Side:みほ


互いに戦力の削り合いみたいな試合展開になってたけど、双方戦力の半分を失った所でエミちゃんは私の前に現れた。現れてくれた。――ならば
言葉はもう必要ない。
想いは、戦車でぶつけ合うだけだからね!

「優花里さん、装填速度をもう少しだけ早くして!」

「了解であります西住殿!不肖秋山優花里、西住殿の為ならば、ジーパンとTシャツだけでエベレストを踏破する事も出来ると思うであります!!
 火事場のクソ力でありますよ!!」



あはは、そう来たか……沙織さん、他の戦車との通信は?



「感度良好問題なし!作戦を各車に伝えるなら任せてよみぽりん……アマチュア無線二級は伊達じゃないから♪」

「うん、頼りにしてると沙織さん――華さんは、如何ですか?」

「うふふ、一切問題ありませんよみほさん。
 今の私ならば、相手が誰であっても撃ち抜く事が出来る気がしますわ……必中は約束しますので、遠慮せずに命令してくださいみほさん。その命
 には応えて見せますから。」

「頼もしいね華さん。
 麻子さんの方は如何ですか?此処からは可也無茶な操縦を要求する事になると思うんだけど大丈夫ですか?」

「問題ない……だから、貴女の思う様に命令してくれ西住さん……西住さんが望むなら私はドレだけの無茶でもやってやる。その心算だからな。」



なら、その時は頼りにさせて貰うよ麻子さん。
さて、決着を付けようかエミちゃん?――私の戦車道をその身で感じて貰うから覚悟してね。









ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer190
限界を超えろ!死力を尽くせ!です』









No Side


市街地の公園で睨み合うのは大洗の隊長車にしてフラッグ車の車長にして大洗の隊長である西住みほと、新参校乍らシード権を獲得して準決勝
まで駒を進めて来たベルウォールの隊長兼マネージャーでフラッグ車の車長である中須賀エミ。
無限軌道杯で再会した幼馴染が準決勝と言う大舞台でぶつかると言うのは、戦車道ファンでなくともかなり燃える展開だろう――加えて今の状況
は互いにフラッグ車でありながら護衛も居ないタイマンの状況、此れから始まるのはフラッグ車同士の殴り合いなのだから。
普通ならば観客席は大盛り上がりなのだが……


「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


客席はシン……っと静まり返っていた。何故か?


「…………」

「…………」


みほもエミも互いに睨み合ったまま動かないからだ。
みほは肩に引っ掛けたパンツァージャケットを風に靡かせながら、エミは腕組みをして顔だけをみほに向けながら互いに相手を見ている……『気組
み』と言われるモノに近い状態だが、みほとエミの其れは武術の達人が行う其れのレベルに近いと言える。
互いに無言で見合ってるだけなのに、其処から溢れ出す闘気は凄まじいモノがあり、其れはモニター越しであっても観客に伝わる程なのだ。
此れが漫画やアニメだったら、みほの戦車から青の、エミの戦車から赤の闘気が発生して、其れがぶつかって火花放電やら何やらが起きていると
言った状況だろう。

時間にしたら五分も経ってないだろうが、観客には既に何十分も経過したと錯覚する者も居るかも知れない。
永遠に続くかと思われた睨み合いだが……


「合図だぜみぽりん、エミちゃん……ガッデメファッキン!」


――タララタララダンダンダラララ、ダララダララダンダンダララー!(推奨BGM:クラッシュ。蝶野正洋入場テーマ。)


黒のカリスマの一喝と共に、会場全体に大音量で黒のカリスマの入場テーマが鳴り響き、其れと同時にみほとエミも動く!
試合会場と客席は可成り離れている為、みほとエミに黒のカリスマの合図と、入場テーマが聞こえたとは思えないが、聞こえずとも分かったのだろ
う……一流は一流を知ると言うが、つまりはそう言う事なのだろう。(如何言う事だ?)(考えるんじゃない感じるんだ。)

