Side:まほ


合宿最終日の1年vs2・3年合同チームの模擬戦。
普通に考えれば、2・3年合同チームが勝つと言えるのだが、今回ばかりはそう言う事は出来ないだろうな?――恐らく、1年チームの隊長は
みほが務めているだろうし、その配下には逸見と赤星がいるからね。

此れは、若しかしたら……否、若しかしなくても、私のこれまでの戦車道人生最強の相手なのかも知れないな。
……もしもの話だが、この相手チームに安斎が加入したら、私であっても勝つ事は出来ないだろうね……つまりは、この1年生チームはそれだ
けの強敵という事か。

だが、私達とて簡単にやられてやる訳には行かない――此方にも、年長者の意地と言う物があるからね。

「凛、みほは恐らく徹底してフラッグ車を狙ってくるだろうが、その過程でどんな戦術を繰り出してくるか分からない――殆ど丸投げになってしま
 うが、フォローを頼む。」

「任せなさいまほ。
 みほの戦術を読み切る事は出来ないけど、一緒に戦って来たから、ある程度の予測はつくから、出来る限りフォローするわ!……尤も、みほ
 は、其れを簡単に超えて来るんだけどね。
 ……ホント、貴女の妹は戦車道をやる為に生まれて来たと言っても過言じゃないんじゃないかしら?」

「かもな。」

戦況を見極める観察眼、的確な作戦を立てる戦術眼に、どんな状況が起こっても其れに即座に対応できる応用力……戦車道をやる上で、大
切な能力を、みほは全て90点以上で備えているからな。

そしてその力は、西住流に収まる物ではないと私は思う――多分、お母様もそう思っているのかも知れないがね。
何れにしても、合宿最終日の模擬戦の相手は、最強だ……だが、だからこそ負けたくない、勝ちたいと思えるのだから、私も相当に戦車道に
魅入られてしまって居る様だな。

さぁ、行くぞみほ……お前の持つ可能性、其れを見せてくれ!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer23
『全力全壊手加減不要の模擬戦です』











No Side


合宿最終日の、1年vs2・3年合同チームの模擬戦は、先ずは静かにその幕を上げた。
西住流の演習場は、ともすればそのまま公式戦の試合会場に使えるんじゃないかと言う程に広く、更には平原と岩場、高地と雑木林まで備え
ている為に、実戦その物の模擬戦が行えるのだ。

この実戦的なフィールドで、まず先に動いたのはまほ率いる2・3年合同チームだった。


「此方と向こうの部隊編成を考えると、みほは恐らく高地の稜線は取りに来ない。
 だが、この地形ならば稜線を取った方が有利なのは違いない――よって、全車稜線を取り、1年チームが稜線下に現れたら、即座に攻撃出
 来るようにスタンバイしておけ。」


未だ稜線が取られていない事を確認すると、手堅く稜線を抑えて、みほ率いる1年生チームを迎え撃つ布陣を展開する――即座に其れをやっ
てしまうと言うのは、流石は黒森峰の隊長と言う所だろう。
序盤にアドバンテージを得ておけば、其れだけ中盤以降で有利になるのは間違いないと、此れまでの経験から、まほはそう考えたのだ。


「さて、凛。
 こうして我々は稜線を取り、フィールドアドバンテージを得た訳だが、稜線を取られた側は、こう言う状況ではどう攻めて来るものだろうな?
 部隊編成にもよるが、黒森峰ならば重戦車の砲撃で、逆に下から押し上げる形で相手にプレッシャーを掛けて行く戦法を得意としている。」

「其れもアリだけど、皆が皆重戦車を持ってる訳じゃないから、普通に考えるなら、部隊を3~4個に分けて周囲から包囲する形で攻めるのが
 セオリーってモノじゃないの?」

