No Side


ブランが例のロリコンデブとのデュエルに勝利した後日、レオ・コーポレーションの社長室でのこと。
赤馬零児は秘書の中島から彼女が試合で勝利した話を聞いていた。


「そうか、彼女は勝ったか。」

「はい…先日、舞網市デュエル協会からの申請があったジュニアユース選手権への特別枠の件。
 折角、社長が許可を出したのに断るとは何事かと思ったのですが。」


どうやら中島としてはブランが特別枠を蹴った事を不服としていたようである。
そして、それを聞いて社長は眼鏡を整えながら嬉しそうにこう口にする。


「彼女は、あくまで自らの力で道を切り開く事を選んだか。
 流石はペンデュラム召喚の始祖…それで、彼女は今回もペンデュラムを?」

「はい、1度だけでしたが管制室でも召喚反応を検知しております。
 ただ、それ以上に気になる事が…」

「ほう…?」


中島としては何か気になる事があるようだが、社長がそれを促す。


「その場所での試合中にエクシーズ召喚の反応が2回ほど。
 どちらも微弱なものでしたが、それでも大きさが違う事から同一人物のものではないようです。」

「ほう…?もしや、彼女がエクシーズ召喚を?」

「恐らくは。実は遊勝塾での三番勝負の後日に沢渡が彼女をLDSへ連れて来たのですが、その際にエクシーズコースの志島北斗が彼女にエクシーズを渡したとの情報があります。」


その報告を聞くと社長は笑みを浮かべる。
ブランが自分の想定より早く先のステージへと進んだということであろう。


「そうか…どうやら、彼女は近いうちにペンデュラムのその先を見出すことになるだろう。」

「ちなみにどちらもLDSの生徒ではないのですが、エクシーズ召喚が流出傾向にある事は気にしなくて大丈夫なのですか?」

「エクシーズ召喚自体、タネが分かればアドバンス召喚よりも遥かに容易いからな。
 教えずとも自ら理解できたのであればそれはそれで結構。」


もっとも、社長が見出したペンデュラムのその先がブランにとってそうなのかは別の話だ。
そして、社長としてはエクシーズが流行することは別に構わないようである。


「それと…ユーヤ・B・榊の件ではないのですが、デュエル管制室からの報告で気になる事が。」

「気になる?」

「最近、舞網市内でエクシーズ召喚の『強い』召喚反応が頻繁に検知されるようになったと。
 先日も微弱な2回の召喚反応が起きた場所とは違う場所ながら、近い時間帯で強烈な反応があったようで。」

「エクシーズの強い召喚反応?」


次に中島が話題に出したのは、エクシーズ召喚反応の件である。
もっとも『強い』という事を強調しているのが先ほどとの違いである。


「スクールでもエクシーズを教えておりますし、その生徒たちが発するものだと私も最初は思っていたのですが…」

「検出されるエネルギーの大きさが違うのだな?」

「左様で。生徒たちのものとは桁が違うほどに。」

「わかった、引き続き監視を続けるように管制室に伝えてくれ。」

「はっ。」


その報告を伝えて、中島は社長室を後にする。
彼が部屋を後にし、一人残された零児は小声で毒づいた。


「融合に続き、エクシーズもか。」












超次元ゲイム ARC-V 第16話
『紫の不審者たち』












柚子:LP4000
幻奏の音女アリア:ATK1600
幻奏の音女カノン:ATK1300



里久:LP4000
クラフトイ・マジシャン:ATK1800



Side:柚子


あたしは今、倉庫のある埠頭にてエクシーズ召喚の特訓の真っ最中。
これでレベル4のモンスターが2体…やってみせるわ。


「あたしはレベル4の幻奏の音女アリアとカノンをオーバーレイ!
 響け、重奏のハーモニー!赤毛の音姫、ここに降臨!エクシーズ召喚!」


―ERROR―


あれ、エラー?
どうして召喚できないの?条件は揃ったはずなのに?


「あのさぁ…肝心のエクシーズモンスターをエクストラデッキに入れてる?」


へ、エクストラ…?あ…!


