Side:みほ
撤収作業を終えた私達は、学園艦に戻ってから会長さんが手配しておいてくれた航空科のヘリで麻子さんが向かった病院までやって来た。
……って言うか大洗には船舶科だけじゃなくて航空科もあったとは驚きだよ。普段は一体どんな時に使われるのかとっても気になる所なんだ
けど、学園艦の施設じゃ如何にもならない重病人とかが出た場合に、本土への搬送をしたりするのかも知れないね。
まぁ、今回は航空科の皆のおかげで助かったのは確かかな?
試合会場から陸路で行ってたら、新幹線で上野まで行って、其処から常陸号で水戸まで行って、更に其処からバスで水戸医療センターまで
だったからね……本当に助かりました、航空科の皆さん。
「医療センターにヘリポートがあったからこそですが、我々としてもお役に立てて光栄です西住隊長。」
「ほへ?何で、私の事を西住隊長って……」
「我が大洗の戦車道チームの隊長だからですよ。
其れと、先程会長が『西住隊長達を水戸医療センターまで運んであげて』って言ってましたので、我々も西住隊長とお呼びした方がいいかと
思いまして。」
「あはは……そうだったんですか。」
普段は私の事、『西住ちゃん』って呼んでるけど、他の人に言う時は『西住隊長』になるんだ……公私を分けてるって事なのか、其れとも大洗
の戦車隊を印象付けたいのか――若しかしたら両方かもね。
それにしても、まさか普通のヘリじゃなくて輸送用の大型ヘリを飛ばす事になるとは思わなかったよ。(そもそもにして何でこんなのが有ったん
だろう?)
当初はあんこうチームだけで行く予定だったんだけど、他のチームの皆も麻子さんの事が心配だったみたいで『一緒に行く』って言って、あまり
大人数で押しかけるのは悪いからって事で、カメさんチーム以外のチームの車長が代表して一緒に行く事になったからね。
其れでも合計8人+ロンメルとアンドリューだから充分多いんだけどね。
「其れじゃあ私達は病室の方に行きます。
帰りは、電車で大洗まで戻るので迎えは不要です――学園艦は確か今日は夜には大洗に停泊する予定だった筈ですから。」
「了解しました。
もし、電車のダイヤが乱れて大洗に戻る事が出来なさそうな場合は連絡してください。直ぐにお迎えに上がりますので。」
「はい、その時はお願いします。」
航空科の人達とは此処でお別れ。――別れ際にはお互いに敬礼をしてね。
後は病室に向かうだけ。――入口のすぐそばにローソンがあったから帰りに寄ってみようかな?確か、ローソンにも『コンビニ制服ボコ』があっ
た筈だからね。
で、予想はしてた事だけどやっぱりアンドリューとロンメルは中には入れなかったか……しょうがない、帰って来るまで大人しく待っててね?
『ガウ。』
『キューン。』
うんうん、良い返事だね。――それじゃ、行こうか。
ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer119
『緊急事態~Emer gencyです~』
受付で麻子さんのお婆さん、『冷泉久子』さんの病室の番号を聞いてそのまま真っ直ぐそこに。(麻子さんのお婆さんの名前は、沙織さんにメー
ルで教えて貰った。)
病室番号は305……って、ナースステーションの真正面だこれ。
取り敢えず入る前にはノックなんだけど……
「此れ位は全然大した事ないから、アンタはさっさと学校に戻りな!」
「……何やら病室内から怒号が聞こえるのは気のせいかなエリカさん?」
「気のせいじゃないわみほ。私にも聞こえたから――って言うか、今のは絶対麻子のお祖母様の声よね?
倒れて緊急搬送されたにしては元気過ぎない!?」
「実は元気で、その元気に身体の方が追い付かなくてオーバーフローを起こしただけだったりなのかも知れませんね此れは……」
梓ちゃん、其れが微妙に否定できないっぽい。
えーと、取り敢えず失礼します。
「あ、みぽりん達も来たんだ?……って、随分と大所帯じゃない?」
「あはは……あんこうチームだけで来る心算だったんだけど、色々有った結果、カメさんチーム以外の車長が各チームの代表として一緒にね。
倒れて緊急搬送されたって言うから心配だったけど、お婆さんは元気そうでよかったね麻子さん。」
「おうよ。おばあが元気で安心した。」
「ちょっと倒れた位で大袈裟なんだよマッタク。
それで、アンタ達は何モンだい?麻子の知り合いかい?」
えっと、大洗女子学園の戦車隊の隊長を務めている西住みほです。
麻子さんは私の乗っている戦車の操縦士で、何時も頼りにさせて貰ってます。――一緒に居る皆は、戦車道の仲間です。
「西住?……そうかい、戦車道の。
だけど、こんな所で油打ってる暇があるなら、戦車に油注しときな!麻子から聞いた話だと、1回戦は突破したらしいけど、大会はまだまだ続
くんだろう?