こうして睨み合いから一転して始まって戦車戦、動いたのは同時だったが先に撃ったのはエミだ。
ティーガーⅠの性能は最高クラスであり、レギュレーションで許可されてる重戦車の中ではパーシングに次ぐ高性能な重戦車であり、パーシングを
使用する学校のない高校戦車道界隈では最強の重戦車と言えるだろう。
火力や防御力はティーガーⅠよりも優秀な重戦車はあるが、パーシングを除いてはそれらの重戦車には利点を完全に潰してしまうレベルの欠点も
あるので、総合力でティーガーⅠは勝るのだ。
そして、ティーガーⅠの火力は長砲身の88mmと屈指の破壊力を誇るため、パンターが相手ならば何処に当てても撃破する事は可能であり、だか
らこそエミは先に撃って出たのだ。
ティーガーⅠならばパンターの何処に当てても撃破出来るのに対して、パンターは最強の中戦車とは言え、ティーガーⅠの装甲を抜くにはティーガ
ーⅠの有効射程圏の内側に入らなければならない……攻防力に関してはエミの方に絶対的なアドバンテージがあるのだ。


「……不意打ちの心算だったのに、其れを避けるって、フラッグ車の操縦士は相当な手練れみたいね。」


だが、その砲撃をみほのパンターは紙一重で躱す。
攻防力ではティーガーⅠの方が上だが、機動力に関しては最高時速でパンターの方がティーガーⅠを17kmも上回っている上に、大洗のパンター
は、レギュレーションに違反しないギリギリの範囲で自動車部による魔改造が施されている為、カタログスペック上の最高速度である55kmよりも速
い最高速度65kmを誇る。
加えて其れを操るのはマニュアルを一度見ただけで操縦を覚えてしまうと言う稀代の天才である麻子だ――全国大会決勝戦で、まほの乗るティー
ガーⅠの猛攻を掻い潜った麻子からしたら、不意打ちだとしても『見える』砲撃ならば避けるのは容易いのである。
加えて驚くべきは今の回避に関して、みほは麻子に具体的な事は言っていない……『麻子さん。』『おうよ。』此れだけだ――此れで通じてしまうみ
ほと麻子の信頼関係たるや物凄いモノがあると思う。
普段はあまり絡む事のないみほと麻子だが、車長と操縦士としての信頼関係はバッチリと出来ているのだ、其れも最高と言えるレベルで!
余り普段関わる事のないみほと麻子の間になぜこれほどの信頼関係が出来ているのかと問われれば、其れは沙織の功績だと答える事になるだ
ろう――友人思いで、若干世話焼きな沙織は麻子に少しでも戦車道に馴染んで貰おうと、二人きりの時はみほが如何に凄いかを麻子に聞かせ、
逆にみほには『実は麻子って~~』と言った感じで麻子の凄い所を聞かせていたのだ。
其れは傍から見れば友達から聞かされた情報に過ぎないが、みほからすれば麻子は沙織の言った通りの凄い人であり、麻子からすればみほは
沙織の言っていた通りの凄い人だったのだ。
共通の友人から聞かされた事が真実だったが故に、其処には絡む事が少なくとも強固な信頼関係が生まれたのだ……沙織さん、アンタGJだわマ
ジで。戦車道での活躍に恵まれてなくても、縁の下の力持ちだよ。


「良くもまぁ、当てる心算で放った砲撃を悉く躱してくれるわねみほ?貴女のパンターの操縦士、大学から指名入るんじゃないの?もしかして、無名
 だけど、中学時代から鳴らしてた奴なのかしら?」

「ところがギッチョン、聞いて驚け今年からなんだよエミちゃん!」

「は?今年から始めてそのレベルって、ドンだけの天才よそいつ!ぶっちゃけ普通に有り得ないわ!」

「麻子さんは一度マニュアル読んだだけで戦車の操縦を覚えちゃう天才なんだよエミちゃん♪因みに、成績は勿論トップで、沙織さんに聞いた話に
 よれば、定期考査は去年から中間考査は500点満点、期末考査は900点満点でトップ街道を独走してるんだって。」

「はぁ!?有り得ないでしょ普通に其れ!」

「うん、其れは私も思った。
 そして麻子さんだけじゃなく、大洗の面々は黒森峰組と梓ちゃんとクロエちゃん以外は今年から戦車道を始めたにも関わらずこのレベル……大洗
 は原石が掘れば幾らでも出て来る最高の採掘場だったみたい。」