「あっ、メインデッキに入れちゃってた…!」

「はぁ…それじゃ、できるわけないよ。
 エクシーズモンスターは最初にエクストラデッキに入れる、基本中の基本だよ。」

う…そうだった。


何やってるんだろう、あたし。
自分のためなのに、思った以上に特訓に身が入らない。


「最初の二試合でも柚子のためにエクシーズ召喚を披露してあげたというのに、こんなんじゃ先が思いやられるね。
 ブランは僕から何も教えてないのに早速エクシーズ召喚を成功させたというし、このままじゃ差が開く一方だよ?

「そうなんだよね…ごめん、なさい。


ブランの試合を直接見てないけど、エクシーズ召喚を決めて勝利したみたい。
このままじゃ栗音を超えるどころか、エクシーズ初心者のブランにも差がつけられてばかり。


「よっと…例の鉄仮面の女の事、考えてたのかな?

「へ…?うっ…」

「うん、そんな事だろうと思った。
 それでデュエルだったりと、何事にも集中できてないんだね。」


ここで里久から出てきたのは名前も知らない鉄仮面の少女。
里久は見ていないけど、あの子の素顔…本当にブランそっくりだから。
ブラン本人じゃないなら、どうしてあんなに似てるのよ…。

それと彼女が栗音のエクシーズ召喚を見た時、嫌悪感みたいなものを見せていた気がする。


「名前も知らないんだよね?じゃあなんで意識しちゃってるのさ?」

「…だって、最初にここで会った時にあたしを助けてくれたから。」

「それで心を奪われちゃったみたいだね。」


ちょ、何言ってるのよ!?


「べ、別にあたしはそんな事!

「ま、趣味嗜好は人それぞれだもんね。
 でも、あいつとは一度本気でやってみたいんだよね…融合使いだというのにさ。」


もう、里久ってば…融合をどうしてそんなにぞんざいそうに見ているの?
別に召喚法同士で争わなくたって…。


「ま、今は下手に出る気はないけどね…。」


――ぱくりっ!


お菓子を食べつつも、今はデュエルする気はないみたいね。
よかった…あの子のデュエルはどうしてか本物の衝撃が起きるから里久も無事じゃすまないはず。
でも、それならどうして…


――もう、あなたを傷つけたくないから。


こんな事言ったのかな?


――ピカァァァァ!!


えっ、どうしていきなり…!


「また、ブレスレットが…!

「ほへ…?」

「はぁ、ここにいたのね…ようやく見つけたわ。」


えっ、この声は…ブラン!?


「ブラン…!」

「柚子も密かにがんばりたいのはわかるわ。
 でも、塾長が煩いのよ…娘が心配というのは親の気持ちとして当然なのだけれどもね。」

「…ごめん。」


またブレスレットが光った後にブランが出てきた。
生まれた時から付けてたというこのブレスレット、いったいなんなのよ…!








――――――








Side:???


ねぷっ!?


あ…ありのまま今起こった事を言うわ。
前にあの倉庫で助けた子の様子を密かに見ていたら、いつの間にこの路地裏に飛ばされてた。
何を言ってるのかわからないと思うけど、わたしも何があったのかわからなかった。

ただ、既に三度目なんだよね。


「また、飛ばされちゃったか。」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


この声は…悲鳴!?
場所は近そう…何が起こってるのか、行ってみないと…!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



早速、悲鳴のあった方へ行ってみた。
そこにいたのは目元をサングラスで、口元を手ぬぐいで隠した青年…ただ一人だけ。
彼はわたしと共にこの次元へと来た仲間。


雲雀…!

