Side:みほ


1年生を全員参加させての練習試合は、去年の様な楽勝ではなかったけど、それでも快勝って言う事が出来るレベルだったから、少なくとも
1年生全員が大会で使えるレベルになってくれたのは間違いないかな。
3年生にとっては最後の大会だから全試合に出て貰うけれど、梓ちゃんのチームをメインに1年生チームも大会に出して経験を積ませないと
だね……まぁ、何処と当たるかによりけりだけどね。



「出来れば1回戦でいきなり黒森峰ってのは回避したい所だよな?
 負ける心算はねーけど、やっぱ黒森峰とは決勝で戦いたいしさ……つっても、1回戦も骨のある相手と戦いてぇけどよ!」

「其れは組み合わせ抽選会のクジが全てだから何とも言えないんだけど、まぁ黒森峰と1回戦で激突するって事は無いんじゃないのかしら?
 みほの、天性の勝負強さなら、きっといい番号を引き当ててくれる筈よ。」

「明光大一の勝負師の前では、クジなんて無意味よね♪」



あはは……地味にプレッシャーなんだけど、今度の組み合わせ抽選会は、行き成り黒森峰と当たらないように祈ってくじを引く事にするよ。
別に1回戦で当たっても良いんだけど、お姉ちゃんとの戦いは決勝の舞台で行いたいからね。
無論、何処と当たっても、負ける心算は無いから、倒して決勝まで進むだけだから♪

去年はベスト4で終わっちゃいましたけど、今年は真紅の優勝旗を学校に持ち帰りましょう!!



「勿論よみほ。そして証明してやろうじゃない、明光大の去年の快進撃は、決してまぐれじゃなかったって言う事をね。」

「わ、私も頑張りますから、西住隊長!」



うん、明光大の実力は本物だって言う事を、世に知らしめてあげようね!
今年の明光大は、去年の倍は強いから、其れを大会で見せてあげる――そして同時に、黒森峰の連覇だって阻止して見せる!私達だった
ら、其れが出来るだろうからね。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer29
『全国大会抽選会と寄り道です』









そんな訳でやって来ました、全国大会の組み合わせ抽選会!
去年は埼玉スーパーアリーナだったけど、今年の抽選会場は何故か東京ビッグサイトの展示室の一つ……なんでこの場所なんだろうね?
広さだけだったらスーパーアリーナの方が一展示室よりも上だから、別に去年と同じでも構わないと思うんだけどなぁ?



「戦車道が俄かに盛り上がりを見せているから、それをより広げたいという事なのだろうな。
 また聞きの話になるんだが、この抽選会の様子を某動画サイトで生中継して、更に録画も配信する予定があるんだそうだ……高校の大会
 の抽選会と共にな。
 で、東京ビッグサイトのタグの方が、埼玉スーパーアリーナタグよりも再生数が良いらしい。」

「だとしても、その動画って、戦車道ファン以外には需要無いと思うんだけど?」

「人伝に動画の事が伝わって、再生数の増加と戦車道ファンの増加を狙っているのかも知れないぞ?」

「なんだかなぁ……」

思わず、抽選会で顔を合わせたお姉ちゃんと突っ込み入れたのは仕方ないよね?(会話はあくまでも互いに聞こえる程度の音量でね。)
と言うか、都心部の学校なら兎も角、地方の学校だったら此処まで来るのだって大変だよ?明光大は隊長チームのみだから、西住家のヘリ
を飛ばして何とかなったけど、黒森峰みたいに抽選会でも(多分)一軍は全員参加となったら、旅費だけで偉い事に成る訳だし。
此れは、流石にちょっとやり過ぎだから、後でお母さんが連盟の方に釘を刺すだろうと思うけどさ。



「まぁ、その辺はお母様に任せておけばいいだろう。
 しかし今年は15番か……1回戦の最終試合だな。安斎が引いたのが11番だったから、アイツと戦うのは準決勝か――後は、みほが何番
 を引くかと言う所だな。」

「クジはあんまり自信ないんだけどね……」


『続いて、明光大付属中学校。』


っと、私の番だね。
箱の中をよくかき混ぜて、適当に何個かとって箱の中でシャッフルして(片手シャッフルはお手の物だよ。)それを繰り返して…よし、此れ!