私の見舞いをしてる暇があるなら、戦車を動かしな!」
「……皆、おばあが心配で来てくれた。」
「私の心配じゃなくて、アンタの心配だよ!礼の一つでも言ったら如何なんだい!!」
「ありがとう。」
「もっと、心を込めて言う事が出来ないのかアンタは!」
……な、なんか凄い人だなぁ麻子さんのお婆さんは?大凡倒れて緊急搬送された人とは思えない位の元気さだよ!……西住の名に少し反応
したのが気になるけど、如何やら人間的には良い人みたいだね。
でも、取り敢えず元気そうで安心しました。
「隊長の言う通りだな……もしも貴女にもしものことが有ったら、隊長のパンターを動かす人が居なくなってしまうからな――最悪の事態を避け
る事が出来て良かったな。」
「お婆さん、根性で退院しましょう!」
「磯辺先輩、其れは無茶ぶり過ぎです!!」
「……マッタク騒がしい子達だね?
よくもまぁ、こんだけ愛想のない子に、これだけの仲間が出来たもんだよ――ホラ、私はもう大丈夫だって分かっただろう?あんまり大人数で
居ると他の患者さんの迷惑になっちゃうから早くお帰り。」
「個室で他の患者に迷惑も何もないと思うが……そもそも最近の病室の防音性は可成り高い……」
「そう言う事を言ってんじゃないよ!言葉じりだけで判断するんじゃないよマッタク!
……そうだ、隊長さんは少し残って貰って良いかい?ちょいと個人的に話したい事があるんだよ。」
「へ?ま、まぁ其れは構いませんけど……えっと、其れじゃあ少し話してから行くから、皆は先に行っててくれるかな?」
何なら外のローソンで待っててくれて良いし……個人的なお願いをするならば、出来れば1人1個コンビニ制服ボコが入った商品を買ってくれ
るとありがたいかなぁなんて。
コンビニ制服ボコのレアバージョンは、残るはローソンのだけだから是非ともフルコンしたいしね!
「貴女ね……まぁ良いわ、考えといてあげる。
其れと、院内に入る事が出来なかったロンメルとアンドリューに何かご褒美買ってあげても良いわよね?あの子達なら、間違い無く良い子で
待ってると思うし。」
「良いよ。寧ろ全然OK。」
「なら、ロンメルにはいなり寿司、アンドリューにはなんこつ入りつくね棒でも買ってあげるわ。」
ロンメルは兎も角、アンドリューは其れじゃあ絶対に足りないと思うけど、食べ過ぎると晩御飯が食べられなくなるから其れ位が丁度いいかも
知れないね。
……さてと、皆行きましたけど、話しって何でしょうか?
「アンタ、西住って名乗ったね?……西住ってのは、あの『戦車道の西住』かい?」
「はい、その西住です……私の名前と言うか、西住の名に少し反応したので知ってるのかと思いましたが、矢張り知っていたんですね?」
「あぁ、よーく知ってるよ。
って事は、アンタはあの西住かほの孫だね?」
……その通りです。非常に不本意ではありますけど。
こう言ったらアレですけど、あの人が私のお祖母ちゃんだなんて信じられません!否、お母さんのお母さんだって言うのすら信じられません!
お父さんが入り婿って事ですけど、実はお父さんの方がお祖母ちゃんの実子で、お母さんを跡取りの為に嫁に貰ったって言われたとしても信じ
るレベルですから!!――否、お父さんとお祖母ちゃんだって似てないですけどね?
そもそもにして、勝利>人命って言う考え方がおかしい事この上ないんですよお祖母ちゃんは!
味方を助けるのは兎も角として、相手を助けるのは西住流に反するって馬鹿なの!?スポーツの世界で非常事態が起こった時には敵も味方
もないって言うのに、其れを全く分かってないんだからあの人は!!
其れだけじゃなく、自分の意にそぐわない私とエリカさんと小梅さんを破門して黒森峰から追放するとか、頭がおかしいとしか思えません!!
