Side:みほ


プラウダを下して決勝戦へと駒を進める事が出来たけれど、此処までの工程は、言うなれば準備段階に過ぎないんだよね……決勝戦の舞台こ
そが本番であって、更に其処で勝ってこそだからね。
元々優勝を目標にしていたけど、優勝できなかったら大洗女子学園は無くなっちゃう訳だから、ルールの範囲で許されてる事は全部使ってでも
優勝を捥ぎ取りに行かないと。



「気合充分ねみほ?
 でも相手はまほさん率いる黒森峰……私達が抜けたとは言え精鋭揃いの絶対王者。しかも戦力差は倍以上と来ているわ……普通に考えた
 ら、勝つのは可成り厳しいわよね?」

「恐らく、下馬評では黒森峰絶対有利って言われているでしょうし……」

「まぁ、普通に考えれば大洗の奇跡の快進撃は此処までかって思うんだろうけど……エリカさん、小梅さん、私にそんな『普通』通じると思う?」

「「全然思わない。」」



でしょ?
そもそもにして相手は黒森峰であり、其れを纏め上げてる隊長はお姉ちゃんだから、ハッキリ言わせて貰うなら手の内は分かり切ってる訳だか
ら、幾らでも対抗策は考えられるからね。
何よりも今年の黒森峰はお祖母ちゃんの、『西住かほ』の西住流で戦ってる――私にとって、これ程戦いやすい相手は存在しないんだよ。



「ふ、其れもそうね?
 まほさんが『正統』な西住流で戦っているのなら強敵だけれど、歪み切った西住流で戦っているのなら、多分その実力は半分程度しか発揮出
 来ない筈だもの……至高の名刀も、刃毀れしていては怖くないって事よね。」

「ですね。
 では、優勝するためにも決勝戦までの間に出来る事を全てやっておかないとですね。」

「うん、勿論だよ♪」

自動車部に任せていた88mm搭載型戦車のレストアもそろそろ終わるって言ってたし、生徒会によると最低でもあと1輌は戦車が存在してるっ
言う事だったから、其れも見付けておきたい所だしね。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer129
『次はいよいよ決勝戦です!』










そんな訳で今日も今日とて元気に登校して、校門前でアンドリューとロンメルが『学園警備』のお仕事に就くのも最早御馴染の光景だね。但し、
アンドリューだけは、私達よりも先に家を出て麻子さんを迎えに行ってる訳だけど。

そして、此れも戦車道の試合の後のお約束になってる新聞部の号外配り――今更だけど、学園の生徒や先生達だけじゃなく、普通に道行く人
も貰って行くって言うのは凄い事だよね。



「良いんじゃない?其れだけ、20年ぶりに復活した戦車道に興味が有るって事でしょうしね。
 其れに記事の内容も、まぁ大洗の新聞部だから多少贔屓目に書いてはいるけど試合内容の脚色はないし、独自の見解も入れての解説がな
 されてるからレベル高いし。
 まぁ、新聞部の部員が戦車隊に居る訳だから、どんな雑誌や新聞よりも大洗の試合に関してはリアリティがあるでしょうね。」

「其れは確かに言えてるかも。
 すみません、私達にも1部ずつ号外頂けますか?」

「はいよ~~!って、西住隊長じゃない!
 いやぁ、今回の号外は隊長のおかげで過去最高の発行部数になってるわ!200部あれば足りるかなぁと思ってたんだけど、直ぐに無くなっち
 ゃって、急遽800枚増刷したんだけど、其れも全部なくなりそうな勢いだからね?
 毎回毎回小沢の奴がリアルな試合展開を語ってくれたり、試合中に撮影してくれた写真のおかげで良い物が作れてるけど、今回は此れまで
 以上の会心の出来だよ!」

「そ、そうなんだ……でも、私のおかげって?」

「そいつは見てのお楽しみって事で!決勝戦も期待してっからね!ここまで来たら優勝でしょ!!」

「勿論、その心算だよ♪」

さてさて号外の内容だけど……えっと、ババーンと見出しに『大洗女子学園、去年の準優勝校を撃破!』ってのは良いんだけど、何で此れまた
ババーンと一面に私がキューポラの上に立ってる写真が掲載されてるんだろう?
しかも写真の横には矢印して『軍神立ちで周囲の状況を確認する西住隊長』って……あの、軍神立ちって何?
そもそも此れって、プラウダのフラッグ車が何処にいるのか確かめる為に視界を広げようとしてやったモノであって、試合には直接的な関係って
ないよね?