『明光大付属中学校……1番。』


「「「「!!!!」」」」


ま、まさかの1番!1回戦の第一試合だなんて……ある意味で最高のクジ運だったかな?
此処なら決勝までは黒森峰と当たる事は無いし、同じ1回戦第1試合でも、クジ番号2番よりもずっと縁起が良い感じがするもん――なんて
言ったって『1番』だからね♪



「クジ番号1番を引いて、大会の1番をもぎ取るか?ゲン担ぎとしては、確かに最高の番号かも知れないね。」

「特に、青子さんは『1番引いたら1番になれるだろ!』とか言いそう。」

「あぁ、あの子ならば言うかもな。……黒森峰にも、あの子ほどでなくとも、もう少し弾けた子がいてくれると大分違うのかも知れないな。」



黒森峰に青子さん……うん、普通に似合わない気がする。
と言うか、青子さんがはっちゃけまくって、逸見さんが半ばキレながらそれを注意して、赤星さんが逸見さんを宥めてる光景が目に浮かぶし。
青子さんは、規律が厳しい黒森峰には馴染まない気がするなぁ。



「矢張りそうか……残念だ。」



まぁ、お姉ちゃんの言わんとする事は何となく分かるけどね。
さてと、雑談してる間にクジは全て引き終わったみたい。明光大の1回戦の相手は――石川県の『私立白百合中学校』か。目立った成績の
ある学校じゃないけど、去年はベスト4まで残って来たから決して実力は低くないよ。
それに、去年のベスト4って言う事は、お姉ちゃんと互角に戦った安斎さんとやり合った言う事だからね――去年のベスト4同士の戦いだけ
に、絶対に負ける事は出来ないよ!



「1回戦の第1試合をクジ番号1番で引き当てるとは流石だぜみほ!!1番てのは縁起がいいからな!!!」

「相手は私達と同じ、去年のベスト4……相手にとって不足は無いわ。」

「その上で、どっちが強かったのかを思い知らせてあげるわ!!」



勿論、勝つ心算で行きます!って言うか勝ちますよ?――相手の全力を引き出した上で、其れを上回ってね。
其れは其れとして、此れから如何しましょうか?抽選会は学校的に公欠扱いなんですけど、今から学校に戻って授業を受ける気にはならな
いですよねぇ?

……良い機会だから、東京を観光巡りでもしちゃいましょうか?



「「「賛成、異論無し!!」」」

「それでは、ぱんつぁーふぉー♪」

偶には、少しくらい羽目を外したって罰は当たらないと思うしね♪――取り敢えず、お母さんと、戦車道部の皆へのお土産は買わないとね♪








――――――








Side:まほ


やれやれ、今年もまた去年と同様に、優勝をする為には安斎とみほの両方を倒さねばならない訳か。去年と違うのは戦う順番だけか。
1、2回戦は兎も角として、準決勝の相手は間違いなく安斎だろうし、安斎に勝った後での決勝の相手はみほで間違いない――みほと安斎
が私と戦う前に、脱落するなどという事は考えられないからね……中学校最後の大会としては最高の舞台かも知れないがな。



「今年は準決勝か――此れが中学での公式戦最後の戦いになる訳だから、今度は勝たせて貰うぞ西住!!」

「受けて立つぞ安斎。お前の持てる全ての力を持ってしてかかって来い――私も、持てる全ての力を駆使して、其れを正面から叩き潰す。」

「言ってくれるじゃないか……だが、其れでこそだ西住。――必ず、準決勝まで勝ち上がって来いよ?……勝ち逃げはゆるさないからな。」



あぁ、重々承知しているよ。
戦車道は武道故に、勝ち逃げが許される世界ではないからな――挑んでくる相手が居る以上は、最強で居る事がせめてもの礼儀だしな。
組み合わせを見る限り、準決勝まで私とお前を脅かす存在は居ないだろう。みほは反対側だから決勝までは当たらない訳だしな。
と言うか、明光大は勿論だが、私と安斎を脅かすような相手は、クジのせいで明光大以外の2校もみほ側に行ってしまったからね。

まぁ、其れは其れとして、互いに中学最後の大会だ、悔いの残らないようにやろう。



「勿論だ!其れじゃあな、今度は大会で会おう!」

「あぁ、そうだな。」

と、少し話し込んでしまったな……黒森峰の皆には、安斎と話があるから先に帰って良いとは言ったが、此れは本当に私だけ残ってしまった
感じか?……周囲に黒森峰の生徒の姿は……



「お話は終わりましたか隊長?」

「お疲れ様です、隊長。」

「エリカ、小梅。……待っていてくれたのか?」

「はい!抽選会直前で寝耳に水でしたが、副隊長に任命された身として、隊長1人を残して帰路に付くのは如何なモノかと思いますので。」

「本音は、隊長と一緒に帰りたかっただけなんですけどね?」

「小梅、アナタ何言ってるの!?いや、一緒に帰りたかったって言うのは否定しないけど、その為だけに待ってた訳じゃないわよ!?」

「そして私は、そんなエリカさんをフォローしつつ、折角東京に出て来たんですから真っすぐ帰らずに、少し寄り道していきませんかと提案する
 為に残った訳です♪」

「人の話を聞きなさいよ!!」



……仲良いなお前達は。
今年はエリカを副隊長に任命して、来年はエリカに隊長職を引き継ぎ、小梅を副隊長にしようと思っていたが、その方向で行って大丈夫そう
だ。お互いに、信頼していないと、この様なやり取りは出来ないからね。