「その原石は、貴女と言う研磨機によってダイヤモンドになった訳か……ったく、本気で規格外だわみほって――ベルウォールも大洗と似たような
 状況と言えるけど、アタシはベルウォールの連中を其処までのレベルには出来なかったからね。
 だけど、其れでもアタシはアタシに付いて来てくれる馬鹿共を頼りにしてるのよね……そして、アイツ等もアタシを頼りにしてくれてるから、だったら
 其れに応えるしかないじゃない?」

「うん、その意見には諸手を上げて賛成だよ。」


公園内での攻防は続き、みほとエミは戦闘中でありながらも言葉を交わしているが、互いに浮かべているのは笑顔――みほもエミも、楽しくて仕方
ないのだ、この時が。
みほは中学時代はエリカと小梅と言うライバルが居たが、高校になってからはそのライバルが同じチームになった事でライバルが不在の状態にな
ってしまっていた――ダージリンもケイもアンチョビもカチューシャもミカも、そしてまほも強敵だったが、何れも三年生なので来年度は居ないのだ。
そして同学年の戦車道履修者でみほに匹敵する者はエリカと小梅以外には存在しない――まほと凛にガッツリ鍛えられた直下の実力は未知数な
ので除外するが。
だが、だからこそ戦力面で劣っているにも拘らず自分と互角に遣り合ってるエミとの戦いが面白かったのだみほは。
そしてエミも、ドイツでは混血である事を理由に実力を正当に評価されずに嫌がらせを受け、其れに嫌気がさして留学した先のベルウォールは壊滅
的な状況であり、何とか戦車道を復活させたモノの、練習試合の相手は聖グロのパチモンだった。
三回戦の知波単戦は楽しめたが、完全に満足するには足らなかった……だから、死力を尽くしても勝てるかどうか分からないみほとの戦いは深層
心理で楽しさを感じていたのだ。


「エミちゃん、私達の戦いに公園は狭すぎるから、広い場所に移動しようと思うんだけど如何かな?」

「……受けるわみほ。どうせなら広い場所で決着を付けたいと思ってたからね。」


攻めるエミと避けるみほの攻防が続いた結果、公園は哀れにも廃墟になってしまいましたとさ……ブランコが吹っ飛び、滑り台は中腹から上が吹っ
飛ばされ、鉄棒は屑鉄と化し、築山は完全崩壊と言う見るも無残な状態に。
そして、此れ等の損害の弁償は全て連盟の方でやってくれると言うのだから驚きだ。

そんなグラウンドゼロを起こしたみほとエミは、この市街地で最も広い場所――駅前のバスターミナルのある広場を目指して戦車を進めて行った。
……駅前広場にはホテルやらコンビニ、ファーストフード店に待機しているバス数台、そして映画館やゲームセンターが入ったビル、駅の出入り口
からホテルや各種ビル、駅前の各道路の歩道まで広がっている超大型の歩道橋が存在しているのを考えると、連盟が弁償すべき金額はトンデモ
無い事になるのは間違い無いだろう。








――――――








みほとエミのフラッグ車同士の一騎打ちが行われている以外にも、各所で激しい戦車戦が繰り広げられており、状況は正に一進一退だ。
隊員の質で言うのならば大洗の方が上だが、ベルウォールの隊員は大洗の隊員以上の粘りと根性があるらしく、その粘りと根性を持ってして互角
の戦いをしていた。まぁ、短期転校で他校の戦車道の生徒が居ると言うのも大きいだろうが。

兎に角、撃破して撃破されてを繰り返した結果、両校の残存車輌は大洗が四、ベルウォールが五となっていた。
大洗がギリギリの数になるのは何時もの事だが、ギリギリの戦いを強いられたのは常に格上の相手であり、格下の相手にギリギリの戦いを強いら
れた事はない。アンツィオにしろBC自由にしろ、格下の相手は圧倒して来たのだ。
にも拘らず、本来格下である筈のベルウォールに此処まで追い込まれていると言う現実に、ベルウォールの快進撃も此処までだと勝手に決め付け
ていた、所謂『ニワカ』ファンの意識は強制的に変えられていた。
全国制覇の大洗を相手に此処まで互角に戦う事が出来ていると言う現実をみて、『もしかしたら今大会最大の番狂わせが起きるかも?』と思い始
めているのだ。