「まぁ、新聞や号外の一面写真には、もっとも絵になるモノを使うと言う事だと思いますよみほさん?
 小沢さんが、車内の小窓から写真を撮っていたのは知っていましたけど、まさか此処まで良いショットを撮ってるとは思いませんでした――正
 直な事を言わせて貰いますと、このみほさんは同性でも惚れ惚れする程にカッコいいですよ?」

「まほさんは確実にこの写真を欲しがるでしょうね?
 ……若しかしたらアンツィオのペパロニ辺りが、資金集めの一環としてまほさんに自分が撮った写真を売りつけてるかもしれないわ。」

「まさか、其れは流石にないと思う……って言うか思いたい。」

私の事を大切に思ってくれるのは嬉しいんだけど、私が関係するとお姉ちゃんって時々暴走する事があるから、キッパリと『ない』って言えない
部分があるんだよねぇ……まぁ、愛されてる証だと思うんだけど。
それはさておき、号外はなんて書いてあるかな?



『大洗女子学園決勝戦へ進出!――西住みほ隊長率いる、我が大洗女子学園は、準決勝で去年の優勝校であるプラウダ高校と激突!
 黒森峰から転校して来た西住隊長、並びに逸見エリカ隊員、赤星小梅隊員にとっては因縁浅からぬ相手ではないかと考えていたのだが、試
 合前の挨拶ではそんなものは全く感じさせなく、寧ろ互いに認め合うライバルのようであった。
 さて試合の方は、序盤は西住隊長にしては珍しく相手の策に引っ掛かってしまい、窮地に陥った上で降伏勧告までされてしまったが、西住隊
 長は諦める事なく、プラウダが回答期限として与えた3時間の猶予の間に偵察を行って反撃の準備をすると、3時間後には降伏はしないとプ
 ラウダの使者に伝えて反撃を開始。
 音と光のトリックを使ってプラウダの目を欺くと、立て籠もった廃墟の壁を破壊してプラウダの包囲網を抜け、其処から部隊を2つに分けて行
 動し、自らⅢ突をお供に連れてフラッグ車を捜索。
 もう片方の部隊は、フラッグ車であるⅢ号戦車を囮にする形でプラウダの本隊を引き付け、壮絶な戦車戦を展開!
 プラウダの副隊長であるノンナ氏が砲手を務めるIS-2にルノーR35が撃破されてしまったが、そのIS-2に逸見エリカ隊員のティーガーⅡが仕
 掛け、最強クラスの重戦車によるタイマン勝負が勃発!
 そうしている間に西住隊長はフラッグ車を発見し、其れを機銃で牽制しながらキルゾーンへと誘導し、最後は雪の中に姿を隠したⅢ突の一撃
 でゲームセット。
 最強級重戦車の一騎打ちは決着が付かずであったが、試合内容は実に見事な逆転劇であったと言えよう。
 だが、真に驚くべきは、序盤の相手の策に引っ掛かったのも、窮地に陥ったのも全て西住隊長と澤副隊長、そして逸見エリカ隊員と赤星小梅
 隊員で考えた作戦だと言う事だろう。
 まさか、自らピンチを演出し、その上で華麗な逆転勝利を収めてしまうとは、軍神とその弟子、そして軍神の片腕と懐刀の底はマッタク持って
 計り知れないと、改めて感じた次第であった……
 兎に角、此れで我が大洗女子学園は決勝戦に進出!この勢いのまま、絶対王者黒森峰を倒して、是非とも優勝して欲しい所である。』




うんうん、中々よく書けてるね?
廃校に関しての事がマッタク書かれてないのは、会長さんが戦車道履修者に緘口令を敷いたからだろうね……確かに、負けたら廃校になるな
んて事が知られたら、学園艦中が大パニックになっちゃうのは想像に難くないもん。
だからこそ、絶対に優勝しないとだよね。

何よりも、無名の大洗女子学園が絶対王者の黒森峰を下して優勝したなんて事になれば痛快な事この上ないし、今年の黒森峰を私達が倒せ
ば、お祖母ちゃんの西住流にハッキリと『ノー』を突き付ける事が出来るからね――ふふ、此れはちょっと漲ってきたかな?