「そう、その通り。テストだったら二重丸の大正解だ。
 だが、みほがセオリー通りに攻めて来ると思うか?」

「90%の確率で、セオリー通りには来ないでしょうねあの子は……じゃあ、どんな戦術で来るのかって聞かれたら、其れは分からないけど。」


実際に、まほ率いる2・3年連合チームの様に、圧倒的な火力を備えた部隊であれば、稜線を取る事が物凄いアドバンテージになるのは間違
いないのだが、みほが相手ではその限りではないのもまた事実。
この合宿期間中に、みほの変幻自在で予測不可能かつ定石を踏まえた上での奇策・搦め手・型破りを、これでもかと言う程に見せられたため
に、相手がみほであるという事だけでも、緊張とはまた違う感覚を覚えてしまうのである。

そんな中で、稜線を取った2・3年チームの前に、みほ率いる1年生チームが登場!
やや遅めの速度で、攻撃されても即座に対応できる態勢を取りながら、少しずつ2・3年チームとの間合いを詰めていく……1年生チームがティ
ーガーⅠの有効射程に入った瞬間に戦闘が始まるのだろうが……


「ラングとⅢ突が居ない……挟み撃ちか?天城さん、後方からの部隊はありますか?」

「ん~~~……少なくとも目視できる場所には居ないね?
 てか、ラングとⅢ突で超長距離射撃は無理でしょ?よしんば出来たとして、ティーガーⅠの装甲を抜くような有効打を与える事は不可能よ。」

「……如何言う事だ?何を狙っている、みほ?」


目視出来た1年生チームの戦車は、隊長車を含めたパンター3輌とⅢ号が4輌で、Ⅲ突2輌とラング1輌の計3輌の姿がなかったのである。
挟み撃ちを疑ったまほが、天城に後方を確認して貰っても、その3輌は確認する事は出来なかった。
一体みほが何を狙っているのか、其れを明らかにしようと試みるも、そう簡単に行く筈もなく、考えている間に進行して来た1年生チームは、テ
ィーガーⅠの有効射程圏内に入って来た。


「……分からない以上は、下手な考え休むに似たりか。
 ……ならば、先手を取っておくとしよう。全車砲撃準備、此れより敵部隊を一斉攻撃する!」


考えても始まらないと言う結論に達したまほは、先ずは射程内に入って来たパンターとⅢ号に攻撃せんとするが――



――ズドン!!



「こ、後方から攻撃!?」

「何だと?」

「嘘でしょ?さっき確認した時には何もなかったわよ!?」


攻撃しようとした瞬間に、無防備だった後方からの攻撃を受け、攻撃の手が止まってしまった。
其れだけならば大した問題ではない。まほの指揮下であれば、直ぐに立て直す事は容易に可能であるのだから――問題は、一体何が、何処
から攻撃して来たという事なのだ。

まほが天城に後方を確認させた時には、1年生チームの戦車を見つける事は出来なかった。
否、広い平野を見渡す事が出来る高地ならば、平野を走る戦車を見逃す事などないだろう。――まほ以前に黒森峰の隊長を務めていた者な
らば尚更だ。

ではどこから?――と言う所で、天城は見つけた。後方の茂みから硝煙が上がって居る事に。僅かにⅢ突の主砲が顔を覗かせている事に!


「やられたわ西住!茂みに偽装したⅢ突とラングが後方に待ち構えてる!
 恐らく貴女の妹は、私達が稜線を取る事を見越して、先にラングとⅢ突を待機させておいたのよ――私達が攻撃を開始する瞬間にカウンター
 を打ち込むために!!」


天城の言う通り、みほは事前にⅢ突とラング、3輌の自走砲に別行動を取らせ、稜線下に夫々を有効射程ギリギリの状態で待機させた居たの
だ、枯れ木やら何やらで車体を覆って『茂み』に偽装させてだ。

