間に的
確に伝えていき、そして指示された仲間も、其れを的確に熟していく。
結果として、優勢であれば押せ押せ、劣勢であれば被害を最小限に留める事が出来るのだ。
全ては、左腕を失った時から常人には想像も出来ないような努力を、持って生まれた才能の上に積み重ねた結果であり、みほを『軍神』たら
しめているのだ。


だからこそ、蛍はみほの事を最大限警戒して試合に臨んでいる。
この圧倒的な性能差も、みほは天賦の才と、努力で培った力の前では、恐らく大したアドバンテージにはならないと思っているのだろう。故
に、明光大への追撃も押せ押せではなくなっている。

蛍は、大胆だが用心深く戦車チームを率いて行く。――足の速いチャーフィーを先行させ、パーシングは其の後をついて行くと言う布陣だ。
チャーフィーの機動力を持ってすれば、例え相手に見つかっても逃げに徹すれば逃げ切る事が出来ると考えたからだろう。


「通信士、先行するチャーフィーからまだ連絡はないの?」

「はい、未だ明光大の部隊は見つけていないとの事です。……時に隊長、キューポラから上半身を出すのなら兎も角、キューポラから完全に
 出て、砲塔の上に座るってのは流石に危ないと思いますよ?」

「大丈夫よ、戦闘状態になったら中に入るから。にしても、まだ明光大を発見できないって言うのはおかしいわね?
 パンターの最高時速が55㎞なのに対して、チャーフィーの最高時速は56kmだから、そろそろ追い付いても良い頃なのに……地図で見る
 限りは、身を隠せそうな場所もないから待ち伏せとかも考え辛いんだけど…」


そんな布陣を敷いた中で、未だに明光大の戦車を発見できていない事に蛍は疑問を抱いていた。
今進んでいるルートは、見渡す限りの大平原で、戦車を隠せるような藪や茂みは存在していないから、明光大の部隊が待ち伏せをしている
とは考え辛いが、だからと言ってチャーフィーを振り切る事が出来るかと言われれば、其れもまた不可能。
ならば一体、明光大の部隊は何処に行ってしまったのか――その答えが出ない状態で、此のまま追撃をするのは得策ではないだろう。


「隊長車よりチャーフィー部隊へ。
 敵部隊の動きが読めないから、追撃は一時中断して此方に合流して。隊を1つに纏めてから、改めて進軍するわ。」

『『『『『了解!』』』』』


そう考えた蛍は、一度チャーフィー部隊と合流してから改めて進軍する事を決定し、其れを通達。
そして5分後、先行していたチャーフィー5輌が合流し、大戦後も長く使用されていた米国の最強軽戦車と最強重戦車の部隊で進軍を開始。

そうして暫く進んだ所で、所々に藪が点在する地点に到着した。
明光大の部隊が後退したルートから推測してこの場所まで来たのだが、此処に来て蛍は途轍もなく嫌な予感に襲われていた……この藪が
点在すると言うポイントに来てしまったという事に。

此処ならば戦車は幾らでも隠しようがあるし、Ⅲ突得意の待ち伏せ戦法を行うには持って来いの場所だ。
否、其れだけならば何と言う事は無かったのだろうが、先程の戦闘で、待ち伏せからの奇襲でチャーフィー2輌を失ったと言う事実が、蛍の
中で警鐘を鳴らしていた。『此処は危険だ』と。

だが一方で、蛍はみほが二度も同じ戦術で来るだろうかと言う思いも持っていた。
最初の戦術が巧く決まったからと言って、立て続けに同じ戦術を取るのは二流のする事だと蛍は思っている……それだけに、待ち伏せは無
いと思う部分もある。

だがしかし、みほは見せ技として同じ戦術を繰り出してくる可能性も捨てきる事は出来ない――詰まる所、蛍は全ての選択肢が正解であり
ながら不正解と言う、理不尽この上ない状況に立たされてしまったのだ。


「ウダウダ考えても仕方ないわ!両翼からの挟み撃ちに警戒しながら前進!
 パーシング2輌は砲塔を横に向けて相手の奇襲に対してカウンターを取れるようにして、チャーフィーはパーシングを盾にして進みなさい。」

『『『『『『『Yes Mam!』』』』』』』


それでも蛍は進軍する事を選び、両翼からの挟撃に備える手堅い陣形で進んでいく。――その中で、其れは突然として現れた。


――ドゴォォォン!!!