って、ちょっと熱くなり過ぎました。ごめんなさい。
「いんや、問題ない、アンタの言った事からアイツが今どうしてるのかよく分かったからね。
アレから50年近く経ってるってのにアイツは未だそんな事を言ってるのかい……まったく呆れたモンだよ、私が言った事はマッタク全然伝わ
ってなかったって事かい――こりゃあ、本気でしほちゃんが西住流を継承する時が来たのかも知れないね?」
「その時が来たのは間違いありません。」
お母さんとお姉ちゃんはそれぞれ独自に動いていますし、私はそもそもお祖母ちゃんの言う西住流を否定する為に大洗に来た訳ですからね。
私は勝ちます、お祖母ちゃんの言う西住流に。
「頼もしいねぇ?……あの馬鹿の目を覚ましてやっておくれ。」
「はい、約束します!!!」
「……良い目だ。
優しい光の中に、絶対に退かない強さがある――アンタみたいな子が、麻子の友達だってんなら私も安心ってもんだ……麻子の事、よろしく
頼むよ、隊長さん?」
「了解です!……と言うか、若しかして昔は戦車女子だったんですか?」
「いんや、私は観戦者の方だよ。
ある時当時のかほの試合を見て、相当に頭に来たのを覚えてるんだよ……戦争が終わって11年も経ってたってのに、敵を磨り潰し、味方を
酷使するような戦い方をしててね……思わず試合後に会場の外で喰って掛かっちまったのさ。」
あのお婆ちゃんに喰って掛かるとは、若しかしなくても麻子さんのお婆さんは可成りの胆力の持ち主なんだろうね……そして、意外な縁に吃驚
だよ。
でも、ちょっと意外な話が聞けて貴重な体験でした――ゆっくり養生して下さい。
「あんまり年寄り扱いしなさんな。明日には退院して、アンタ達の2回戦を直接会場まで行って応援してやるさ。
……まぁ、なんだ。麻子はあんな風に不愛想な子だけど、悪い子じゃない……仲良くしてやっておくれ。」
「はい。……其れじゃあ、失礼します。」
激しい性格みたいだけど、その実は麻子さんの事を大事に思ってるって事なんだろうなぁ……比べちゃイケナイって言うのは分かってるんだけ
ど、娘や孫ですら自分の言う西住流の為の歯車と考えてるかほお祖母ちゃんとは大違いだよ。
アレ?そう言えば何で麻子さんだけだったんだろう?麻子さんのお父さんとお母さんだって来てても良い筈なのに……仕事にしたって、家族が
倒れたのに駆けつけないって言うのはちょっと考えられないんだけど――ま、余り気にしない方が良いかな。
さてと、皆お待たせ。
「お、来たねみぽりん。麻子のおばあと何話してたの?」
「特別な事じゃないよ――隊長なんだから麻子さんの事をしっかり見ててくれって。あと、大会頑張れって。退院したら会場まで来るって。
って、麻子さん寝ちゃったの?」
「うん、気が張ってたみたいで、無事を確認して病室を出た途端に其れが切れたみたい――エリリンが運んでくれたから助かったよ。」
「まぁ、これ位は大した事ないわ。
でもねぇ沙織、麻子はたいして重い子じゃないでしょう!戦車乗りなら、これ位簡単に運ぶ事が出来なくて如何するのよ!!」
「え~~?でも私、通信士だし……」
「通信士だからこそですよ沙織さん。
不測の事態で、他のポジションが機能しなくなった時には、通信士の人がそのポジションを埋める場合は少なくないので、本職の装填士程で
はなくとも、ある程度の力は付けておいた方が良いですよ?」
其れは、小梅さんの言う通りだね。――短期間で力を付ける『西住流フィジカルトレーニング筋力特化メニュー』やってみる?
「やだ!そんなのやったら絶対次の日動けなくなっちゃうから!!」
「あはは、冗談だよ沙織さん。今のは考案したお母さん自身が『此れは駄目だ』って言って廃案にしたレベルの物だから。」
「……因みにトレーニングメニューは?」
「腕立て、腹筋、100kgのベンチプレスを各500回1セットを3セットやった後に、重さ300kgのローラーを引いて200mトラックを10周――した
後で三本指倒立10分間。」
「みぽりん、其れ普通に死人が出ると思う。」
「うん、だから廃案になったんだよ。」
アレは人がやって良い物じゃないからね……っと、丁度いい所で水戸駅行きのバスが来たから乗ろうか?――今更だけど、器用に口で整理
券を取るアンドリューとロンメルって凄いよね。
人数が多いから後部の長シートに座ってと……取り敢えず、麻子さんのお婆さん無事でよかったね?