「…ネプテューヌか。」


その名も紫吹雲雀…!
ここに来て早々、はぐれたのだけどこんなところで再会するなんて。

そして彼がわたしの名前を呼んだのだけど、今度こそあの子に伝えなくちゃね。
ブランというわたしの知らない子と間違えられてたから。

それと、彼の足元に落ちていた一枚のカード。
それは普通のカードではなく、人間の一人が映し出されたもの。
間違いなく…悲鳴の主だったもののはず。

彼は民間人相手にやってしまったのね。


「…こんな馬鹿な事、もうやめなさい。
 そんなここの人を悲しませる事続けても、あの子は決して喜ばないもの。」

「お前は甘い…俺たちに手段なんて選んでられないんだ!」

「もう少し…違うやり方があるはずよ…!」


目的を果たすためみたいだけど、今の彼のやり方は間違っている。
確かに呑気にしてる場合じゃないけど、そんなやり方ではあいつらと何も変わらなくなっちゃうよ。

少し前に身に覚えのない事で突っかかってきた子がいたけど、原因は彼の暴走にあるみたいね。
知らず知らずのうちにここの人たちの恨みを買っていたことになるわ。

本当なら…ここの人たちをわたしたちの私情にあまり巻き込みたくないのに。








――――――








Side:ブラン


「あむっ、おいしい。」

「ふふっ、まだまだいっぱいありますからね。」


現在、自宅で夕飯を食べているところよ。
そして、里久もすっかりここに馴染んじゃったわね。
ジュニアユース選手権出場のための6連戦も2連勝できたみたいね。


「里久、まずは2連勝お疲れ様。」

「ま、余裕だったけどね。
 それで、ブランはまだ1勝だったっけ?」

「うん、相手を選ぶのにちょっと時間がかかっているから仕方ないのだけれどもね。」


一方、オレはまだ4戦残っている状態。
ニコはオレの今後の事を考えて相手を選んでくれているわけだから、時間がかかるのも止む無しなのだけれどもね。


「僕の相手はスムーズに決まるのにね。
 それと、教えてもいないのにエクシーズ召喚もできるようになったみたいだね。」

「エクシーズ召喚は何度も見てたから造作もないわ。
 ただ、ペンデュラムとの相性はあまりよくなさそうよ。」

「え〜、素材を簡単に並べられそうなイメージがあるんだけどな。」


確かにそうなんだけどね。


「そっちじゃなくて、ペンデュラムの性質が活かせないのが問題なのよ。」


ペンデュラムモンスターをエクシーズ素材にした後、案の定そこから墓地へ送られる場合にエクストラデッキへは行かないってことがわかったの。
ペンデュラム特有の性質を活かせないのは痛い所なのよ。
素材を揃える際も、オレの持っているエクシーズのランクならペンデュラム召喚を無理に使う必要もないわけで。


「ああ、そっちのことね。」


流石はエクシーズ使い…そこを指摘したらすぐに理解できたみたいね。


「ま、それは割り切るしかないんじゃない?
 それにブランがその性質利用するのって大体上級だし、なんとかなるでしょ。」

「それもそうね…持ってるエクシーズは2枚とも低いランクだから。」


逆に言えば下級の場合は墓地へ行った方が都合がいい場合も多いからね。
そこからサルベージなんかで回収できるのは水属性ならでは利点よ。

でも、その話はそこまでにして…。


「話は変わるのだけど…今日、オレが姿を見せた時に柚子のブレスレットが光ったのよね?」

「うんうん、見たの二回目だけど両方ともブランが姿を見せた時だった。
 まるでブランを見つけるセンサーみたいだよね。」

「馬鹿げてると言いたいところだけど、実際そうみたいだから気味の悪い話ね。」


柚子のブレスレットが光ったという話題に切り替える。
そもそも柚子がいつもつけているブレスレット…実際の所、何なのかよくわからないのよね。
幼い時から身に着けていたことは覚えているのだけど…。


「母さんは何かご存じかしら。」

「申し訳ありません、ブラン様。
 わたしもあれが何なのかよくわからないのです。」

「そう…まぁ、触らぬ神に祟りなしともいうわね。
 そう考えるとあまり考えない方がいいのかしら?」

「今のところは別にそれでいいと思うよ?」


母さんもよくわからないんじゃ、お手上げね。
あまりそういうオカルト話には関わりたくはないのだけど。

とはいえ、よく考えるとこのペンデュラムもたまに光る時があるのよね。
今は無理でも、自分にかかわる事だしペンデュラムの事はいずれ知っておきたいところね。


「そういえばさ、余裕かましてたら柚子を他の誰かにとられるかもよ?」

ぶーっ!?げほ、げほっ…!