突如前方の草藪が、轟音を立てて砲撃を放って来たのだ。


「敵襲!?……アレは、Ⅲ突!?――まさか、藪に紛れるんじゃなくて、自ら藪と化していたというの!?」


その砲撃を放ったのは明光大のⅢ突。
車体にブルーシートを被せ、その上から草や枝を被せる事で完全に小規模の藪として息を潜めると言う、何とも見事なカメレオンステルスを
使って、横からの挟撃に備えていた横須賀中の虚を突いたのだ。

とは言え、もっさりと被り物をしていた事で照準が狂い、チャーフィーの撃破には至らず、此処からⅢ突と横須賀中の追いかけっこが開始!
だが、此の追いかけっこは実にⅢ突の分が悪い。
突撃砲、自走砲では最高クラスの足回りを誇るⅢ突だが、チャーフィーの最高時速には遠く及ばないし、チャーフィーに先回りされてパーシン
グと挟み撃ちにされたら一巻の終わりである。


「椿姫、あれやるわよ!!」

「了解よ、おんどりゃぁぁぁぁ!!!!」


所が、其の一般常識が通じないのが明光大だ。
Ⅲ突の車長である有波と椿姫は通信を終えると、何と急旋回しながらⅢ突に新たに追加されたシェルツエンをパージ!
急旋回中にパージされたシェルツエンは、遠心力を得てブーメランの如くチャーフィーに向かって飛んで行く。

本来ならば、Ⅲ突G型にシェルツエンをパージする機能はないが、ルールブックには『装甲を意図的に剝がす構造を禁止とする』と言う項目は
無く、ルールで認められている戦車の中には履帯のパージ機構を持った物まであるのだから、追加装甲のパージ機能は一応合法なのだ。

其れは兎も角として、行き成りシェルツエンを投げつけられたチャーフィーの乗員は予想外の事態に驚き、対応が一瞬遅れてしまった。
そして対応が一瞬だけ遅れた事で、シェルツエンを躱しきる事が出来ず車体下部に激突!此れだけならば、大した事はないだろうが……


――ギギギギギギ……


何と、パージされたⅢ突のシェルツエンがチャーフィーの履帯に巻き込まれ、2輌のチャーフィーの動きを完全に止めてしまっていたのだ。
全くの偶然ではあるが、パージされたシェルツエンをチャーフィーの履帯が巻き込んでしまい、其れがつっかえ棒のようになって転輪の動きを
止めてしまっていたのである。


――キュポン!



更に、可也深く巻き込んでしまったのか、走行不能による白旗が上がり、まさかの撃破判定になる始末。

相手の虚を突く事が出来れば良いと思っていた有波と椿姫にとっても、此れは完全に予想外の事態だったが、偶然とはいえ相手車輌を2輌
撃破出来たと言うのは大きい。

だがしかし、蛍とてやられっぱなしで黙っている性分ではない。


「やってくれるじゃない?まさか、身を守るための装甲を武器に使うとはね。
 だけど、その攻撃は一度しか出来ないのが難点よね?パーシング2号車と3号車は前に!Ⅲ突を撃破してこの藪を抜ける!挟み撃ちにさ
 れる前に、此処を抜けるわよ!」


即座に指示を出すとパーシングの正面装甲の分厚さに物を言わせて、Ⅲ突に向かって突撃!如何にⅢ突が強力な長砲身の75mm砲を搭
載しているとは言え、パーシングの正面装甲を抜くのは簡単ではない。
従って、Ⅲ突は撤退するのが上策であり、実際に2輌のⅢ突は後退を始めたのだが――夫々全く別の方向に進路を取って後退したのだ。


