Side:みほ


新たな戦車を迎えて、そしてやって来た杏さんからのお願いである三年生の壮行試合、所謂『追い出し試合』の日が!――連盟の公式試合じゃない
ので、試合で街を破壊しても保証はないから、大洗の町中は勿論、学園艦の町中も試合会場からは除外。
会場は大洗女子学園の戦車道の練習で使われるフィールドのみ……戦車道を再開した直後に行った模擬戦と同じフィールドだね。
市街地戦は出来ないけど、林とか隠れる場所は多いから私の戦車道をやるには充分なフィールドって言えるかな?真っ向からぶつかるよりも、裏技
と搦め手上等なのが私の戦車道だからね。使えるモノは親でも使えが座右の銘――って訳じゃないけどさ。
まぁ、追い出し試合も全力でやるだけなんだけど……

「小梅さん、なんで追い出し試合に観客が居るんですかね?」

「大洗の学園艦の住人は、戦車道の試合に敏感だって事でしょうか?」

「うん、其れっぽい理由だね。だけどさ……」


「ガッデーム!アイム、チョーノ!
 追い出し試合だぁ?やる事やってんじゃねぇか!最高の思い出を作ってやれよみぽりん!戦車道、知っちまうと辞められねぇんだよファッキン!!」



何でいるし黒のカリスマ。最近寄港してなかった筈なのに。



「黒地に白で『nWo』って入ったアパッチが飛んできて。」

「ちょっと待ってどっから持って来た其れ?」

明らかに一個人が所有出来るモノじゃないよね其れ?オスプレイ所有してる西住はだったら何なんだって話なんだけど、こう言ったら何だけど、西住
流は財力も凄いから、あれ位は余裕で用意出来ます。
だけど、アパッチって……うん、深く考えないでおこう。何となく考えたら負けな気がするしね。











ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer199
全力全壊追い出し試合です!』









そんな訳で予想外の盛り上がりを見せてる追い出し試合な訳ですけど、やる以上は手加減なしの全力で行きますよ杏さん――杏さん達は、黒森峰と
同格の相手と思って戦わせて貰います。



「うわぉ、ハードルメッチャあげて来たねぇ西住ちゃん?
 黒森峰と同格扱いで戦うって事は、軍神全開……いやぁ、アタシも其れが望みではあるんだけど、ぶっちゃけ無理ゲーじゃね?本気出した西住ちゃ
 んと互角に戦えるのって、同学年では逸見ちゃんと赤星ちゃん、あとベルウォールの中須賀ちゃん?年上だと姉住ちゃんでしょ?姉住ちゃん以外だ
 と、逸見ちゃんのお姉ちゃんでワンチャン。
 年下では島田ちゃん。澤ちゃんと黒森峰のツェスカちゃんが頑張ってワンチャン?」

「まぁ、確かに其れ位でしょうねぇ……エリカさんのお姉さん以外、一度は全員倒してますけど。」

「あ、更に難易度が上がった。
 まぁ、西住ちゃんは今や日本でも五本指に入る戦車乗りだからねぇ……今回は横綱に挑む平幕の気持ちで、『当たって砕けろ』の精神で挑ませて
 貰うよ!」

「その意気やよしです。……時に『当たって砕けろ』ってちょっと酷い言葉ですよね?当たるだけでも結構痛いのに、砕けろって……つまり死ねと?」

「いや、そう言う事じゃないと思うよ多分。」



考えてみると『?』な事って多いですよね?カップ焼きそばとか、1mmも焼いてないですし、豆腐は腐ってない。どっちかと言うとあの字で『なっとう』と
読ませる方が正解だと思います。
其れから親切。親切っちゃダメ絶対。其れから実在する虫の名前『トゲアリトゲナシトゲトゲ』……最早意味が分からない。
後突っ込みを入れるべきは大洗アクアワールドかな?『日本一のサメの種類が豊富で、サメの飼育数も日本一』を売りにしてるのに、なんでマスコッ
トがイルカ?サメじゃダメなの?
シュモクザメモデルの『ハンマーシャー君』とか良くないですか?後はサカタザメモデルの『サカタ君』とか。