因みに大洗の残存車輌だが、みほのフラッグ車以外では副隊長の梓、そしてエリカと小梅……ある意味で残るべくして残ったと言えるだろう。
対するベルウォールで残ったのはエミのフラッグ車、パンター、T-44、ヤークトパンター、Ⅲ号だ。
三輌あったティーガーⅠで生き残ってるのはエミのフラッグ車のみなのは、一輌は『大洗の首狩りウサギ』『重戦車キラー』の異名を持つ、梓率いる
ウサギチームが、みほ張りの裏技を連発した挙げ句に撃破し、もう一輌はレオポンチームと戦っていたのだが、レオポンの操縦士のツチヤが無茶
な動きを連発した事が原因で履帯とエンジンが限界を迎え、追いかけられている最中で履帯が切れ、エンジンが火を噴いて撃破判定に。
其れだけならば只の自滅で終わったのだが、追いかけっこをしていたため、最高速度を出していたベルウォールのティーガーⅠは急停止出来ず、
自滅してしまったポルシェティーガーに豪快に突っ込んで此方も撃破判定に!
こんだけ凄い衝突をしても、搭乗員は煤だらけになっただけでかすり傷一つ負ってないと言うのだから、特殊なカーボン恐るべし。

さて、現状では……


「T-44、絶対に此処で足止めする!西住隊長の所には行かせない!
 クロエ、直進してから右旋回!あゆみ、右旋回直後に道路の案内板のポールを撃って案内板を落として!」

「任されたヨ梓!」

「アレって実は結構大きいんだよね?上から落としちゃって大丈夫なのかな?」

「戦車の装甲はアレがぶち当たった位じゃ屁とも感じないから大丈夫!!」

「ん、そう言う事なら了解。……けどさぁ梓、幾ら試合中で気分が高揚してるって言っても、言葉は選ぼうよ?JKが屁とか言うのはNGっしょ絶対。」

「……肛門から排出される腸内部に溜まったガス程も感じないって言えばいいのかな?」

「ゴメン、アタシが悪かった。そっちの方が生々しかったわ。」


ウサギチームがT-44をみほの下へ行かせまいと足止め。
エンカウントした当初は撃破する心算だったのだが、粘りと根性によって裏技を仕掛けても撃破されないT-44に対して、梓は撃破ではなく足止めを
選択したのだ。
此れにより自分はみほの援軍に行く事は出来なくなるが、自分が行けなくても小梅とエリカの何方かが必ず向かってくれる――そう考えての上で
の選択だった。



「Ⅳ号H型とⅢ号だと、実はそこまで大きな性能差は無いんですよね……お互いに、相手の装甲を抜くだけの火力がある訳ですから。」


一方で小梅はⅢ号を相手にしていた。
Ⅳ号H型とⅢ号L型だと、一見するとⅣ号H型の方が性能が上に見えるかもしれないが、Ⅲ号L型もⅣ号同様に大戦期の最後まで戦い抜いた優秀
な中戦車であり、機動力に関してはⅣ号H型よりも上回っている。
故に、総合すれば略五分であるが為に、小梅も攻めあぐねていた。
確実に性能が下であるのならば蹂躙出来た、確実に性能が上であるのならば裏技搦め手上等の『みほ流』で狩る事が出来る――だがしかし、性
能が略五分となると話は別だ。
五分であるのならば蹂躙するのは難しいし、裏技搦め手でハメるのは格ゲーのハメ殺しみたいで何となく気分が悪い……性能が上の相手ならば、
小梅は容赦なくハメ殺しを選択するが、略同性能の相手に対してはハメ技は使わないのだ。
同性能の相手は、実力で上回ってこそと、そう言う考えがあるのだろう。


「ふふふ、だけど楽しいですねぇ……戦車道と言うのは矢張りこうでないと面白くありません――さぁ、もっともっと私を楽しませて下さい。
 隼と言うのは、獲物が手強ければ手強い程、其の闘争心が高まって行くものですから。」


温厚そうな見た目の小梅だが、其処は流石の戦車乗り。
みほの軍神の笑みや、エリカの凶暴な笑みとは違う、ある種の冷酷さすら感じさせる笑みを浮かべてⅢ号との戦闘を継続する……光を失った瞳が
マジで怖すぎるんだが、そんな小梅がモニターに映し出された瞬間に謎の雄叫びを上げた野郎共が居たそうだ――この変態共め。
だが、梓がT-44を、小梅がⅢ号L型を相手にしていると言う事は、エリカが残るパンターとヤークトパンターの何方かを相手にしているのならば、一
輌はフリーになる筈なのだが……