蓋を開けてみれば単純な偽装待ち伏せだが、しかし相手の虚を突く事が出来たというのは非常に大きいだろう。
そして、此れだけでは終わらないのがみほだ。


「部隊散開。
 Ⅲ号4輌の内、2輌は私と、残る2輌は夫々1輌ずつ、逸見さんと赤星さんのパンターと組みになって、2・3年チームを包囲するように展開し
 て下さい。
 そして、Ⅲ突とラングは、そのまま『有効打ギリギリ』の攻撃を続けて下さい。『当たったら撃破されるかもしれない攻撃』は、予想以上に相手
 にとってのプレッシャーになりますから。」

「了解!任せなさい隊長!」

「了解しました、西住さん!」


すぐさま次の指示を部隊に飛ばし、部隊も其れに応える。
特に、黒森峰で1年生ながら、全国大会でエース級の働きをしたエリカと小梅の対応は素早く、夫々ペアになったⅢ号チームと共に、絶妙な距
離を保った上で、2・3年チームを包囲する布陣を作り上げてしまったのだ。

並の相手ならば、此れで押し切られていたであろう。
だがしかし、相手は世間で『西住流師範を超えた』と言われている、次期西住家当主たるまほ故に、そうは簡単に行かないのが現実だ。


「見事な戦術だが……私を甘く見るなよみほ!
 全車砲撃準備!敵部隊のⅢ号を狙え!相手の最大のアドバンテージである機動力を徹底的に潰すんだ!!」


打ち合いになった戦いの中で、まほは1年生チームのⅢ号を徹底して狙うように指示。
大戦期初期のドイツの傑作戦車であるⅢ号だが、攻守力の面で言えばパンターとティーガーには遠く及ばないし、機動力に於いてもパンター
には大きく劣る……がしかし、戦車道の世界においては、必要な能力を全て70点で揃えている機体だけに人気が高く、大学や社会人のチー
ムでも使われている汎用機だ。
それだけに、どんな作戦にも対応できるが、逆を言えばⅢ号を全て沈黙させる事が出来れば、みほの戦術の幅を圧迫する事が出来るという事
でもあるのだ。

更に言うならば、攻勢に回ったまほは、ティーガーⅠに乗って居るという事もあり恐ろしい程の強さを発揮する。其れこそ、相手の術中に嵌って
も、其れを力で突き破ってしまう位にだ。
その攻撃能力が遺憾なく発揮され、高所からの重戦車での砲撃が1年生チームに降り注ぐが――4輌のⅢ号は、全て明光大の戦車であると
言う事を忘れてはいけない。
みほとの訓練で、究極的、或は変態的なまでに回避能力が向上しているⅢ号にクリーンヒットをさせると言うのは、経験豊富な2・3年チームの
砲手であっても中々に難しい物があるのだ。


「的を絞らせてはくれないか……このままでは、此方の攻撃は威嚇射撃に終わるだけか――ならば!」


まほも、Ⅲ号を中々撃破出来ない事に若干危機感を抱いたが、其処は流石の黒森峰の隊長。
何かを思いつき、其のままクルーにティーガーⅠの主砲を角度限界まで持ち上げさせると、その状態のまま砲撃!クルーは全員『一体何を?』
と思っただろうが――


――ドゴン!

――シュポン!



空に放たれた砲弾は、弧を描いて落下し、其のまま小梅のパンターと行動していたⅢ号を撃破し、白旗を上げさせる。


「掟破りの『逆ドッカン作戦』大成功だな。」

「自分がやられた事をやり返したって事ね?……妹が妹なら、姉も姉だわ。」

「褒め言葉と受け取っておくよ凛。」


全国大会準決勝で、自ら体験したみほの『ドッカン作戦』を、今度は逆にまほが使ってⅢ号1輌を撃破して見せたのだ。西住流的には、『?』な
作戦なのかも知れないが、模擬戦まで西住流で戦う必要はないと言う事なのだろう。
ともあれ、先に1輌撃破出来たのは大きい――


――バゴン!

――シュポン!!