「サカタ君めっちゃクラスに居そう。って言うか、小学校の時に居た気がする。
 と言うかさ、割とナチュラルにボケかましてくれるよね西住ちゃん?」

「何を言ってるんですか杏さん……ナチュラルじゃなくて全部計算の上です。」

「逆に怖!」



此れ位はナチュラルに見えるように出来ないと、車長で隊長なんて務まらないんですよ杏さん。戦車乗りって言うのは往々にして一癖も二癖もある人
達ばかりなんですから。
其の中でも大洗は特にですからね……否ぁ、此処まで個性的な隊員が揃ってる戦車隊は世界的に見ても珍しいと思いますから。



「あ~~……其れは否定出来ないわ。マジで個性的過ぎっからねうちは。」

「でも、だからこそそれを活かす戦術を立てるのがとっても楽しいんですけどね――さて、お喋りはここまでにしましょうか杏さん?高校生活の最後で
 最高の思い出を作ってあげますよ。」

「西住ちゃんとガチバトルできるって時点で、最高の思い出なんだけど、其れを上回る思い出にしてくれっかな?」

「勿論です!」

此れまでの校内模擬戦は皆の練度を見るのが目的だったから、私が本気を出した事は無かったけど、此の追い出し試合は杏さんが本気でやって欲
しいって言うんだから、其れに応えないとね。



「其れでは僭越ながら、此の試合の審判は、放送部の王大河が務めさせて頂きます!
 此れより、大洗女子学園三年生壮行試合を始めます!お互いに、礼!」

「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」


そして此の追い出し試合は、私にとっても今年度最後の試合になる訳だから、バッチリしっかりやらせて貰う……さぁ、最高の戦車道をやりましょうか
三年生の皆さん!!








――――――








No Side


何だか妙な盛り上がりを見せている追い出し試合、改め壮行試合だが、先ずは両リームのオーダーを見て行こう


在校生チーム

・パンターG型×1
・チャーフィー軽戦車×1
・Ⅲ号突撃砲G型×1
・VK3002DB×1



卒業生チーム

・ヘッツァー×1
・ARL-44×1
・コメット巡航戦車×1
・ポルシェティーガー×1




この壮行試合は、島田から貰い受けた戦車の性能テストも兼ねているのでこんな構成。……其れを兼ねてなかったら、在校生チームの戦車がパン
ター二輌、ティーガーⅡ一輌、チャーフィー一輌と言うガチすぎる構成になっていただろう。ぶっちゃけ勝てんわ其れ。
隻腕の軍神、軍神を継ぐ者、大洗の狂犬、慧眼の隼……大洗戦車道四天王が揃ってるって、其れもう絶対に無理ゲーですよね?アースZeroのコン
ボの後で連続マスク・チェンジの猛攻を耐えろってくらい無理ですよねマジで?つーか、マスク・チェンジ系は何で全部速攻魔法にしたのか……TFSP
で十代君と組むと、自分のターンが来る前に相手のライフが0とか普通にあるんですけどねぇ?ホントHEROの連撃怖いわぁ。

其れは兎も角、壮行試合の試合形式は四対四の殲滅戦だ。
四輌でフラッグ戦やっても面白くないし、試合に使えるフィールドも公式戦と比べれば可成り狭くなるので、いっそ殲滅戦にした方が盛り上がるとみほ
も杏も考えた結果である。

そして試合が始まった訳だが、みほ率いる在校生チームは開始場所からまだ動いていなかった。


「ヘッツァー、ARL-44、ポルシェティーガー……火力は卒業生チームの方が上。
 其れに対して私達は機動力で勝る訳だけど、公式戦の試合会場と違って、学園艦の演習場所だと複雑な地形は先ず無いから機動力がモノを言う
 場面は多くない上に、隠れられる場所も限られてるからⅢ突の待ち伏せもやり辛いか。」