麻子さんがあんなに取り乱すとは思わなかったから。――お婆ちゃん子なんだね麻子さんって。
「其れもあるかも知れないけど、麻子のお父さんとお母さんは事故で亡くなってるんだよ……だからおばあは、麻子にとって唯一の家族なの。
親と喧嘩してる最中に親を亡くした麻子は、永遠に仲直りする事が出来なくなって……一時期は完全に塞ぎ込んでた事も有ったんだよ。
その後悔があるから、麻子は親しい人を喪う事が何よりも怖くなっちゃった――だから、何時もはクールな麻子があそこまで取り乱しちゃった
んだよ……って、麻子でもないのに喋りすぎちゃった。
今のはオフレコでお願いね?」
「うむ、了解だ武部さん。エルヴィン・ロンメルの名に誓って、カエサル達にも決して話さないと約束しよう。」
「私も、絶対に他言にはしませんよ武部先輩。」
「軽々しく喋って良い事じゃないですしね……チームの皆さんには、麻子さんが自分で話さない限りは言わない方が良いでしょう。」
「根性で絶対に喋りません!!」
「いや磯部、其れはちょっとおかしいわ。」
典子さんはこんな時でもブレないね。
でも、まさか麻子さんがそんな重い過去を背負ってるとは思わなかったよ……そして其れは私とお祖母ちゃんにだって起こり得る事だって言え
る――だとしたら尚の事、お祖母ちゃんには考えを改めて貰わないとだよ。
あんな考えのまま、分かり合う事が出来ずに何て言うのは悲しすぎるからね。
其れからバスに30分ほど揺られた後に水戸駅に到着し、其処から大洗鹿島線を使って10分程で大洗に到着して、そのまま大洗埠頭に停泊
してた学園艦に帰還。
学園艦は此のまま停泊してるらしいから、明日の1回戦2日目を見に行く事は出来るだろうね――まぁ、その時はまた航空科の皆さんに手を貸
して貰う事になるだろうけど。
明日の2日目に登場する黒森峰とプラウダ――まぁ、順当に勝つだろうね間違いなく。
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で、翌日。
1回戦2日目を見に来た訳なんだけど、予想通りプラウダと黒森峰は圧勝したけど、その試合内容には大きな差があった。
プラウダはT-34をメインにした部隊にKV-2とIS-2を組み込んだ編成で、KV-2の高火力でプレッシャーを与えつつ、T-34の機動力を最大限に
生かして相手のフラッグ車の護衛を叩きつつ、IS-2でフラッグ車を撃ち抜くって言う見事な戦術を披露したのに対して、黒森峰は圧倒的な攻防
力を持つ重戦車の部隊で、相手の知波単を文字通り磨り潰す戦い――フラッグ戦なのに、知波単の部隊を全滅させるって言う、大凡『王者』と
は言えないような、暴力的な戦いだったからね。
でもそれ以上に気になったのは、お姉ちゃんの試合後の態度だよ。
相手を見下すような侮蔑の眼差しと、嘲笑を浮かべた口元――本当にお姉ちゃんなのか疑う位の態度だよ。
お姉ちゃんは誰よりも『武』と『礼節』を重んじる人だから、あんな事をするとは思えない……お祖母ちゃんの言う西住流を表面上は体現してた
時でも、あんな事はしなかったのに……あれじゃあ、お祖母ちゃんの言う西住流其のままだよ。
「まほさんは、若しかしたら自らヒールになる事で、家元の言う西住流の在り方を世に問おうとしてるのかも知れないわ――如何にあの石頭な
家元でも、世論が『ノー』を突きつけたら流石に無視はできないでしょうしね。」
「その為に、自らヒールに……凄いねお姉ちゃんは。」
でも、確かにお祖母ちゃんの言う西住流に世論と言う大ナタを振り下ろすのは良い方法かもしれないよ――その為に、お姉ちゃんが『悪役』と
して見られるのはちょっと嫌だけどね。
其れがお姉ちゃんの覚悟なら、私も其れに応えないとだね……お姉ちゃんが自らヒールになるなら、私はそのヒールを倒す為のヒーローにな
らないとだよ。
『堕ちた王者』と化した黒森峰を、戦車道を復活させて1年目の大洗が倒したとなれば注目度はハンパないし、お姉ちゃんがお祖母ちゃんの言
う西住流を徹底してれば、其れへの批判は絶対に出てくるだろうからね――若しかしたら、お姉ちゃんも其れを望んでたのかもだよ。
で、1回戦の全日程が終わった翌日に発売された『週刊戦車道』の記事は、予想通りと言うか何と言うか、大洗女子学園の1回戦突破と黒森
峰の異常とも言える殲滅攻撃がメインだったみたい。
『第63回全国高校戦車道大会は、1回戦から波乱が待ち受けていた――今年20年ぶりに戦車道を復活させた大洗女子学園が、サンダース