「ウゥゥゥ……ガフオォォォ……ミホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

「ヒィ!狂犬が、狂犬が来てるぅ!!」

「止まるな、止まったら冗談抜きで、殺られるぞ!!」

「フゥ、フゥ……ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


何とパンターもヤークトパンターも暴走エリカのティーガーⅡに追い回されていた。って言うか、キューポラの上に立って雄叫びを上げるエリカが普通
に怖い。なんか口から煙出てるし。
最終的に口から血の霧を吐いたり、手から青い炎を出したりしないか可成り心配だ……作者の趣味が趣味なだけに。(暴走庵と暴走レオナはゲー
ムバランス度外視してるだろ絶対に。)


「グガァ……ウブゴガァァァァァァァァ!!!」

「坂口、絶対に逃がすなだとさ……私が砲撃で相手の動きを制限してバラバラに出来ないようにするから、お前は全力で相手を追え。」

「あいーー!……アイン先輩は、何で今の逸見先輩の言葉が理解出来るんですかーー!!」

「何故だろうかと聞かれると説明に困るな?
 アニメの遊戯王DMで、アテムがサラッとラーのテキストを解読して唱えていたのと同じようなモノだと思ってくれ……何だか分かってしまうんだ。」

「あいーーー!!」


……取り敢えず暴走エリカに狙いを定められた以上、パンターもヤークトパンターも生き残る事は不可能だろう――だって、暴走エリカには、みほで
も簡単に勝つ事は出来ないのだから。
取り敢えず言える事は、枷のなくなった野獣ほど怖いモノは無いと言う事だろう。








――――――








さて、場面は変わって駅前の広場……みほとエミが決着の場所として選んだ場所では既に激しい戦車戦が始まっていた――この場に到着すると
同時に互いに仕掛けたのだ。
砲撃の轟音が鳴り響くが、互いに決定打は許さず、フィールドをこれでもかと言う位に利用して相手を撃破しようとする。
エミが待機中のバスを砲撃でフッ飛ばしてみほに飛ばせば、みほは其れを躱すと同時に歩道橋の一部を砲撃で崩してエミの上から瓦礫を降らせ、
その瓦礫の雨によってエミを撃破せんとする。
だが、エミは其れをギリギリで回避すると、今度は地面を吹き飛ばしてみほ動きを止めようとするが、地面に着弾する直前で麻子が天才的な操縦を
もってしてそれを回避!!
其処から反撃の一撃を放つも、其れはティーガーⅠの装甲に弾かれる……正に手に汗握る勝負となっていたのだ。
一瞬の気の緩みが敗北を齎す……正にそう言った試合をみほとエミは展開しているのである。


「まさか、これ程の試合が行われるとは……既に引退したのにまさか、血が騒ぐ事になるとはね……!」

「みほちゃんもエミちゃんもハンパないわね……!!」


その試合展開は西住流と島田流の家元が思わず滾ってしまうレベルなのだ。
其れだけの一騎打ちをみほとエミは演じているのだが、互いの顔に浮かぶのは矢張り笑顔だ――みほもエミも、六年ぶりの再会となる幼馴染みと
の全力の戦車道を楽しんでいるのである。


「楽しい、本気で楽しいわねみほ……戦車道が此処まで楽しかったって、恥ずかしながら今の今まで知らなかったわ。」

「そうなの?其れって不幸だよエミちゃん――この楽しさを知らないと、戦車道の面白さは半減だからね。」

「其れは、貴女との戦いで実感したわ……だけど、アタシは貴女に勝って優勝するわみほ――お互いに結構ギリギリだから次が最後の攻防になる
 わ――私も全力で行くから貴女も全力で来なさいみほ!」

「其れは、言われるまでも無い事だよエミちゃん!!」


だが、楽しい時間には何時か必ず終わりが来る――みほとエミにもその時が迫ってた……故に、互いに今度の攻防で全てが決まると言う事を理解
していた。
だからこそ全力のその先の死力を振り絞る。

暫しの静寂の後……


「行くよ!!」


みほのパンターがエミのティーガーⅠに突撃!