「こう言う開けたフィールドでは、火力のある方が有利ですからね。」


如何やらこのフィールドで如何戦うかを考えていたようだ。
此れが普段の練習の模擬戦だったら、相手の練度を見る為の動きをするのだが、今日の試合はそうではない。ガチなのだ。本気と書いてガチとルビ
振るくらいガチなのだ。……時に本気にガチってルビを最初に振った人って誰なん?
ガチであるのならば相手の練度を見る為ではなく、勝つ為の作戦を練らねばならない――其れも只勝つ為ではなく、お互いに心底楽しんだ上で勝つ
作戦をだ。

みほは何時だって『楽しんで勝つ』ことを信条にして戦車道に臨んでいた。それが結果として相手を驚かせつつも楽しませる事になり、観客にはハラ
ハラでドキドキワクワクな試合を見せる事になっているのだ。
そんなみほが校内の壮行試合とは言え、ガチでと言われた以上手加減とかするだろうか?……否!断じて否!!
ガチを望む相手に手加減するとか、もうそんなのは軍神ではない!『壮行試合なんだから卒業生チームに花を持たせてやれ。』とか知った事ではな
い。てか、ガチを望む相手に花持たせるとかの方が普通に失礼だろうマジで。


「仕方ない、フィールド利用は期待できないから、開けたフィールドでも使える裏技を駆使して行くとしようか……其れで悪いけど、カバチームには此
 れを適当に色んな所に刺して来て欲しいんだけど良いかな?」


取り敢えず如何戦うのかが決まったのか、みほはカバチームに何かを渡す。


「西住隊長、何処から持って来たんだこんな物?」

「あぁ、本物じゃなくて演劇部から何かに使えるかと思って貰って来たの。
 新しいの作って使わなくなったからって快く譲ってくれたよ――まぁ、本当なら市街地戦で使った方が効果はあるんだけど、こう言うフィールドの方
 が意表は突けるしね。」

「世界広しと言えど、こんな物を戦車道に使おうと思うのはみほさんだけだと思いますよ。」


一体みほは何を渡したのか?其れは今後明らかになるだろう。


「其れじゃあカバチームは其れを設置する為に別行動。オオワシとアヒルは一緒に来て。」

「うむ、此方は任せろ西住隊長!」

「其れじゃあ行きましょうかみほさん!」

「根性で頑張ります!」


そして漸く在校生チームは進軍開始。……時にアヒルチームよ、そろそろ根性万能論は卒業した方がいいんでない?社会に出たら根性だけでは如
何にもならない事もあるんだからね?
……否、此の子達なら案外根性で何とかしちゃうのかも知れないけどね?限界突破した根性は全てを超越する――うん、普通に訳分かんねぇ。








――――――








一方の杏率いる卒業生チームは、林などの場所を極力避けて移動をしていた。
――まぁ、当然と言えば当然だろう。みほの得意な戦術は全国大会と大学選抜戦、そして無限軌道杯で此れでもかと言うくらい見て来たのだから。
みほの得意な戦術は真っ向勝負よりも、待ち伏せや奇襲と言った相手の虚を突く物が圧倒的に多い――で、あるのならば其れを仕掛けられる可能
性が高い場所を避けるのは至極当然の事だ。


「(つっても、西住ちゃんが何も仕込んでこない筈はないんだよな~~……其れを楽しみにしてるアタシも大概だけどね~~。)」


其れでも杏は『何かある筈』だと警戒はしている――が、其れ以上にみほが何をしてくるかが楽しみでならないらしい。
角谷杏と言う少女は、頭もキレて腹の中では何を考えてるのか分からない人物だが、その実態は単純に楽しい事最優先の快楽主義者だ――勿論
人の道に外れる様な事だけはしないが。
だからこそ、警戒以上に楽しみなのだ、みほが何をしてくるのかが。

だが――


「え、何有れ?」


ある程度進んで、だだっ広い平原に出た杏は、目の前に光景に思わず目が点になった。何でかって?
其れは――





制限速度四〇kmの標識が立っていたからだ。
しかも其れだけではなく、其処から先にも――











と言った制限速度の標識があちこちに刺さっているのだ。しかも、割と短い間隔で……速度制限細かいなぁマジで。
此れがみほが持って来たものの正体、演劇部が大道具として使っていた道路標識だ――本来ならば、市街地で本物の道路標識に紛れ込ませる事
で真価を発揮するのだが、其れを敢えてこのフィールドで使って来たのだ……いや、逆にこっちの方が効果はあるかも知れない。
だって何もない平原に行き成り速度表示の標識とか出て来たら普通に驚くからね?