大学付属高校と1回戦から戦う事になったのだ。
誰もがサンダースの勝利を疑わなかっただろうが、大洗には黒森峰の遊撃隊で活躍してた西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅に加え、西住み
ほの一番弟子である澤梓も居る――其れを知った瞬間、大洗の1回戦突破は私の中では確定した情報になった……そして、実際に勝った
のだから大洗女子学園の底力は相当な物なのだろう。
逆に、何ともつまらなかったのは黒森峰の試合だ――圧倒的な火力に物を言わせた蹂躙戦術が悪いとは言わないが、だからと言ってフラッ
グ戦であるにも拘らず相手部隊を全滅させるこの攻撃は、只のオーバーキルに過ぎない。
王者の誇りをドブに捨て、勝利を追い求める黒森峰には黒い影が見える――筆者としては、西住姉妹が笑顔で戦う決勝戦を所望する。』
戦車道の雑誌に、此処まで書かれたら黒森峰のあの戦術は世間に『マイナス』と認識されるのは間違い無いだろうね――だって、あの戦術は
見てても面白くない上に、観客の怒りを買うには充分なモノだから。
「あの戦い方を戦車道と呼ぶ事は出来ないわ……まほさんも、さぞかし心苦しいでしょうね――己が極めんとする道とは全く違う事をする事に
なった訳だからね。」
「うん、私もそう思うよエリカさん。」
お姉ちゃんは、お祖母ちゃんの言う西住流に世間の『ノー』を突き付ける為にヒールになった訳だからね――でも、だからこそお祖母ちゃんの
事は絶対に許せない!!
純粋に戦車道が好きなお姉ちゃんに、戦車道に反する事をさせてるんだからね……黒森峰と決勝で当たったその時は、人の命を数で数えて
るお祖母ちゃんの西住流こそが間違ってるって証明してやるだけだよ!!
「ふ、そう来なくっちゃね!
2回戦も準決勝も突破して、私達が目指すのは優勝のみ――気合入れて行くわよアンタ達!!」
「気合と根性で頑張ります!!」
「いや、其れは何処の赤毛の三つ編みお姉ちゃんの理論なの典子さん!!」
でもまぁ、其れが最善の一手をって言う事は少なくないから、一概に馬鹿には出来ないんだけどね――って言うか、そんな感じで動いて貰った
方がアヒルさんチームは最高のパフォーマンスを発揮するかもだし。
何にしても、大会はまだまだ続くから1回戦を突破した位で浮かれてる事は出来ないよ――寧ろここからが本番だって言えるからね。
でも、まさか2回戦の相手がアンツィオになるとは思わなかったよ――アンツィオには失礼かもしれないけど、幾ら安斎さんが隊長を務めてると
は言え、マジノに勝てるとは思ってなかったからね。
でも、だからこそ楽しみだよ……私達と互角の勝負をした末に僅差で敗れたマジノに、アンツィオが勝つとは思っていなかったからね……此れ
は、如何にも楽しい2回戦になりそうだね。
――――――
Side:ペパロニ
いやぁ、まさかマジノに勝てるとは思わなかったぜ……ドゥーチェの指揮が見事だったのは疑いようもないが、運の要素が全く無かったかと言
われたら其れまでなんだけど、古豪って呼ばれてるマジノに勝ったってのは箔が付くぜ!!
しかも古豪を破った次の試合はみほの大洗との試合じゃねぇか!!……コイツは否が応でも燃えるってもんだ!!
「ペパロニさん、どうかしました?」
「あぁ、別に何でもねぇよ古城――次の2回戦が楽しみになって来ただけだ……相手は何と言っても隻腕の軍神が率いる最強の戦車部隊だか
らな……其れを倒したら愉快痛快だろ?」
「其れは確かにそうかも知れませんね。」
ぶっちゃけた事を言うなら、勢いに乗って優勝したい所だが……多分無理だよなぁ――本気になったみほには、まほ姐さんですら敵わないか
もだが、だからと言って絶対に負けないぜみほ!!
歴史に残るような2回戦を演じてやろうぜ!!――2回戦、楽しみにしてるからな!
To Be Continued… 
キャラクター補足
・冷泉久子
麻子のお婆さん。
やや血圧が高めなことを除けば実年齢よりも10歳は若く見えるスーパーお婆ちゃん!――御年70を超えた今でも、日に3kmは歩いていると
言う猛者。
口調はやや粗いが、其れは全て麻子を思っての事――沙織以外の仲間が戦車道を通じて出来た事は嬉しく思っている。
入院は、一時的に休む場所を提供しただけに過ぎないのかも知れない。
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