「軍神招来とまでは行かなくても、闘気を揺らめかせておいて『ちょっと』な訳?」

「うん、『ちょっと』だよエリカさん。
 私が闘気を全開にしたら、どこぞの龍玉的漫画みたいに地面にクレーターが出来るかもだからね?」

「……何だか最近、みほさんが人間辞め始めてる気がします……」



うん、其れは若干否定できないかな?
まぁ、左腕を失った時から、右腕一本でも生活できるように色々と無茶なトレーニングとかして来たから、身体能力に関しては完全に人間辞め
てるレベルだと思うしね。
尤も、西住流フィジカルトレーニングを普通に出来るようになってる時点で、大洗の戦車隊員は大分人間辞めてる部類だと思うけど如何かな?



「あ~~~……其れは確かに。」

「否定、出来ないわね。
 と言うか、黒森峰の連中だって体験版を完全に熟すのに2カ月ほど掛かるって言うのに、大洗の連中なんて約1ヶ月ちょいで完全版に移行し
 てるのよね……そもそもバレー部の連中は最初から普通にやってたし。
 今更だけど、大洗は化け物の巣窟な訳!?」

「言い得て妙だね、さもありなん。」

でも、だからこそ此処まで来る事が出来たのも事実だよ。
練度の面で言うなら、マダマダ黒森峰の方が上なのは間違いないけど、その差は戦術と工夫で補う事が可能だし、こう言ったら何だけど大洗
と黒森峰では背負ってるモノが違うから、優勝への執念はこっちの方が上だと思うから私達は負けないよ。
結局の所勝負事って、突き詰めて行けばより勝利に対して貪欲だった方が勝つ訳だからね、大概の場合は。――勿論、其れで楽しむ事を忘れ
ちゃったら本末転倒だけどさ。
兎に角、決勝戦までに出来る事はまだまだあるから、其れを全て消化して行かないと。――先ずは、今日の昼休み、何処かにあるであろう戦
車の捜索からだね。








――――――








Side:エリカ


授業はサクサク進んで昼休み。早速みほ、小梅と共に戦車の捜索。沙織と華には、倉庫の方に行って貰って戦車の整備状況とかを確認しても
らってるわ。
で、本日のランチは戦車を探さなきゃならないから、歩きながらでも食べられる簡単なモノね。……歩きながら食べるな?行儀が悪い?知った
こっちゃないわね。
因みにメニューは私が生ハムとトマトを挟んだバゲットサンド、小梅が○マザキのコッペパン2種(小倉&ホイップとピーナッツ)、そしてみほはコ
ロッケ、焼きそば、ソーセージの総菜パン三種の神器を1つに纏めた戦車型の総菜パン、その名も『ガルパン(実在)』……いや、此れすっごい
ボリュームだわ。

「にしても、流石に簡単には見つからないわね戦車……幾ら学園艦の中ではあまり大きくないサイズとは言え、1つの町の中から戦車1輌を探
 し出すなんてのは『九牛の一毛』ってやつよね。」

「でも、学園艦の何処かにあるのは間違いないんですから此処は根気良く行きましょう?」

「小梅さんの言う通りだよエリカさん。急いては事を仕損じる、だよ?」



其れは分かってるんだけどね。
だけどみほ、仮に戦車を見付けたとして、搭乗員が居なきゃ意味ないわよね?……88mm搭載型は自動車部が乗るって事になってるから良い
として、若しも新たに戦車が見つかったら誰を乗せるのよ?



「確かに隊員の数が足りてないね……どんな戦車が見つかるかは分からないけど、最低でも3人は確保したい所だよね?」

「アテは?」

「ない♪」



全然駄目じゃないのよ其れ!!
戦車が見つかったってねぇ、其れを動かせる人間が居なきゃどうにもならないのよ?あの会長が、風紀委員の連中みたいに強引に連れて来る
なら未だしも、隊員のアテがないんじゃ戦車見つけてもどうしようもないじゃないのよ!!!



「あの~~……西住さん。」



ん、誰?
私達に声を掛けて来たのは金髪ロングヘアーでビン底眼鏡を掛けて、頭に猫耳のヘアバンドを付けた生徒……見るからに怪しいわねコイツ?