い、いきなり何てこと言い出すのよ…里久は!
吃驚してむせちゃったじゃないの。


「もう、いきなり変な事言わないで…!
 オレと柚子はどちらも女の子なのに…まったくもう。」

「べっつにぃ?聞いてみただけだよ。
 それに案外満更でもなさそうじゃん、ひょっとしてブランってソッチ系?」


――パシッ!


いたっ!?じょ、冗談なのに。」

「なんなのよもう…ばか。」

「二人とも自重してください。」


オレと柚子は…別にそんなやらしい関係じゃないのに…!
変な事言わないでよ、もう…!








――――――








Side:柚子


ふざけないで!どこの世界にブレスレットをはめて生まれてくる赤ちゃんがいるのよ!」

「いや、はめてたわけじゃないけど…」

もう、いい!


それにしてもありえないわよ、生まれた時からブレスレットを持っていたって…!
お父さん…絶対に何か隠してる!
ブレスレットが突然光るとあの融合使いのブランに似た鉄仮面の女がいなくなったり…!
しかも、光るのはいつものブランが現れる時なのよ。

なのに、あたしの気も知らないで…!


「お、おい…柚子!


――ガチャッ…ドンッ!


「はぁ…」


もう知らない、勝手に入られないようにドアに背もたれる。


「それよりお前…里久にエクシーズ召喚を習ってるそうじゃないか。
 強くなろうとがんばってるのはわかるけど、ジュニアユース選手権に向けての特訓なら何故うちでやらない!


みんなを驚かせてたくて、エクシーズ召喚の事を内緒にしたくて秘密裏に特訓してた。
それと、一人で勝手に悩んでたせいで栗音にあっさり負けて…塾のみんなに会わせられる顔がないのよ。


「俺の熱血指導じゃ不満か?おい、おい!

ああ、もう…!


それにしても、なんであいつの顔がちらつくのよ…!
一日も早く、エクシーズ召喚をマスターして強くならなきゃならないのに。
里久に教えられていて未だできていないあたしに比べ、一人で勝手に覚えて実践し先へ進んでいくブラン。

これじゃ、並んでいたはずのブランにも置いてけぼりにされてしまうばかり。
このままじゃ、あたしはいつまでたっても遊勝塾の足手纏い。

こんなことになるのならもう、このブレスレットなんか…!
……やっぱり捨てられない。

どうしちゃったの…あたし。








――――――








No Side


これは…!

「はい、スクール宛に差出人不明で送られてきました。」

「西川と、ティオ…!」


レオ・コーポレーションの社長室に社長と理事長の二人が対面していた。
その脇には秘書の中島の姿もあった。
今回の話題は差出人不明で送られてきた2枚のカード。
そのカードに映されていたのは、行方不明になっていた西川とティオであった。


「何故、我がLDSのエースデュエリスト二人のカードが…犯人は何を考えてこんな事を。」

「先日、再び融合召喚の強い召喚反応を検知しました。
 ティオはその直後に行方がわからなくなったとの報告を受けていたのですが…!
 まさか、西川と共にカードに封印されていたとは。」


どうやら、融合召喚を使う襲撃者は相手デュエリストをカードに封印できる力があるようだ。


封印ですって!?まさか、そんな事が!」

「私もこの事例は初めてですが、恐らくはこのカードの中で生きているでしょう。
 詳しくは、調べてみなければ何とも言えませんが。」

「彼らを救う方法は…?」

「残念ながら、今の我々の力では不可能。」


現時点ではこの二人を封印から解放する事はできないようである。
封印を開放する術を見つけない限り、この状態は死に近い。


「しかし、事件はこれまで3度起こっている。
 最初の被害者は沢渡シンゴだが、彼は封印されておらず無事。
 西川とティオはこうしてカードに…とすると二つの異なった事実から恐らく、犯人は二人いる。」

「なんですって…!?」


彼が推測したのはこの事件が複数犯である事。
やり方が異なる事からも疑いようのない事だろう。


「とすると、沢渡を襲った犯人は…!