「逃がさないわ!ファイア!!!」


戦力の分断を狙ったと思われるが、此処で蛍はパーシングで圧力をかけるのを止めて、その代わりにⅢ突目掛けて砲撃をブチかます!!
チャーフィーとの砲撃が放たれた椿姫車の方は、あり得ないような軌道を描いて砲撃を回避して逃げ果せたが、2輌のパーシングから砲撃さ
れた有波車は、地面に着弾した1発目でバランスを崩した所に、2発目が命中して白旗判定に。
此れで、明光大は残り車輌7で、横須賀中は6輌と数の差は大きく開いてはいない接戦の模様を呈して来ていた。


「残ったⅢ突を追うわよ!挟み撃ちになんかさせないから!」


蛍は残ったⅢ突をも撃破すべく、再び追撃を開始。
チャーフィーがパーシングの最高速度に合わせて進むために、圧倒的に追い込む事は出来ないが、それでも1輌に対して6輌ならば圧倒的
に有利なのは変わりがない。
未だみほ率いる本体が現れないのを不気味に思いつつ、蛍は部隊を進軍させていった。








――――――








『そう言う訳で、有波がやられたけど、私は無事だから予定通りのコースを進むけど……流石に6輌に追いかけられるって怖いわよ?』

「Ⅲ突の機動力を持ってして逃げ切って下さい。
 そのコースは大きめの藪が多いので、比較的小回りの利くⅢ突ならば指定ポイントまで逃げ切る事が出来ます。チャーフィーは兎も角、パ
 ーシングは小回りがⅢ突程は利かないので、この道を通るのは苦労するはずですから。」

『了解!なら、何とか頑張ってみるわ!』

「よろしくお願いします。」


一方、椿姫からの通信を受けたみほは、指定ポイントまで逃げ切れと指示を飛ばす。
出来ればⅢ突には2輌とも生き残って欲しかったというのが本音だが、そもそもにして8輌に対して2輌で挑んだのだから『敵戦車を撃破する
事』が目的ではなくとも可成りの無茶だったと言えるだろう。
それでも、此の作戦をみほが選んだのは、椿姫と有波ならば必ずどちらかが生き残って指定ポイントまで辿り着くと確信していたからだ。


『みほ聞こえる?此方凛、千尋と共に指定ポイントに到着したわ。』

「そのまま待機していてください。Ⅲ突の姿を目視したら始めて下さい。此方も、そろそろ相手を後ろから追撃する態勢に入りますので。」

『了解したわ。』


続いて入って来た凛からの通信に対しても指示を出すと、己の乗るティーガーⅡを前進させていく。
其れに合わせるように、梓の乗るパンターも発進し、ティーガーⅡに並走する形で進んでいく――鋼鉄の虎と豹は、虎殺しを嚙み殺す為に、
ゆっくりと背後から忍び寄り始めたのだった。








――――――








さて、Ⅲ突を追撃していた蛍達だが、みほの予想通り障害物の多い地形に苦労しながら進んでいた。
決して振り切られる事はないのだが、しかし追い付く事も出来ないという、何とも嫌な距離感を保ったままでⅢ突を追う羽目になってしまって
居たのだ。

それでもⅢ突をロストせずに、ギリギリ目視できる距離を保ったのは流石だろう。
この障害物多数の地点を抜ければ障害物の少ない開けた草原に出る、其処まで出てしまえば一気にⅢ突を撃破して、前後からの挟撃を防
ぐ事が出来る――蛍はそう考えたから、敢えてⅢ突を追っていたのだ。

だがしかし――


――ズドォォォォォォォォォン!!!