「あ、猫田さん。」

「って、知り合いなのみほ!?」

「ううん、私が一方的に知ってるだけだよ。って言うかクラスメイトなんだけどエリカさん……」



マジで?……これ程の強烈なキャラなら忘れる筈がないんだけど、そもそも今の今まで気付かなかったって言う事は、強烈な個性が翳む程に
影が薄いか、極度のコミュ障だったかのどちらかでしょうね。



「えぇとね西住さん、今からでも戦車道を履修する事って可能かな?
 可能なら僕も戦車道をやりたいんだけど……」

「本当に!?其れは大歓迎だよ猫田さん!!――あ~~……だけど今の状況だと猫田さんが乗れる戦車はないかな?
 新たな戦車を探してる最中だけど未だ見つかってないし、見つかったら見つかったで、猫田さん以外に最低でも2人の隊員が必要になる訳だ
 からね。」

「隊員に関しては大丈夫。
 僕の知り合い2人を誘ってるから――其れと戦車だけど、僕何処に有るか知ってるにゃ。」

「「「!!!」」」


猫田、其れ本当?本当ならその場所に案内してくれないかしら?――急かすみたいで悪いけど、私等も決勝前に出来る事は全てやっておきた
いのよ。優勝する為にもね。



「うん、勿論。其れじゃあ付いて来て。」



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



で、猫田に案内されて到着した場所には確かに戦車が有った訳なんだけど、其れがまさかフランス戦車のソミュアS35だったとはね……今更だ
けどホントに大洗の保有戦車は統一感がないわね?
20年前の整備班には同情しちゃうと同時に感心するわマジで。
兎も角戦車は見つかった訳だけど、猫田貴女を含め、貴女が誘った人って戦車を動かした経験は?



「何時も動かしてるよ?……ゲームでだけど。」

「……西住隊長、物凄く不安になって来たので、決勝戦までの時間を使って猫田達を鍛えてやって下さい。」

「ゲームと実際の戦車は、マッタク持て全然違うのでお願いします西住隊長。」

「うん、任せておいてエリカさん、小梅さん。」



まさか猫田がゲーマーだとは思わなかったわ……もっと言うなら戦車を使ったオンラインゲームをプレイしていたとはね。
でも、ゲームで動かすのと実機を動かすのは全然違うから、其処から直して行くしかないでしょうね……まぁ、みほなら決勝戦までに何とかして
しまうでしょうけどね。

何にしても此れで新たな戦力を確保する事が出来たわ。
沙織にメールしたら、Ⅳ号がH型仕様になって、38tがヘッツァー仕様になったみたいだから戦力の底上げは確実に出来たのは間違い無いで
しょうね……其れでも黒森峰とのスペック上の戦力を埋めるには至らないんだけど、其処は戦術と腕よねみほ?



「だね。
 大洗は此処まで、戦力差は戦術で補えるって言う事を証明して来た――なら、決勝戦でも其れを証明するだけだよ。」

「まぁ、当然よね。」

って言うか、其れを成し遂げてこそ家元の『西住流』を真っ向から否定する事に繋がる訳だからね……まぁ、家元は精々後悔すると良いわ。
己の歪んだ思想に捕らわれて、みほと言う才能を勝手な理屈で西住から追い出してしまった事を――そして、追い出された異端児が、流れ着
いた先で戦車道を続け、西住に牙を剥いた事をね。

んで、その後猫田の知り合いってのと会った訳なんだけど……一言で言わせて貰うなら『濃い』。此れに尽きたわね。
『ぴよたん』って呼ばれてたのはそばかす少女って感じだったけど、『ももがー』は何と言うか凄かったわ――って言うか髪色は兎も角として、改
造制服と桃の眼帯で良くもまぁ此れまで風紀委員に取り締まられなかったものだと感心するわね。

取り敢えずこの3人と自動車部を加えた面子が、決勝戦の最終メンバーになるのは間違い無い訳だから、決勝戦までの期間にキッチリと鍛え
てやらないとだわ。








――――――








Side:みほ


さて、授業は全て終わって戦車道の時間。
新加入である猫田さん達を皆に紹介してから訓練と思ってたんだけど、訓練の前に自動車部の人達からレストアが終わった88mm搭載型を見
て欲しいって言われたから、訓練の指示はエリカさんと小梅さんに任せて、私と梓ちゃんとあんこうチームの面々は88mm搭載型を見に来たん
だけど……

「此れは、流石に予想外だったよね梓ちゃん?」

「はい、予想外でした。
 と言うか、まさか此れをマジで使ってる所があるとは思いませんでした――まぁ、欠点に目を瞑れば、ティーガーⅠと同等の攻守力を持ってる
 訳ですけれど、その欠点が致命的ですからねぇ……」

「ポルシェティーガー!まさか生で見る事が出来るだなんて感激ですぅ!!」

「ゆかりんトリップしてるし……だけどみぽりん、この戦車って何か駄目なの?
 見た所装甲はバリバリ厚そうだし、主砲だって長砲身の88mmなんでしょ?絶対強力じゃん!」