「間違ってもユーヤ・B・榊ではないことは明らか。
 沢渡本人が証言を撤回した上、今の彼女はエクシーズ召喚を多少は扱えるようになったと言えどより高度な融合召喚を扱うだけの力はない。
 こちらがわかっているのは、一人は沢渡シンゴの証言などから本人ではないにしろユーヤ・B・榊と同じ顔で融合使いの少女であるということ。」

「しかし、もう一方は…融合使いである事以外はわかっておりません。
 どういうわけか監視カメラの方に映ってもいませんし、情報が不足しております。」

「ふむ…」


早急に処理しなければさらに深刻になりかねない案件に限って情報不足。
かといって、このまま手を拱いているつもりは零児には毛頭なかった。


「中島、市内の警戒レベルを一段上げろ。
 このカードは明らかに我々への挑戦、どんな事態にも対応できるようにするんだ!」

「はっ!」

「それと…このカードを分析室に回し、徹底的に調べるように。
 彼らを…いや、同様の被害に遭った全ての者を救う手立てを見つけるために…!


今はカードへの封印から解放する手段はないものの、いずれはその方法を見つけて救い出すようだ。








――――――








Side:ブラン


さて、今日は2戦目の連絡が来たので早速その場所へ向かっているところよ。
今回も早めに出たから、ちょっと寄り道しながら行けるわね。

それで、今回は頭脳戦がどうとか言っていたような気がするわね。
どんな戦法で来るのかはわからないけど、正面から自分のデュエルを貫くまでよ。

といっても、あくまでアウェーだから油断はできないのだけれどもね。
1戦目の幼女好きの変態はもう顔も見たくないけど、相手の戦法にまんまと嵌った節はあったからね。
それを反省しつつ、今日も楽しくエンタメデュエルをがんばろう。


「あ、ブランちゃんだ…!

「お、マーチングドレス姿もいいな…!
 ジュニアユース選手権出場目指して、がんばれよ!」

「応援ありがとう…!わたし、がんばります!


この様に最近は声をかけられるようにもなってきた。
LDSのエクシーズコースの北斗戦辺りの噂がここまで伝わってきたのかしらね?

だけど、応援されるのはいい気分になるわね。
彼らの期待を裏切らないためにも、今日の試合もがんばらなきゃ。


「お前たち、次期市長の命令が聞けんのか!


――ざわ、ざわ…



あら、少し騒がしくなってきたわね。
小太りの中年男性がLDSの関係者と何か揉めてるみたい。
というより、何だかLDS関係者の方が迷惑そうな顔をしているわね。

あの小太りの男、次期市長って聞いたことあるわね?
そういえば、沢渡の父親って次期市長候補とか言われていたわ。
ま、まさかね…?


「私は現役の市会議員だ!いずれはこの舞網市の市長にもなる!
 一番偉いのは市長!権力者!

「誰よ、あれ?」

「ほら…市会議員の沢渡だって。」


うわ…やっぱり。
でも、まだ市長になってないのによくそんな偉そうにできるわね。
目を付けられると煩そうだし、あまり関わらない方が身のためね。
この場から立ち去りましょうか。


「ん?あれは、ユーヤ・B・榊!
 何をしている!憎き襲撃犯はあいつだ!早く捕まえろ!!

「「「え〜…?」」」


はぁ!?今更その話かよ!
しかも、それただの濡れ衣だし襲われた本人後で否定したからな!
ああ、もう!まったく面倒なことになったなぁ…!


「私の命令が聞けんのか!さっさと行け!早くユーヤ・B・榊を捕まえんか!

「ちょ…ま、まて〜!」

「ふぇぇ…こないで!!