「何だってこんな物が……まさか!!」

「そのまさかですよ杏さん。」


この標識の数々に驚いた杏だが、その意味を理解したと同時にみほ率いる在校生チームが強襲!
開けたフィールドだから、普通ならば接近する在校生チームに気付く事が出来たのだろうが、突然現れた道路標識に目を奪われて、意識がそっちに
向いてしまい接近する在校生チームに気付く事が出来なかったのだ。
人は意外なモノを目にすると、大抵の場合其方に意識を奪われてしまい、他への注意が散漫になってしまう――みほの作戦は、人の特性と言うモノ
を見事に利用したモノだと言えるだろう。


「西住ちゃん……こう来るとは思わなかったよ?流石は隻腕の軍神、予想の斜め上を行ってくれるねぇ?
 何かしてくるんじゃないかとは思ったけど、こう来るとは予想外だったよ!――ってか、道路標識とか一体どっから持って来たのかメッチャ気になる
 んだけど?」

「演劇部にお願いして、大道具を無料で貰っただけです。」

「……此れを大道具として使うって、ウチの演劇部は何をしようとしてたのか逆に気になる。」

「昔々ある所におじいさんとおばあさんが山奥の小屋で……フフ。」

「その切り方もメッチャ気になるんだけど!?おじいさんとおばあさん、山奥の小屋で何してたの!?」

「デュエル!」

「はぁ!?どんなおじいさんとおばあさん!?」

「六十年後の不動遊星と十六夜アキです。」

「八十近いのに元気だなぁ。って言うか其れ昔々じゃなくて、可成り先の未来の話!」


そしてそのまま戦車戦に入った訳だが、みほと杏のこの余裕と言うかユルさは、校内壮行試合故の事だろう……真剣勝負とは言っても、大会や練習
試合とは違って、身内での勝負ではユルくなってしまうのは致し方ないのかも知れない。
だが、空気はユルくとも戦車戦はガチンコだ。
卒業生チームは高い火力を生かし、防御力も信頼できるポルシェティーガーとARL-44を前面に押し出して攻撃し、逆に在校生チームは高い機動力を
生かしてのヒット&アウェイを繰り返す。
攻撃を弾く卒業生チームと、攻撃を回避する在校生チームと言った感じで、互いに決定打を欠く展開となっている……此のまま続けば千日手の泥試
合になるのは予想に難くないが――


「トラップ発動、落とし穴!」


此処で卒業生チームが仕掛けた。
ポルシェティーガーとARL-44の主砲でⅢ突の足元を砲撃し、即席の落とし穴を作ってⅢ突を其処に落っことす!正に予想外のタイミングでの落とし穴
は完全にトラップだっただろう。……仕込んでないで即席作成の落とし穴をトラップと言って良いのか分からないが。
なんにしても、落とし穴に嵌まったⅢ突はひっくり返って白旗判定!

撃破アナウンス?そんなモノはない!
放送部が実況する程度だろう。


「此処で落とし穴だとぉ!?やってくれるじゃねぇかオイ!
 まさか、みぽりん相手に先手を取るとは思わなかったぜ……やるじゃねぇか角谷元会長さんよぉ!此れだから戦車道ってのは、一度知っちまうと止
 められねぇんだ!
 予想外の事が起きるから戦車道ってのは面白いんだ!マッタク予想が出来ねぇってのは、武藤さんのプロレスと同じだぜ!
 だが、予想出来ないからこそ観客ってのはワクワクドキドキするってんだ!分かってんのかオラァ!予定調和の試合なんざ誰も望んでねぇんだ!
 此れこそが戦車道!グァッデム!アイム、チョーノ!」