「ふふ、其れ位にしておけ。
 だが、待っていてくれたのは嬉しかったぞエリカ?先に帰って良いとは言ったが、誰も残って居なかったなんて言うのは少し寂しいしな。」

「あ、いえ、隊長を補佐する副隊長として、当然の事です!」

「それでもだ。
 其れと小梅、その提案、受け入れさせて貰うよ。もっと多くの黒森峰生が残っていたのならばダメだが、私達3人ならば偶にはいいだろう。
 大会前の羽根伸ばし、と言う事でな。」

「そうですか?提案した甲斐がありました♪」



其れに、先に帰った黒森峰生も、真っすぐ熊本に戻ったとしても、其処からストレートに学園艦に戻るとは考え辛い。間違いなく、久しぶりの
陸を楽しむ筈だ――と言うか、其れが中学生として正しい姿だからね。
さて、其れじゃあ何処に行こうか?生憎と、私はこう言う事に疎いので、一般的な女子中学生がどんな『寄り道』をするのか分からなくてな。



「喫茶店……は、どっちかって言うと高校生だから、中学生だとゲームセンターとかファーストフード店とかその辺りでしょうか?」

「まぁ、大体その辺りですよねぇ?」



ふむ、ではその両方を行ってみるか。
正直な事を言うと、その何方にも行った事が無いんだ私は。だからとても楽しみではあるけれどね。――では、出発だ!Panzer Vor!



「「了解♪」」



この後、人生初となる寄り道と言うのをしたのだが、此れは中々に楽しかったな。
エリカと小梅がお勧めだと言うファーストフード店で食べた『えびカツバーガー』はとても美味しかったし、コーヒーも中々悪くなかった。私的に
は、これでも充分だが、更にフライドポテトまでついて税込み800円ならば、決して高くないな。
其の後は、今度はゲームセンターに行ったが、まさか其処でみほ達に会うとは思っていなかった――と言うか、それ以上に、明光大隊長チ
ームが、本日の最高得点を軒並み更新しているのは驚いたよ。
流石に片腕のみほは出来るゲームが限られるが、片手で出来るガンシューティングと言う物では吉良と一緒に最高得点を更新してのワンツ
ーフィニッシュ、レースゲームも野薔薇と共に最高得点を更新し、パンチングマシーンと腕相撲マシーンでは辛唐と共に記録更新だからな。
それから、みほの大好きな『ボコ』が入っていたと思われるUFOキャッチャーも空になっていたっけ……マッタク、色々凄い子だったよ。
まぁ、皆で撮った『プリクラ』なる写真シールは、いい思い出になったけれどね。

だが、此の寄り道のおかげで、気分がリフレッシュできたから、大会には最高の状態で臨む事が出来そうだ。
目標である中学3連覇を成し遂げるのは簡単ではないのだろうが、中学最後の大会も矢張り優勝して終わりたい……何よりも、私は負けず
嫌いだからね。








――――――








Side:みほ


さてと、抽選会は金曜日だったので、土日を挟んでの月曜日に早速、1回戦の作戦会議だね。
取り敢えず、電話で1回戦の相手の事を部長に伝えておいたから、土日を利用して調べてくれたとは思うんだけど、白百合中学校て言うの
はどんな戦車を使ってくるんでしょうか?



「どんなとは一概に言えないわね。
 大抵の戦車道チームって言うのは、整備面を考えて開発国が同じ戦車を使うモノなんだけど、白百合は使ってる戦車に一貫性がないわ。
 隊長車はソ連のT34だけど、主力の戦車にはアメリカのM4にドイツのパンターに、イギリス製のマチルダとクルセイダー。かと思えば自走
 砲にはヘッツァーを使ってる……ハッキリ言って、捉え所がないわ。」

「其れは何ともバラエティに富んだ戦車ですね。」

ソ連とアメリカとイギリスとドイツとチェコの連合軍とは、大戦期だったら絶対にありえない組み合わせですね。
でも、それなら、1回戦は隊長車はティーガーⅡで行くのが一番ですね?そうすれば、試合に出せるパンターの数が増えますから、相手の
主力部隊と互角に渡り合えますし、相手のパンターを潰せばこちらが有利になりますので。
ヘッツァーも、Ⅲ突と並んで優秀な自走砲ですけれど、防御力はⅢ突よりも低いので、待ち伏せにさえ注意すればⅢ号で充分撃破する事は
可能です。