こっちくんな!

これから試合が控えてるのに余計なことしてくれるな、まったくもう!


「私の可愛い息子を襲った犯人を逃がすな〜!」

「違うわよ、そもそも本人が撤回したの知らないの!?」

そんなこと聞いとらんぞ!!


沢渡の奴、肝心な事伝えてないじゃないか…実の親にも!
一回、ここで曲がれば撒けるかも!


「はぁ、はぁ…!」

「待て〜!」


流石にそう上手くいくはずないか…!
ってあれ…目の前にサングラスを付け、口元を手ぬぐいで隠した不審者の姿が見える。


「恰好が違うようだが何をしている、ネプテューヌ…!」

「は…?」


今、あの男…オレの事見て言ったよな…?
だけど、ネプなんとかなんて名前…聞き覚えがないぞ?


「オレはそんな名前じゃ…」

「お前は下がっていろ、LDSなら俺が相手だ!

「え…?」


この人…オレの事を別の誰かと勘違いしてるし、LDSを敵視してる?
まさか、LDSの関係者の襲撃犯って…?


「「「えっほ…なっ!」」」

なんなんだ、お前は!邪魔をするな!

「来なければこちらからいかせてもらう…!」


見ただけで分かる…こいつ、かなりやばい…!


「こいつ、もしや…!」

「ティオや西川を襲った、例の襲撃犯!」

「早速、本部に連絡を!」

えぇ〜い!あんな奴は放っておけ!
 それより、早くユーヤ・B・榊を!!


おい、この期に及んでまだそんな馬鹿な事言ってるのかよ!早く逃げろ!!
っ、駄目…そう思っていてもこの男のプレッシャーに負けて声が出せない…!


「俺は手札からS・R(スカイ・レイダーズ)−ワール・スパロウ』の効果を発動!
 このモンスター自身を含む手札のモンスターを素材に融合召喚を行う!」

「なっ…!」

「間違いない…二人を襲ったのは…!」


そうしてモンスター効果で…手札から融合!?


「俺は手札から3体の『S・R(スカイ・レイダーズ)』を融合する!融合召喚!!


――ビュゥゥゥゥゥゥゥン!!


なっ、どうして現実に突風が…!
駄目…これ以上、踏みとどまれない…!


「うわおぉぉぉぉ!?」

『キィィィィィィィィイ!!』

「うわぁぁぁぁぁぁぁ…!!」


――ドンッ…!


「か、は…っ


っ…駄目…目の前が、真っ暗に…。
そんな…オレは…こんなところで、殺されるかも…しれないの……?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



「ぺし、ぺし…!起きてください、ブラン君。」

「っ…う〜ん。」


あれ…気付いたら、目の前にニコが…!
それに…オレ、生きてる…?


「うっ、痛っ…いったい何がどうなって?」

「はて、何事ですか?」


でも、痛みが残ってるってことは…あれは夢じゃ、ない?


「じ、実は不審な融合使いが、ここにいたのだけど…!
 アクションフィールドでもないのに衝撃を実体化させててオレはそれに巻き込まれて……それで…」

「はて、本当なら奇妙な事件ですね…夢でも見てたんじゃないですか?


どうやら話を信じてくれないみたいね。
もっとも、他の人に話したところでオレ以外誰もいなくなったんじゃ信じてもらえるという方が不思議ね。


「そうね…夢でも見ていたみたいね。」

「まったく、どうしてこんな道端で居眠りなど…?」

「どうも、寝不足だったのかしらね?
 オレとしては万全を期したつもりだったのだけど。」


無論、寝不足だったわけではない。
実際には、あの不審な男のモンスターに吹き飛ばされて意識を無くしていた。
でも、これ以上は余計な事言わない方がよさそうね。


「これから大事な第2戦だというのに何やってるんですか?
 ほら、行きますよ?次の対戦相手がお待ちかねですから。」

「あ、そういえば時間…拙いわね。」

「プロを目指す者がそんなことでは困ります!
 時間を気にする事も体調管理も大事な仕事なのですから。」


このままじゃ待ち合わせ時間に間に合わないじゃない…早く行かないと…!