と思ってたら黒のカリスマがノリノリだった……放送部の実況よりも盛り上がり方が熱いのは、黒のカリスマの戦車道&大洗愛故か……そう言えば
大洗の御当地レスラーのオーアライダーとの試合の話は如何なったのだろうか?是非とも実現して貰いたい物である。実現したら、特設リングサイド
の最前列席を買って見に行きますので新型コロナが落ち着いたらマジでお願いします。

そんな訳で(どんな訳だ?)、卒業生チームが先に撃破をした訳だが、Ⅲ突が撃破された位で如何にかなる在校生チームではない……だって、在校
生チームを率いてるのはみほだし。隻腕の軍神だし。


「小梅さん、磯辺キャプテン……リミッター解除!」

「その言葉を待っていましたみほさん!」

「リミッター解除……根性MAX!!」


そして予想通りに此処でみほがリミッター解除!
誤解なきように言っておくと、此れまで本気を出していなかった訳でなく、此処までも本気だったが此れからは本気と言うリミッターすらも解除したマジ
のMAXパワーと言う事だ。分かり易く言うなら潜在能力の解放か、火事場のクソ力の発動だ。……アヒルチームの根性MAXが微妙に怖い感じがする
のは読者の諸君も分かるだろう。
小梅のチャーフィーは性能的に信頼できる超高性能の軽戦車だが、アヒルの新戦車であるVK3002DBは、あの傑作戦車であるパンターと略同性能
のスペックを持った戦車だが、試作機が一輌しか存在しない幻の戦車でありその性能は正に未知数なのだ……千代さんは一体何処から此のエクス
トラシークレットレアを遥かに上回る極レア戦車を見つけて来たのか非常に気になる所だ。
だが、その未知数の性能にアヒルチームのスポコンが加わったらどうなるか?


「ブチかませ佐々木!!」

「はい、キャプテン!!」


答えは、計り知れない無限の可能性だ。
VK3002DBの主砲はパンチ力のある超長砲身の75mmであり、此れはパンターの主砲と同等の破壊力がある――ポルシェティーガーやARL-44が相
手では大ダメージは期待出来ないが、コメットならば容易に正面を抜く事が出来るのだ。
加えてアヒルチームの砲手であるあけびは、大洗女子学園では華に次ぐ腕前の砲手……コメットに的確に命中させる事など朝飯前だろう。――その
才能がバレーボールで発揮されたら、彼女のスパイクはブロック不可だと思われる。冗談抜きでマジで。
その砲撃を喰らったコメットはそのまま白旗判定となり戦線離脱……そど子、特に活躍もしないで退場だ。悪く思うな。


「納得いかないわ!こんなの校則違反よ!」


知らんがな。そもそも私大洗女子学園の生徒じゃねぇし。其れ以前に作者男だし。
だが、此れで数は互角になったが、其れで終わりではない!!


「小梅さん、磯辺キャプテン……やっちゃってください!」

「OKです!!」

「いっくぞ~~!ねっけーつ!!」


みほの命を受けた小梅と典子は、白旗判定になったⅢ突の落とし穴から見えている部分とコメットを踏み台にして飛び上がり、小梅はポルシェティー
ガーに、典子はARL-44に、みほ流の超奥義である戦車プレスをぶちかます!
如何に防御力に定評のあるポルシェティーガーとARL-44でも上から戦車が降って来たら一溜りも無いだろう……と言うか、普通にスクラップになるの
は間違いない。
なので、ポルシェティーガーとARL-44は此処で白旗判定になったのだが、戦車プレスを行ったチャーフィーとVK3002DBも乗っかった戦車から降りる
事が出来なくなってしまったので、決着はパンターとヘッツァーの一騎打ちに委ねられた。
パンターが勝てばそのまま在校生チームの勝ちであり、ヘッツァーが勝ったら戦車の上で身動きが取れなくなってるチャーフィーとVK3002DBを撃破
して試合終了だ。