あはは……確かに攻撃力と防御力が高いのは間違い無いよ沙織さん。
梓ちゃんも言ってたけど攻防力だけなら、最強の重戦車として名高いティーガーⅠと同じな訳だからね――だけど、ポルシェティーガーは開発さ
れた当時としては最先端すぎる技術を使ってたせいで問題も多かったんだよ。
まず足回りなんだけど、平地や固い地面ならマッタク持って問題ないんだけど泥濘に嵌ると車体が重い事も有って抜け出せなくなる。
そして致命的なのがエンジンかな?
当時としては最新鋭のハイブリットエンジンを搭載してたんだけど、技術的な問題点を解決する時間が無かったために画期的エンジンだったが
故の欠陥が……ぶっちゃけて言うとガソリンエンジンで発電してモーターを駆動する機構に問題があって、エンジンが火を噴いたり、モーターが
焼け付く事が多かったんだよね。



「アラアラ、あまり戦車とは呼びたく無い戦車ですねぇ?」

「ですが、アハトアハトは魅力です!」

「そうだね。アハトアハトは素晴らしいね。大好きだ。」

普通に考えれば欠陥機なんだけど、ポルシェティーガーだからこそ抜けられるルールの抜け穴があるって点を考えると、ある意味で此れは掘り
出しモノだったかもしれないね。
自動車部の皆さんも、其れには気が付きましたよね?



「「「「勿論!」」」」

「良い笑顔でのサムズアップをどうもありがとうございます。」

その抜け穴に気付いたって言う事は『モーターが焼け付く欠点』は略なくなったと考えて良いかも知れないね――取り敢えず、約束通りこの戦
車には皆さんに乗って貰いますのでよろしくお願いします。



「OK、任せて西住隊長。
 って言うか優勝するしかないっしょ?優勝しないと、大洗無くなっちゃうわけだしね?」

「あれ、その話知ってたんですかスズキさん?って言うか、自動車部の皆さん全員知ってる?」

「会長から聞かされたよ……マッタク、文科省相手に弩デカいギャンブルしかけたもんだよウチの会長はさ。
 だけど、此れまでの大洗の戦いっぷりを見てると、若しかしたら優勝出来るんじゃないかなって思ってるのも事実なんだ――決勝の相手は絶
 対王者って事らしいけど、私等なら勝てるかもでしょ西住隊長?」

「勝てるかもじゃなくて、勝つんですよ中嶋さん。」

『勝てるかも』と『勝つ』じゃあ、気持ちの持ちようが大きく変わりますから『勝つ』気で行きましょう!
そもそも私はハナッから優勝だけを見据えていたんです――対黒森峰の作戦は既に考えてありますから絶対に勝って、優勝して、大洗を廃校
から救いましょう!



「「「「了解!!」」」」

「流石は西住隊長、ここ一番のカリスマ振りは健在ですね。」

「みぽりん、マジ凄い……」

「西住殿のカリスマは、時に敵をも魅了し味方に付けてしまう魔性の魅力を持ち合わせており、その魅力に取りつかれたら最後、二度と抜け出
 す事は出来ないのであります――そうなってしまった内の一人が私、秋山優花里でありまして……」

「おい、戻って来い秋山さん。」

「アラアラ、みほさんのカリスマ性は強力ですね♪」



自分では自覚が無いんだけどね。
でも、これで2チームが追加されて大洗の保有戦車は10輌!決勝戦に使用出来る車輌数の半分は確保出来た訳だから、悪くはないかな。
倍の戦力差位なら、充分引っくり返せる数字だからね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



其れからあっと言う間に時は過ぎ、いよいよ明日が決勝戦かぁ……新チームのアリクイ(ソミュアS35チーム)とレオポン(ポルシェティーガーチー
ム)の訓練は、アリクイの方が大変だったね。
一応基本の動かし方は出来るようになったけど、黒森峰を相手にするにはちょっときついレベル……と考えるのが普通だけど、基本を覚えたば
かりだからこそ予想外の動きをする可能性もあるから、其れが黒森峰の虚を突く事になるかもなんだよね。
反対にレオポンの方は略問題なかったんだけど、ポルシェティーガーで戦車ドリフトは流石に無理だと思うんだツチヤさん――まぁ、戦車ドリフト
は使えるようになれば強力なスキルだけどね。