だけど、この時オレは気付く事ができなかった。
高速道路の橋の側面に大きな爪痕が残されていたのを。








――――――








Side:権現坂


――ザァァァァァ!!


あの時に遊勝塾を勝利へ導けずにブランに辛い思いをさせてしまったのは、今までの俺の力不足にこそあった。
そこで、一度滝に打たれて精神統一を図り、改めて自らのデュエルを顧みたわけだが…。


「…足りん。俺には何かが足りんのだ!!


やはり、今の俺には何かが足りない。
前にシンクロコースの烈悟殿とデュエルして思い知らされた事だが、今までの不動のデュエルで戦う事に限界を感じてきたところだ。
遂に、不動のデュエルも次の段階へと進化させなければならない時が来たのかもしれんな。
かくなる上は…!








――――――








ブラン:LP700
コーカサスカニカブト:ATK2150
ザリガンマン:ATK1800



栄太:LP4500
スフィンクイズー:ATK1000




Side:ブラン


さて、2戦目は有名進学塾の一面もある明晰塾へ出向いてのデュエル…何とか間に合ったわ。
相手はクイズ番組で優秀な成績を残しているという九庵堂栄太という小柄な男だ。
ここのアクションカードはアクショントラップによるクイズで、残念ながら今のオレの知識では答えられないものばかり。
それに加え、クイズーと罠によるコンボには苦しめられた。

だけど…これはあくまでクイズではなく、対人戦のデュエル。
あくまでもクイズ要素は本分ではないものよ。
ザリガンマンとコーカサスカニカブトが出そろった今…これで決めてみせるわ。


「罠発動!『ラスト・クエスチョン』
 問題!このバトルの開始時、フィールドのいるモンスターの数は…!
 正解なら僕のモンスターを全て破壊、不正解なら君のモンスターが全滅。」

「答えは2体よ。」

この状況を見てそれが言えるのかい?

「お生憎様、オレはクイズをしにここに来たわけではないの…ザリガンマンの効果発動!
 手札から水属性の『コロソマ・ソルジャー』を墓地へ送り、特殊召喚されたモンスター1体を破壊して600ダメージを与える!
 対象はスフィンクイズー!撃ち抜け『スカーレット・バレット』!!」


――バシュゥゥゥゥ!!


あがっ!!こんなはずでは…!」
栄太:LP4500→3900


「得意のクイズ勝負もこれでは通用しないわね。
 バトル、コーカサスカニカブトとザリガンマンでトドメだ!」


――ズッザシャァァ!!


「そ、そんなぁ!!」

栄太:LP3900→1750→0


『決まったぁぁぁぁ!栄太選手の思惑を外し、冷静に対処したブラン選手の勝利だ!』


結局のところデュエルの本分は相手との駆け引き。
だから無理に相手の土俵に乗る必要はないわ…対処できれば問題ないもの。


「ねぇ…クイズデュエルってなんだったのかな?」

「さぁ?結局堅実に処理してっちゃったから。」

「だけど、ペンデュラム見れなかったなぁ…痺れられないぜ。」


流石に毎回そういうことをするデュエルをするわけにはいかないわ。
だけど、そう言われると今回のデュエルはエンタメとしては大失敗だったわね。
今回はいかに相手の出方を見て、思惑を阻止できるかを試みてた見てる分には不満がでても仕方ない所ね。
あえて観客を乗らせるデュエルでなく、相手の観察をして自分のあり方を見つめなおしてみたかったからね。


おめでとう、ブラン君!
 最後まで、デュエルの本分を忘れず…きっちりとフィールドとカードに向き合いましたね。」

「デュエルはカードを通した対戦相手とのコミュニケーションである。
 それを我々に思い出させてくれて、感謝するよ。」

「そう言っていただけるのなら、今のデュエルの甲斐があったものね。」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」