と思った矢先に、2・3年チームに1輌だけ存在していた明光大のパンターから白旗が上がり、数の上であっと言う間にイーブンに。
後部装甲を抜かれたと言う事は、背面のⅢ突かラングが撃破したのだろうが、この2種の自走砲は『有効打ギリギリの攻撃』を行って筈であっ
て、決して撃破出来る攻撃をしていた訳ではない。
していた訳では無いのだが、この『有効打ギリギリ』と言うのがみほの命令のミソだったのだ。
確かに有効打ギリギリの攻撃では撃破は難しいが、其れは逆に言うならば『僅かな距離の移動で有効打に変わる』間合いであると言っても間
違いでは無い。
とは言え、自らそのギリギリの間合いの中に入る馬鹿は居ないだろう――だが、試合の中で『入らされる』のを完全に避ける事は出来ない。

早い話、みほは下からの砲撃を行いながら、稜線上の戦車を少し後ろに下げさせていたのである。其れが結果として、Ⅲ突やラングの有効射
程まで敵戦車を誘導した形になり、見事パンターを撃破したのだ。


「パンターが……やってくれるなみほ。
 これ以上、この場に留まって戦うのは逆に不利になるか……とは言え、撤退戦は得意ではないからな――よし、此れより部隊を4つに分け、
 敵部隊を各個撃破する。
 みほの相手は私がするので、サポートとしてティーガーⅠ1輌とヤークトパンター1輌はついて来てくれ。
 残るヤークトパンター2輌は、ティーガーⅠ1輌と共に後方のⅢ突とラングの相手を、残るティーガーⅠ3輌のうち1輌は赤星の相手を頼む。
 そして凛、君には逸見の相手を頼みたい。このチームの中で、私以外で逸見とやり合えるのは君だけだろうからな。」

「了解……ったく、準決勝の時と言い、何かとあの子とはやり合う運命みたいね。」




「お姉ちゃんは恐らく、これ以上稜線上からの攻撃はアドバンテージにはならないと判断して、部隊を此方と同数に分けて各個撃破を狙ってく
 ると思うので、敢えてそれを迎え撃ちます。
 ですが、戦車の性能的に此方が相手戦車を撃破するには、的確にウィークポイントを狙わないとならないので、各自『撃破されない』事を最
 優先にして行動して下さい。
 此れはフラッグ戦なので、フラッグ車を叩けば其れで終わりですから、無理にフラッグ車以外を撃破する必要はありませんから。
 其れと逸見さん、お願いしますね?」

「ホント、よくもまぁこんな事を思いつくものだわ……でも、確かに此れなら隊長に勝てるかもね。――だから、任せておきなさい隊長!!」


其処から戦局は一気に動いた。
みほもまほも、夫々の部隊に作戦を伝達すると、其のまま即行動に移り、其処からこれまでとは打って変わっての激しい戦車戦が展開される。

計4カ所の小規模戦闘区域で、それぞれ異なる激しい戦いが行われているのだ。
Ⅲ突&ラングvsヤークトパンター&ティーガーⅠの戦闘区域では、攻守力で勝るヤークトパンターとティーガーⅠが攻勢に出ていたが、機動力
と突破力で勝るⅢ突とラングはクリーンヒットを受けないように動き回りながら、しかし相手を撃破しようと攻撃を加えて行く。

小梅のパンターと2・3年チームのティーガーⅠ(天城車)の戦いもまた熾烈だ。


「回避!兎に角、ティーガーⅠの後方に回って下さい。後方を取れれば撃破出来ますから!!」


「何処でもいいから当てなさい。
 如何に最強の中戦車とは言え、ティーガーⅠの砲撃ならパンターの何処に当てても撃破出来るから、当てれば勝ちよ!」


1年生ホープの一人である小梅の能力は疑うまでもないが、天城もまたまほが居なければ黒森峰の隊長を務めていただけの人物だけに、戦
車乗りとしての能力は抜群に高い――それ故に、互いに譲らない戦いとなっていた。