因みにこの間に、アクアワールド大洗水族館の企画展示室で華さんの華道の個展が開かれたんだけど、まさか戦車型の花器を使っての豪快
さと華麗さを併せ持つ作品を作り出すとは思わなかったよ。
この作品を見て、華さんのお母さんの百合さんも納得したらしく、華さんの勘当は無事に取り下げられたみたいだったしね。

さて、決勝前夜は月並みだけどカツを食べて勝負に勝つって事でカツパーティ。
あんこうとライガーとオオワシが揃ったから大所帯になっちゃって、寮の屋上でやる事になっちゃったけどね。

「トンカツじゃなくてシュニッツェルな所にエリカさんの並々ならぬ拘りを感じる件について。」

「トンカツも良いけど、仔牛のカツレツの方が高級感あるでしょ?――実際に、沙織なんかはシュニッツェルって言う料理名だけで目を輝かせて
 た訳だし。」

「成程ね。」

其れじゃあ、明日の勝利の為に!今日はカツを食べてゲン担ぎ!
其れでは、いただきます!!


「「「「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」」」



と言う訳で始まった、カツパーティ。
その途中で他のチームの車長からメールが届いたんだけど……成程、考える事はみんな一緒だったみたいだね?
ウサギチームはカツサンド、カバチームはカツ丼、カモチームは串カツ、アリクイチームはハムカツパン、レオポンチームはカツカレー、極めつけ
はカメチームの戦車カツ――形は違えど、カツを食べて勝負に勝つをやってた訳だから。
ある意味でチーム一丸……ふふ、決勝戦前日に良い感じに纏まったのは嬉しい事だね♪――後は明日の決勝で、黒森峰を倒すだけだよ。








――――――








Side:まほ


いよいよ明日が決勝か。
みほ率いる大洗が、お祖母様の言う西住流を体現している私が率いる黒森峰を下してこそ、私達の目的は成る――とは言え、手心を加えては
何の意味も無いから、やるからには全力でやる心算だがな。
だが、ドレだけ全力を……否、死力を尽くしてもみほに勝つ事は出来ないだろうな私は。



「貴女がそんな事を言うなんて珍しいわねまほ?――と言うか、貴方の口から『勝てない』なんて言葉が飛び出すとは思わなかったわ。」

「ふ、そう言ってくれるな凛、弱気になってる訳じゃない、単純にデータを見た上での事を言ってるんだ。
 去年の私とお前の校内紅白戦の戦績は覚えているか?」

「覚えてるわ。20戦10勝10敗でしょう?」

「その通りだ。」

だがな凛、私とお前の合計20敗は、そのままみほ、エリカ、小梅に対する20敗になるんだ。
私の10勝とお前の10勝、その何方も勝った試合にはみほとエリカと小梅のチームを有していた……その3人が率いるチームを有していた方が
勝利していたんだ。
つまり、去年の校内紅白戦に於いて、私もお前も只の一度もあの3人に勝つ事は出来なかったと言う訳さ。
更に大洗には、此の3人だけでなく、みほの一番弟子である澤も居る……隊全体の練度で言うなら黒森峰の方が上かも知れないが、プラウダ
をも下した大洗の力は正直底が見えん。
正直な事を言わせて貰うなら、戦車道を始めてから初めて私は対戦相手に恐怖を抱いているよ……底の知れない相手が、これ程までに恐ろ
しいとは思わなかったよ。



「まほ……大丈夫?」

「まぁ、大丈夫さ――幸か不幸か、西住流に撤退は無いとの教えのおかげで何とか立ち向かう事が出来そうだからね。」

確かに対戦相手に恐怖を抱いたのは初めてだが、だからこそワクワクして来ると言うのもまた事実だしね……何よりも、己の死力を尽くしたとし
ても勝てるかどうか分からない相手なんて最高だと思わないか?
そもそもにして、私はみほよりも1年早く戦車道の訓練を始めたのに、その1年のアドバンテージをみほはたった1週間で追い付いてしまった。
私が強くなれたのは、みほに追い抜かれまいと必死になっていたからさ――だが、みほは私の努力を簡単に乗り越えてピッタリと後について来
たからな……みほこそが本当の天才だよ。

その真の天才を相手に、人より多少出来る程度の凡人が何処まで抗う事が出来るのか……あぁ、とても楽しみだよ。

何れにしても、明日が全てだ――お祖母様、貴女の言う西住流は明日を持って終わりを告げます。私とみほで終わらせます!!
そして、思い知らせてさし上げますよ、貴女の言う西住流が、如何に戦車道に於いて歪み切って間違っていたのかと言う事をね……!!










 To Be Continued… 





キャラクター補足