障害物地点を抜けた所で、行き成り砲撃を浴びせられたのだ。しかも前方から。


「砲撃!?しかも前からですって!?」

『ぜ、前方にティーガーⅠとパンターを2輌ずつ確認!!』

「何ですって!?まさか、私達は誘われていたって言うの!?」


此れには蛍も驚く。
先のⅢ突の待ち伏せを受けた際に、即座に蛍の中では明光大が自分達を前後で挟み撃ちにしようとしているのだと看破し、其れをさせない
為にⅢ突を撃破せんとしたのだ。
否、前後の挟み撃ちと言うのは間違ってはいない。いないが、その形が蛍の考える物とは異なっていたのだ。
てっきりⅢ突を囮にして、背後から残りの6輌で攻めてくるものだと思っていたら、実際はそうではなくティーガーⅠとパンターが前方で此方を
待ち構えていたのだ。


「やってくれるじゃない、Ⅲ突は私達を誘導するための餌だったって言う訳ね?
 だけど、そう簡単にはやられないわ!パーシングは、対ティーガー用に開発された重戦車!纏めて虎を狩るわよ!!」


それでも蛍は怯むことなく応戦!
元々挟撃は予測していた事だったから、自分の思っていた形とは違ったとは言え其れに対応するのは難しい事ではないし、何よりも戦車の
性能では上回っているのだから慌てる事もないのだ。


――ドゴン!!


『明光大付属、Ⅲ号突撃砲行動不能。』


手始めに、自分達を誘導していたⅢ突を撃破すると、其のまま前方の部隊に向けて進軍!
ティーガーⅠ2輌を撃破してしまえば圧倒的なアドバンテージを得る事が出来るし、パーシングならば其れが出来るのだから当然の策だと言
えるだろう。


――バッゴォォォォン!!!!


『横須賀中、チャーフィー2輌、行動不能。』


此処で突如2輌のチャーフィーが、文字通り吹っ飛ばされて白旗判定に。
一体何が起きたのか?


「プランβ成功!一気に攻めます!!」

「了解!!」


チャーフィーを吹き飛ばしたのは、後方から現れた漆黒のティーガーⅡとアイスブルーのパンター!
大回りをして横須賀中の背後に陣取っていたこの2輌は、蛍が通って来たのとは異なる障害物の全くないルートを通って、横須賀中を追撃し
て、その背後を取ったのだ。

そして、横須賀中の部隊を目視すると同時にティーガーⅡもパンターも榴弾を発射してチャーフィー2輌を撃破したのだ。
更に、其れを合図に凛達待ち伏せ部隊が、砲撃を開始して蛍達の動きを止める。撃破しない代わりに近付かせないと言った攻撃で、パーシ
ングとチャーフィーを釘付けにする。


「Shit!やってくれるわ!!!だけど、負けないわ!!」


それでも蛍は負けず、動きを制限された状態でありながら仲間に指示を出して攻撃させ、ティーガーⅠとパンターを夫々1輌ずつ撃破する事
に成功する。
此れで、残存車輌は両校ともに4輌だが、虎殺しであるパーシングが3輌残っている横須賀中の方が有利と言えるだろう――普通ならば。


「此処でケリを付けます!」


しかし、みほが率いている以上『普通』は通じないのだ。
みほ率いるティーガーⅡと、梓率いるパンターが急加速したかと思った次の瞬間、パーシングとチャーフィーの横を通り抜けてそのまま砲塔を
回転させて砲撃し、パーシング1輌と最後のチャーフィーを撃破!


「行きますよ、蛍さん!!」

「上等、受けて立つわみほ!!」


そしてそのままティーガーⅡは、蛍のパーシングに突撃!
何方もフラッグ車である事を考えると、正にフラッグ車同士の一騎打ちではあるが、戦車の性能を考えるのならば明光大の方が分が悪い。
如何にティーガーⅡとは言えパーシングはティーガーⅠだけではなくティーガーⅡをも撃破出来るように設計されているから、真面にやり合う
と言うのは得策ではない。
其れでもみほは戦いを挑んだのだ。

ともすれば、其れは只の蛮勇に見えるだろう――だが、この突撃こそがみほの作戦だった。


「部長、梓ちゃん、今です!!」

「はい!!」


「ブチかますわよ!!撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


何時の間にか梓のパンターがパーシングの背後に回り、更に凛のティーガーⅠが砲撃を行い、背後に回ったパンターも其れに合わせるよう
に砲撃!!