更に、エリカと凛の戦いはもっと凄い。


「またアナタととは、如何やら神様は、何が何でも私にアナタを倒させたいみたいね近坂さん?」

「そうみたいね……神様は、如何しても私に貴女を撃破させたいみたいよ逸見!」

「上等、受けて立つ!」

「全国大会では付く事のなかった決着……其れを此処で付けるって言うのも悪くないわ!!」


先の全国大会でもやり合った仲だけに、その戦いの激しさは半端なモノではない。
エリカは攻守力で勝る重戦車相手に真っ向からの勝負を仕掛ければ、凛も負けじと其れに応じで砲撃を放つ!その戦いの激しさは、準決勝の
時以上であると言っても過言ではない。
互いに闘志を剥き出しにしての戦いは、戦車道ベストバウトにノミネートしても良い位の名勝負の様相を呈していた。


だがしかし、その中でも最強最大なのが、みほとまほの『西住姉妹対決』だろう。
攻守力では圧倒的にまほにアドバンテージがあり、みほが勝っているのは機動力だが……みほは己のアドバンテージを最大限生かす能力に
長けている。

的確な指示でⅢ号を動かし、先ずはヤークトパンターを撃破する。
そのⅢ号は、残ったティーガーⅠに撃破されるが、そのティーガーⅠも2輌目のⅢ号に後部装甲を抜かれて白旗を上げる。


「撃て!」


――バゴン!

――シュポン


しかし、そのⅢ号も、攻撃直後の隙をまほ車に狙い撃ちされて敢え無く撃破。
其れはつまり、みほとまほ、隊長車同士の、フラッグ車同士の一騎打ちになったと言う事でもある――つまり、本番は此処からなのだ。


「行くよ、お姉ちゃん!」

「受けて立つ!来い、みほ!!」


全国大会の準決勝以来となる西住姉妹のガチンコ対決開始!!
圧倒的な攻撃力で制圧して来るまほに対し、みほはパンターの機動力を武器にそれを回避しながら砲撃し、まほ車の撃破を狙うが、如何にパ
ンターの主砲が100mm装甲まで抜けるとは言っても『食事の角度』を取ったティーガーⅠを撃破するのは難しい。
故に、どうしても隙を狙う戦い方になってしまうのだが――


「(みほのパンターに、何時ものキレがない……如何言う事だ?)」


まほは、みほの乗るブルーのパンターに何時ものキレがない事に疑問を抱いていた。
否、キレがないと言うのは語弊があるだろうが、今日のアイスブルーのパンターは、みほが指揮をしているにしては『大人しすぎる』――其れが
まほには引っ掛かっていたのである


「(本気を出していない……という訳ではないだろうが――だとしたら、一体何が?
 ……考えても答えは出ないだろうな……ならば私は、己の為すべき事をするだけだ――終わりにするぞ、みほ!!)」


だが、考えても答えは分からない。
ならば戦って倒すだけだと、みほのフラッグ車を撃破せんと動いたまほだったが――そこで見てしまった、みほの口角が上がっていたのを。
自分が攻撃を受けて笑みを浮かべる者は居ないが、みほはこの局面で口元に笑みを浮かべていたのだ。


「逸見さん、今です!!」

「了解!……ブチかますわよ!!!!」


その笑みの回答となるのは、エリカのパンターだった。
みほから連絡を受けたエリカは、凛達に発煙筒を投げて視界を奪った上で、みほの戦線に参加したのだ――2・3年チームに勝利する為に!

そしてその効果は抜群!


「逸見……馬鹿な!!」

「勝たせていただきます隊長!!」


滑り込むように乱入して来たエリカ車は、まほ車の後方を取り、其のまま砲撃一発!
パンターの超長砲身から放たれる75mm砲は、他の戦車の75mmとは一線を画す破壊力があり、如何にティーガーⅠと言えど、ウィークポイン
トの後部装甲を至近距離から撃ち抜かれては堪らない。

結果――


――ズバン!!