白百合の新隊長がどんな人かは分からないので戦術については分かりませんが、少なくとも戦車の総合性能では負けていないので、相手
が去年のベスト4と言う事を考えても、普通に戦えば負ける事は無いと思います。

尤も、試合は何が起こるか分からないので、一概に勝つとは言い切れませんけれどね。



「油断大敵、注意一秒怪我一生かな?
 其れでみほ、1回戦はどんな作戦で行く心算?」



1回戦の会場は、砂地と岩場に高台が点在してるフィールドで、互いに視界が効くから、待ち伏せとかを考えるよりも、如何に相手より早く敵
を発見して、先手を取るかが重要になって来ると思います。
なので、足回りの強いパンターとⅢ号を先発隊として進めて敵の動きを探り、接敵したらそのまま攻撃を開始。
相手のパンターは難敵ですが、M4とヘッツァーはⅢ号でも充分相手に出来るレベルなので行けると思いますから――で、其処にⅢ突とティ
ーガーⅠとティーガーⅡが合流して相手にプレッシャーを与えつつ、フラッグ車の撃破を狙う。
当日の天候や、相手の出方によっては現場での修正が必要になると思いますが、基本的にはこの流れで行こうと思います。異論は?



「無いみたいだな。満場一致って奴だぜ♪」

「流石はみほさん、当日の状況を考慮して修正する事も考えているとは見事ね?――今年こそ、優勝を頂いちゃいましょう!!」

「勿論、その心算です。」

部長たちに、最高のプレゼントをしたいですからね。

あ、其れと1回戦は隊長車がティーガーⅡになるので、アイスブルーのパンターは任せるよ梓ちゃん?あの子も、貴女の事を乗り手として認
めてるみたいだからね。



「は、はい!頑張ります!!」

「あはは……まぁ、そんなに緊張しないで、楽な気持でね?過度の緊張は、本来の実力を鈍らせるからね。」

「楽な気持で……はい、分かりました。」



ちょっと言われただけで、気持ちを落ち着ける事が出来るとは、梓ちゃんは相当に凄い子だよ――普通は、言われただけじゃ出来ないしね。
でも、それだけに安心できるかな?此れなら、試合でも最高のパフォーマンスをしてくれるだろうからね。

1回戦の相手は去年のベスト4だから簡単に勝てる相手じゃないけど、私達が力を合わせれば勝てない相手じゃないから全力で行こう皆!
明光大は、もう弱小じゃない!私達は強い!!



「おうよ、アタシ等は強い!」

「優勝して、強豪と認識させるわよ。」

「新生明光大に、死角は無いのよ!!」



其れでは、1回戦突破を祈願して、一発気合を入れましょう!!明光大、ファイ……



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おぉーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



先ずは大事な公式戦の初戦で白星をね。
此処で勝って、勢いつけて、その勢いに乗って目指すは決勝戦のみ!――勿論楽な戦いじゃないけど、必ず其処まで辿り着いてみせる!








――――――








Side:???


1回戦の相手が彼女とは、ある意味で此れはくじ運が良かったかな?
西住家の次女の噂は聞いていたから一度戦いたいと思っていたのだけれど、去年の大会では準決勝で私も彼女も負けてしまったから、其
の願いが叶う事はなかったけれどね。

でも、今年は1回戦で戦う事が出来る訳だから、全く運命と言うのは分からない物だよ。



「隊長、当日の作戦はどうするんです?」

「作戦?それは、重要な事かな?」

「いや、普通に重要でしょう?」



そうかも知れないけれど、事前に立てた作戦通りに試合が進む筈がないから、事前に作戦を立てるよりも、戦いが始まってから状況に応じ
て、臨機応変に対応する事が重要なんじゃないかい?
其れに、全ては風の流れのままにしかならないからね……細かい事は、試合が始まってから考えるさ。そっちの方が性に合うからね。


――ポロロン


「……そんな事言って、負けても知りませんからね?」

「勝負は時の運って言うから、何方が勝つかなんて、分かるのは勝利の女神さまだけじゃないかな?」

まぁ、1回戦に関しては、私にしては珍しく『勝ちたい』と思っているのは事実だから、私の持てる力の全てを持ってして戦う心算ではいるさ。
さぁ、見せて貰おうか西住みほさん――隻腕の軍神の二つ名を持ち、まほさんの双璧とまで言われている貴女の実力と言う物をね。


――ポロン……



果たして、試合の日にはどんな風が吹くのか分からないけれど――だけど、どんな風が吹こうとも、楽しめる事だけは間違いないだろうね。
1回戦を楽しみにしているよ、西住みほさん♪












 To Be Continued… 




キャラクター補足