パーシングの後面装甲は76mmと、数ある戦車の中でも可成りの厚さを誇るが、至近距離からのパンターの75mmと、中距離からのティーガ
ーⅠの88mmを同時に真面に受けたら堪った物ではない。
梓のパンターは、砲撃を行った直後にもう1輌のパーシングに撃破されたが、その時には既に勝負は決していた。


――キュポン!


『横須賀中学校、フラッグ車パーシング、行動不能。よって、明光大付属中学校の勝利です!』


後面装甲を抜かれた蛍のパーシングからは白旗が上がり撃破判定が成されたのだ。
何方も一歩も退かない展開となった準決勝の第1試合は、最後はみほの策が蛍の力を上待った形で明光大付属の勝利となったのだった。








――――――








Side:みほ


ふぅ……勝てた。
流石に虎殺しのパーシングとやり合うのはきつかったけど、皆が頑張ってくれたおかげで勝つ事が出来た。特に相手の部隊を誘導してくれた
椿姫さんと、フラッグ車撃破に貢献した梓ちゃんの活躍は見事だったとしか言いようがないよ。



「あ~~~……マッタク清々しい位に負けたわみほ!とっても、エキサイティングな試合だったわ。」

「蛍さん。此方こそ、とても充実した試合でした。」

「ティーガーに対して絶対有利なパーシングを持って来たのに負けちゃうとはね……戦車の性能では決まらないって言う事を痛感させられた
 って言う所ね?
 今回は負けたけど、次に戦う機会があったら負けないからね?…まぁ、練習試合でもない限りは次に戦うのは高校になってからだけど。」



確かにそうなっちゃいますけど、次に戦う時も私が勝たせて貰いますよ蛍さん?こう見えて、私って物凄く負けず嫌いなので♪



「アハハ!OK、OK!そう来なくちゃね!!
 黒森峰か愛和学院か、何方が決勝の相手になるかは分からないけど、決勝戦も頑張ってね?必ず応援に行くから!」

「はい、ありがとうございます!」

「其れは其れとして、メアドと電話番号交換しない?
 戦車道とは別に、貴女とはお友達になりたくなったわ――ダメ?」

「いえ、そう言う事でした喜んで♪」

実を言うと、1回戦で戦った美佳さんともアドレスと電話番号の交換をしてたりするからね。交友関係を広げるって言うのは悪くないし、何より
電話で戦車道の彼是を語る事も出来るからね。

ともあれ、準決勝を突破したから、優勝に一歩近づいたのは間違いない。
後は決勝の相手だけど……多分、相手はお姉ちゃん率いる黒森峰だろうね。安斎さんも確かに強いけど、実力ではお姉ちゃんの方が少しだ
け上だから、恐らくはお姉ちゃんが勝つと思う。
去年は準決勝でぶつかったけど、今年は決勝で――最高の舞台でお姉ちゃんと戦いたいからね!!
お姉ちゃんだってそう思ってる筈だから、絶対に勝つ筈だよ!って言うか、中学戦車道界隈に置いて、お姉ちゃんに勝つ事が出来る戦車乗
りなんて殆ど居ないと思うもん。
だからお姉ちゃんは負けないよ。










って、そう思ってたんだけど、私達の試合から2日後に行われた準決勝の第2試合は、誰も予想していなかった結果になっちゃったみたい。
私の目に映るのは、白旗を上げるティーガーⅠ……お姉ちゃんの乗るフラッグ車。


『黒森峰女学園フラッグ車、ティーガーⅠ行動不能。愛和学院の勝利です!!』


其れが意味するのは、黒森峰の敗北。
お姉ちゃんの率いる黒森峰は、まさかの準決勝敗退って言う結果になった――まさか、こんな事に成るなんて思っても居なかったよ。
それ以上に、お姉ちゃんを倒すだなんて、決勝相手である安斎さんは一筋縄では行かない相手と見て間違いない……此れは、ある意味で
黒森峰とやり合うよりも厳しい決勝戦になっちゃったかもしれないね……











 To Be Continued… 




キャラクター補足