だけど、ここの塾の人たちがデュエルの面白さを思い出していただけたならそれはそれで何よりね。








――――――







ねね:LP1000
炎王魔獣 イグニクス:ATK2100


真文:LP4000
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール:ATK2600
竜装天子ドラグメイデン:DEF1300




Side:ねね


わたしは今、融合コースのエースの辰ヶ谷真文に挑んでおります。
落ちこぼれと言われるわたしでも、ブランが勝った彼に勝てることを示したいですから。
それに…この状況なら、十分削り切れますね。


「折角、お前が融合召喚したモンスターの攻撃力は2100。
 その程度じゃ、竜騎士の方の俺の嫁を倒すには…!」

「それはどうでしょう?バトル、まずはイグニクスでドラグメイデンに攻撃!『オニキス・ブレイザー』!!」


――ボォォォォォッ!!


「ドラグメイデンがやられたか…!」


「ここで手札から速攻魔法『炎王炎環』を発動。
 これで自分フィールドの炎属性1体を破壊し、墓地の炎属性1体を蘇らせます。
 わたしはイグニクスを破壊し『炎王神獣 ガルドニクス』を蘇らせます!」


――ボォアァァァァァ!!


『ガァァァアァァ!!』
炎王神獣 ガルドニクス:ATK2700



「ちっ…またこいつがでてきたか…!」

「これだけではありません。破壊されたイグニクスの効果も発動!
 フィールドのこのカードが破壊された場合、相手モンスター1体を破壊しその攻撃力分のダメージを与えます!
 対象は当然、竜騎士ブラック・マジシャン・ガール!

「なん、だと…?」


そもそもあなたのデッキではわたしのデッキと相性最悪です。
ドラグメイデンで一度ガルドニクスを吸収したのは見事でしたが、それまででしたね。


「疾れ、凶鳥…全てを焼き消す焔となれ!『ルシフェリオン・イグニス』!!」


――ドガアァァァァァア!!


「うわぁぁぁぁあ、俺の嫁がぁぁぁぁぁ!!」
真文:LP4000→1400


「これで、終わりです。
 ガルドニクスでダイレクトアタック!『セイント・フレイム』!!」


――ゴォォォォォォォ!!


「うわぁぁぁぁぁぁ…!」
真文:LP1400→0


『しょ、勝者…光焔ねね選手!』


彼には申し訳ありませんが、これで本番に向けての調整はできました。
次はわたしがあなたにとって大きな壁として立ちはだかろうと思います。
それでは待っておりますよ、ブラン…!















続く 






登場カード補足



S・R(スカイ・レイダーズ)−ワール・スパロウ
効果モンスター
星2/風属性/鳥獣族/攻 800/守 200
「S・R−ワール・スパロウ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが手札に存在する場合、自分メインフェイズに発動できる。
「S・R」融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを手札から墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。
(2):墓地のこのカードを除外し、相手フィールドのエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。



スフィンクイズー
効果モンスター
星6/光属性/岩石族/攻1000/守2500
(1):自分フィールドの「クイズー」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):自分フィールドにこのカード以外の「クイズー」モンスターが存在する限り、相手はこのカードを攻撃対象にできない。
(3):1ターンに1度、自分フィールドの「クイズー」モンスターが攻撃対象に選択された場合に発動する。
相手は以下の問題に答えなければならず、また、正解・不正解で以下の効果を適用する。
≪問題:フィールドで最も高いレベルを持つモンスターは?≫
●正解:その正解のモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを破壊されたモンスターのコントローラーに与える。
●不正解:バトルフェイズを終了する。



ラスト・クエスチョン
通常罠
(1):相手メインフェイズ1に発動できる。
相手は以下の問題に答えなければならず、このターンのバトルフェイズをスキップした場合、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。
また、正解・不正解で以下の効果を適用する。
≪問題:このターンのバトルフェイズ開始時、フィールドに表側表示で存在するモンスターの数は?≫
●正解:自分フィールドのモンスターを全て破壊する。
●不正解:相手フィールドのモンスターを全て破壊する。