「いやはや、こうなるとはね……隻腕の軍神の戦車道、堪能させて貰ったよ西住ちゃん。君が味方で良かったって、心の底から実感してるよ。」

「其れは、最大の褒め言葉ですよ杏さん。」

「うん、最大の褒め言葉さ……君が居なかったら大洗女子学園は無くなってたかも――否、確実に無くなってただろうからね……改めてありがとう、
 西住ちゃん。大洗を護る事が出来たのは君のおかげだよ。」

「私は私に出来る事をしただけです……大洗女子学園は、皆で守ったんです。私の力じゃありません……そして、その皆の中には杏さんも当然含ま
 れてますから。」

「だったら嬉しいね……だけど、だからこそもう思い残す事はない――最後に君との一騎打ちを持ってして、高校生活最後にして最高の思い出にさせ
 て貰うよ!」

「なら、最高の思い出にさせてあげます!」


そして最後に選んだのはタンクジョスト!
互いに同時に発進すると、猛スピードで相手に向かって突進する――主砲の破壊力は略互角だが、回転砲塔のあるパンターと回転砲塔の無いヘッ
ツァーでは、パンターの方が有利に見える。


「小山!!」

「任せて下さい杏!」


だがしかし、ヘッツァーの操縦士であるゆずは、大洗女子学園でもトップクラスの操縦士であるので多少の無茶操縦には対応する事が出来る――今
だって、杏の命を受けてパンターの横っ腹を狙う様に移動したのだから。
此れならばパンターの横っ腹に一発叩き込む事も出来るだろう。

そうなればいかにパンターと言えども白旗待ったなしだが、パンターの操縦士って誰だっけ?


「麻子さん、お願いします。」

「おうよ。任せとけ西住さん。」


そう、パンターの操縦士は大洗女子学園きっての大天才、低血圧で朝に弱くて遅刻日数がカンストしてる推定IQは多分二百は鉄板と思われる麻子
だ――みほとの此の短いやり取りで全部分かってる麻子だ。
つまり、操縦士としての腕前は柚子を遥かに凌駕しているのである――なので、横っ腹を取ったヘッツァーの横を滑る形での戦車ドリフトを行ってヘッ
ツァーの背後を取る。
回転砲塔のないヘッツァーにとって、背後を取られると言うのは死刑宣告と言えるだろう。


「華さん、ヘッツァーの後面にダイレクトアタックです!!」

「一発必中……!」


今や高校戦車道に於いて、五本指に入る砲手である華が乾坤一擲の一発を放って、ヘッツァーの後部装甲をぶち抜く!
2000m先の89mm装甲を抜く事の出来るパンターの主砲を近距離から、其れも僅か8mmしかない後部に叩き込まれてはとても耐える事など出来は
しない。
ド派手にフッ飛ばされた挙げ句に白旗判定となり勝負あり。
車長の判断力と、操縦士の神懸かった操縦、そして砲手の集中の一発が勝負を決めたのだ。……時に、華×ナオミの砲手カップルって良くないです
か?良いですよね?ボーイッシュなナオミと純大和撫子な華の組み合わせって萌えません?華×ナオミもっと増えないかなぁ。と言う個人的希望。
……取り敢えず試合自体は、大凡の予想通り在校生チームの勝利だったが、卒業生チームも落とし穴でⅢ突を撃破して見せたのだから、みほ相手
に一矢報いたのは大きいだろう。


「いや~~、やっぱ西住ちゃんには勝てね~わ。だけど、たっぷり堪能させて貰ったよ、西住ちゃんの戦車道。」

「杏さん……良い思い出になりましたか?」

「そりゃ当然だよ。高校生活で、全国制覇、大学選抜戦勝利と同じ位の最高の思い出になったさ!此れでもう、高校生活で思い残す事はないね!」

「其れは良かったです。」


こうして大洗女子学園戦車隊の壮行試合は終了。
余談だが、この壮行試合はNHK水戸放送局の夕方の番組でダイジェスト放送され、大反響があったのだとか何だとか。








――――――








Side:みほ


校内の壮行試合とは思えない位に盛り上がったあの試合から数日、遂に卒業式の日がやって来て、杏さん達三年生は大洗女子学園を卒業し、これ
から新たな道を歩んで行く。
自動車部の人達みたいに、一部の人は学園艦に残るみたいだけど、多くは学園艦を降りて陸の大学に進学するみたいだね……元生徒会の三人も
陸の大学に進学したからね。