――シュポン



『2・3年チーム、フラッグ車、行動不能。よって、1年生チームの勝利です。』


エリカの砲撃が、まほ車を撃破し、模擬戦は此処に決着!――見事1年生チームは、2・3年チームを撃破したのだった。








――――――








Side:みほ


勝った……お姉ちゃんに勝った!!――『入れ替え作戦』は大成功だったね。――尤も、可也ギャンブル的な作戦だったのは、確かだけど。



「入れ替え作戦……車長以外のポジションを完全に入れ替えたか――私が、戦闘中に感じた違和感の正体は此れだったという訳か……マッ
 タク持って見事だったよみほ」


ナオミさんとつぼみさんと青子さんの3人を、逸見さんのパンターのクルーと入れ替える――そうする事で、お姉ちゃんを戸惑わせる事が出来
た訳で、その末に勝つ事が出来た訳だからね。



「あぁ、完敗だよみほ。
 だが、合宿最終日に良い経験をさせて貰ったよ――マッタク持って、車長以外のクルーを纏めて取り替えてしまうなど、考えた事もなかった。
 本当に、お前が相手だと退屈しないよみほ……見事な戦い方だった。」

「お姉ちゃん……ありがとうございました!!」

其れが出来たのは、お姉ちゃんが強かったからだからだよ。
相手が強ければ、強い程、私も燃えて来るからね……この模擬戦は、合宿中最大の戦いだったよ、お姉ちゃん――本当に楽しかったから。



「其れは私もだよみほ。
 これ程の興奮を覚えたのは、安斎との戦い以来だ――堪能させて貰ったぞ、お前の戦車道をな。」

「これで、完成じゃないけどね。」

私の戦車道は、此処からだから、まだまだ強くなる!そうじゃなきゃ、お姉ちゃんを本当の意味で追い越す事なんて出来ないって思うから。
でもまぁ、合宿は此れで終わりだから、残るは打ち上げだけ――その打ち上げも、思い切り楽しまないとだね♪








――――――








Side:しほ


まさか、こんな結果になるとは……否、ある意味で当然の結果だったのかも知れないわね此れは――私自身、この模擬戦はみほ率いる1年
生チームが勝つと思っていたからね。

そして同時に確信したわ……まほとみほならば、お母様が提唱している『歪んだ西住流』を正すことが出来るのだという事をね。

勿論それは、簡単な事ではないけれど、まほとみほならば絶対に出来る――あの子達の母として、そして西住流の師範として、其れを確信し
ているわ。私では断ち切れなかった『歪んだ西住流』を断ち切れるのは、貴女達だけなのだから。

だけど、今は合宿を無事終えた事を喜びなさい――この合宿で、貴女達が戦車乗りとしてレベルアップしたのは間違いないのだからね。

そして、戦車道の世界に新たな風が吹き込むのは間違いない。
お母様の提唱する『歪んだ西住流』が終焉を迎え『真の西住流』が始まるのは、そう遠くない未来なのかも知れないわ――まほとみほが、あの
子達の仲間が、きっとやってくれるでしょうからね。



「奥様?」

「何でもないわ菊代……そう、此れからの戦車道の未来が楽しみになった、其れだけだから。」

「左様ですか……まぁ、私も同じ気持ちですけれどね。」



戦車道の未来の担うのは間違いなくあの子達の世代よ。
其れを考えれば、この合宿は未来の世代を育成する為の物であったと言っても過言ではないわ――この合宿に参加した事で、みほもまほも、
此れまでとは比べ物にならない位に成長したのだから。

新たな段階に上った貴女達が、此れからどんな活躍を見せて来るのか…西住流師範としても、貴女達の母親としても楽しみにさせて貰うわ。


私の期待を、はるかに上回る結果を残してくれるのは、間違いないでしょうけれどね――!











 To Be Continued… 




キャラクター補足