「麻子さん!」

「おうよ。」


して、ティーガーⅠの真正面に来た途端に戦車ドリフトで側面に、そして後部を取らんとする――その無茶な動きで履帯が切れて転輪が吹っ飛ぶ
が、パンターは止まらない。


「戦車ドリフト……其れは読んでたわみほ!」


だがエミもまた、パンターの動きに合わせてティーガーⅠの砲塔を動かしてパンターを捉え――



――バガァァァァァァァァァァァァン!!!


――キュポン!!


『ベルウォール学園、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の勝利です!!』



一発の砲撃音がしたと思った次の瞬間に、エミのティーガーⅠから白旗が上がって撃破判定となって、大洗の勝利で試合終了となった。
だが、パンターもティーガーⅠも砲撃は行ってない……ならば、ティーガーⅠを撃破したのは誰なのか?


「エリカさん、来てくれるって信じてたよ。」

「パンターとヤークトパンターを撃破するのに手間取ったから、ギリギリだったけどね。」

「逸見エリカ……!!」


そう、エミのティーガーⅠを撃破したのはエリカのティーガーⅡだったのだ。
暴走状態でパンターとヤークトパンターを撃破したエリカは、其のまま駅前広場に直行して、みほとエミが相討ちになるギリギリのタイミングで到着し
てエミを撃破して見せたのだ。
暴走状態が何時の間にか解除されてるのは、試合が終わったと同時に暴走状態も解除されたと言う事なのだろう。多分、きっと。



「フラッグ車での一騎打ちだと思ってたら最後の最後でこんな事が待ってるとは……完敗だわみほ。――だけど、次は負けないからね?」

「うん、何時でもやろうエミちゃん……だけど、次も勝つのは私だよ!」

「言うじゃないの……この!!」

「痛い、痛いよエミちゃん!」



そして、試合が終われば戦車道の友だ。
次も勝つと言ったみほに対して、エミはヘッドロックを掛けて額を拳でグリグリするが、エミも本気ではなく、みほも痛がる振りをしているだけ――要
するに幼馴染みの戯れだ。



「ほらほら、ギブアップしなさいみほ?」

「誰が……西住流にギブアップはないんだよ!必殺、臍で投げるバックドロップ!」

「……ヘッドロックをバックドロップで返してくるとはやるわねみほ……だけど、負けないわ!喰らえ本場のジャーマンスープレックス!!」


そして其れは何時の間にかプロレスごっこに発展!
キレッキレのプロレス技に、客席の黒のカリスマと天才は大いに興奮していたらしいが、何はともあれ、みほvsエミの幼馴染対決はみほに軍配が上
がったのだった。
そして、其れと同時に負けはしたものの、大洗と互角以上の試合をしたベルウォールの実力は大きく評価されたのだった。








――――――








Side:みほ


ふぅ……なんとか勝つ事が出来た――もしもエリカさんが駆けつけてくれなかったら、負けてたのは私達の方だったかもしれないからね――エミちゃ
んは、本当に強くなってた。其れが嬉しいよ。



「不審者発見、此れより職務質問を開始するわ。」

「エミちゃん……」

「ったく、何を黄昏てんのよみほ?決勝戦に不安でもあるの?」

「ううん、そんなんじゃないよエミちゃん……改めて、戦車道って楽しいなって、そう思ってただけだけだから。」

「ふぅん?……ま、そう思ってるだけならアタシが何か言える事はないけど……決勝戦、頑張りなさいよ?アタシ達を倒したんだから、必ず優勝しなさ
 いよみほ?」

「其れは、勿論――」



――チュ……



行き成り現れたエミちゃんの『必ず優勝しろ』って言うのに答えようとしたら、エミちゃんにキスされました……えっと、エミちゃん?



「祝福のキスの先渡しよ……言っとくけど、此れファーストキスだから。」

「マジっすか。」

女の子の大事なモノの一つである『ファーストキス』を貰った以上、私に敗北は許されないね……負けたら其れこそ地獄行き間違いないからね。


そんな私の決勝の相手は黒森峰――準決勝の相手は出場校の中で只一つだけ三年生が残ったプラウダだったけど、カチューシャさんをも倒すとか
、理子さんは私の想像を遥かに超えて強くなってるみたいだよ。
でも、だからこそ燃えて来る……理子さん、お姉ちゃんと近坂先輩に鍛えられた其の力、見せて貰うよ――!











 To Be Continued… 





キャラクター補足