卒業式自体は何の問題もなく終わったんだけど、卒業生退場の時になって遂に限界が来たのか、桃ちゃん先輩が今までに見た事もない位に大号泣
して大変だったなぁ……他にも泣いてる人は居たけど、桃ちゃん先輩以上の人は居なかったから。……あんなに泣いて体内の水分が無くならないの
が謎だよ。

そして今、在校生が作る最後の花道を通って、卒業生達は校門を潜って本当に卒業するんだけど、此処で最後のサプライズ!

「全車主砲装填!Fire!(撃て!)」

「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」



――ドドーン!!



待機させていた戦車で特製のカラースモーク弾とくす玉弾を発射して、空にカラフルなスモークを描くと同時に、紙吹雪を舞散らして花道を彩ってみた
よ……戦車にはこう言う使い方もあるだってね♪



「いやはや、最後の最後でやってくれんね西住ちゃん?最高の門出の演出じゃないか……隻腕の軍神は、エンタメも得意なのかな?」

「戦車道はガチンコ勝負であると同時にエンターテイメントなんですよ杏さん――本気の勝負は期せずしてエンターテイメントになるのが戦車道って言
 うものなんです。
 こんなスポーツは、他にありませんよ?」

「うっわ~~、納得だわ。
 どんなスポーツでもガチすぎると面白くないし、だからと言ってエンタメ過ぎっと嘘くさくなっからね?――だけど戦車道は、ガチで在ればガチである
 だけエンタメ性が増す訳か。」



ふふ、そう言う事です。
改めて、卒業おめでとうございます。大学でも頑張って下さいね?



「言われなくてもその心算さ……改めて本当にありがとう西住ちゃん。
 君達のおかげでアタシ達は大洗女子学園の生徒として卒業する事が出来たからね……本気で感謝だよ。――西住ちゃんと逸見ちゃんと赤星ちゃ
 んが戦車道部を立ち上げようとしてた事に感謝だよ。お蔭で洗濯必修科目で戦車道を選ぶ事を強要しないで済んだからね。
 最悪の場合は、脅してでも戦車道を取らせる心算だったんだわ~~……尤も、其れやってたら間違いなくゲームオーバーだっただろうけどさ。」

「そうですね、そんな事されてたら、私はエリカさんと小梅さんと梓ちゃんとクロエちゃんを引き連れて聖グロかサンダースかアンツィオに再転校してた
 と思いますからね。」

「だよね。
 でも、そうならなかったから大洗女子学園は守られた……西住ちゃん、最後に握手してくれっかな?」

「其れ位なら喜んで。」

杏さんが出した右手に私の右手を重ねて確りと握手を交わす……その後で、柚子さんや桃ちゃん先輩とも握手を交わす事になったけどね。


卒業おめでとうございます!新たな道を、夫々確り踏みしめて行って下さいね!!







――――――








Side:エミ


編入手続きは此れでお終いね……此れで、私も晴れて四月からは大洗女子学園の生徒になる訳か――高校最後の一年は、貴女と一緒に戦車道
に勤しませて貰うわみほ。
無限軌道杯で貴女とは心行くまで戦ったから、今度は同じチームで戦わせて貰うわよ?――貴女との同じチームで戦う戦車道、想像しただけでワク
ワクして来たわ。


……時にこう言う時って、『遂にやって来たわに』とかボケた方が良いのかしら?



『其れ私のネタだから!』



!!?今のは何?逸見の声が聞こえた気が……多分気のせいね。――何にしても、高校生活最後の一年、全力で楽しませて貰うわよ、みほ!










 To Be Continued… 





キャラクター補足